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死神を呪いますか? 前編

人を呪わば。

「どうして坂町さんが……許せない。許せない……俺の方があいつよりはかっこいいのに……優しくだってするのに、どうしてあいつが」


田村(たむら) 彰文(あきふみ)、高校二年生。彼は、いわゆる普通の高校生だ。実際、彼には毎日駄弁ることのできるような友人がいて、そこそこ毎日が楽しく過ごせていた。


それが、たった一人の人間によって、かなり変わった。


夜行 仁義である。


周り全ての人間に刺々しく当たり、独立独歩の孤高の人間。そして、彼自身、成績もスポーツもかなり万能だ。唯一、その髪型なんかのダサさが玉に(きず)だが、密かに憧れる人さえいる。無論、嫌われることが大半だが。


そんなやつに、坂町 なずなが告白した。

坂町 なずなは、マッシュルームボブに白いカチューシャをつけて、目がくりっとした可愛らしい少女だ。背の割に大きい胸などもアンバランスな感じを醸し出している。

ただ、女子からはあまり好かれてはいないようだ。


「こんなん、本当に効くのか?」

呪いの方法を書いた本をめくり、彼は一応準備だけはしていたものを取り出す。

「とりあえず、一番簡単なものだけでも、試してみるか」


********


「……結界が、ちょっと綻んでますね?何かが来たんでしょうか?」

「俺はわかんねーなそういうの。お前、案外おかしいよな。対策方法すごすぎてびびるわ」

「頼れるものはなんでも頼るべきですし、これを怠ると色々とまずいですから」


俺がそうやって結界を張り直していると、そこに高田が起きて来た。

「おはようございます」

「はよ……ふぁあああぅえ」

「顔洗って着替えて来てください」

「お前何してんのー……?」

「結界の張り直しですよ。昨日妖か何かがここに来たみたいですね」

「ふーん……大丈夫なの?」

「問題ないのでとっとと顔を洗って来てください」


そう冷たく言えば、あくびをしながら洗面所へとよろりと歩いて行った。


「うーんこの……」

「言い淀むのやめてくださいよ。気持ち悪い」

「今二重の意味がこもってなかった!?」

「気のせいですよHAHAHA」

「アメリカンな笑い方を無表情でしないでくれる!?今お前怖すぎるんだよわかってるぅ!?」


俺はふと、形代(かたしろ)が焦げているのに気づく。

「……これは」

誰かが俺に、呪いをかけたか。


「まずいですねえ……結構」

俺はガッチガチに固めている。霊的には、一個撃ったら100倍くらいで返すようなそんな危ない状態だ。

まして呪いなんてものをかけられたら、呪い返しがきっちりかかって相手がよりひどいことになる。


「……仁義お前、陰陽師とかの方が適任なんじゃない?」

「否定できませんが、それとこれとは別でしょう。死神は死神で楽しいですし、この知識もある意味付け焼き刃ではあります。完全に返せたとは思いますが、多分……その、どるるがいるので」

「あー……」


とりあえず学校に着いたら、調べてみるしかないだろう。


教室の中を見回すのは、やめた。見てもわからないのだ。多分この空間には、いない。

いないはずだ。


あとは、具合の悪そうな人か……休んでいる人しか選択肢はなくなる。先生が入って来て、とうとう朝の会が始まった時だった。

一人の少年が駆け込んで来た。

「お、遅れて、さーせんっした!」


普通な少年。ただその体には——。


ミミズのようなものが、うぞうぞと蠢いて、甲虫のようなもののおびただしい影が、そこにあった。

思い当たるのは、蠱毒。


虫を一つの壺に入れて最後の一匹になるまで争わせ、残った一匹を使役する。

ただあれは使い方を間違えても大変で、加えてそう簡単に蠱毒を完成させることもできないはずだ。


おそらく、蠱毒の簡易版として、おまじないの本に載っていたものを実行したんだろう。

やり方はわからないが、多分呪い返しで軽い効果がかなり重くなっている。これから次々に不幸が降りかかってくるに違いない。


だとしても、目の前のこれを放っておけるほど、俺も薄情ではない。こいつの名前は知らないが。


呪い返しで帰って来た呪いを解く方法なんて、知るわけもない。ただ、霊ならば、斬れば祓えるのではないだろうか?

ただ、大人しく斬られてくれるとは思っていない。


「アレ。斬れますよね?」

「素直には斬れねえよ。ある程度発散させねーと、宿主ごと道連れにしようとするから、最低でも二、三の不幸がかかったあとじゃねーと、宿主があぶねえんだよ」

「ありがとうございます」

「俺の時代は、呪い全盛期だったからなー」

死神さんの時代がある意味すごすぎてなんも言えねぇ。


まあ、まずは、あいつの名前を知らなければいけないんだろうな。


そう思っていたのもつかの間、俺は高田に襲撃を受けた。

「田村のあれは、なんなんだ。お前何か知ってんのか?」

「俺が知っていると?」

「なんとなく。お前、あいつのことチラチラ見てたし、わかった。なんとなくだけど」


呪いを感知できたか。

「あの生徒の名前は?」

「……はー……田村、彰文。お前いい加減覚えろよな」

「善処します。何があったかは知らなくていいですよ。高田には全く関係のないことですから」

「は!?なんっ、」

「では」


やけに不満そうな高田の顔が頭にしばらく貼りつくこととなったが、とにかくその場からは離脱できた。


教室に戻った瞬間、田村の弁当がひっくり返っているのが見えた。

「あーあー……やっちまった。俺購買行ってくるわ……げえ!?財布ねえ……」

「貸してやるからちょっと待ってろ。……げっ!?でかいのしかねーや。誰か小銭貸してやってー」


誰かが彼に百円を貸すと、彼は走って購買に行って、しばらくして帰って来た。

「売り切れだった……マジかよ」

「うわー、ドンマイ。俺の唐揚げやっから」

「もたねええええ」

だが、不幸がこれで終わるわけではない。むしろ、今からが本番だ。


ヤバすぎるものだったら、フォローに入るしかない。


俺は、田村を不自然でないように見て、そして体育の時間にそれは起きた。

「いってえええええっ!?」

体育館の階段で転び、膝の骨を強打していた。湿った音が聞こえていたから、どこかを折ったかもしれない。


「誰か、保健室に頼む!」

「担架もってこい!」

俺は近寄っていくと、先生に声をかけた。

「手伝います」

「あ、ああ、助かる。担架のこっち側を頼む!」


保健室のベッドに寝かせると、先生は電話をかけてくると言い、職員室に行った。俺はベッドの横にある椅子に、ストンと腰掛けた。

「……呪いをかけましたね、俺に」

「っ!?」

「呪い返しがしっかりかかってしまったようで」

「お、お前っ、何を……」


明らかに痛みだけではない動揺に、俺はため息を吐いた。

「で?どういう方法なんです」

「虫の……ぐっ、死骸を集めて、一匹だけ生きたやつを入れて、名前の書いた紙を、その中に入れた……古い本で、読んで、やったんだ!」


蠱毒、ただし死骸の方か。

俺はカーテンの外に出て、転身し——そして、その虫がこちらに牙を剥くのと同時に鎌を振るった。

「っチィ!!死神さん、」

「おう。ま、お前らとっとと……往生しろや!!」


じゃくん、と刺さった……はずの鎌。しかし、無数の虫が、まだ漏れ出ていく。

「増殖して止まらないっ!?」

「げえ、やべえな……こいつは、古書の方にもなんかあったんじゃねえか?」

「はあ!?そいつを早く言いやがれボケ!!」


俺はその靄のような虫を振り払いながら、死神さんを睨む。

「しょうがねえだろ!?俺だってこんな大ごとになるとか思ってねえもん!!」

二人でわあわあ言いながら斬りはらう。しかし、その靄がどんどんと収められていく。


——田村に。

口から、鼻から、耳から、ありとあらゆる穴からうぞうぞと入り込んでいく。それを止めようとしても、数が多すぎて止められない。

「しまっ……!!」

「おいおいおいおい……マジかよ」


指先が、一つ欠け……虫になった。

「本を斬らにゃあ、こいつぁ止まんねーぞ」

俺は転身をためらうことなく解いた。

「お前のうちの場所は!?」

「……学校の、……」

場所を聞き出した瞬間、また指先がジワリと黒く染まって、ぽろりと虫が落ちた。


「い、嫌だ……こんな死に方、したくねぇ……」

「チッ……行きますよ死神さん!」

「ん?おう。ま、その本の方だって、素直に斬られるかわかんねえけどな」


俺はもう一度転身して、田村の家の方に飛び立った。

お読みいただき、ありがとうございました。

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