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死神は大人気ないですか?

ちょっといい話よりダークな方が楽だと思った回。

「幽霊を、ですか」

「ああ。まあ、一度送ってみるのがいいんじゃねえかと思ってな」


幽霊は、その数が多い代わりに力への還元率は少ない。それもそのはず、無用な神気を魂から奪って輪廻の輪に還すから、そう大した神気が得られるわけじゃない。

魂の他は、(おり)のような神気だ。それを手に入れたところで、労力に見合わない結果にはなる。


俺が今回こう言われたのは、実際のところ強化よりも斬ることにためらいを覚えないようにするためだろう。

ヤツカを斬ってから幾ばくもなく、何かをまた斬らねばならない。死神という道を選んだのは自分自身だ、その辺りはすでに覚悟できてると思ってたんだがな。


「わかりました。じゃあ、早速探しましょう」

「あ、探査は使うなよ。まだお前すごい不安定なんだから、いつ消えたり現れたりするかわかんねーから」

「それぐらい承知の上です」


高田をうちに置いてきてから、早速街に死神のまま出て行って、上空から見下ろし、奇行をしている人がいないか探す。

「……うん?」


ただじっと、ウインドウの中にある何かを見つめている人がいる。手がなんどもすり抜けているが、それは一切が空振りしている。

そして、その向こうにあるのは、ビスクドール。


「いました!」

「はっや!?」

俺は、その場所にふわりと降り立つ。少年はゆらりとこちらを見た。この場所にはそぐわない、水色の病衣と温かそうな毛糸の肩掛け。


『お兄ちゃんたち、だれ?僕の妹、知ってる?』

「いや。だが、彼岸(むこう)に送らせてもらう」

『みぃちゃんのこと知らないの?うぅっ、ぐす……』

俺が鎌を振り上げた瞬間、死神さんは俺を羽交い締めにした。

「離してください」

「ニギ、子供をいじめるなんてひでぇぞ」

「斬らなきゃいけないんですから、思い入れのない今のうちにすべきでしょう?ちょっと死神さんは黙ってください。できないなら死んでください」

「もう死んでるっての!」

「果たして……そうでしょうか」

「そういうのいい!いらないから!」


あまりにも死神さんがわあわあ言うので、ここで一旦クールダウン。少年を前に『妹』の詳細を聞き出す。

『えっとね。目がクリクリしててね。ツンツンしてる。あとかわいい』

死神さんが鎌を手に持って空中で動かすと、その切っ先が光ってわちゃわちゃした絵が描かれ始めた。


「うまいですね。キラキラして集中力が削がれることを除けば結構良いんじゃないですか?」

「どうしてお前ってやつはそう褒め方が微妙なわけ!?」

『おなまえは、いとうみわ。みぃちゃん』


いとう、みわ?


「……何年前に、君は死んだんですか?」

『わかんない。夏と冬がいっぱい来て、怖いものからいっぱい逃げたら、みぃちゃんとはぐれたの』

「そうですか」


俺は死神さんに向き直った。

「伊藤先生のところに行って、確かめましょう」

「は?お前の、あの担任のセンセーだったっけ。あの人、いとうみわって言うの?」

「はい」

「んじゃあ、行かねえ手はねえな。うおし、ついて来い坊主!」


俺は地面を強く蹴って、力強く空中を走り始めた。


死神さんが来て一ヶ月半。飛ぶには飛べたが、今ひとつ飛んでいるのではなく、方向転換には足で蹴らねばならない。

幽霊の方がうまく飛べるじゃん。


「死神さんは、どういうイメージで飛んでるんです?」

「ん?」

「こう、滑る感じ……とか、ざっくりでいいんで」

「うーん、そうだな。イメージ的には、スッス、フワ〜ンって感じ?」

「わかりました。わからないということが」

『お兄ちゃん、あたまわるそう』


子供の言葉に心抉られて、うなだれていた。死神さんに説明を求めるのは酷だったな。

「じゃあ、君に聞きましょう。そういえば、名前聞いてなかったですね。俺はニギと言います」

『僕は、いとう……忘れちゃった。イトでいいよ?』

「わかりました。それで、イトは、どうやって飛んでるんですか?」


うーん、と彼は首をひねる。

『自分の体が軽いから、風に乗ってビューンって。風を起こして、それに乗っかるの』

「風……」

『そしたら、楽でしょ?』


つまり、神気を風に見立てて、それに体を任せるのか。そっちの方が確かに神気は多く消費しそうだが、足で蹴って方向を変えるより楽に思える。

「ありがとうございます。君のおかげで何かつかめそうです」

『えへへ、よかった』

「俺は!?俺のは役に立った?」

「立ったと本気で思っているなら今すぐ義務教育受け直しをお勧めします」


すげなくあしらえば、目の前に高校が現れた。俺は彼女がいるであろう職員室の前に降り立ち、そしてゆっくりとその壁をすり抜けて先へ足を進め——すさまじい臭気に床に手をつかされていた。


「うわあああああああっ!?」

「いぎゃああああああああ!?」

死神さんと二人で外にまろび出ながら、肩で息をする。


「や、やばいやばいやばい何の匂いアレ!?」

「よく周りの妖がまずそうと言うのがわかりました……彼女の近くによらない理由も!」

『アレ?……大きい。いもうと、大きくなってる!』

イトはどちらかといえば、妹本人であり、かつ妹がでかくなっていたと言うのに驚いていた。匂いで死にそうになったのは初めての経験だと言うのに、生きていればきっと大物である。


「それで?じゃあ、そしたらどうするんです」

「人間の時わかんねーんだろ?あの匂い」

「はい。人間のまま俺が一応兄弟の有無を聞いてみます」


まあ、あの匂いで妖にまずそうと言われるわけだ。確かにやばい。今一時的に鼻が麻痺するぐらいには。

俺は学校の校門前から偶然を装うためにコンビニで飲み物を購入し、道を歩き始める。そこへ、伊藤先生が現れた。

ただし、怒鳴りながら。

「ふざけんじゃねーぞ!?お前なんか知るか、バーカ!アホ!」


そんな姿に、俺は思わず声を漏らす。

「えっ」

「あ」

電話中だったようで、どうもそいつにキレていたようだ。彼女は「もういい」とのたまって、そのままブチっと通話終了し、電源までご丁寧に切ってから、それをカバンの中に入れた。

相変わらず色気のない格好だ。


「うす、お疲れ。こんな時間にここいると補導すっぞ。……あー……その、なんだ。なんか変なとこ見せちまってごめんな」

「どうも。別に気にしませんが、一応話くらいはお聞きしますよ?」

「あー……ああ、うんまあ、ちょい長いから、公園でいい?」


公園に移動して、俺は次の言葉を待つ。先生はベンチ、俺はブランコの上である。この配置に特に意味はないが、彼氏持ちの隣に座るというのは憚られるので一応。


「で、何があったんです?」

「あー……うん。私さ。彼氏いるわけ」

「知っています」

「……何でオメーが知ってんだよと言うのは置いとくぞ。で、そいつと結婚……の話?も出てるわけだ」

「ほうほう」

「そいで、あいつは簡単に言うんだけどさ。私はもっと色々と考えてやりたいんだよ。ほら、結婚で退任とかさ、したくねーし」


なるほど、マリッジブルーか。


「る……るー」

どるるが鼻を詰まらせたような声で囁いて来た。どうやら、先生の彼氏が近くまで来ているらしい。


「はあ、要するに、結婚という観念の認識の相違について、すれ違っているわけですね?」

「ん?あ、ああまあ、そうだけど……お前結構ヘンな奴だな。知ってたけど」

その悪口はサラッと聞き流して、俺は次の問題点を指摘する。


「相手がその不安に対して、何も対応しなかったのは確かに問題です。しかし、先生はそれを一度整理して、言葉で表現できる状態にしてから相手にその不満をぶちまけるべきでした。要は、こいつなら私のことをわかってくれる、みたいなある意味過信していたところがあるんじゃないですか?」

「おっおうちょっと待て……うん、そうだな。まあ、私はあいつにちょっと期待しすぎてたかもしれない。いつも私が頼り切って、察することを要求して、あいつ自身の限界を見ることを恐れてたんだと思う」


俺はブランコを意味なく揺らしながら、その言葉を聞いていた。

「それで?先生はどうするんですか?その不安を相手にキレ気味に伝えて、このまま終わっていいんですか?」

「……よくはねーけどお前の言い方にひしひしと悪意を感じる」

「電話。かけてみましょう、それで相手に謝罪の一つでも言えればいいんじゃないですか?」


先生はスマホを取り出して、そしてかけ始める。すると、公園の入り口で、音が鳴り始めた。

「美和!?」

「うぎゃあっ!?」

俺はブランコから颯爽と降りて、ジリジリと後退し始める。ここにいたら馬に蹴られる。

「あの、いや、さっきはその……言いすぎて、ごめん」

「いや、俺も美和の言うことちゃんと聞いてなかったし、お互い様だろ」


ふと先生の視線が逃走中の俺とかち合った。

「おう夜行サンキューな!」

「夜行?」

「今さっき偶然会った教え子だよ。紹介するな、これが……彼氏の木虎(きとら) 将太(しょうた)。こっちが、夜行(やぎょう) 仁義(ひとよし)

「どうも」

「ああ、いつもお世話に……こう言う場合はどう言ったらいいんだろう。それで、二人はここで何を?」


「ちょっとさっきの電話……聞かれて、怒られた」

「夜行くん、いつもうちの美和がお世話になっているね」

「今それ言うか!?」


仲が良さそうで何よりだと俺は思う。ふと、本題を思い出した。

「先生お兄さんとかいそうですよね」

「兄か?ああ、小さい時はな。今は、もう死んじゃっていねーけど、何となく、見守られてる感じ」

「そうですか。幸せそうで何よりです」


俺はうんうん頷いて、お辞儀をして立ち去っていく。そこに、鼻をつまんだ死神さんが現れた。

「ようびどよじ」

「もういませんよ。イトくん、どうでした?」

『……幸せそうで、なにより』


俺は頷いて、転身する。手に持った鎌は、つい先日のことを思い出して、震える。

消えていない時点で、この子が未練を残しているのはわかる。けれど、彼自身分かっているのだろう。

妖から逃げるのも、限界があるということに。


『大丈夫だよ。覚悟はできてる』

「……はい」

彼は、目をぎゅっとつむり、胸の前で手を組み合わせて、かすかに笑う。


俺は、それを振り下ろした。

切り口を見ていた少年が、びっくりしたようにそれを見つめていた。

血が流れることはなく、そこに徐々にふわっと白い光が舞い散った。

『痛くはないよ。すごく綺麗だね……あ、名前。思い出せた……伊藤、はやて。ありがとう……さよなら、お兄ちゃんたち』


またね、とかすかな音。

その声が虚空に消えて、残った真っ白な塊がそこから天空の彼方へと飛び去っていく。

あれがおそらく、人間の魂と呼ばれるものなんだろう。


「……行ったんですか?」

「ああ。よく頑張ったな、仁義。さて、そろそろ戻るか?俺、結構腹減ったわ」

「そうですね。じゃあ、競争しましょうか」

「なに!?」


風の流れに乗るように、神気を風だと思って。


舞い上がる。


「うっわ!?マスターしてんじゃんお前ェ!俺のアドバイス役に立たない扱いしてたくせに!」

「役に立ったのはイト……いや、はやて君のアドバイスですから」

「くそむかつく!テメェから負かしてやるから覚悟しとけよこんちくしょう!」


結局ボロクソに負かされたあたり、死神さんは大人気ねぇと思った。

ブクマが!!

増えている……だと!?

お読みいただき、ありがとうございます!!

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