死神は絶句しますか?
またイラスト描いてやがる。
病気だね!うん!
ブクマつけてくれてる人の身にもなれ!
読んでくれてありがとう!
俺は今、非常に驚愕している。
高田 紅のことで。
朝起きた瞬間、悲鳴が聞こえた。
「うぎゃああああああああ!!」
俺が部屋を覗くと、どうやらどるるの気配に怯えたようだ。俺にはっと気づいて、駆け寄ってくる。半泣きで恐慌状態に陥っている。
「夜行!!」
ぎゅうっと腕に半泣きでしがみついてくる。しかし、何か感触がおかしい。
男にしては細く、そしてどことなく柔らかい。筋肉がないのか、つきづらいのか……タンパク質を食わせたほうがいいんだろうか?
今日は鳥の胸肉を塩胡椒でグリルで焼こう。疲労回復にもいいと言うし。
と現実逃避したが、実際おかしい。男にしては、華奢すぎるのだ。普通ならもっと骨格が骨ばっているのだが、どうも肉が結構ついている気がする。
……特に今当たっている胸とか。
「……おはようございます」
「あ、おはよう……って、そんな場合じゃねえよ!アレは!?」
「どるる、おいで」
「る!」
スポンと手のひらに収まったそれを見て、へなへなと高田の力が抜け、ぺたんと地面にへたり込んだ。
「なんだよ……知り合いかよ」
「同居人の一人(?)です。気にしないでください」
よくよく見れば指も男の手と違って節くれ立っていないし、喉仏もない。
……ハハッまさかね!
そんなふざけた思考が頭に浮かんで、確認のために一応、いちおう、聞いてみる。
そうあくまで一応だ。いやだって普通男物の制服着て違和感なかったし、普通に一人称も俺だったし。
冷たい汗などかいていない。
「高田、万が一にもないと思うんですが確認のために一つだけいいですか?」
「な、なんだよぉ……」
「……男性、ですか?」
「………………は?」
こいつ何言っちゃってんの頭おかしいんじゃないの的な視線で見られてチキンハートがズタボロだが、俺は目を逸らさない。いや逸らせない。
「まさか……知んなかったの?俺、女だけど……」
俺は思わずしゃがみこんで、眉間に寄った深いシワを人差し指でもみほぐす。
「嘘でしょ……」
「嘘じゃねーよ!?」
「なんで一人称俺なんです」
「兄ちゃんの真似してたらそうなったんだよ。制服もお下がり」
「なん……ですって?」
俺が愕然としていると、全力で突っ込まれる。
「むしろそれを知らないお前が驚異だよ!」
「友人が、一人もいないので」
「…………どんまい」
「好きでそうしているので問題ありませんね」
「今まさに問題が起きているような気がするのは俺だけか!?」
実にもっともなツッコミばかりで俺も気まずくなって、遠くに向けていた視線を方向をそらしながら、キッチンへ向ける。
「さーて飯でも作るガッ!?」
「待てコラ話は終わってねーぞ」
背中から強襲をくらい、床に押し倒され、背中に乗っかられる。下の階の人朝から騒いで本当すいません。
「……とりあえず食事を作らせてください」
「まあ待てよ夜行くん。君どうして俺が女だと思ったんだ?ええ?」
「……紛らわしい高田をうっかり間違えて申し訳ございません」
「地味に謝罪する気ゼロだろ」
「さらさら無いですね」
「無いのかよ!?」
俺は潰されたままぐちぐちと文句を言い募る。
「別に裸を見たとかじゃ無いですしいいじゃないですか。性別の一つや二つや三つ間違えたって」
「そんなにねえよ!しかもそこは結構重要だよ!!」
天を仰げば、死神さんが唐突に天井からべしょっと落ちて……否、天井をすり抜けて俺の部屋でジャストで停止する。小器用なことするよなと感心していたら、ポーズをビシッと決めた。
荒ぶる鷹のポーズを取っている。
「おっはよーん仁義ィ!……うん?あれ?邪魔した?」
「してねぇよ、変な気ィ回してんなよ」
思わず口調が乱れるが、それを意に介さず奴は騒ぎ始める。
「なー俺腹減った気がする。飯は?メシ!」
「……はー……霊体って腹減るんですか?」
「減らねーけど減った気がするんだよ!」
「やっぱり気のせいじゃないですか」
相変わらず無茶苦茶なことを言っているが、これでも朝帰りはくだんの死神を探していたからだ。
だが、この広い街の中でそれを探そうとするなんて、無茶無謀の極みである。実際手伝ってみればわかるが、実に大変だ。俺も夜ギリギリまで探している。
「夜行、そこになんかいるのか?」
「あ、あー……死神?」
「死神?ぶっそーだなぁ……でも、それは見えねーんだけど」
「見えなくていいと思いますけどね」
「そうか?はぁ、もういいや。俺、顔洗って来るな」
上の重みがすっと退いて、俺はようやく立ち上がるとキッチンに向かった。どうやら昨晩の口を出さない領域というのは定めているらしい。俺が線を引けば、あっさり引き下がった。
「文字通り尻に敷かれてたな、仁義」
「そう言うこと言ってると、今日の死神さんの夕飯、高野豆腐オンリーにしますよ」
「酷くない!?」
俺は死神さんに向き直りながら卵液を切るように混ぜる。
「だいたい死神さん、あっちこっちから突然降って来るのやめて下さいよ。本当にびっくりするじゃ無いですか」
「お前……驚いてたの!?」
「少なくとも顔に出なくなったのは死神さんのせいですけどね」
「俺的には『上から来るぞ!気をつけろ!』ってやりたかったんだよなー」
チラチラこっち見んじゃねえ、しばくぞ。
「はいはいそうですか」
「くっ流された!殺せ!」
「マジでぶっ殺すぞお前。具体的には飯抜きで」
「死ぬ!死んじゃう!欲求不満で!」
色々と言いたくない死因ベストテンくらいに入ってそうな死因だな。
じゅわりと卵液を流し込み、丁寧に畳んで行く。今日のはどるるの好きな砂糖入りだから、焦がさないように細心の注意を払う。
「で?見つかったんですか?白い死神」
「……全然。お前が探索できたらなー」
「探知の仕方を死神さんが知らないからでしょう。それを教えるのを諦めた死神さんの師匠の気持ちがよくわかりますよ……」
「だって師匠が説明してる途中で、説明がわかんなすぎて聞き流してしまいにゃ寝てたしな」
「それを自慢げに言う神経がよくわからないです」
ウインナーを切って反笑い顔を作りウインナー星人にすると、そのまま茹でる。ふと思い出してタッパーにおかずとおにぎりを詰める。おにぎりは梅おかかだ。鰹節と梅肉を一緒にして包丁で叩きまくる。薄口醤油をほんのわずかに加えると、さらにどろっとするまで叩く。これが地味に美味しいのだ。
「あいつのぶんか?」
「はい」
「それにしても女だってわかんなかったのかよ。マジひでーな」
「男も女もだいたい平等に扱うようにと母親に教わりましたので。基本はグーです」
死神さんに「女の扱いなって無さすぎ」と言われたものの、俺としてはこの先交際だとか結婚だとか、そういうことになるというのが想像できない。
友人だって一人もいないこの状況下で、そんな余裕はかけらもなかった。
そういうのは、これからゆっくりと時間をかけて作ればいい。……まあその前に、自分の強化が課題ではあるが。
「よし、できたっと。死神さんは鯖派でしたっけ」
「そーそー。うまいよなー、鯖」
「冗談でしょう?断然鮭です」
「やんのかコラ……」
「そちらこそ鮭を舐めてるんでしょうか?買いますよ?その喧嘩」
「何やってんだよ」
どきりと声の方向を見れば、呆れた顔でどるると高田が立っていた。
「……意見の相違のすり合わせですが何か?」
「時間考えろよな。もうすぐ八時だぞ」
俺は静かに弁当を手渡して、朝食を盛り始めた。
学校に到着すれば、俺の席には坂町が腕と脚を組んで座っていた。あれはどっちだ?
双子だからわからないし、顔はこっちからは見えない。
「……おはようございます」
ナチュラルに自分の隣の席に着席すると、坂町の片割れがちらりとこっちを見てぺこりと頭を下げた。どうやら姉の方だったらしい。
クラスメイトの一人(どうやら隣席の住人だったようだ)が固まったが、気にしない。
「ヤガミくん、だったかしら。今日は夜行仁義は来ないのかしら?」
「いつも朝は時間ギリギリですから」
「そう……一時間目は体育だし、なら次の休み時間にまた来るわ。情報、感謝するわね」
俺はぺこりと頭を下げて、そして遠ざかったのを見計らい、お引越しを開始。
「……ってお前なんかやらかしたのか!?なんとなく空気が重かったから黙ったけど」
「自然にバレるまで俺はヤガミです」
白い目で若干見られているような気もするが、一息吐き出すと高田は自分の席に着いた。左斜め後ろの席だ。
「あれ、坂町さんのお姉さんだろ?どうしてあんなんなってんだ」
「あー……なんか、遠足ん時に夜行が辛く当たったから、坂町さん休んだらしいんだよ。それを姉のアレが咎めに来ただけらしいぞ」
「夜行のアレはデフォだろ?違うのかよ」
「一年の時はすっげー無愛想だけど、ツンツンしてるだけに収まってたと思うぜ。なあ?」
なあ?
って俺に振ってんのかよ、と眉を顰めて嫌そうな顔のまま、そちらを向く。
「嫌そうな顔すんなって。告白とかされたのか?」
「……はぁ?」
「されては無さそうだな。でも、それならどうしてなんだ、夜行?」
「俺が知るわけないでしょう?だいたいクラスメイトに優しく接しろなんて法律があるんですか?俺がどういう振る舞いをしたところであなたたちの知ったことじゃないでしょう」
予想外に声が響いて、クラスの中が沈黙に包まれる。高田とその友人二人からは、じっとりとした視線を向けられた。
「……多分そういうところだと思うぞ」
俺もそう思う。
うまく切り抜けながらようやくお昼になった。俺は授業が終了した瞬間に弁当をかっさらって出て行こうとした。しかし、そこにバン!と扉を開けて坂町姉が入って来た。
「夜行仁義はいるかしら!?」
ここで俺を引き出そうとする奴は、誰もいない。今まで隠匿していたことをとばっちりで責められそうだからだ。
このクラスのそういうノリの良さ、大好き。
俺はそれに構わずに教室の外に出ようと前の引き戸を開ける。
「うぉおああ!?」
「どうしたんですか伊藤先生」
「お?なんだ、夜行か。びっくりさせんなよなー」
ぴきんと後ろから何かが聞こえた気がした。上履きの立てる音が、机の隙間をぬって俺の背後につく。
「あなたが……夜行仁義だったの?」
ついにバレたか。もう少しかかると思ったんだが、面倒にならないようにしたかった。
バレた時は潔く。
「そうですが何か?」
「やっ……ヤガミって言ってたじゃない!」
「申し訳ありません。あなたの相手をするのが面倒そうだったので、つい偽名を名乗ってしまいました」
「っの、よくも私を弄んでくれたわね!」
煽りに煽ったせいか、怒りでプルプルしている。俺はその低身長を睥睨するように立って、鼻で笑った。
「騙される方が悪いんですよ」
「なんですってぇ!?」
「だいたいそういうことは本人が解決することであってあなたがしゃしゃってくる問題じゃないはずですよ?それに俺はあんたの妹とは顔見知りという立場すら危うい関係性のはずですし」
「はぁ!?嘘でしょ、だってあの子毎日あんたの話しかしてなかったのよ?そんな、」
「ストーーーーップ!!」
面倒になりそうだと悟った伊藤先生が、待ったをかけてくる。
「そこでやめにしてくれ。私はちょっとこいつに用事があるんだよ。それが終わってからにしてくれ」
「用事……?」
全く心当たりのないことに首を傾げてみれば、深々と頷く。
「弁当持ったままでいいからさ。な?」
「……はぁ」
俺が向かったのは、生徒指導室。ふかふかのソファーに、うまい弁当。今日のはあんまり手間がかかってない弁当なので、若干悔やまれる。
「それで、用事ってのはな。お前、こいつに見覚えはねーか?」
すっと差し出された四センチ×三センチの証明写真に、俺は目を剥いた。
「……ええありますよ、ものすごく」
「目元が似てたからもしかしてと思ったんだが、やっぱりそうか。……一応関係性だけ聞いても?」
「種うm……種馬が同じ子供です」
「言い直して同じ表現って酷くないか?なあお前マジで」
「法律があるおかげで種馬は未だ生存しておりますよ、安心してください」
「逆に安心できなくなったんだけど!?」
俺は深々とため息を吐いて、先生をじっと見つめた。
「簡単に言えば、異母妹ですね」
「そうか……それ以上は話したくないから話さなくても良いが?」
「先生おっとこまえー」
「茶化すな。それで?」
ぐにっと人差し指でおでこを突かれて、俺は後ろに倒れこみ、ソファーの背もたれに寄りかかる。
ふかふかで頼りないのがちょっと恨めしい。
「……話しておくべきだと思うので、話しておきます」
「そうか……ありがとう」
「ただし、口外しないでください」
「おう、心得てるぜそんくらい」
俺は口をおもむろに開いた。
本当にありがとうございます。嬉しすぎて語彙力が音速で霧散しております。
ちょっとくじけそうだったけどやる気出ました。頑張ります。