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死神は困惑しますか?

超急展開。

「夜行仁義!出てきなさい、いるんでしょ!」


教室にそんな大声が響いているのを後ろに聞きながら、いつもの場所へと向かう。


彼女は坂町の双子の姉だそうだ。

どうも坂町が休んだのは俺の責任だと思い、俺に直談判しに来たようだ。

……という情報をどるるが集めて来てくれた。


「今日の手羽中の甘辛煮、増やしますね」

「る!」

ご褒美というか、対価を支払えば、どるるはご機嫌にそれを食べ始める。どういう原理かわからないが、何を食べてもどるるの毛にはほとんど汚れがつかず、ついても拭けばすぐ取れる。

一度不思議に思って聞いてみれば、『シミが毛につかない』という方向に幸運を使っているという。


能力の便利使用ここに極まれり。


「次は必ず捕まえときなさいよ」

そうプリプリしながら怒る坂町姉が、まだ教室にいた。ふと振り返って俺に目を留める。

「あんたが夜行?」

「夜g「ヤガミですが何か?」

クラスメイトの発言にかぶせて言うと、「ふぅん、ならいいわ」と戸口の方に歩いて行った。


だから他人と関わるなんて、ろくなもんじゃない。


背後に「嘘つけ」という皆の心の叫びを聞きながら、そうつらつらと考える。このクラスは案外これでノリはいいから一週間くらいは黙ってくれるだろう。


そういえば、高田がいない。アスレチックの次の日で、風邪でも引いたか?

濡れていたし、汗もかいただろう。そうなっても不思議ではない。

まあ、その辺りは何かあれば火車が教えてくれるはずだ。


外をみれば、遠くで雷が鳴っていた。この季節になると、突然豪雨に見舞われることもある。昨日の夜も土砂降りであった。今日の探査は俺も手伝うので、しっかり傘を持って来ていて正解だった。


放課後になると、しとしと雨が降り始める。そして、じわじわと強くなっていく。俺はすでに傘をさすのも面倒になって、死神のまま歩き続ける。


ふと、何かが気にかかって、公園に目を向ける。言い知れぬ違和感というか、いつもの風景にはないものがあるような。

違和感の正体に気づいた時、俺は絶句した。

心臓がどきりと音を立てて跳ねた。

目が驚きにより自然に見開かれた。

それくらい驚いた。


公園にある穴の開いた遊具の中に、そいつがいる。俺はじっくりと、鎌を握りしめて改めて様子を伺う。その姿が、今度ははっきりと見えた。


一瞬でわかった。


高田だ。

高田がいる。


「……え?いや、なんで」

マジで?と叫びたい気持ちもあるが、俺には困惑が先立った。

学校を休んであそこにいるのはなぜだ。

帰るべき家があるはずのお前が、なぜこんなところで一人でしゃがみこんで、俯いている。


聞きたいことが腹の底から溢れて来て、煮えたぎるようにぼこぼこと暴れては、俺をムカつかせる。

全て、過去の俺にぶつけたい言葉だとわかっているから、余計にだ。


「……雨だから、火車は動けなくなったか」

俺はコンビニに走って人に戻ると、傘を一本購入して、自分の折り畳み傘をさした。

そして、高田のところまで走っていく。


その顔を覗き込めば、胡乱げな瞳と全てを諦めたような相貌が、こちらを向いた。暗がりの中からは、真っ赤な二つの熾火(おきび)のような瞳が覗く。

こんな負の気配を纏った高田が、狙われないわけもなかった。火車には頭が上がらない。


「や、ぎょう」

「こんにちは。サボりですか?」

「ぅあ、ち、ちがっ、」

「勝手に死なれては、困るのですが」

「ぁ……」

そんな言い方をして突き放した瞬間、その両の目から涙がポロポロとこぼれ落ちて、膝に染みを作る。


俺はぎょっとしていたが、さらに途切れながら訴えてくるその後の話に驚愕した。


親が、貧乏ゆえになんと夜逃げを敢行。自宅はすでに引き払われて他人の名義。そして、高田の荷物を渡されて、昨日から一人ぼっちの家なしだったというのだ。


「……待ってください。そんな冗談みたいな話……」

「あったんだ!」

もう何が何だか分からなくなっている高田の手に傘を握らせ、そしてずっしりした荷物を代わりに背負うと、空いているもう片方の手を握りしめて、そして雨の中を歩き出す。火車がするりと俺の懐に飛び込んで、なぅ、と鳴いた。


その熱いほどの背中が頬を撫でて、少し温まる。くすぐったい。

「とりあえず、うちに行きましょう。一晩だったら問題はないので」

「え?あ、あのっ、いや、だから俺っ、」


その瞬間、ぐぎゅうるるる、とありえない大きさの腹の虫が鳴る。俺はさらに力を込めて、そして家に到着すると、高田を押し込んだ。

半分拉致っているようなものだが、風邪でも引かれてはたまらない。

その上妖に食われでもしていたら、きっと罪悪感で死にたくなっただろう。別に取って食うわけでもない、大丈夫だろ。


「ちょ、夜行、」

「とりあえず風呂に入ってください。適当に飯と作り置きのおかずだけは用意しておくので」

「嘘だろ!?」

「本当です」


服の詰まった方のカバンと一緒に脱衣所に放り込んで扉を閉め、それから手早く料理を温め始める。夕飯用に白米は炊いてあるので、問題はない。

残り物のかぼちゃの煮物やらお弁当用に作り置きしてあった鯖の竜田揚げやらを温め直して、ご飯の用意をする。体を温めるために、かきたま汁に生姜をすり入れて完成だ。


しばらく、とはいえそう遅くもない時間が経って、高田がほかほかになって上がってくると、飯を見て期待に顔を輝かせた。

「うわぁ……うまそうだな!え、もしかしてこれ、食べていいのか?」

「お好きに」

「いただきますっ!」

もぐもぐと凄まじい勢いで飯を放り込んで、詰まらせたのか、目を白黒させて胸をどんどんと叩く。茶を注いでやると、風呂に入るべく立ち上がった。

あとは、放置しておいて問題ないだろう。


雨で冷えていたので、若干お湯が熱く感じる。ばしゃりと顔を洗い、そのまま鬱陶しい前髪を後ろへ掻きやる。

「……っはー……」

思わず声が漏れ出た。まさか、こんなことになっているとはすこしも思わなかったが、高田を見つけられて本当に良かった。


名目はどうするか?とりあえず、親戚なんかに連絡を取らせて……いや、それができていたら今頃苦労はしていないはずだ。一応聞いてみるだけにしよう。

友人の家に世話になるというくらいだったら、俺が「力を借りる」名目で、食事代なんかも出してやればいい。あいつは借りだと思うだろうから、このあいだの口からでまかせを使って、『力』を利用するためだと言い張れば問題はないはずだ。


ただ、ちょっとだけまずいのは、俺の布団しかこの家には存在していないということだ。

ひとまず、高田にはソファーベッドでタオルケットで我慢してもらうのがいいだろう。

寝具もない母親のベッド、もとい木枠に寝かせるには、ちょっと気がひける。


飯は、今更二人も三人も変わらないはずだ。食費も毎食贅沢できるくらいには十分にもぎ取ってあるから心配はない。軽く計算しても、今の時点で高田の面倒を見ることは全く問題はない……はずだ。

多分、進学したいと言われても余裕なほどに。


服やなんかも買い足す必要はあるだろうが、全くそういうことは気にしなくてもいいだろう。いざとなれば母親のぶんもある。背が高いから、そう使えないこともないだろうし。


だんだんと暑くなってきたので、シャワーを浴びてさっぱりすると、タオルで体をざっくり拭き、前髪は全て後ろに流す。はっきりいえば邪魔なのだ。

目立たないようにするためだけに伸ばしたため、伊達メガネをしていないとはっきり言って髪が目に刺さってくる。


適当に服を着て風呂場を出ると、高田がちらりとこっちを見て、ギョッとした。

「誰だ!?」

「夜行ですが。ああ、そういえば前髪上げてましたね」

「……えぇ……なんか、すっげーイケメンじゃん」


なんだかがっくりしているが、恐らくクラスの中でも目立たない俺の顔に愕然としたんだろう。顔面格差を感じて。

ただそのおかげで昔面倒なこともあったので、逆デビューは成功したらしい。

「そう言われるから隠していたんですがね。鬱陶しくまとわりついてくる女子がいないように……当ては外れましたが」


俺がそう言い切ると、まだ何か言いたそうにそわそわしているので、俺はゆっくり次の言葉を待たずに言葉をかける。

「親戚なんかに頼ることはできないんですか?」

「あ……俺んチ、婆ちゃんも爺ちゃんも死んでて、いないから」

「そうですか。なら、ちょうどいいので、ウチに住んでください」


一瞬言葉がわからなかったのか、首をかしげる高田。俺はそのまま有無を言わさないように語りかける。

「俺は高田の力が必要で、高田がここに住んでくれると非常に好都合なんですよ。俺にとっても利益はあるし、高田にとっても三食が保証されて都合がいいでしょう?学費も出しましょう。お小遣いも月三千円あれば、妥当じゃないでしょうか?」

「な……っはぁ!?待て待て待て待て夜行お前は一体何を言っとるのかね……!?」


あまりの混乱具合に言葉遣いと髪の毛が乱れている。面白い。あんまり掻き毟るとハゲるぞ。

「だ、だいたい、お前ばっかり金を払って、」

「俺は金じゃあ買えないものを買っているので、問題ありませんね。価値観の相違です。高田は金が欲しいと思い、俺は高田の力を金より高く評価している。そう思ってくれれば結構ですよ」


途中で死神さんがふわっと入って来て、事の成り行きを見守って……違う。

俺を睨んでる。

こわい。

せめて腕は組まないで。


「……わかったよ。どうせ友達んチに居候させてもらうのは無理だし、お前の世話になることにする。……よろしくお願いします。で、俺は何をすればいい?」

「そうですね。では、家事の一部を任せるので、それだけしてくれれば結構ですよ」

「……本当にそれだけかよ?俺がいる事であんたのメリットになることって、何なんだよ。勝手に利用されるとか、正直、……気持ち悪いんだけど」


俺はちょっと首をかしげる。

「高田は知る必要がありませんよ」

「何でだよ!」

「知ることで変に動かれて、高田の力が別のやつに狙われるようになったら、匿い損じゃないですか」

言い訳は並べた。隙はないはずだ。

わかったと言ってくれ。頼む。


ジリジリとした時間を無表情で耐え抜くと、ようやく高田は口を開いた。


「……わかった。あんたの世話になるし、お前の仕事かなんかよくわかんねーけど、それにも口を突っ込まねー。好きにしてくれ」

俺は心の中で快哉を叫んだ。膝の上に置いた手が、ぐっと握られる。

「ただし!」

びくっと体が跳ねる。背中にひんやりとした汗が流れる。何を言われる?

心臓をバクバク言わせながら、無表情を装う。


「……お前の様子がおかしいとか感じたら、即刻口は出させてもらうからな」

——ああ。


こんな俺にさえ、あんたは嫌悪を向けないのか?


その一言で、失敗を悟った。

「わかりました。今日のところは、布団が一組だけなので、ソファーで寝てください。……こんな風になるので」

ソファーの背もたれを倒して見せると、彼は「了解」と返事をした。


さて、と俺はキッチンに向かった。


「あれ?そういえば、夜行って、親は?」

「母親は死にました。種馬は生きています」

「たね……仮にも父親だろ?」

「種馬でも勿体無いですね」

まるでサルミアッキを食べたように顔をしかめて言えば、そこでその話題を撤回しようとしたのか、ガラリと話を変える。


「じゃあ、料理は全部、夜行の?」

「ええ。俺の手作りですよ」

「……天才だなー。お前、勉強だって、学年上の方とかだろ?」

「自慢ではないですがね」


実際はっきり言ってしまえば、学年十位以内の生徒ではある。推薦が欲しいと思ったからだ。


「万能だな……」

戦う才能は微妙と言われたが、運動神経自体は後付けでそう悪くはない。

あと、対人関係にかなり問題がある気がするので万能と言われるとちょっと困る。

そんなに優秀な人間ではないのは、俺が一番よくわかっている。


誰かを憎んでいる俺が、そんな評価をもらうべきじゃない。


夜中、俺の部屋に襲来した死神さんにぎゃあぎゃあ詰問されたが、わざと小難しく説明をして納得(混乱とも言う)させ、眠りについた。


ただ、俺の判断の正否は、俺にはわからなかった。

高田はこれで安全でいられるかはわからない。ただ、俺の代わりに平穏な日々を過ごして欲しいと、それだけを切実に願った。

わああああああブクマがついてるうううううっ!!

ありがとうございます!

これからも精進いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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