死神は誘いますか?
遠い未来の話。
「応答せよ、応答せよ!!くそッ、反応しやがれこのポンコツ無線機!!」
なんのために、俺はここまで来たんだよ。
「ちっくしょ……!!」
廃屋であるビルの中、敵地の真っ只中で、俺は一人背中側に開いた窓から空を見上げる。悔しいほどに青く晴れた空は、光化学スモッグのかけらもなく、とてもいい天気だ。
今日は絶好の昼寝日和だったのによぉ、ついてねぇな俺って。
今は、戦争中だ。平和がしばらく続いたのはもう百年以上前、俺は戦うことしか知らない。
刺されて叩かれて殴られて蹴られて、今更平和なんてもんに戻れるはずがねぇ。
けれど、世界は今一人の男によって平和をもたらされかけている。
アルイ・ルエリオ・ロット。
彼は戦争を止めることを訴えて、兵器の増産を資金の提供先やらを留めて止めてしまった。
俺のような殺人兵器は、金をもって皆殺しにしようとしている。
この生き方以外知らねぇんだ。
世界は俺をこんな風にしたくせに、今度は俺に死ねと言う。
ふと、正面に何かの気配を感じて、俺は目を凝らす。
「ぁあ!?」
俺は銃を構えた。
「何者だ!!」
その男は、汚れひとつなくとても綺麗なままで、昔の彫刻のような顔がこちらを見る。
「もしかして、見えているんですか」
「はあ?……お前、なんなんだ」
「なんなんだと言われると、答えは一つですね。——俺は死神です」
「死神?」
そこに、窓から一人の女が滑り込んで来て、俺たちを目にとめるときらきらと顔を輝かせて近づいて来た。
「ニーギっ、あれ?すごいシンキの持ち主だ。しかも見えてるっぽい?お名前は?得意な戦い方は?鎌とか興味ある?」
怒涛のような質問に、俺は辟易する。
「え、ええ……?」
「全くギョクときたら……まあそれはさておき。死神に興味はありませんか?」
「し……にがみ?」
「見た感じ追われているようですし、あなたが望むならあなたのこの先の運命を捻じ曲げてやりますよ?」
運命を、捻じ曲げる。
「そ、そんなこと本当に……出来んのかよ?」
「我々が見えるほどの素養がある、あなたならば。それに死神さんと違って、説明を理解してくれる頭はありそうですし……」
なんだかボソボソ後半はつぶやいていたが、俺は今すぐなんとかなりたかった。
「今までにおかしなものを見聞きしたことは?」
「あ、あるけど、」
「それの気配のようなものを感じたことは?」
「ある」
「ならその気配のようなものが自分の中にあるかどうかはわかりますね?」
「……ああ」
それなら知っている。何度も怖くて蓋を閉めて来たようなものだ。
見て見ぬ振りをしてきたものだ。
「……それを身体中にまとって。全身に満遍なく、くまなく」
「え、」
「やらないとすぐそこまで追っ手が来てますよ」
「なに!?もっと早く言えよコンチクショウ!!」
「ちなみに死神はすべての人口建造物をおおよそすり抜けられますし、大抵の相手からも見えなくなるんですよ。良かったですね」
「良かねーよクソッタレ!!」
おぉナイスツッコミ、とかバカにしてんのかこの彫刻野郎!!
「ぬおおおおおお!!」
とりあえずやってみるが、それは固くしまって開かない。俺は冷や汗を流しながら角を曲がって、そして立ち止まった。
周囲を囲まれている。
「こなくそ……」
「全く、しょうがないですね。荒療治と行きますか……」
その手にはいつの間にか鎌が握られている。
「ファッ!?ちょっと待て待て待てなんで振りかぶるお前ー!!」
体をずるっと何かが通り過ぎて、蓋がぶち壊された気がした。
途端、俺の体が落下していく。
「ふぎゃあばっああああああああ!?」
腰に響くようなじん、と痺れる気持ち悪い感覚。
「え、ぁ、は……俺四階から落ちたはず……」
「案外丈夫ですよ死神は。15階から落とされても、まあ問題ないです。さすがに高層ビルから落とされたら、怪我くらいはしますがすぐに治ります。さて、荒療治も終わりましたし、どうですか?死神になった感覚は」
「し、しにが……って俺の仕事着がなくなってる!?」
「あ、服は変わりますよ。隠れたら、さっきのとは逆の手順でしまってください」
「お、おお」
俺は物陰に隠れて、それから息を吐くと気配を元のように押し込めていく。
「あ、元に戻った」
オプティカル・カモの軍服が戻ってくると、俺はズルズルとへたり込んだ。
「まあ、詳しいことは色々と話しましょうか。ここまで世の中が戦乱にまみれているとは思いもしませんでしたがね」
「お前らは知ってるのか?アルイのこと」
「アルイ?ああ、あれですか。あの人戦争を巻き起こした張本人ですよ、知らないんですか?」
「は……はあ!?」
そのあと話されたことは驚愕の連続だった。アルイは、今は62歳。その三十代の時に、一部地域のコンピュータ制御を乗っ取って、あちこちに無人機での爆撃を仕掛けさせたらしい。
それが戦争の発端となり、今度は名前を伏せて武器の卸業者としてひどく儲かったようだ。そして、ニギという死神はそれを知ってなんとかしたいと思っていたが、どうにもならずに時間が過ぎた。
そして、アルイはその金に満足したのではなく、全世界の掌握の為に平和を謳いはじめたらしい。
「……クズの匂いがぷんぷんとする話だな。じゃあ何か?俺らが戦争ばっかなのは、あのアルイってやつのせいだったのかよ」
「有り体に言えば」
「でも、奴を殺せばどうにでもなるってそんなバカな話はねぇだろ」
「そうですね、俺が個人的に許せないだけです。まあそろそろ昔の知り合いが対処してくれるはずなので、それは詮無きことです。今世界が荒れている一因は、死神が不足していることがありますし」
「死神の不足?」
俺が首をかしげると、奴は頷いた。
「死神は、妖……人の裏側の部分を間引いて、人の闇を照らし出します。その闇を間引くことが減っていけば、光を闇が侵食するのは道理でしょう。……要するに管理者の不足が問題ですね」
「……なんつー非常識な……」
俺が呆然としていると、彫刻のような顔が綺麗に笑った。
「ですから、ちょっと手伝ってください。何、お手間は取らせますが確実に全世界旅行できますよ」
「いやそんなんしたくねぇよ!?世界平和のためにっておかしいだろ!!俺は戦うことしか知らねぇんだ、俺がどうして……」
そう、どうして世界を平和になんかしなきゃいけねぇんだよ。
「戦うことしか知らないならなおさら、死神になることをお勧めします。死神が戦いを忘れる日など、人が滅ぶまではありはしないのですから」
「人が、滅ぶまでは……」
戦うことしか知らないんだ。
俺は戦いが好きってわけじゃない。むしろ嫌いですらある。
でもそんな生き方しか、知らないんだ。
俺以外の人間が、いつか戦いを知らずに平和に過ごせる日が来るって、あり得るのかよ。
「死神、やりませんか?」
差し出された手に、言葉を投げつける。
「……本当に、俺が戦えば、争いは減るのか?」
「徐々にではありますが、確実に」
「そうか……」
本当に。
平和を望んでも、いいんだろうか。
こんな戦うことしか能のない馬鹿だけど、今まで散々殺してきたけど……俺は誰かの幸せなんて願っていいんだろうか。
殺すことで守れるなんてこと、あっていいんだろうか。
「っ絶対だぞ!!」
その手を叩くくらいの勢いで握ろうとして——スカッと空振りした。
「あ、そう言えば握れないのでしたっけ」
「ってめ……締まらねぇ野郎だな。まあ、いいか」
マルロ・アルダ。
年は十七。
好きなものは特にない。
嫌いなものは戦争。
職業、傭兵兼……死神。
みなさんここまで長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
短編続けた理由は、百話でおしまいにしたかったからというへぼい理由でした。
ブクマや評価など、大変嬉しかったです。
また別の話でもお会いできれば、幸いです。
読者の皆様に、そして引用元ウィキペ先生に、最大限の感謝を捧げます。




