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狂霧の町  作者: 九田無
15/16

十五節、餓死髑髏



 ──なんだ、あの声は。

 突如響いた怪声に荒尚は、珍しく弱々しい声で呟いた。

 彼の足元には鳥怪の死骸が積み重なり、屍山ができている。

 襲いかかる鳥怪を片っ端から切り伏せ、旅館に帰ろうとしていた矢先の事であった。


「あれが母でありますぞ」

「左様左様。媚びきったこの声、相変わらず趣味の悪い声音でありますこと」


 何時の間にか荒尚の隣に、彼を挟むように二匹の狼が現れていた。


「……お前ら出てこれたのか」

「契約が成されましたからな」


 しれっと答えるマガミを放っておき、荒尚は声のした方向を睨む。


「確か、母やらを殺ると、異変は収まるんだったな」

「その通りですが、今はそれどころでは無いようですぞ」

「あれを見て下さいませ主殿」


 視線をやれば、其処には霧に蠢く巨大な影があった。


「どうやら、母とやらも我らの存在に気がついたようですな」


 ──さて主殿、どう致しましょうか?

 オオグチの問に、荒尚は嗤って答える。


「こいつらを斬っていけば、その母とやらに会える。ちがうか?」

「何も違いませぬ」

「我らはただ、貴方様に付き従うだけでございます」


 荒尚は嗤うと、再び刀を構えた。

 そして、まるで獣の如き掛声を上げると、巨大な影へ飛びかかっていく。


 地を這うように駆ける荒尚に気付いたのか、影はぬっ、と動くと、何かを振り下ろした。

 横に避けた荒尚が見ると、そこには鈍色に輝く巨塊が地面にめり込んでいた。


 衝撃で霧が晴れたのか、影の姿が顕となった。

 影は巨大な髑髏だった。

 霧のような乳白色の骨だけの身体。蒼白い焔をがらんどうの眼孔に灯して、かか、と顎骨を軽やかに奏でている。


 ──がしゃどくろ。

 ──さてはて主殿、骨相手に何を斬らんとしましょうか?


 面白がるような狼共の声を無視し、荒尚はがしゃどくろに飛びかかる。

 振り下ろされた鉄塊をすれすれの位置で避けると、その鉄塊の峰に足をかけて、腕を登っていく。

 横から伸びるがしゃどくろの腕を躱すと、荒尚の眼前には巨大な頚椎があった。


「喰らえ『大口』!」


 叫んだ瞬間、再びあの感覚が荒尚を包む。

 あの加速感の後、やはり刃は頚椎へと突き立っていた。

 するとがしゃどくろの目の灯りは揺らめいてゆき、やがてふっ、と消えた。

 がらがら、と崩れ去った跡には、一人の男が立つのみであった。


「骨だろうが何だろうが、首を掻っ切れば、死ぬのはおんなじだ」


 はっ、と笑う荒尚に狼が語りかける。


「まだ終わっておりませぬぞ」

「ほほ、ほほ。獲物はまだ沢山。主殿は平らげられますかなぁ。ほほ、ほほ」

「実は、お前ら俺が死ぬこと望んでる?」


 ──そんな恐れ多い。

 荒尚は同時に言葉を発した狼達を胡乱げな瞳で見つめるが、すぐに視線をそらした。


「ただ、ちょうどいい機会でございましょう」

「その通り、良き機会でしょう」

「主殿に我等を知ってもらうには、やはり実地が一番でしょうから」

「さあ、行きましょうぞ」


 短刀を逆手に持ち替え、荒尚は突き進む。

 ただ目の前の怪物を滅するがために。

 狼に唆されるがままに。

 彼は刀を振るい、その身を血に染めていく。


 行き着く先が、何とも知らずに。



タイトルの『餓死』は当て字です。

実際は『餓者』だとかなんとか。

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