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ちとせのしろいおりがみ

作者: 稲見晶

 ちとせはきょうもつるをおっています。


 ましかくのしろいかみをさんかくに、もういちどさんかくに。

 ひらいて、たたんで、ぺたん、ぺたん。こんどはしかくになりました。

 ひらひらしたかどをとがらせるように、まんなかにおりあわせます。

 そこをほどいて、ひらひらをひらいて、たたんで、ほそながいひしがたをつくります。

 うえのはんぶんは、はねになるところ。

 したのはんぶんは、あたまとおになるところ。

 したのはんぶんをとがらせるようにおりあわせて。さゆうのはねのあいだにおりいれて。

 つんとくちばしをつくったら、ほら、つるのできあがり。


 ちとせはつるのはねをひろげて、したからふうっといきをふきこみました。

 できあがったまっしろなつるをゆかにならべます。

 ちとせのまわりには、これまでにつくったつるがたくさん。

 いちわ、にわ、さんば……、ぜんぶでひゃくわ。

 かごめかごめをするように、ぐるりとまるくちとせをかこんでいます。


 ちとせがひゃくいちわめのつるをおろうと、しろいかみをてにとったとき、ゆかにおかれたひゃくわのつるがいっせいにはばたきだしました。

 ちとせがぽかんとしているうちに、つるたちはまいあがり、ちとせのおへやのまどからつぎつぎとびたっていきました。


「まってよう」

 ちとせはあわててたちあがりました。いちわのつるがまどのさんにとまり、ちとせにむかっていいました。

「ちとせさん、どうぞごあんしんを。すてきにおいしいものをみつけたら、きっと、ここへもどってまいりましょう」

 かさり、ぱたぱた。かぜがふいてそのつるもふわりとうきあがります。

 ちとせはまっしろなつるたちがとおくとおく、そらのむこうにとんでいくのをみおくりました。

 しろいつばさがしろいくもにすっかりまぎれてしまうまで、ちとせはまどのそとからめをはなしませんでした。


 さみしいきもちでふりむくと、おや、たったいちわ、のこっているつるがいます。さっき、ちとせがつくったばかりの、まあたらしいひゃくわめのつるでした。

 ちとせはそのつるをりょうてですくいあげて、ききました。

「あなたは、みんなといっしょにいかないの?」


 ひゃくわめのつるは、ちとせをみあげてこたえました。

「わたしはこの、ぴかぴかのまっしろなはねがきにいっていますから」

 それからほこらしげにはねをぴんとのばします。


「それならつるさん。あなたはおそとではねがよごれてしまうのがいやなのね」

 ひゃくわめのつるはくびをかしげてから、「そういうわけでもないのですが」といいました。

「わたしたちおりづるは、おいしいものをたべると、からだがそのいろにかわるのです。そとにいったわたしのにいさんやねえさんは、きっとめいめい、うつくしいいろをてにいれていることでしょう」

 そのことばを、ちとせはうなずきながらきいていました。


 ひゃくわめのつるはつづけます。

「けれどもわたしは、ちとせさんがつくってくれたままの、まっしろなすがたがきにいっているのです。きれいだし、いかにもつるらしいでしょう」

 ひゃくわめのつるがそういってくれたことがうれしくて、ちとせはにっこりわらいました。


 ひゃくわめのつるは、しろいくちばしでしろいはねをていれします。ちとせはひゃくわめのつるをてのひらにのせたまま、じっとしていました。

 はづくろいをしながら、ひゃくわめのつるはちらちらとちとせをみあげます。

 とうとうひゃくわめのつるは、ちいさなおりめのすみずみまできれいにしてしまいました。それからようやく、はずかしそうにちいさなこえでいいました。

「ちとせさん、あつかましいおねがいですが、なにかおいしいものをいただけませんか? できればこのからだのような、まっしろなたべものがよいのですが」

「わかったわ」


 ちとせはひゃくわめのつるをそっとてにつつんだまま、へやをでました。いまにいくと、おとうさんはしごとをして、おかあさんはほんをよんでいました。

「おかあさん、おかあさん、しろいたべもの、あるかしら」

「しろいたべもの?」

 おかあさんがたずねます。

「そう。つるさんにあげるの」

 ちとせのてのなかのひゃくわめのつるをみて、おかあさんは「まあ、きれいにできたこと」とわらいました。


 おかあさんはかんがえていいました。

「しろいたべもの、ね。なにかしら。ぎゅうにゅう、おとうふ、それから……」

 おとうさんがちとせをふりかえりました。

「だいこん、たまご、はんぺんもしろいたべものだね。そうだ、こんやはおでんにしようか」

「それならおおきなおなべをださなくちゃ」


 おかあさんはだいどころにいって、かかえるほどのおおきなおなべをよういして、ちいさなうつわもだしました。

 そのうつわに、まっしろなヨーグルト(よおぐると)をひとさじ、ふたさじ、いれました。それからふわふわのマシュマロ(ましゅまろ)をひとつのせてくれました。

「はい、しろくておいしいおやつですよ。ちとせもつるさんも、めしあがれ」

「ありがとう」

 ちとせはきのおさじでヨーグルト(よおぐると)をたべました。ひゃくわめのつるはうつわのへりにとまって、くちばしでつんつん、マシュマロ(ましゅまろ)をついばみました。


 すっかりからにしたうつわをおかあさんにわたして、ちとせとひゃくわめのつるはへやにもどりました。

「すてきなおやつを、ごちそうさまでした。しろいたべものはやわらかくてやさしいおあじ」

 ひゃくわめのつるはそういって、うれしそうにはねをぱたぱたさせました。

「よかったわ。そうだ、つるさん。おともだちをつくってあげる」

 ちとせはしろいましかくのかみをてにとりました。


 かみをまんなかからしかくくおって、もういちどおって、ちいさなましかくにします。

 それをひらいて、たたんで、さんかくに。

 おやまのはしのかどを、てっぺんにあわせておりあげます。またまたちいさなしかくができました。

 ここからは、おもてとうらでちがうおりかた。

 まずはおもてがわ。

 りょうわきのかどをおり、まんなかでちょんとくっつけます。

 そうしてできたポケット(ぽけっと)に、うえのひらひらをしまいます。

 つぎにうらがわ。

 りょうわきのかどをうちがわにおりこみます。おりがみが、ほそながいかめのこうらのようになりました。

 こうらのしたがわにおりめをつけます。ちょうどさんかくをつくるように。

 そのおりめから、うえのひらひらをおおきくななめにおります。

 おったところをゆびでやさしくひらけば、ほら、うさぎのおみみができました。

 さいごに、したからふうっといきをふきこんで、ふうせんうさぎのできあがり。


 ぺたん、ぺたんとかみをおるちとせのてもとを、ひゃくわめのつるはじっとみていました。

 ちとせはふっくりふくらんだふうせんうさぎをそっとゆかにおきました。そのとたん、ふうせんうさぎはあたりをきょろきょろみわたして、あたりをとびまわりだしました。

 そのげんきのよいことといったら、ひゃくわめのつるがあいさつをするまもないほどです。


「うさぎさん、うさぎさん」

 ひゃくわめのつるはふうせんうさぎのまわりをとびながらよびかけます。ふうせんうさぎはようやくたちどまりました。

「みかけないかおだね。きみはだれ?」

「わたしはつるです。あなたとおなじように、そこにいるちとせさんにつくってもらったんですよ」

 ひゃくわめのつるがつばさでちとせをさししめします。ちとせは「こんにちは、うさぎさん」とはなしかけました。


 ふうせんうさぎはみみをゆらしてぺこりとおじぎをしました。

「こんにちは、ちとせさん。ところでここはどこだろう。たんけんしてみてもいいかい」

「ここはわたしのおへや。どうぞ、たんけんしていって」

 ふうせんうさぎはあたりをみわたして、ぴょんぴょんかけていきました。

「げんきのいいうさぎさんですね」

 ひゃくわめのつるが、ちとせをみあげていいました。


「あなたはたんけんしなくていいの?」

「わたしはこうすればほら、おへやじゅうをみわたせますので」

 ひゃくわめのつるははねをうごかして、ちとせのあたまのたかさまでとびあがりました。

 それからさらにたかくはばたき、ぱたぱたとへやをひとまわり。

「ほらほらちとせさん、うさぎさんはへやのすみっこ、つみきのかげにいるようです」

 ちとせがしずかにのぞいてみると、たしかにふうせんうさぎは、つみきをのぼろうとなんどもとびはねているところでした。


 ちとせがふうせんうさぎのためにつみきでかいだんをつくっていると、こんこん、まどをたたくかるいおとがします。

 ふりむいてみると、ゆうやけのようなだいだいいろのおりづるがいちわ、まどをつついています。

「おや、にいさんだ。おかえりなさい」

 ひゃくわめのつるのことばに、ちとせはいそいでまどをあけました。

「ただいまもどりました、ちとせさん。ひよどりといっしょにおみかんをいただいてきましたよ。みずみずしくてあまずっぱくて、とてもおいしいおみかんでした」

 そういっているあいだにも、まどからはいちわ、もういちわと、さまざまないろのつるがかえってきます。


 つるたちはくちぐちに、なにをたべてきたのかちとせにおしえてくれます。

「ほら、みてください、このあざやかなきいろ。ふわふわのたまごやきをいただいたんです」

「わたしはしゃきしゃき、しんせんなほうれんそうをいただきました。ほら、げんきなみどりいろでしょう」

コロッケ(ころっけ)もおいしかったですよ。さっくりこんがり、きつねいろ」

 ふうせんうさぎもそばへよってきました。つるたちのはなしをおもしろそうにきいています。

「いいな、いいな。ぼくもおいしいもの、いっぱいたべたい」


 とうとう、つるがみんなかえってきました。いろとりどりのつるたちをみわたして、ちとせはきがつきました。

 へやのなかのひゃくわのつるのうち、いちわとしておなじいろのものはいないのです。

 たとえば、あかいつるはたくさんいます。そのあかいろも、それぞれのつるがどんなあかいものをたべてきたかで、まったくちがっているのです。

 トマト(とまと)をたべたつるは、つやつや、ぴかぴかのはじけそうなあか。

 ざくろをたべたつるは、ルビー(るびい)のようにすきとおるあか。

 まぐろのおさしみをたべたつるは、しっとりなめらかなふかいあか。


 とおくへいったつるは、ちとせのしらないものをたべてきたようです。

 ほっくりしたうすももいろのつるがはなします。

「ここからずっととんでいったさばくのくにで、おおきなおにくをたべました。たしか、ケバブ(けばぶ)といいましたっけ。ぴりっとしたあじつけで、いくらでもたべられそうでした」

 からすのようにまっくろなつるがくちばしをうごかします。

「ちとせさん、いかのすみをたべたこと、おありですか。あの、いかがぴゅうっとはく、あれですよ。スパゲッティ(すぱげってぃ)にからめると、こっくりとうみのあじがするんです」


 あざやかなべにいろのつるがとびまわります。

「わたしはずっときたにとんでいきました。ボルシチ(ぼるしち)というあかいスープ(すうぷ)をいただきましたよ。そとはとてもさむかったけれど、スープ(すうぷ)のおかげであたたまりました」

「わたしもスープ(すうぷ)をのみましたよ」

 そうこたえたのは、すきとおるようなうすみどりのつるです。

「わたしがいったのは、みなみのほう。フォー(ふぉお)というめんがはいっていて、さっぱりして。そうそう、すこしかわったかおりのはっぱがのっていました」


 ゆかにならぶひゃくわのつるたちは、まるでにじのようです。

 ちとせのすぐとなりには、まっしろなひゃくわめのつるがちょこんととまっています。


 ようかんをたべてきたという、つるりとひんのよいあずきいろをしたつるが、ひゃくわめのつるをみてくびをかしげました。

「あなたはなにもたべていないの? まっしろなままのようだけれど」

「いいえ、とてもおいしいものを、おなかいっぱいいただきましたとも」

 ひゃくわめのつるがはずんだこえでこたえると、あずきいろのつるは「それはよかった」とうなずきました。


 つるたちのはなしをむちゅうになってきいているうちに、ちとせもおなかがすいてきました。

 そのとき、だいどころから、おでんのにえるいいにおいが、ふわり。

「あら、ゆうごはんができたみたい」

「いってらっしゃい、ちとせさん」

 つるたちははねをふってちとせをみおくってくれました。


 ちとせはへやをでて、おとうさん、おかあさんといっしょに、ぽかぽかおいしいおでんをたっぷりたべました。


 つぎのひのあさ。ちとせはだいどころで、ふうせんうさぎをみつけました。

 ふうせんうさぎはよくあじのしみたおでんをこっそりたべて、ふっくらやさしいうすちゃいろになっていましたとさ。

本文中のおりがみの作り方は、

新宮文明様によるウェブサイト「おりがみくらぶ」を参考にさせていただきました。

おりがみくらぶ:http://www.origami-club.com

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― 新着の感想 ―
[良い点] 食べたものがそのまま身体の色になる、という設定がとても面白いと思います。 様々な色をしたつるの兄弟たちが帰ってきたあと、つるたちが食べたいろんな食材や異国の料理名が出てきて、ワクワクしまし…
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