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あやしの妖の世  作者: 朝陽
~出会い編~
5/7

彼の名は【グレン】

家に鬼の青年を連れて帰った私は近くの針葉樹の落ち葉や枯れ枝を敷き詰め、その上に青年を寝かせることにした。寝心地は最悪だろうけど、氷の上で寝るよりはマシだと思う。


『体が冷えてるみたいだし、火でも焚かないといけないわよね。でも、私が危なくないかな?』


青年の手を触ると私には平温だけど、氷属性を持たない種族からすれば低体温なのだ。それほど体が冷えているのだろう。だから火を焚くのを考えたが、雪女は炎にどれだけ耐性があるのか。


『まあ、いい機会だと思ってやってみるか!』


女は度胸だし、青年を助けるためには仕方がない。

私は青年の荷物を漁って火付け石のような道具を発見し、薪を集めて火を起こした。


『…熱い』


やはり私にはサウナ並の熱さを感じた。汗が半端なく吹き出る。仕方がないので入口付近に退避することにした。


『先ずはひと安心ね。次に食べるものを何とかしないとね。』


彼の荷物から携帯食を発見した。乾パンみたいなのと干し肉、ドライフルーツかな。


『お鍋が欲しかったなぁ。暖かいスープを作ってあげたいのに…。』


どうしてもスープを作りたい。何かをしていないと不安でたまらなかった。こうやって平然としているけど内心では心穏やかにいられなかった。


再び外へ出て鍋を探すことにした。こんな雪山にそんな物があるはずもないけど、青年が遭難していたくらいだ。他にも遭難者がいたかもしれない。不謹慎かもしれないけど、彼等の遺品に必要なものが残っている可能性がある。生きるためだ、倫理なんて考えている暇はなかった。


今思うと私は本当に妖怪になっていたんだと思う。これが朝陽だったなら、こんな考え自体しなかっただろう。


『あ、川だわ。』


森の奥へと進んでいくと大きな川が流れていた。まるでアマゾン川のようだ。


川岸には流木の他に様々な物が流れ着いていた。鎧や服、剣、本など沢山あった。


『あ、鍋を発見!食器もある。…服とかは使えそうにないわね。ボロボロだし、洗濯してもね。』


せめて毛布とかあったらよかった。


『あれ?荷馬車…なのかな?』


視線の先には大破した荷馬車らしき物があった。恐る恐る近づいてみる。


『…死体とかないわよね?』


臭いを嗅いでみるが、悪臭はない。危険はないと判断した。


『どこにも入れる場所がないわ。仕方がないから壁を凍らせて壊すしかないよね。』


絶対零度まで凍らせて壁を脆くさせる。


少し離れてから巨大な氷の玉を作り、壁に向かって投げた。

 

シャラーン!!


ガラスが砕けたような澄んだ音を立てて壁が壊れた。


『よし!』


早速中へ入ってみると沢山の木箱が積んであった。中を開けてみると携帯食糧や何かの薬、毛布などの大量の物資が入ってたのだ。


『やった!』


近くに大きめのリュックがあったので、食糧と毛布、包帯、薬一式に青年用の着替えを詰め込んだ。あと、地図もあったから貰っていく。


『またここに来て調達すればいいかな。でも、他の動物に荒らされるのも嫌だから氷で覆って隠してしまいましょう。』


これなら目印にもなるし、防犯にもなる。


『早く帰らないと彼が起きちゃうわ。』


リュックを引きずって急いで帰宅をした。








ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー


帰宅すると青年はまだ眠っていた。その姿に安心する。


『さて、スープを作りましょう!』


先程の荷物から乾燥した野菜を取りだし、鍋に水を入れてゆっくりと煮る。


『お塩とかあって助かった。』


単純な塩味しか作れないけど、塩分が摂れるだけマシなのよね。その代わり野菜やお肉の出汁で味わってもらいましょう。



『…ありがとうって伝えるの…』



暇だったから友達と作った自作の歌を歌う。この歌は大学で作成したアニメの主題歌だ。

主人公は女の子。大切な物の為に罪を犯していく物語。でも、彼女は光を嫌えなかった。そんな物語。



『あ~やだやだ。今思えば私達って中学生特有の病にかかっていたのよね。こんな酷い歌詞はないわ~。』


きっと裏で皆に笑われていたに違いない。前世の黒歴史に恥じ入っていると視線を感じた。


バッと振り返ると身を起こして私を見る青年と目が合った。


『あ…(金色の瞳だ…綺麗。)』


青年の瞳は金色だった。瞳孔が猫みたいに縦筋だった。まさに鬼って感じだ。


「お前が…俺を助けてくれたのか?」


『あ、その…倒れていたから…。』


初対面の青年に対して緊張していまう。それに妖怪だから下手な事をすれば殺されてしまうかもしれない。そう考えたら体も固くなってしまう。


「そう固くならなくてもいい。命の恩人に対して無礼な事はしない。」


青年が立ち上がって私の目の前にやって来た。そして膝をついて私と視線を合わせる。


「助けてくれてありがとう。自己紹介がまだだったな。俺は鬼の国の第二部隊隊長を勤めている【グレン】だ。」


『グレン…隊長?』


「グレンでいい。もし良かったら君の名前も教えて欲しい。」


『あ、私はユキです。今日生まれたばかりの雪女の純血種?です。』


そう自己紹介するとグレンは目を丸くした。


「自然から生まれたのか?」


『はい。この近くの氷山から生まれました。』


「自然から生まれる者などこの500年なかった事だ。本当に珍しい。」


『そうなんですか?…それっておかしい事なの?』


「いや、寧ろ喜ぶべき事だ。最近は混血化が進んで種族特有の力を扱える者が減少していたんだ。混血種は様々な種族の特徴を受け継ぐが、どれも中途半端だ。力を半減させた者を純血種は嫌っている。彼等は純血主義だからな。」


天使から聞いた内容と変わらないようだ。


『…私は混血でも構わないと思う。力があってもそんなに使わないからあっても無くても同じだと思う。』


「俺も同じ考えだ。俺の友も部下も混血種なんだよ。彼等の心はとても気さくで気持ちのいい者達だからな。」


本当にそう思っているようで、グレンは優しい目をしていた。


「…それにしてもユキは凄い治癒能力を持っているのだな。奴等の【呪いの太刀】で斬られた傷と呪いが完全に癒えている。」


『それは良かったです。…正直に言いますと、治癒能力を使ったのは初めてだったの。だから、その、私の実験台にしてしまったというか…ごめんなさい。』


「い、いや。こうして無事にいられるのはユキのお陰だ。感謝している。だから気にしないでほしい。」


ゴツゴツした大きな手に頭を優しく撫でられる。頭を撫でられるなんて子供の時以来だった。とても気持ちがいい。


「サラサラして綺麗な髪だ。いい撫で心地だな。」


どうやらグレンは私の髪を気に入ってくれたみたい。


『あ、スープを飲みませんか?それに着替えもあります。服も濡れてるでしょう?』


私は持ってきた着替えをグレンに差し出した。


「これは旧鬼の国の軍服だ。これをどこで?」


『森の奥に大きな川がありました。そこの川岸には沢山の物が打ち上げられていたんです。これも荷馬車から持ってきたの。』


「そうか。多分、1世紀前の大戦で流れ着いたのだろう。助かるよありがとう。」


着替えを受け取ったグレンは入り口近くに行って着替え始めたようだ。私はその間に食事の用意を済ませる。


今日のメニューは野菜スープと乾パンと干し肉の塩煮である。ドライフルーツも一応出しておく。


「待たせたな。」


『わお。』


持たせた着替えは藍色の軍服だった。この色も似合うね。格好いい。


『スープを沢山作ったから飲んでね?それと、あるもの出しておいたから、無理しないで食べてね。』


「ユキは食べないのか?」


『スープは熱くて飲めないし、まだお腹も空かないの。多分、雪の力が満ちているからだと思う。だから気にしないで食べてね!』


彼に遠慮しないでと伝えるが困ったように私を見てくるのだ。


私は袿を頭から被って火の熱さから身を守っていた。じゃないとここにいられない程の熱さなのだ。


「…いただきます。」


『お召し上がれ!』


やっと食べてくれたようだ。その事に安心する。早く体力を戻して失った血を取り戻してほしい。傷は癒えても失った血は戻らないから。


上品に食べていくグレンを見て、彼は家柄の良い血筋の鬼ではないかと推測する。それも、純血種の鬼だ。


食べ終わったらこれからの事を話し合わなければならないだろう。彼の帰る方法を探さなくては。


転生初日から大変です。

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