死と天使と選択
私は朝陽。大学に通っている女学生である。大学卒業間近に控え、無事に就職先も見つけたので肩の荷も降りました。だから「卒業旅行にでも行こう!」と就職活動を終えた友人と共にスキーに行ったのが私の最後の思い出でした。
気がつけば七色に光る空間に自分は立っていたのです。
『あれ?』
全く知らない場所です。確か私は雪山に来ていたはずで…スキー板を装着して厚着もしていた。なのに衣服の窮屈さも感じない。
『えっ…私の服は白の着物だったかなぁ?それに体が透けてるような…』
半透明の自分の体に茫然となります。パニックを起こさないのは奇跡としか言いようがありません。
暫く茫然としていると、驚くことに天使が現れたのです。
「はじめまして、朝陽さん。これから貴女には新しい生を生きてもらいます。先ずは…」
『ちょ、ちょっと待ってください!新しい生って、その、まるで私が死んだみたいじゃないですか!』
「それはそうですよ。貴女はスキー旅行中に倒れて亡くなったのですから。原因は脳梗塞です。随分と栄養の偏った食生活と過度の過労に体が耐えられなかったようですね。」
淡々と語る内容に心当たりのある私は悲しむ事もなく自分の死を受け入れていた。
「…納得して頂いて良かった。これでも私は予定が詰まってるので。早速ですが貴方に生まれ変わりたい世界を選んでもらいます。」
『…世界?地球じゃないの?』
そんなファンタジーの仮想物語じゃあるまいし。
「地球もありますよ。でも、世界は地球だけじゃない。貴女の世界の物語のような要素がある面白い世界は幾つも存在しているのです。ただ、次元が違いますからお互いに知る事はないのです。まあ、神様や私達は職業柄で知っていますがね。」
この天使の話が本当なら異世界は存在するのね。行ってみたい気がするけど、魂の故郷(地球)から離れるのは怖い。
「大抵の地球出身者は冒険はしないのですよ。やはり知っている世界の方が良いと。でも、流石に何度も同じ世界に転生させるのも困るのです。」
『どうして?』
「先程言ったように、同じ世界にばかり転生する者達が多いのです。魂というのはエネルギーの塊でして、その世界に生を受け、天命を全うすることでゆっくりと世界に力を循環させる働きがあります。もし、貴女が他の世界へ転生してくれたら、その地球で溜め込んだエネルギーを循環させることができてとても助かります。」
天使の説明を聞いてもちっとも理解できないけれど、私が異世界に転生することが世界にとって良いことだというのは分かった。
『…天使さん、私…異世界に転生するよ!』
「え、良いのですか?」
『うん。正直、怖いよ?でも、これから社会人になって親孝行して世間の役に立とうって時に死んじゃったからさ。異世界の天寿を全うしてから地球に帰ってきてもいいんでしょ?』
「はい。」
『なら迷うことないわ。手続きをお願いします。』
自己犠牲な考えだと思ってる。本心は地球に転生して両親の近くに行きたかった。でも、中途半端で全てを終えた人生を後悔していないと言えば嘘になる。だから、世界貢献して胸を張って両親に会いに行きたいのだ。
「では…異世界は数多あります。貴女が興味ある世界とかはないのですか?」
『う~んと…実は魔法世界とか憧れがあるの。でも、妖怪とかホラー系も捨てがたい。』
「妖怪とはまた特殊ですね。魔法世界も妖怪世界もありますよ?」
『そ、そうなの!?う~…どうしよう?私は戦いとか怖くて無理だし。争いとかあったら直ぐに死んじゃいそう。』
そう、私は喧嘩とか戦争とか怖くて無理なのだ。社会の授業で初めて戦争の事を知ったとき、日本国憲法の素晴らしさに感動した記憶がある。
「貴女の性質に合わせた設定も出来ますので、先ずは世界を選んでください。」
『よ、妖怪の世界でお願いします!!』
どうせなら人外を楽しみたいじゃない!
「妖怪の世界ですね。では、次に転生する種族とかを決めてしまいましょう。」