My Funny Valentine
愚智者=パラドクス(矛盾内包者)様 × にゃん椿3号様による
萌え企画「バレンタイン☆プロジェクト」参加作品
別の場所で不定期連載している作品からバレンタイン編として書いてみました。
シリーズという流れがないと書けないもので……。
わかりにくい箇所多々あるかと思いますがご了承くださいませ。
トラック数台分のチョコレート。手紙もぬいぐるみもくっついていたらしい。
俺の手元に来ることのない大量のおもいはどこへ流れていくのか。
あいつへのチョコレートの山も。届くことのないおもいはどこに昇華されるのか。
甘いものは好きじゃないと言いたいけれど、仕事とはいえ、
カメラの前でチョコレートを見つめながら、君に夢中だ!なんて言っているのだから、今さら言えやしない。
ウィスキーボンボンなら洒落になるかな?
小さな箱にウィスキーボンボンが二つ。甘味が上品で中のウイスキーは上物。
ヨーロッパ旅行の手土産と言えばいい。
それだけのことだと。さりげなく何気なくあっさり抜かりなく渡せばいい
深い意味なんて微塵もない、と。
二人きりになったところでほらよ、とあいつの顔を見ずに
小さな箱を渡した。
「チョコレート? 貰いすぎて食いきれないから、俺にくれるのか?」
冗談だとわかっていても腹が立ってしまって
俺はつい、
「人が一生懸命選んで悩んで
思いまで込めたものを馬鹿にするな!」
と言って、しまった。
あいつは口をポカンと開けたままで、俺は恥ずかしさが込み上げて逃げたくなるのを必死に堪えていた。
「いや、だから、これは土産で。親しき仲にも礼儀があると…ウィスキーボンボンならいいだろ?ちょっといいウィスキーが入ってるって書いてあったから、だから…」
言い訳嫌いの言い訳下手が言い訳すると間抜けがひどく浮き彫りになる。
「あのさ、こういうことは…」
「だから、深い意味なんてないから!いらなきゃ捨てろ!」
「話し最後まで聞けよ。こういうことは外じゃなくてその…もっといいところで…」
首をかしげる俺を見るとあいつはわざとらしい咳払いをした。
「外じゃほら、 いろいろ…」
「何がいろいろだ。変な誤解するな」
恥ずかしさを何とかかき消そうと精一杯の睨みをぶつけた。
あいつの眼差しにひとつの煌めきを見ると、俺は気恥ずかしさで目を伏せた。
「見返りの臭いがしないチョコレートは初めてだ」
「土産に見返りも何もないだろうが」
「思い、こめてくれたんじゃないのか?」
「親友、として、な」
「親友か…俺、雑誌の取材を受けたとき、お前のこと恋人って言っちまったんだよなぁ」
「どうせ冗談で言ったんだろう? 誰も本気にしてないよ」
「冗談で言ったんじゃねぇよ」
「俺とお前は恋人じゃない!」
「男だからか? いいじゃねぇか男の恋人がいたって。女はともかく、男の恋人は
お前だけだ。これは変わらない」
恥ずかしげもなく、まっすぐに俺を見据えながらあいつは言った。
「変わらない? 恋って漢字思い浮かべてみろよ。変わる心って書くんだぜ。恋が永遠なんて
嘘なんだよ。歌や映画の世界の話だ。だから、俺はあえて親友だと……親友なら変わらない、だろ? 」
言いながら、顔が熱くなるのを感じた。愛や恋なんていくらでも嘘をつける。現に自分たちの仕事はその嘘の、虚飾の世界にある。大切な思いは変わることのない場所にそっと仕舞っておきたかった。膨れあがった思いは仕舞いきれなくなっていた。眼差し深くなるあいつと対峙しながら、負けまいと俺は言葉をつづけた。
「か、変わらないっていうのは絆という意味で邪な意味じゃないからな。男の友情のことで……」
あいつは俺の腕を掴み、抱き寄せた。タバコの匂いと男物のオーデコロンの匂いが鼻腔をくすぐる。突き放そうとしても、あいつはビクともしない。
「話し、長くなりそうだな。もっとあったかいところで聞いてやるよ」
「聞く気ないだろ?」
「俺に惚れてるってお前が言っちまうまで聞いてやるよ」
「冗談じゃない。誰が言うか」
「照れてるのか? 顔、真っ赤だぜ。お前はわかりやすいの。そこがまた……」
うるさいのであいつの唇を塞いだ。周りに誰もいない、覗く隙もない場所だと確認済の上で。
あいつのつめたい唇はすぐに熱くなった。唇から熱が入り込み、身体中を駆け巡る。
箱の中のウイスキーボンボンが溶けて、だらしなく液体を漏らしている様が目に浮かんだ。
愛も恋も友情も理屈っぽく響く。お互いが共に在れたら、何もいらないと思えればいい。
唇を離すと、俺たちは笑みを浮かべ、強く抱き合った。