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翌日。社に戻ったキクは、社の中で、カラスを追い出すにはどうすればよいのかを考えていました。
「うーん。粟の畑から、カラスを追い出すにはどうしたら良いんじゃろうか?石礫は、あたいが居る時にしかできないし。他に方法は?うーん」
しばし考えて、キクが思いついた事。それは、風車でした。
でも、ただの風車ではありませんでした。
キクは、思いついた風車の制作に、取り掛かりました。
「ここをこうして。ここに刺を付けて、と。完成じゃ」
キクが作ったカラス除けの風車には、羽の端に糸と、その糸に針を括り付けて回ると近づきにくくなるものと、カラスが嫌がる音の出る笛が付いた物を作りました。
それと、長い糸に撒きびしを無数に括り付けた物も作りました。
「・・・こんなもんじゃろ。さあて。明日に備えて寝るか」
キクは寝床に着きました。
そして、翌日の夜。
まず、周りに人が居ないのを確認したキクは、風車等の設置に取りかかりました。
「先ずは竹の棒を八つを挿してと。風車は粟の畑の周りに複数置こうかのう?」
キクは、等間隔に風車を設置します。
「よし。こんなもんじゃろ。次は糸をと・・・」
キクは、針付きの糸を竹の八つの柱に縦横無尽に巡らせました。
そして、カラス対策の仕掛けは完成しました。
「ちゃんと効果があるか、楽しみじゃ!」
キクは、嬉しそうに帰って行きました。
翌日。人間に化けたキクは、畑に来る女を待ちました。
結構なときを待ちましたがやがて、女が現れました。
そして、様子を伺うと。
女は願ってから数日で現れたカラス除けの仕掛けに感激していました。
その様子を見て満足したキク。
しかしそこへ、一人の男が現れました。
そして男は女にこう言いました。
「実はおいらが仕掛けたんだよ」
この男、自分が仕掛けたのではないのに、こう言い放ったのです。
「な、なあ・・・」
キクは、あまりの事に、怒りで手を震わせました。
「ええっ?この仕掛け、あんさんが作ったの?」
女は不思議がります。
「おうよ!」
男は腕を組んで自慢します。
(こいつ・・・)
キクは、この男に天罰でも食らわせてやろうかと思いました。
お稲荷様となったキクにとって、自然を操り、この男に罰を与えるのは、造作も無い事だからです。
女は首を傾げました。
「あんさん?あたし、たった一夜でこれだけの仕掛けを作れるとは、思わないんだけどねえ?」
「人はなせばなるもんだぜ?おいらを信じろよ?」
男は女ににじり寄りましたが、女は後ずさりして距離を置きます。
そしてキクは、この男は何を言っているんだろう?と、この男の態度に不満を憶え、天誅を下す事にしました。
キクは手を組んで、呪文を唱えます。
「ノーマクサーマンダーテンクウビリビリソワカ」
キクが唱えると、空がたちまち薄暗くなり、雨が降って来ました。
「な、何じゃー?突然?」
男は空を見回します。
と、その時です。雷鳴が響いたかと思うと、直ぐに雷が男を直撃しました。
男は激しく痙攣して、その場に倒れました。
「ひえええっ!」
この光景を目の当たりにした女は、腰を抜かしました。
この様子を見て、ふんっ!と鼻息を荒くするキク。
そして、一度は腰を抜かした女でしたが、姿勢を直して、男の方に近づきました。
「あんさん!大丈夫?無事なのかい!しっかりおしよ!」
女は男の体を揺さぶり、心配しました。
「・・・うぅ。おいら、生きてる?」
「目ぇさめたんだね!無事でよかった!」
女は男を抱きしめました。
キクは、その様子を見てから社に戻りました。
後日。
粟の畑の願い事をした女と、突然現れた男とが、キクの稲荷神社へと訪れました。
この男女は、二礼二拍手一礼のあと、心の中で言いました。
「お稲荷様。お稲荷様のつくった仕掛けが縁で思いがけず、殿方と知り合う事が出来ました。感謝します」
と、言いました。
この、心の声を聞いたキクは
「何じゃ?この女子はあたいの事をみておったんか?それにしても、この男とよもやむすばれとうとは」
キクは、お稲荷様でありながらいつの間にか、縁結びの神にもなっていたのでした。




