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そして、起きると日は暮れて、夜になって居ました。
寝過ごしたと思ったキクですが、妖力が回復し、力もついています。
こうなれば、人間に化けるのも容易であり、夜道であれば、何かあってもばれにくいのです。
そこで、キクは、夜道を散歩する事にしたのです。
キクは、粟を育てている、畑に向かう事にしました。
畑に着き、様子を見ると、粟の苗は、順調に育っていました。
「これなら、あたいが手を出すまでもないか?」
しかし数日後。
娘の言葉が気になり、見てみると畑は荒らされていました。
「これは、どういうことじゃ?」
キクは、不思議に思いました。
その翌朝。あの娘がお参りに来ました。
「お稲荷様。私たちの畑が荒らされてしまったのです。あなたさまの力で犯人こらしめられないでしょうか?」
キクは仰天しました。娘の言っている事は、願いではなく、依頼だからです。
困った時の神頼みとは良くいうものの、まさかキク自身が頼まれる羽目になるとは、思ってなかったのです。
それと言うのも、本来、神や仏は人間が造り出したもの。
かくゆうキクだって、霊魂であり、物の怪であったのが、人間の思いに依って神格化したものだからです。
それゆえ、人間以上の力はあるにせよ、探すとなると地道なもので、外に出る分だけ、妖力は沢山
使うのです。
正直、これだけはキクは苦手なのでした。
「しかし、ようく考えれば、あたいはお稲荷。今や農作物を司る神の一人じゃものなあ。やるしかないか」
そう、意を決したキクでありました。
そして、翌日の夜。キクは、神社にある砂利を沢山拾い、それを用意して、畑で犯人を待ち構えていました。
一体どんな犯人なのか。キクは想像してみました。
「人じゃろうなー。いや、それともなあ?イノシシの場合だってあるかもしれん」
そう、考えていました。
しかし、犯人は、空からやってきたのです。
バッサバサと大きな音をたててやってきたその正体は、カラスでした。
「こいつら、夜目が効くんかいっ!」
キクは、驚きました。キクには、いわゆる「鳥目」の知識が無かったのです。
「こっ。こいつらー!」
キクは、用意した砂利を手取り、カラスに向かって構えます。
「そりゃ!」
キクは、妖力を使い、カラスの胴体に向かって小石を、弾丸の如く、凄い速度で放ちました。
勢いよく放たれた小石は、カラスの体にめり込み、気を失ったカラスは墜落しました。
「まず、一羽!」
墜落したカラスに気付いたのでしょうか?もう一羽のカラスが、キクめがけて襲ってきました。
この時のキクは、目がまだ夜の暗さに慣れて無かった為に、攻撃をかわせず、カラスの足が髪に絡ま
ったりして、苦戦しました。
「この、この!」
キクは、カラスの足が絡まった髪を振りまわし、解こうとしたが駄目で、それに乗じてカラスがキクの頭を突きました。
「痛い!痛いって。くそっ!」
もがいている内に、髪からふり解けましたが、キクにとって、絡まった時の痛さは相当のものでした。
その為、頭を抱え、動きの止まったキクは、カラスを逃がしてしまったのです。
「おのれェ。カラスめ!」
キクは悔しくてたまりませんでした。




