その2
女の告白に気がついて、声のする方をみた藤次郎。
その女は長身で顔は逆三角。長髪だがどこか髪はぼさぼさ。それでいて金色の色の髪の毛。
そんないでたちでした。
「わしの事を前からだと?」
「はい」
「それは嬉しいんだが、あんたのようなんは好みじゃねえ」
「なんですって?」
驚愕するキク。
「なんてぇかよ?あんた、まず黒い髪の毛でなくて、金色で異人さんの様な髪してるしよぉ?髪は整ってねし、顔付が細いんだ。病人みてぇだ。それが嫌なんじゃ」
「じゃあさ、あんさん。どんな女子が好みなんよ?」
「そりゃあ、丸顔でふくよかななあ・・・」
「あたいと反対ってわけ?」
「おう」
「・・・」
藤次郎に否定されたキクは、言葉が出ませんでした。
「あんさんのいけずぅー!」
キクはこんな捨て台詞を吐き、泣きながらこの場を去りました。
「いけず?どこの言葉なんじゃろうか」
きょとんとする藤次郎。
少し離れた場所に身を潜めたキク。
「人間に振られたぁー!あたい、一目惚れだったのにぃー!」
キクは大声をあげて泣きました。
そしてその日、キクは社に戻り、暫く途方に暮れました。
「さて社に戻ったはいいが、どうしょうか?姿を現したいま、封じられんとずっとこのままだし、暫くはこの時代を楽しむかね?」
キクはこの先、どう過ごそうか考えました。
昔に起きたある事情から、注連縄から開放されたキクは実体化すると人間に見えてしまうのを
知っていました。
それでも一応、妖怪であるキクは一時的に姿を消せるのですが、沢山の妖力を使うんで長くはもちません。
そこで、社の奥に隠れる空間を、板でもって一夜でこしらえました。
それから数日後。
あの娘が男を連れて社にやって来ました。
「お稲荷様。やっと願いが叶いました。ありがとう御座いました」
女の横に居たのはキクが一目惚れした男、藤次郎でした。
「な、なんですと?」
キクは信じられませんでした。
しかし、
「あの女子が惚れてたんは、同じ男だったのか。これはあたいが嫌われた手前、譲るしかないな」
と、直ぐに諦めました。
「しょうがない。暫くはお稲荷様としての責務をはたすかね?」
そういって、キクは、数日はお稲荷様としての責務をはたしました。
そしてある日の朝。
今度は違う男が歌を神社にやってきて、唐突に歌を披露し始めました。
「!?」
キクは驚きました。
歌の内容は違えど、リズムがほとんど同じだったのです。
しかも、前の藤次郎と同じくらい、歌が上手い。
「あ、ああ・・・」
キクは、心が揺らぎ、その男の歌声に惚れました。
つづく