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キク -江戸編ー  作者: 麻本
1/5

あれからー。


 幾年もの月日が経ち、キクは木皿津にある小さな社で、商売のご利益のあるお稲荷様としてその時を過ごしていました。

前までは人に悪戯ばかりしていたキクも今では大人しいものです。

そして、お稲荷さまになって初めの頃から、参拝客が来たらその参拝客の願いに対して囁く様にアドバイスをする様にしていたキクでありました。

その事が噂となり、また、アドバイスが的確だった事が功を奏し、今では小さい社にも関わらず参拝客が良く訪れていて、結構評判の良い神社になっていました。

そして、参拝客の多い中のひとりに、この稲荷に良く通う女が居ました。

そして、今日もまた訪れて来ました。

「どうか、あの殿方と再びめぐり合い、そしてあさりがようけ(たくさん)売れますように」

その女はこう願いました。この女の心の声を聞いたキクは更にこの女の心を覗き込みました。

すると、

「藤次郎さま。いつかあなたと暮らせる日を夢見ています」と。

そしてキクにはこの女の思いが伝わり、同時にその情景までもが映りました。

すると、その情景は、かなり離れた物陰からこの女が覗きみた先に藤次郎と思わしき男の後ろ姿が映りました。

この願いに微笑ましさを感じたキクでしたが、女の想う「藤次郎」なる人物がどんななのかまでは分かりません。

そこで、こうアドバイスをすることにしました。

女子おなごよ。その男の前に出て告白してみよ。さすれば道は開けるじゃろう」と。

この、キクの言葉が届いたのか、女はハッ、として目を見開き、祈るのを止めると軽くお辞儀をして静かにこの場を去って行きました。

「あの女子おなご、縁が出来れば良いがのう」

キクは女子がどうなるのか、結果を楽しみにして待つことにしたのです。

それから、約一週間が過ぎました。

しかし、女子は一向に現れませんでした。

「あの女子は遅いのう。いつになったらここへ報告に来るのじゃ?ひょっとして奥手というやつかいな?」

キクは気になって仕方がありませんでした。

しかし、無常にもその日一日は過ぎてしまいました。

そして、次の日の朝はやく。

まだ朝焼けに成り始めた早い時間にひとりの男が参拝に来たのでした。

その男が手を合わせて祈ります。

その時、キクが心を読むと、男はアサリの大漁と船の安全を祈願しました。キクは

「大丈夫じゃ。心配するでない」

と、囁いたのでした。

そして、男も囁きに気がつき、笑顔を浮かべました。

そして次に地べたに胡坐を掻いて座ったかと思うと唐突に、歌を唄い始めたのです。

その歌は力強く、そして声高らかに自信をもって唄いました。

 そして男は歌を終えました。そしてその歌声にすっかり聞き惚れてしまったキクがいたのです。

そして男がその場を去ろうとしたその時です。

キクはこの男を逃がしてはなるまいと、男の心に向かって話し、引き止めて見る事にしました。

「なあ?そこの男や」

男は足を止めました。

「ん?何じゃ?わしの心に直接話しかけて来るんは?」

「誰であってもよいじゃろう?なあ男よ。お前に近々、気にかけておる女人に話しかけられる

という暗示がでておる」

「わしのことを気かけている女子?」

「そこでだ。その暗示を成就するためにも、目の前の注連縄を切ってはみんか?」

「成就と注連縄に何の関係が?それに女子なぞ・・・まだわしには」

「お主、漁師であろう?縁組の機会も少ないじゃろうて?そんな事を言ってよいのか?」

「う・・・」

「躊躇しておるな。では、決まりじゃ。お主、丁度いま魚をおろす為に包丁を持っておるな?

それを使って注連縄を傷つけた後、千切るがよい。千切った後しばらくしたらきっと女子が現れたりして

成就するじゃろうて」

「信じてよいんじゃな?」

「おう」

男はキクに言われた通り、注連縄を包丁で傷つけそして、力の限り引っ張って千切りました。

「ふふふ」

キクは薄ら笑いを浮かべました。

 そして翌日の朝。ある漁港。

藤次郎が漁に出る準備をしていた所に、一人の女性が現れたのです。

「あの、漁師さん。あたいはあなたをずっと前から気にかけていました」



ーつづくー 





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