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バト部活動期!  作者: カオス
バト部活動期
9/10

バトル部の日常3

 って、おいおい、そんなあっさりで良いのかよ!


「ちょっと木城先輩、そんなあっさり受けちゃって良いんですか!? これ相手の罠かもしれないし、罠じゃなくても相手からバトルを申し込ませるってことは勝算があるからかもしれませんよ」


「待て待て、宮田。人聞きが悪いぞ。何の競技かも決まってないのに、罠なんか用意出来る訳ないだろ。それに俺達はフェア精神を持ち合わせている。そういうのでずるはしないさ」


 人を拉致した人にそれを言われても……。


「どうですかね。勝てるかどうか分からない勝負を申し込ませる為にここまで手の込んだ事をやるっていうのがそもそも引っ掛かりますし」


「それは、バトルを申し込んで貰うためにはそれしか無かったからだよ」


「そういうことだよ、宮田君。それに前やった時はちゃんと真面目にバトルしてくれたし、この人達なら大丈夫だと思うよ」


 さっきまでの冷気を収め、どころか今度は俄然やる気に満ちた熱い目を向けて言う木城先輩。

 まあ、そんなに保証するなら問題は無いか……。


「で、条件の確認だけど、こっちは宮田君の解放だっけ。じゃあ、そっちの条件は?」


「こっ、こちらの条件でありますか! あのー、そのー……」


 何故か軍曹口調で答えた後、言い淀む三柴さんとやら。

 何だ、凄い言い辛そうにしてるぞ。そんなに言い辛い条件なのか?

 そうしてしばらくそれを続けた後、三柴さんとやらが口を開いた。


「こっ、こちらが勝ったら、木城さん、あなたに僕と付き合って頂きたいであります!」


 ふーん、なるほど。あっちが勝ったら三柴さんとやらは木城先輩と付き合いたいのか。……って、はあっー!

 何だ、そのふざけた条件!


「ちょっと待――」


『ヒュー、ヒュー!』


『流石、部長よく言ったぜ!』


『やれやれー、やっちまえ、部長!』


 うるせー! マジ周りうるせー! お前ら中学生か!


「ちょっとお前ら、からかうなよー!」


 あんたは女子か! その強面で照れながらそんな台詞言ってんじゃねえよ、似合わないんだよ!


「ちょっと待ってくださいよ! 何ですか、その条件! おかしいじゃないですか! 付き合うとか、そういう大事なことをこんなバトルで決めちゃいけないでしょ!」


「お前、そんな女々しいこと言うなよ」


「あなたに言われたくないんですけど!」


 あんた、今までの行動振り返っても女々しさ百パーセントじゃねえか!

 それに相手が勝ってしまったら、木城先輩は俺が捕まった所為でこんな人と無理矢理付き合わなくてはいけなくなってしまう。そんなの申し訳ないし、やっぱりそれは人間としてダメだ!


「大体、木城先輩だってそんな条件嫌ですよね!」


「えっ、いやっ、別に良いけど」


「良いのかよー!」


 あれー、この人なんでこんな軽いの!?


「ふっ、だってよ、宮田」


 三柴さんとやらが物凄い見下す顔をしてきた。

 何、こんなんでそんな勝ち誇った顔してんだよ。腹立つな!  

 くそっ、腹立つけどしょうがねえ。こいつはスルーだ。


「ちょっと木城先輩、良いんですか! こんな条件引き受けて!」


「んー、まあ、私もこういうのバトルで決めるっていうのは人としてどうかとも思うけど――」


 言いながら、ニッと無邪気な笑顔を見せて、


「――大丈夫! 勝てば良いだけなんだから」


 そう悠然と言い放った。

 いや、そうなんだけど、そういうことじゃなくて……。

 でもやる気を満ちたその目を見てると、これ以上言っても無駄な気がする。


「そうですか……」


「でも、こっちももう一つ勝った時の条件付けてもらって良いかな?」


「条件……? 一体、なっ、何でありますか? ……ゴクリ」


 生唾を飲み込む音をわざわざ口に出す意味は不明だが、その疑問は俺も一緒だ。

 条件か。一体、何だ。


「私が勝ったら、その後に宮田君ともバトルしてくれないかな?」


『……えっ!』


 その言葉を聞いた一同がポカンとする。勿論俺も。

 

「えっ、宮田とバトル、でありますか? 別に良いですけど……。逆にそれで良いんですか?」


「確かに。そんなんで良いんですか? あっちもかなり自己的な要求をしてきてるんですし、木城先輩も自分の為の条件を提示すれば良いんじゃないですか?」


 バトルが出来るということや俺の為に、というのは素直に嬉しいが、別にそんなわざわざ今じゃなくても良いことじゃないか。


「いやいや、良いんですよ、宮田君。昨日も言ったでしょ。もう近々バトルやってもらうことになるって。丁度良い機会だし、宮とぅわ……宮田君にも慣れておいてもらおうかなって」


 いやー、流石だな、良い先輩だな、本当。人の名前を噛みさえしなければ。


「そうですか。わざわざありがとうございます」


 体は縛られて自由が効かない為、頭だけ下げて感謝の意を表す。

 冗談抜きで本当に良い先輩に出会えたと思う。思えば出会いから助けられて、本当にこの人には世話になっでばかりで。いつか返さなきゃな、っとこんな状況でそんなことを考えてしまう。


「それじゃあ、バトルを始めようか。ということで、競技を決めなきゃいけないなー」


 後半部分を何故か棒読みで言いながらケータイを取り出す木城先輩。

 そしてそのまま画面を二回タッチ。すると、こちらにケータイを向けてきた。

 トゥルルルとコール音が響く。どうやらスピーカーにしたようで、俺達に聞かせるようにしてどこかに電話をかけている。そうしてしばらくしてから、ガチャッ、相手が出たようだ。


『咲さーん、どうしたんですか!? 僕の声が聞きたくなったんですか!? ちなみに、僕はいつでもあなたの声を聞きたいで……ツー、ツー、ツー』


 その声が教室中に響く。そして木城先輩が画面をタッチして電話が切れた。


「あの……木城先輩……? 今のジャッジメント北川先輩ですよね? 競技決めてもらおうとしたんじゃ――」


「いや、その気だったんだけど、何か腹立ったから」


 いやー、まさにその通りで。俺も同感です!

 しかし、その後すぐに今度は木城先輩のケータイのコール音が鳴り響いた。


「うわっ、来たよ……」


 嫌々といった顔をしながら、もう一度画面を二回タッチする木城先輩。

 誰からかなんて聞くまでも無い。


『咲さん、酷いじゃないですか! 何でそっちから掛けてきたのに、急に切るんですか!』


「アハハ、ごめん、ごめん。テロリストが手榴弾投げ込んで来たと思ったんだけど気の所為だったみたい」


 何、その新しすぎる理由! どんな勘違いしたらそうなるんだよ! 


『えっ、テロリスト! どんな状況ですか、それ!?』


 うん、それ正しい反応! どう答えるんだよこれ!


「それよりさ――」


 結局、軽く流したー!


「北川君、一つお願いして良い?」

  

『んっ、お願い……っということは、もしかしてバトル、(お兄ちゃん、だーいすきー!)妹ちゃん萌えー! ――ですか!?』


 おいっ、何か今途中でアニメっぽい女の声が聞こえてきたぞ。絶対今アニメ見てたよね。

 そうか、なるほど、今日は家族いなかったんですね、良かったですね。でもそれうるさいし、正直引くんだけど!


『……ツー、ツー、ツー』


 そして、切った!

 おいおい、結局どうするんだよ。


「で、結局競技はどうなるんだよ、宮田!」


 で、何で三柴さんとやら、俺に話し掛けてるんだよ! 木城先輩に聞けよ!


「ちょっと待って三柴君。今、メールしてるから」


 その後、どうやらメールを打っているようで、画面を逐一タッチしながらそう言う木城先輩。

 ああ、なるほど。メールにしたのか。

 その後、木城先輩は五分程メールのやり取りをしていたが、途中で明らかな怒りの表情を見せたり、「いやー!」とか絶叫していた。おいっ、メールで女子を絶叫させるってどんだけだよ。

 そうして、「よしっ!」っと言ってから、木城先輩は近付いて俺達にケータイの画面を向けてくる。


「いやー、お待たせ。帰宅時刻ももう少しで時間も無いからさ、手軽に出来て私と女子高生考察部で公平になるという条件を満たす競技を決めてもらったんだけど、結果これになったぜ!」


 言われて気付くが、外からは夕陽が差し込んでいた。俺が捕まってから結構経っていたのか……。確かに時間は無さそうだ。

 ということで、全員で画面を凝視する。

 そこに書かれていた競技、それは――


『手押し相撲!?』


 一同、驚きの声を挙げる。

 手押し相撲って、あの一対一で向かい合い手で打ち合ったり押し合ったりして、足が少しでも動いたら負けなあの競技か!


「ふむふむ、手押し相撲か。これなら、力はあまり関係ないから男女の差は大して無いし、どっちに有利、不利が傾いているというのは特に無い、かな。なるほど、それ以外はあれだけど、やっぱり審判としてだけは悪くないな、あの子は」


 それ誉めてんの、バカにしてんの!? ていうか、木城先輩、あんた何様なんだ!?


「てっ、手押し相撲! えっ、って、てててていいううこっ、ことは、おっ、俺ときっ、木城さんのはっ、肌がふっ、触れ合えっ……触れ合ってしまうという、こっ、ことでは! ひゃふん!」


 で、三柴さんとやら、あんたは動揺し過ぎだね! 最早、パンクし過ぎて変な声出てるよ!

 あと、肌が触れあうとか言い方やめろ!

 ――っとそこで俺はあることに気付いた。空気が変わった。

 見ると三柴さんとやらの取り巻きの目も変わっている。あれは、好戦的な目だ。


『待ってください、部長! 部長はさっきから木城さんと話過ぎて、精神力を使い果たした筈だ。ここは俺が出ます!』


 話過ぎて精神力を使い果たしたって何っ!?


『いや、部長! 木城さんの肌に触れるのは……じゃなくて、手押し相撲勝負なら俺に任せてください!』


『いや、部長! ここは手押し相撲歴十七年の俺に任せてください!』


 凄い、急に必死だ、この人達!

 ていうか、手押し相撲歴十七年って、お前赤ん坊の時からやってたのかよ!


「ダメだ、お前ら! ここは部長である俺が出るのが当然だろ!」


『黙れ、三柴! 俺が出るんだよ!』


「なっ、呼び捨て!」


『そうだ、そうだ! 引っ込め、三柴! 俺が出るっつうの!』


『はあっ、んだと、てめー! 出るのは俺だよ!』


 うわー、凄い。こんなことで激しい部内抗争起こっちゃってるよ。

 そして、三柴さんとやら、呼び捨てされたのショック受けすぎて、未だに「三柴……三柴……」呟き続けてる!


「いや、申し込んできたのは三柴君だから、今回は三柴君だね」


『なにーっ!』


「よっしゃー! やった、やったー!」


 なんか全員倒れたー! 小田さんとやらも含めて、なんかどんどん勝手にやられていくんだけど!

 ていうかもう残ってるの、やたら、というか寧ろこっちが引くくらい喜び過ぎて暴れている三柴さんとやらだけだし、これ普通に逃げられるんじゃないかな。

 まあ、今更逃げる気も無いけどな。


「じゃあ、セットと。大体ここら辺で良いよね」


「だっ、大丈夫です」


 木城先輩に言われて緊張した面持ちになった三柴さんとやらは移動する。

 そうして、お互い、教卓から机までの少しだけ空いたスペースに五十センチ程空けて向かい合うように立つ木城先輩と三柴さんとやら。

 あれっ、待てよ。そういえばさっきは三柴さんとやら、やたら喜んでいたけど、よく考えたら女子に話し掛けるので精一杯な人が――


「じゃあ、行くよ」


「はっ、はい……あひゃん」


「あの、三柴君……それじゃ、出来な――」


「あっ、すいません。今セットするんで、あひゃん」


「いや、だから……」


 あっ、やっぱそうなるよね。

 さっきから三柴さんとやらが、セットして木城先輩と向き合っては、変な声を上げながらそこを離れている。

 やっぱりあんな初な男が、女子との急激な接近に耐えられる訳が無かったか。

 って、だからこの状況望んでたのあんただよね!? 粋がるだけだけ粋がって、本番全然ダメっていう強がり男の典型パターンじゃねえか。

 それから、あんたさっきから何変な声出してるんだよ! 女子か!


『うっ、実際現実で直視するとかなりきつそうだぜ』


『部長だからあそこまで耐えられるんであって、俺らならあんなには……』


『部長、あんた凄いよ! 部長しかこの戦いには赴けない! 俺達の代表として頑張ってくれー!』


 倒れていたギャラリーの方々がどんどん復活していき、三柴さんとやらにエールを送っていく。

 いや、あんたらの部長全く耐えられてないんだけど! 何なら現実どころか目の前の女子も直視出来てないんだけど!


「三柴君、落ち着いて! 大丈夫。君が私を目の前にして、私の発する大物オーラにやられる気持ちも分かるけど、それじゃいつまで経っても勝負が出来ないよ」


 宥めるように言う木城先輩。

 大丈夫、木城先輩。あなたからは大物オーラじゃなくて背的に小物オーラしか感じないし、第一絶対あなたのオーラとか関係ないから。


「まあ、これも良い経験になるじゃないですか、三柴さん」


「うるせー、宮田! 調子乗るなよ!」


 本当にこの人は、俺だけには強気だな! でも、


「いいよ、やってやるよ! お前俺の凄い勝ちっぷりにビビるなよ! あっ、今のは決して木城先輩に言ったのではなく、宮田に対してなので――」


 遂に意を決してくれたようで良かった。

 三柴さんとやらは再び定位置に戻ると、相変わらず木城先輩の方をちらちら見つつも直視することは出来ないでいるが、足をプルプルさせて逃げ出したい気持ちを必死に抑えているようだ。

 子犬か!


『くっ、木城さん、何てオーラしてやがるんだ!』


『よくあんなの耐えれるな、うちの部長は! へへっ!』


 何っ、皆どこからそんな凄いオーラ感じてるの! 感じてないの俺だけなの!?

 そして何、あいつらこっちちらっと見て誇った顔してんだよ。別にあんたらの部長何も凄く無いし、寧ろその実ただのチキンなんだけど!


「さて、じゃあそろそろ始めるけど――ちょっと本気出させてもらうね」


「おっ、来ましたね」


 っと、こちら側にある壁を見ながら言う三柴さんとやらの顔は真剣味が増す。

 どうやら、木城先輩がメガネをかけると変わるというのは、前の対戦で感じていたようだ。警戒しているらしい。

 そして、ちらっとメガネをかけ終えた木城先輩を一瞥した三柴さんとやらは、おうっふとか言いながらまた壁を見やっていた。


「よし、私は準備オッケー。そっちはどう?」


「オッケー、です。こっちはいつでも良いですよ」


「よしっ、じゃあ私の合図と一斉にスタートってことで――」


 木城先輩はともかく、三柴さんとやらも必死に体だけ前を向ける。

 そうして、お互いに両手を前に突き出して構えて――


「スタート」


 始まった。

 だが、お互いにフェイントなどで牽制はするものの攻撃を仕掛けようとはしない。木城先輩は鋭く相手の全てを観察するかのように見つめ、三柴さんとやらは木城先輩の手だけを必死に凝視しながら、お互い機を伺っているようだ。いや、三柴さんはただそれしか出来ない様子だが。ただ、どちらが動くか、それが重要になりそうだ。

 それがしばらく続いた時だった。


「ハア……ハア……ハア」


 その激しい見つめ合いの最中さなか、乱れている息の音が聞こえてきた。

 ……って、んっ? えっ、ちょっと待てよ!


「って、何で木城先輩疲れてるんですか!?」


 何か壮絶な肉弾戦を終えた後のような疲れ方してるし!

 何で見つめ合っただけで、疲れてるんだよ!


「いやあ、今日は疲れが溜まってるし、立ちながら必死に相手観察してたら疲れちゃって」


「あなた絶対そこら辺の小学生より体力無いですよ!」


「すいません、木城さん。隙ありです!」


「あっ、汚ねっ!」


 木城先輩が俺に話しかけた一瞬。そこを三柴さんとやらが狙ってきた。しまった、俺が話しかけた所為で隙を生んでしまった!

 だが、木城先輩は特に驚いた様子も見せず、どころか予測していたかの如く攻撃がヒットする直前で手を後ろに引いて躱した。元々足が震えてちゃんと立てていなかった三柴さんとやらは、まさかの攻撃回避に少しバランスを崩すが、すぐに立て直す。

 っというところで、音が鳴った。バチンと。

 攻撃が躱され、やむを得ず手を引いた瞬間を狙って、三柴さんとやらの手に木城先輩が攻撃を加えた。つまり、木城先輩のカウンターだ。自分の肩より後ろで、しかも引いた瞬間を狙われれば下手すればその瞬間で終わりだが、流石に木城先輩の、しかも疲れている体での攻撃は大した威力にはならないだろう。実際、三柴さんとやらは、多少ふらつきはしたものの耐えている。

 くそっ、この競技、あまり力は関係ないっつたって、やっぱり攻める時は力があった方が良いに決まっている。やっぱりこの勝負木城先輩が多少不利なんじゃ――


「ひゃっふーあーん!」


 ……確かに聞こえた、叫び声に似た奇妙な声。その声と共に俺のそんな考えは吹っ飛んだ。ついでに三柴さんとやらも後ろに吹っ飛んだ。

 えっと……えっ? 何これ? 何でこの人吹っ飛んでんの? 木城先輩の手にブースターでも付いてたの?


「あの、三柴君……」


「何で吹っ飛んでんですか?」


「きっ、木城さんの手に、ふっ、ふれ、触れちちまっ、た!」


 三柴さんとやらは、興奮していてこちらの話など聞いていないようだ。

 いや、ていうかそもそもそういう競技だろ、これ。


「まっ、まあ、ともかく終了です。とりあえず落ち着いてください、三柴さん。もう木城先輩の勝利は決まりましたよ」


「なにっ、ハッ! 俺が負けている! いつの間に! ……くそっ! 勝たなきゃいけなかったのに!」


 俺が木城先輩の勝利を告げると三柴さんとやらは自分の負けを初めて認識出来たようで、凄い悔しがり出した。


「触れた木城さんの手の感触に思わず過敏な反応を起こしてしまった……。今回は己の心の弱さ故の敗北だ! くっ!」


 くっ、じゃねえよ! 壁叩くなよ。うるさいし、そもそも痛がるぐらいならやるなよ。

 あと、何かかっこいいこと言ってるけど、敗因しょぼいから! ただ、あんた女性への免疫が異常に無いだけだから!


『部長、惜しかったですね! もう少しで勝てたのに!』


『部長、良い試合を見せてもらいましたよ!』


 周囲から拍手が起きる。

 えっ、ごめん。君ら、今の試合見て、どこでそう思ったの?

 

「負けたのは悔しい、が、良い経験も出来た。俺はもう来世までこの手は洗わねえ!」


 それ汚いし、期間長いな!


「三柴君、ありがとうね!」


「いっ、いえ、こちらこそありがとうございました」


「さて、じゃあ、三柴君。とりあえず、先に宮田君を解放してもらおうかな」


「分かりました。約束ですからね。宮田は解放しましょう。おい、小田!」


「ブヒ―、ブヒ―……」


「は、無理だから――」


 あれっ、キモデブさんとやら、ショックのあまり最早ただの豚になってた!


「村田、宮田の縄を解いてやってくれ」


「うっす」


 ギャラリーの内の一人が俺の手と足に縛られている縄を解いてくれた。ずっと付きまとっていた圧迫感からようやく解放される。

 にしても、三時間くらい正座させられていた為かなり足が痺れている。まだ自力で立てないから、近くにあった机を掴みながら体を起こして、そのまま椅子に座る。


「どうもです」


 言う必要があるのかは甚だ疑問だが、一応お礼を言っておく。


「うん、ありがとう。じゃあ後は、もう一つの条件だね。時間もないことだし、早速三柴君。宮田君の初バトルの相手になってもらうよ」


「了解です。競技はどうしますか?」


 流石に連戦はきついのか、フウっと息を吐いてからそう言う三柴さんとやら。


「んー、じゃあ、またジャッジメント北川君に――」


「待ってください木城先輩。簡単に済む勝負なら一発勝負のこれが良いんじゃないですか」


 そう言って俺はポケットからある物を取り出す。


「十円玉?」


「そう、この十円玉を使ってコイントスをしませんか」


 訝しげな声で言う三柴さんとやらに、ニヤリといった笑みを携えて告げる。

 俺がポケットから取り出したのは何の変哲もない十円玉。さっきジュースを買った際にお釣りとして出た物で勿論細工などは一切無い。つまり、完全に運任せの一発勝負。勝ちの保証は全く無い、お互いに五分の勝負だ。


「ふうん、宮田君はそれで良いの?」


「はい、まあただし少し特殊で三回やって、当てたらその人に、外したら相手にポイントで、最終的に多くのポイントをゲットした方が勝ちって方式でいきます」


「へえ、面白そうじゃん。俺はそれで良いぜ。で、あとは条件の確認だが、そっちの条件は?」


 そうか、条件が必要だったか。


「うーん、俺は別にバトルが出来れば良いんで、条件とか別に良いんですけど……先にそっちが決めてください」


「そうか、じゃあ俺が勝った場合、お前は俺の部下になってもらう」


「嫌です」


「ええっ、断られた!」


 いやだって、この人の下に着くのはホットホット松崎部長の下にいるのと同等程の嫌悪感がある。

 それに、


「俺、バトル部やめる気無いですからね」


「ていうか、やめるって言い出しても私が泣きながら脅迫して引き留めるからね」


 そうか、木城先輩俺がやめるって言ったら泣いてまで引き留めてくれるのか、嬉しいな……って脅迫して!? 一見嬉しい言葉言ってくれてるのに一部余計なんだけど! しかも泣きながら脅迫って、それ一層怖いな!


「違う、違う。別にお前に俺の部活に入れって言ってるんじゃなくて、単に後輩として部下になれってことだよ。――ていうか、てめー、木城さんにそこまで言ってもらうなんて、なんて羨ましいんだよ!」


 そうですか、あなたは泣きながら脅迫されたいんですね、Mなんですね!

 でもね、俺は違うんで、そんな恨めしそうな目で見ないでください!


「すいません」


 で、何で俺は謝ってんだ……。


「で、宮田君決めちゃって」


「あっ、あっ、そうですね。えっと、うーん……じゃあ、俺が困った時に助けてください。それで良いです」


「はあっ、何だそれ。まあ、別にお前がそれで良いなら良いんだけど」


「よし、じゃあ、始めよう。コイントスは私がやるってことで良いかな?」


「「オッケーです」」


「本来中立者がやるべきなんだろうけど、この場にはいないからね。代わりに誓います! 私木城咲は決して不正な行為を行わず、中立の立場を保ちます。だから、私がやらせてもらう」


 木城先輩は手を挙げて、高らかに宣言する。


「まあ、元々木城さんがそんなことする訳ないっていうのは分かってますから、全く心配してないですよ。それより後は先に宣言する方を決めないとな」


「それなら、三柴さんが決めて良いですよ」


「なら、後攻をもらう」


「オッケーです。木城先輩、コイン受け取ってください」


 俺が右手で弾いて、宙に浮いたコインを木城先輩が右手でバシっとキャッチする。それを再び控えた親指の上に乗せ、コインを打ち出すモーションを作る。


「じゃあ、行くよ。表は数字のある方、裏はイラストの書かれてる方。ってことで、ショット!」


 何とも分かりやすい言葉と共に放たれたコインが宙を舞う。遊びながら天を目指すように、コインはヒラヒラと表裏の交換を繰り返して上昇していく。

 そうして、上昇するのをそろそろやめようかと言う時、俺は確かに宣言した。


「表!」


 そうして最高到達点に達したコインは、重力に逆らうことを止め急降下する。その下に用意されていた木城先輩の右手の甲に吸い込まれるように落ちたコインは、同時に左手によってその姿を隠された。

 息を飲む一同。数秒後、左手を外した木城先輩の手の上にあったコインが向けていた面は――


「裏!」


 10という数字がはっきり刻まれていた。

 ちっ、違った! くそっ、これで後が無い。


「ふんっ、宮田。次俺が当てれば俺の勝ちだな。どうだ、降参するか? 降参するなら今の内だぞ」


 出た! 悪役が時たま使う台詞だけど、この状況で降参する意味が分からない!


「何でですか。不利でも、諦めなければ勝機はあるんですから。大体まだ勝機が充分あるのに降参する意味が分からないですよ。さあ、次はあなたの番ですよ。木城先輩お願いします」


「はいよ」


 再びコインをセットした木城先輩の顔はニヤニヤと何故か笑みを零している。遂にはえへへ、とか声まで付属してきた。

 普通の人がやったら気持ち悪いんだけど、この人の場合はこんなのでも絵になるんだよな。


「どうしたんですか、木城先輩?」


「うんうん、何でも無い。じゃあ、行くよ」


 そう言う顔もやはり嬉しそうなのだが、次の瞬間木城先輩の顔は真顔になったので、俺も気を入れる。

 そうしてコインは打ち上がった。


「裏!」

 

 再び木城先輩の手に吸い込まれるコイン。

 もう三柴さんとやらは、宣言した。これが当たったら終わりだ。

 さて、勝敗は――


「表!」


「ちっ!」


 ふうっ、危なかった。何とか次に持ち越しだ。

 そして、ラストは俺の番。ここで当てたら俺の勝ち、外したら俺の負けだ。何とも分かりやすい。


「どうぞ」


 コインが木城先輩の元に戻り、後は打ち上がったら俺が宣言するだけ。さて、どっちにするか。


「じゃあ、行くよ。これが最後の――」


「There is ここにいる、宮田君!?」


 その時、木城先輩の言葉を遮るようにして扉が開いた。


「あっ、あなたは!」


『真中!』


 一同驚きの声を挙げる。そこに立っていたのは、息を乱した真中だった。

 ……来てくれたのか。


「あっ、ああ、いるぜ。でも、よく分かったな」


「さっきアンダーで、上から宮田君のツッコミが聞こえたから、この階の部屋を一つ一つ回って、ようやく見つけたの」


 だから、俺のツッコミって何!? ていうか、下まで聞こえてたの!


「へえっ、よく見つけたね、唯ちゃん。でも、残念。私は結構前に見つけてたんだよね」


「えっ、木城先輩!? もう見つけてたんですか! それなら連絡くださいよ」


「ごめん、ごめん。忘れてた。てへっ!」


「peeve、イラッ」


「……ごめん」


 先輩としての威厳無えー!


「真中、ひょっとして今までずっと俺を探してくれてたのか?」


「そうだよ。宮田君、拉致られたとか情報あったから正直私一人で大丈夫か、とか心配だったけど、放っておく訳にもいかないし」


「そうか……悪かったな。ありがとう」


「Nothing、別に、どうってことないけど」


 照れた様子で言う真中。へえっ、こいつもこういう態度取るんだな。真中のそんな姿はどこか新鮮で、何というか可愛らしい。どうってことないって、かなり疲れた様子なのに

 それに出会って間もない俺の為に、ここまで必死に探してくれて。木城先輩もそうだけど、本当にありがたくて、嬉しいことこの上ない。

 まあ、それはそれとして、


「あの野郎……!」


『(ぶっ殺す!)』


 周りの視線が超痛過ぎるんだけど! ていうか、ギャラリーに関しては何も言ってないけど、意思が凄い伝わってくるんだけど!


「さっさとやれよ!」


「はいはい、分かりましたよ。じゃあ、木城先輩お願いします」


「えっ、私にやれと? えー、本当に我が儘だなー、宮田君は」


「いや、やるって言ったのあなた!」


 あれっ、何だろう、今凄いイラっと来たぞ!


「possibly、もしかして宮田君、バトルしてるの?」


「ああ、まあちょっとした経緯でな。今はコイントス三回勝負してる」


「I see、なるほど。で、状況は?」


「一勝一敗。次俺が当てる番で、当たったら勝ち、外したら負けだ」


 頼る物は運しか無い、まさしく一発勝負の状況。


「そっか、初のバトルか。まあ、don't mind、頑張って!」


「それ、負けた奴に掛ける言葉!」


 縁起悪いー! 照れながら、結構酷いこと言うね、この人!

 ――でも、まあ、こうなったら勝たなきゃな。


「ぐぬぬぬ、宮田!」


 そして、この人また俺を睨んでるし!


「話してる所悪いけど、もう本当に良いかな、宮田君?」


「おお、すいません。オッケーです」


「じゃあ、行くよ!」


 三度、コインは上昇する。

 裏か、表か。高速で反転を繰り返すコインからは読める訳がない。だから、こういう時は、分かるなんて「おもってねえ」、なんてな


「裏だ!」


 木城先輩は、落ちてきたコインを右手でガシッと掴んだ。そして手を翻して前に差し出す。

 

「裏で良いんだね、宮田君?」


「はい、変えません。裏で行きます」


「分かった。なら、開きます」


 ゆっくり、徐々に木城先輩の手が開いていく。見えそう、見える、そして見えた。

 コインが向けていた面は――


「勝った……」


「くそー!」


 裏。まさしく俺が宣言した通りの面だ。

 それを視認した瞬間、ゾワッとした震えが体を襲ってから、勝利の喜びが体中を駆け巡る。やった、勝ったんだ、俺!

 勝利の味を噛み締めながら、高らかと右手を突き上げる。


「やっ、やったー!」


「おめでとう、宮田君」


「congratulations、宮田君』


「ありがとうございます!」


 勝利を仲間達と分かち合えるのって本当に良いなって、その時初めて思った。


「宮田、てめーマジふざけんなよ! 俺に勝つわ、美少女二人から祝福されるわ、その気持ち悪い顔歪ませてんじゃねえよ」


「えー、理不尽だし、なんか凄い酷くないですか!」


「……でもまあ、悔しいが負けは負け。良い勝負だったよ、あり、あり、ありがたく思ってるような、思ってないような、てか思え、宮田!」


 そう言って、手を差し出す、三柴さんとやら。

 ちゃんと負けを受け入れられるのか。それに捻くれてるけど、ちゃんとお礼も言っている。この人、女のこととなると面倒くさいけど、普段は案外悪い人では無いのかもしれない。


「こちらこそ、ありがとうございました」


「おっ、おう」


 左手を差し出して、ガシッと手を握る。

 丁度その時、チャイムが鳴った。帰宅時刻を告げる鐘だ。


「やばいな、急がないと。皆、帰るぞ!」


『イエッサー!』


 女子高生考察部の面々は教室を一斉に出て行く。


「三柴さん、約束通り困った時は助けてくださいね」


「はいはい、分かったよ!」


 最後に出て行こうとした三柴さんとやらに声をかける。

 果たして必要になる時が来るのかは甚だ疑問だけどな。


「さて、じゃあ、私達も帰るとしますか」


「そうですね、go home、帰りましょう」


「校門まで三人で出ましょうか。にしても、結局吉田先輩、来ませんでしたね」


「吉田君は、『今、四十八本倒したぜいっ(*^_^*)後、二本倒すねしていくねー!』ってメール来てたから、倒したら帰るんじゃ無い」


「あの人メール可愛いな!」


 ていうか、木倒し過ぎ! 絶対問題になるから!


「うん、吉田君興奮すると、メール可愛くなるんだ」


「それはまた意外な一面ですね……」


 そんな話をしながら外に出て、校門を前に途中まで道が同じ二人とは別れた。

 バトル部しての初の活動、初のバトルは勝利というこの上ない結果で終わった。


 

 


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