バトル部の日常2
「んっ……んっ、んー?」
徐々に瞼を開く。視界が完全に開け、見渡すとそこは十数個ずつの机と椅子が並べられた、一般の教室を少し狭くした感じの広さを持つ部屋だった。その後ろの窓側に置かれているロッカーの前でさっきの男達に囲まれている。
どこだ、ここ? ていうか、あれ。俺って、何でここにいるんだっけ? ていうか、あれ! 腕と足縛られて正座させられてる!
『おっ、目覚めた! 目覚めやしたぜ、部長ー!』
はっ、そうだ。俺、知らない柔道部に投げられてそのまま意識を失ったんだ。くそっ、その後やっぱり拉致られたか。
「よう、宮田。お前なんでそんな汚い格好であんな所に倒れてたんだよ。余裕の表れか」
最初から指揮を取っている若干強面の男に言われた。他の人達はこの人のことを部長と呼んでいる。ということは、この集団は何かの部活動での集まりのようだ。部屋に道具がないことから、文化部とかその辺か。にしても、本も無いし違うか。
『なめやがってー!』
『俺たち程度寝てても倒せるってか!』
『ざけんなよ、チキショー!』
ていうか、周りうるさいな。
「そんな訳ないでしょ。服汚いのはサバゲー部にペイント弾ぶつけられたからで、倒れてたのは逃げてたら突然知らない人に投げられたからですよ」
「はあっ、何言ってるんだ、お前。知らない人を急に投げ飛ばす奴なんている訳ないだろ」
「はいそうですよ、普通はいる訳ないんですよ! でも、俺ね、本当に投げられました!」
俺も未だにびっくりしてるよ。まさか、走ってただけなのに反射的にという理由で投げられたんだからな。
「ちっ。まあ、それは良い。それよりお前、さっきはよくも騙してくれたな」
あー、やっぱりそうなるよな。くそっ、騙したのが完全に裏目に出たな。
「いやー、だって皆さん、かなり殺気発せられていたので。とても本当のことは言えない状況でしたよ」
「なっ、俺らが悪いってのか。そうか、それは悪かった!」
あれっ、素直に謝罪してきた!
「あっ、いや、気にしないでください。僕を放してくれれば何の問題もないので」
「あっ、それは出来ないわ」
なにーっ!
「待ってくださいよ、離してくださいよ。そもそも何で俺はここに連れて来られたんですか? 俺、人に恨まれるようなことした記憶ないんですけど」
なんか凄い俺に怒ってらっしゃるけど。
「何でだと? そんなの決まってるじゃねえか。お前がバト部に入ったからだよ」
「俺がバト部に入ったから?」
「ああ、そうだよ! お前がバト部にさえ入らなければ、そりゃ俺たちもこんなことをお前にはしなかったさ」
「どういうことですか?」
今一言っていることが分からない。俺がバト部に入ったから何だって言うんだ。……はっ! まさか、バト部に恨みを持つとかか?
「だからお前、木城さんと真中っていう校内でも屈指の二人の美少女と同じ部活に入りやがってうらやましいって言ってんだよ! 腹立つから捕まえてやったんだよ!」
「ええっ、知らないですよ、そんなの!」
何その理由! 未だかつてない理不尽さなんだけど!
ていうか、あの二人そんな有名人だったの!
「そもそも、別に自分から入った訳じゃなくて、木城先輩に強制的に入れさせられただけなんだからしょうがないじゃないですか!」
「なっ、女子に強制的に入れさせられただけだと! なっ、なんて萌えるシチュエーションなんだよ」
何言ってんの、この人!
『てめー、うらやましいんだよ!』
『ざけんなよ! お前、俺と代われバカやろー!』
ていうか、周りマジでうるせえ!
「そんな羨ましいならあなた方もバトル部に入れば良いじゃないですか」
『はあっ、こいつ何意味分からねえこと言ってやがるんだ!』
『んなこと出来たら、とっくに入ってるわ!』
『俺達に女性に話しかけられる勇気がある訳がないじゃねえか!』
いや、知らねえし! ていうか、何、この人達女性に部活に入れてくださいも言えないの! どんだけ初心なんだよ!
『なんなら同格以上の同性とも話せない!』
違った、ただのチキンだった! ていうか、何それ、俺この人達に格下に見られてるってことか! 凄え、心外なんだけど!
『まあ、唯一部長は、「バトルお願いします」を木城さんに向けて言えたけどな!』
何そんなこと自慢げに語ってるんだよ。何も凄くねえよ。
「へへっ、お前らそれは言うなよ。こいつがびびっちまうだろ」
びびんねえよ。ていうか、何でお前は鼻の下擦って、照れくさそうに言ってんだよ。だから何も凄くねえよ。そして何か腹立つな!
「ああ、それは凄いですね。でもそれなら、部活に入れさせてくださいも言えるんじゃないですか」
「なっ、お前また木城さんに話し掛けろと! ふざけんな、無理だ。あれがどれ程の精神力を使うかお前には分からないのか! あれをやったら一年寿命が縮まってしまう!」
女子に話し掛けるのって、そんなリスキーなことだったっけ!
「なら、俺から口添えしておきますか? それで良いんじゃないですか」
俺を拉致った人と一緒の部活になるっていうのは嫌だが、ともかく今はこの人達から早く解放してもらいたい。これなら問題ないだろ。
「いや、そういうのは自分で言わなきゃダメだろ」
あれっ、断られた! しかも、そこだけ何故か律儀だ!
「それに第一、俺はこの部の部長だ。部下を裏切る訳ないだろ」
おー、凄いなー、良い部長だなー。でも、あんたの部下さっきバト部入りたいって言ってたけど!
ていうか、そうだよ。さっきから気になってたんだが、まだ訊けずにいた。
「そういえば、今更なんですが、この部って何の部活なんですか?」
「んっ、ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。この部は、『女子高生考察部』という女性と如何にすれば楽しく接していけるか、それからどうやれば女性に好意をもってもらえるか、ということを日々模索していく部活動で、俺はこの部の部長をやっている三柴だ」
なにっ、その悲しい部活動! 良い感じに言葉並べてるけど、それただの女子と会話出来ないモテない男の集まりじゃねえか!
「ちなみに、まだ成果は無いぜ」
だろうね! あったら、もうこんな部とっくにやめてるだろうね!
ていうか、自分がモテないから他人を僻むって何なんだよ! だから成果無いんじゃないですかね!
「そっ、そうですか。それは頑張ってください……」
にしても、これは酷いな。なんか敵ながら同情してしまっている自分がいる。
「お前、ふざけんなよ!」
そんなことを考えていたら、三柴さんとやらがいきなり声を荒げてきた。
今度は、何っ!?
『何でテメーに頑張ってとか言われなきゃいけないんだよ。ちょっと女子と話せて交流あるからって調子乗るなよ!』
『第一俺だって女子と交流くらいあるっつうの。つい最近だってな、隣の席の女子に落とした消しゴム拾って貰ったんだからな』
『なにっ、何て奴だ! 俺なんて女子に、筆箱を落として中身ばら撒いたのにスルーされたというのに! 音が響いたのに見事に一切視界から排除してたぜ』
『ふふっ、しかも「ありがとう」、「どういたしまして」の会話付きでな』
『おっ、お前どんだけだよ! 俺なら絶対緊張して言葉なんか出てこねえよ!』
『しかもその女子が、あの雪川っていうスペシャルサービス付だぜ!』
『なっ、なんだと! あの雪川と間接的に触れるだと!』
さっきから聞いてれば何この会話! 悲惨すぎてしょうがないんだけど! 特にさっきから驚いてばっかの奴、ただただ可哀想なんだけど!
それから、雪川って誰だよ!?
ダメだ、もう本当嫌だ!
「ともかく、俺離してくださいよ。俺僻んで捕えていてもどうなるって訳じゃないんですから。こんなことただの無駄ですよ」
「いや、そういう訳にもいかないんだよ。お前にはもう一つ役割があるからな」
「俺に役割?」
なにっ、ただの僻みだけじゃないというのか!
「ああ、お前の解放を条件にバトル部側からバトルを申し込ませる」
んっ、バトル部側から申し込ませる? 何でそんな面倒なことをするんだ?
「何でこんな面倒なことするんですか? そんなの自分から申し込めば良いじゃないですか」
「そうか、お前は入ったばっかだから知らないんだな。実は俺は一週間前にバトル部にバトルを挑み、そして負けた。だからバトル出来ないんだよ」
「どういうことですか?」
ああ、そういえば、さっきバトルお願いしますって言ったって言ってたっけ。
でも、またよく分からない。バトルに負けたからもう出来ない?
「お前、バト部に入ってるのにそんなことも知らないのかよ。ったく、バト部にはバトルする上に置いて絶対遵守のルールがあってな、一つが金品の賭けの禁止なんだが、もう一つが重要でバトルを行った結果勝利した者はバトル終了から二ヶ月の間は敗北したものに勝負を申し込まれても受理することを禁止されているんだ。これは、学校の風紀を乱さない為にバトル部成立の際に風紀委員によって課せられた条件であり、これを破ることは出来ないんだよ」
そうだったのか、知らなかった。
だが、確かにその条件が無ければ負けた方が勝つまで申し込み続ける可能性があるからな。
それに、風紀委員か。噂には聞いたことがある。いくら校風で自由が認められているとはいえ、流石に自由が過ぎると校内の風紀は収集がつかなくなっていく。それを防止する為に、この学校では教師と今はちゃんと機能してるか分からない生徒会以外で唯一と言って良い拘束力と権力を持ち、校内の風紀を纏める機関。やはり、賭け事をするという性質上バトル部は目がつけられやすいようだ。まあ、部の創設を許されただけマシな気はするが。
「だが、廃部寸前で入ってくれたせっかくの新入部員が誘拐されたとしたらどうかな。顔だけでなく心まで美しい木城さんなら、助けにくる上にこちらの条件を飲んでバトルも申し込んできてくれるだろう。そうなったら、勝って俺は……きゃっ、きゃっ、きゃ。と言ってもまあ、そんな決まり無くても自分から申し込むとか無理だから、どうせ同じ手を使ってただろうけどな……きゃっ、きゃっ、きゃ」
この人、もう本当色々ダメだな! そして、その笑い方気持ち悪いな!
「ともかくそういう訳で、お前にはここにいてもらわなきゃいけない。だから、離す訳にはいかないんだよ」
「でも、俺を拉致ったのはバト部の誰かには伝えたんですか?」
さっきからの会話を聞いてると、女性二人は論外としておそらく吉田先輩も無理だろうから、バト部の部員でこの人達が話し掛けられるのは佐中だけみたいだけど、その佐中は今は生徒会でいない。まさか、まだ伝えていないとでもいうのか。
「ああ、伝えたぜ」
「ほっ、そうですか」
何だ、伝えたのか。なら、あとは助けを待つだけだ。
というか、何だよ、この人やろうと思えばちゃんと女子と話せるじゃねえか。
「俺の思念を飛ばしてな」
「それ、伝わる訳ないじゃないですか!」
くそっ、ダメだこの人、超能力者気取ってテレパシー使おうとしてやがる! 出来る訳ないじゃねえか!
「大丈夫だ、伝わるさ」
お前のその自信はどっから出て来るんだよ!
くそっ、しかし本当にどうする。このままじゃ本当に解放してもらえそうにねえぞ。縛られてるし、この状況本当に嫌なんだけど。しかもこのままじゃ、助けが来るかすらも微妙だ。下手すりゃずっとこのままとか本当に勘弁してほしい。
しょうがねえ、こうなったら……
「やめてー、離してー、誰か助けてー!」
『なんだ、こいつ! 男のくせに助け求め出したぞ! なにヒロインみたいなことしてるんだ、気持ち悪い!』
うるせえ、そんなの知るか! こうやって叫んでいれば誰か助けに来てくれるかもしれないじゃねえか。
「ったく、うるせえな。どうやら少し黙らせるしかないようだな。こうするしかねえ。それから、来い、小田!」
くそっ、ダメだったか! 三柴さんとやらは俺の口を左手で塞ぎ、誰かの名前を叫ぶ。
すると、メガネを掛けているが、そのメガネを顔の肉で挟んでいるような正に豚顔のお腹が大きい男が前に出てきた。何この人!? 何で何もしてないのにめっちゃ汗掻いてるの!
「ふー、ふー……あれをやれば良いんですね、部長。ふー、ふー」
「ああ、あれを頼む」
三柴さんとやらの肯定を得てニヤリと怪しい笑みを浮かべるデブ……小田さんとやら。
あれって何!? ていうか、鼻息荒いんだけど! そしてこの人、キモいんだけど!
「行くぞ、ふー、ふー」
相変わらず息を荒げながら、キモデ……小田さんとやらが顔を近づけてくる。
何っ、これ何!? やべえ、顔近づいてくる! ちょっ、マジでキモいんだけど!
「ふー、ふー……僕が最後に女子に話し掛けられたのは、小六の時の『小田君、私ね……人参あなたの次に嫌いだからこのおでんの人参食べろよ』だったな」
「うああ……って、えっ?」
顔を二メートル先まで近づけてきたたキモデブさんとやらが、何故か唐突に過去を語りだした。
何だ、これ?
「ふー、ふー、僕が今まで着けられたあだ名は、『豚』、『豚に似た何か』、『もう少しで人間になれた豚』。電車で隣になった人に必ず言われる言葉は『臭っ!』、そしてこれまた必ずと言って良いほど睨まれて限界まで体を離してくるぜ。ふー、ふー、そういえば、中学校の修学旅行で新幹線乗った時、俺の隣になった奴乗ってすぐにトイレ行った後、到着するまでもう戻ってくることはなかったな。それからな――」
「ぐああー!」
『来た、来た、来た!』
『負王、小田のネガティブ攻撃だ!』
やっ、やべえー、何て攻撃しやがるんだ! この顔、この距離でこんなキモデブの悲しいエピソードを浴びせ続けるだと! そんなの精神が保つ訳がない。しかも、結構酷い話ばっかり! さっきから、心が痛んでしょうがない。口が塞がれてはっきりした声にならないとはいえ、思わず叫んでしまった。
くっ……だが、耐えろ、俺。逃げ出すチャンスは残されている筈なんだ。こんなことで精神力を削られて、動けなくなってなんか堪るか!
「くっ、凄まじいな、この威力!」
俺の口を塞いでいる三柴さんとやらも苦痛の表情を浮かべている。
って、味方にまで被害を及ぼすだと!
『くっくっくっ、俺らもきついが、最も近くであれを食らっている奴の精神力はもう限界だろう』
『あれを食らうなんて敵とはいえ、同情は禁じ得ないな。あっ、やべ、俺泣きそう』
この攻撃、味方への被害も甚大じゃねえか!
何度も聞いて耐性が出来ている筈の仲間達ですらこれなら、俺が耐えていられるのも時間の問題だろう。やばい、そろそろ俺までネガティブになってきた。このままじゃ、心が折れてしまう。
「最近知らない子供に『お兄ちゃん、色々頑張って。……まっ、無理だと思うけど』って言われたぜ。ふー、ふー……って、あのさー、何これ。何でこんな僕さっきからずっとトラウマ出てくるんだよ。あれっ、もしかして、僕って生きてる価値ないのかな。もう僕、死んだ方が良いのかな……」
って、あれー! 何だ、急にキモデブさんとやらの勢いが弱まったぞ。しかも物凄い勢いでネガティブになってるし。ラッキーだけどどうしたの、この人!?
『やばい、小田がネガティブゾーンに入ったぞ!』
『大丈夫だ、小田! 臭い上に限り無く豚に近いデブなお前にも、きっと一生くらいかければ奇跡的に生きる価値くらい見つかる筈だ。だから気にするなよ。……うわっ、臭っ!』
『そうだぞ、小田。お前みたいな豚も受け入れてくれる動物愛好家や匂いフェチだって、稀にはいるんだからな、諦めるなよ。……って、臭!』
「もう良いよ! もう知らねえよ! 俺に生きる価値なんてねえんだよ! もう構うなよ!」
『小田ー!』
何、この茶番……。
ていうか、キモデブさんとやら、敵ながら可哀想だな。マジで。
最早、部屋の隅で一人で踞まってブツブツ言ってるし。
『くそっ、小田がやられた!』
「お前……よくもうちの部員をやってくれたな!」
俺を非難してくる群衆と三柴さんとやら。
って、ええー! なんか俺の所為にされてる!
「いや、知りませんし、そっちが勝手に自滅しただけだと思うんですけど!」
「お前何、人に罪擦り付けようとしてんだよ!」
いや、それあんたら!
「えーと、擦り付けるというか何というか……それはそちらというか……」
「ああっ!」
なんか、キレられてる!
「まあまあ、許してあげてよ、宮田君も悪気があった訳じゃないしさ」
「いやいや、ダメだ。こいつには制裁を下さなくてはいけない!」
「そこを何とかさ、私の顔に免じてさ」
「だから、無理だって。大体お前の顔なんかで――って、あっ、あっ、あなたは!」
「やあ、久しぶり。確か三柴君だよね。二週間ぶりくらいかな」
この部屋の二つあるドアの内黒板側、つまり俺達のいる位置から離れたドアの付近にいたのは、木城先輩だった。
凄いな、ドア開いたの全く気付かなかった。この人、いつの間に入ってきたんだよ。
というのもあるが、まあとりあえず――
「それから、困ってるみたいだから助けに来たよ、宮田君」
「はあっ、良かったー! 来てくれたんですね、木城先輩。ありがとうございます」
木城先輩の優しい笑顔を見たら、自分も自然と顔が綻ぶ。
「あれっ、でも木城先輩だけですか。他の皆は? それに、よくここが分かりましたね。いや、そもそも俺が拉致られたってよく分かりましたね」
「まあ、宮田君のツッコミが聞こえたからね」
「あんだけ叫んだのに、聞こえたのツッコミだけ!」
どうなってんの、俺の声!
「それと、宮田君を探したのはジュース買いに行っただけなのにやけに戻ってこない宮田君を唯ちゃんが心配してね。聞き込みしたら、宮田君が連れていかれる所を見たって人もいたし、男二人のことは唯ちゃんに聞いたと思うけど、まだ戻ってきてないから二人で探そうってね」
「そっか、真中……」
意外とというかなんというか、優しい奴じゃないか。
「あれっ、でもそういえば木城先輩はもう体大丈夫なんですか?」
「んっ、まあね。休んだからマラソンの疲れはもう大丈夫! ……なんだけど、今探し回って疲れたー」
言った途端、よろりとふらついてから壁に寄りかかる木城先輩。おいおい、大丈夫かよ。
「きっ、木城しゅわ……きちょうしゃ……」
んで、この人は、本当に凄い動揺っぷりだね! あんたこれ狙ってた筈だよね!
「まさか俺のこと覚えててくれたなんて……」
泣いてる! そんな嬉しかったのか!
「それで、三柴君。私の部の部員を誘拐した訳だけど、これってどういうことかな?」
突如雰囲気が変わった。ついさっきまでとは違い、若干周囲に冷気を纏わせたように冷たく言い放たれた言葉には、その言葉の対象ではない俺も少しひやっとさせられてしまった。
あっ、やばい。三柴さんとやら、かなりビビってる。
「そっ、その……このあっ、あなた様のぶっ、部員を解放するのを条件にわっ、私にばっ、バトルを申し込んで頂きたいなと……」
酷いな、新人アナウンサーもびっくりの突っ掛かりっぷりじゃないか。
『流石、部長! よく言ったぜ!』
『俺達とは格が違うぜ!』
今ので、絶賛の嵐起こってる!
「えっ、バトル? うーん、いいよ」
そして、あっさり決まった!




