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バト部活動期!  作者: カオス
バト部活動期
7/10

バトル部の日常

 放課後になり、掃除を終えてからいつものように部室に向かうと既に真中が規定の席に座っていた。


「おっ、早いな、真中」


「Well、別に教室に残る理由も無かったから」


「そうか。で、他の人はまだ来てないのか」


他の人はいないし、見たところいた形跡もない。てっきりもう皆来ていたと思って少し焦って来たんだが、別に必要なかったか。


「Yes。咲先輩は六時間目体育で百メートル走ったら倒れたらしくて保健室、吉田先輩は木を倒しに近くの山に、佐中君は生徒会の会議をしにファミレスに行くって言っていったわ」


「ちょっと待って! なんか、もう皆色々おかしいんだけど!」


 咲先輩マジで体力無さすぎだし、吉田先輩の行動原理不明だし、佐中ファミレス行ってるし!


「まあ、咲先輩とギリギリ吉田先輩はスルーするとして、何で生徒会ファミレスで会議やってんの! うちの生徒会は普通に生徒会室でやれないの!」


「さあ、会長の気分なんじゃない?」


 気分とかそんなんで納得できる訳ないが、生徒会でもない真中にこれ以上言及しても無駄だろう。その為そうなのかと相槌を打ってから、俺も規定の席に座る。しかし特にやることもない。

 なので何か話題を求めて辺りを見回してみると、真中の手にはブックカバーを掛けられた本が乗っていた。どうやら、今まで本を読んでいたらしい。


「真中、それ何読んでたんだ?」


「えっ、これ? えっと、マンガ?」


「何で疑問系? まあでも、マンガか。意外だな、真中も読むんだな。もしかして少女コミック?」


「Yes、私昔から少女マンガ好きで結構読むよ。特に主人公がピンチの時に王子様が助けてくれるみたいなストーリーがlikeなんだよね」


 普段のはっきり言えば少し冷めた態度とは違って、わくわくといった感じで楽しそうに話す真中。その笑顔には少々驚いた。まだ出会って間もないが、正直あまり感情を表に出さないやつだと思っていたんだが。やっぱり歳相応の女の子ってことなんだな。


「へえ、そういうのか。でも分かるな。そういうの男の俺でもかっこいいと思うからな」


「そうそう。流石分かってるね、宮田君」


「いや、まあ俺も少年マンガならちょくちょくは読んでるからな」


「私もboyマンガも読める口だよ。この前readした作品なんだけどね――」


唯語交じりで、十分語られた。


「……おっ、おう」


 凄いな、好きなことになるとここまで変わるのか。

 しかし予想以上に着いていけなかった。真中が話している間俺が発した言葉は「へえ」か「おー」か「分かるわー」だけだったぜ。

 っと、俺に定例相槌しか打つ暇を与えず、ほぼ一人で見事に話し切った真中は勝手に疲れてしまったようで、ふうっと一呼吸入れて再びマンガに目をやり始めた。

 暫しの沈黙。またちょっと喋りたくなったので、今まで少し疑問に思っていたことを思い出し、この際聞いてみることにした。


「そういえば、真中」 


「What、何?」


「ちょっと気になったから聞くんだけど、お前って何でこの部活入ったんだ?」


 バトル部。確かに最初聞くと結構興味そそられる部活名であるが、正直真中がこういうのに興味あるとは思えない。それに今までの様子を見ていると、そこまでバトル自体に興味あるようには見えない気がする。


「私がこの部活に入った理由? んー、まあ、簡単にいえば咲さんと吉田さんに誘われたからかな」


「あの二人に。ふーん。そういえば俺も何故か木城先輩に誘われた上バトルで強制的に入れさせられた訳だけど、なにか選ばれた理由とかあるのかね? 何か知ってる?」


 まあ、俺は強制的と言っても形的には助けてもらった訳だが。

 ていうか、初日から聞こうと思いつつもタイミング的に聞けないでいたが、俺がこの部の部員候補に選ばれた理由っていうのは正直今まで気になっていた。


「うーん、他の人は分からないけど、私は顔が可愛いから入ってって言われたな」


「バトル部なのに理由が勝負関係ない!」


 ますます選定基準が分からないんだけど!


「ていうかお前がそれなら、俺と佐山が選ばれた理由も顔なんじゃ……」


「佐山君はI don't knowだけど、少なくとも君はそんなんじゃないと思うよ」


「えっ、そんなんじゃないって――」


「よく分からないけど、君には何かあるんじゃないかな」


「俺に何かあるって……」


 何かって何だ。第一、別に俺に誘われる理由なんて無いと思うんだが。かといって顔っていうのも、特に良いとか指摘されたこともないし、その可能性もないと思うんだが。


「何か根拠でもあるのか?」


「んー、根拠っていうか、君が入る前日から咲先輩、新入部員候補を見つけたって嬉しそうに話してたから。でもまあ、simplicityにそろそろ後一人増やさないと部活存続の危機だったから、丁度フリーで入ってくれそうな人を見つけたから喜んでただけかもしれないけど。――あっ、simplicityっていうのは単純って意味ね」


 なんか解説入れてくれた! でも、解説するぐらいなら別に普通に喋れば良いんじゃないですかね! ていうか、何で解説入れたんだよ。なめられているのか、こんなの知らないだろと俺はなめられているのか! はい、そうです、分かりませんでした!

 ……じゃねえ。そんなのは今はどうでも良いんだ。それより、今何て言った。


「今あと一人入らなければ、この部の存続の危機だったって言わなかったか?」


「えっ、言ったけど……」


「この部、そんな危機に陥っていたのか」


「まあ宮田君が入っていた基礎体力向上部は暑苦しい人ばかりだけど、部員は充実していたから無縁だろうし知らないんだね」


「まあ、部長からしてあれだし、クソ暑苦しいやつばかりだったのは否定しないが、知らなかったって何の話だ?」


「このschoolは基本的に人数さえ集まればfreeに部活を作って良い性質上部活がどんどん増えていってしまうから、三年が抜けたり誰かやめたりして部員が規定の五人よりlowになった場合、三ヶ月以内にagain五人以上にならなければその部は廃部になってしまうというルールがあるの。で、その期限まであと二週間だったらしいわ」


 正直意外だ。真中の喋り方の所為で緊張感が欠けるというのも勿論あるのだが、部員の誰もそんなピンチの後だという様子を見せなかったのに。


「じゃあ、やっぱり丁度部活をやめようとした俺を見つけたから喜んでただけなんじゃないか」


「うん、そうかもだけど、それにしても凄いものを見つけた子供のように目が輝いていた気がしたから」


「そうなのか」


 目が輝いていたって……。なにその理由。俺は出会って間もないけど、とりあえず今分かるだけでもあの人が子供っぽいのはいつものことだろ。でも、誰でも良いから空いてる人じゃなくて、本当に俺だからなのだろうか。

 俺の相槌を聞くと、話は終わりだと言わんばかりに真中は再びマンガに目をやり出す。

 なんか話をしていたら喉が渇いてきた。主に基礎体力向上部の名前が出てきた時点で。その為ジュースでも買いに行こうと、真中に伝えてから下の自販機に向けて教室を後にした。

 

  ☆★☆★☆★☆


 二階の右最奥の壁の前に置いてある、自販機に硬貨を入れてボタンを押す。

 ガラン、ゴン。

 鈍い音が響く。と共に選んだ炭酸系のオレンジジュースが出てきた。それを一気に喉に呷る。数秒後、ぷはあーっと親父くさい声を出してしまった。

 上手い! だが喉痛い! 流石に炭酸一気飲みはきつかったぜ!


「おいっ、お前、バト部の新入部員の宮田だな!?」


 再び炭酸を喉に入れてむせていた俺の背中から声がした。

 振り向くと、ネクタイからして二年生の男数人がぞろぞろと立ち尽くしている。その中で一人、前に出ている男。どうやらこのリーダー? らしき男が、声をかけたらしい。

 ていうか、誰だよこの人達。またまた全く知らないんだけど。

 ただね、初対面なのに何でこの人達こんな殺気漲った目を俺に向けてるの!

 もうここは誤魔化すのが正解で間違いないだろう。


「いえ、違います」


「なにっ、違うのか! それはごめん! じゃあ君、一年でバト部の宮田って知らないか?」


「ああ、そいつなら転校しましたよ」


「ええっ、転校したの! これ昨日聞いた情報なんだけど!」


「まあ、親の転勤が急でしたからね」


「急過ぎにも程があるよ! でもそうか、じゃあ宮田は諦めるか。あっ、引き留めてごめんな、君。もういいよ。……ったく、クラスの女子がその話をしているのを聞いた男に話を聞いたその男の友達の弟に聞いたうちの部員の情報だったんのに、もう時既に遅しじゃないか」


 なんかもう情報経緯が凄い複雑なんだけど! 分かりづらいわ!


「すいません、俺の情報伝達が遅すぎました。奴が入ったのは二日前だったのに。――くそっ、クラスの女子め。話すの遅すぎだろっ!」


 えっ、怒るのそこ! 何、その怒りのベクトル! クラスの女子もまさかそんなことで恨まれることになるとは絶対予想出来ねえよ。

 ていうか、やばいな。これ、絶対面倒ごとだ。ここはさっさと逃げよう。


「あっ、それじゃあ、俺行きますんで」


 先輩達の間を抜けて、さっさと進んでいく。


「ああ、分かった、ごめんな。って、おっ、部員からメールだ。んっ、画像付き? 宮田の画像だと。何を今更……。奴は転校したというのに――」


「うおぉぉぉー!」


 一気に全力で走り出す。

 やべえー! もう逃げるしかねえ。

 後ろから、あの野郎、とか聞こえてくるし、立ち止まる訳にはいかねえ!


「うおぉぉぉー! ――って、なにっ!」


「君、なんだい、今の走り! 只者じゃないぞ! 是非陸上部へ入ってくれ!」


 なんか、陸上部の人に立ち塞がれたし! 今それどころじゃないし、嫌だし! くそ、あんな部活にいた所為で体鍛えられたのが裏目に出ている!


『待てー!』


「来たー! すいません、俺他の部活やってるんで入る気無いです!」


「待ってくれ、俺は諦めないぞ!」


「いや、絶対入らないですから! 諦めてください!」


「分かった!」


 分かったのかよ!

 結局、陸上部はフェードアウトしてどっか行った。マジで何だったんだよ、今の人!

 にしても、くそっ、どこへ逃げれば良いんだ。部室へ戻るのは危険か。だとすると、今日このまま帰るか。いや、玄関は待ち伏せされている可能性が高い。

 あー、どうすれば良いんだ。部員の連絡先でも知ってれば良いんだけど、まだ交換してないし。

 うーん、うーん、うーん……


「とりゃー!」


「うおっ!」


 って今度は何ー! なんか、ぶつかった! ……って、何これ、何か赤いの制服に着いてる!


「って誰、あんた?」


「あなたが誰ですか!?」


 何故か迷彩服を着た知らない三年の女の先輩に邪険な目を向けられている。何で知らない先輩に赤いインクぶつけられた上にそんな目を向けられなきゃいけないんだよ!


「私はサバゲー部の宮森だけど。誰か走ってきたから敵かと思ったら、誰よ、あんた。思わず貴重なペイント弾使っちゃったじゃない。ちょっと邪魔しないでくれる」


「あれっ、俺が怒られた! おかしいでしょ! そもそもこんな所でやらないでくださいよ! サバゲーって外でやるもんじゃないですか、外で!」


「だって近くに出来るような場所ないし!」


「いや、知らないし! だから校舎内でペイント弾の撃ち合いってどうなってるんですか!」


「そこまでしてサバゲーやる私達のサバゲー魂凄いでしょ!」


「最終的に自分褒め出したし! 知りませんし、迷惑なだけだし!」


 凄さゼロパーセントだし。


「こらー、サバゲー部! また、お前ら校内で撃ち合っているのか! 毎回やめろと言っているだろ!」


「やばい、敵軍大将の登場だ! 逃げろー!」


 ごつい男性教師に怒鳴られ、颯爽と逃げ出すサバゲー先輩。それに伴って辺りの様々な物陰から五、六人の迷彩服の方々が逃げ出していった。……って、こんな隠れてたの!


『いたぞー!』


 やばい、また見つかった! くそっ、鍛えていたとはいえ、やべえ。流石にそろそろ限界だ。肺が痛くなってきた。

 それでも、行くしかねえ!


「うおぉぉぉぉー!」


「うおりゃあー!」


「って、今度は一体、何だー!」


 反転する視界。次には天井が見えていた。えっ、何これ。背中痛い。


「おっす、すいませんっす。何者かがこちらに向かって全力で走ってきたので思わず投げてしまったっす!」


 体格の良い柔道着の男が上から顔を覗き込んで言ってきた。

 思わず、投げてしまったって何!? 何で、そんな反射的に人を投げるんだよ!


「すいませんっす。それじゃ自分、練習あるので行きます」


 そして、放置された! なんか凄え、腹立つんだけど!

 あっ、ていうかもうダメだ。立てない。それに意識が朦朧と……。


『おい、何やってるんだ、あいつ。追われてる身で廊下に寝そべってるぞ』


『なにっ、余裕こきやがって!』


『なんだ、汚ねっ! こいつ、なんか制服に着いてるぞ。マジで何やってるんだ、こいつ』


 うん、本当何やってるんだろう、俺。


「まあ、いいや。ともかく、こいつを俺らの部室へ連れてくぞ!」


『うっす、部長!』


 それを聞いたのを最後に俺は気を失った。

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