初バトル!2
ジャッジメント北川先輩が高らかに告げた競技はしりとりだった。
そうか、しりとりか。……って、しりとりー! 地味っ!
「ちょっと待って下さいよ! 何でそんな地味な競技なんですか! もっと他にもあるじゃないですか!」
「だって、咲さんか唯ちゃんが出場すれば、答える度に萌え声が聞けるじゃないか!」
「また、そんな理由ですか!」
この人、本当にあれな人だな!
「しりとりか。うん、別に不公平ではないし、良いんじゃないかな。それに手間がかからず、相手をいかに敗北に導くかという緻密な駆け引きも楽しんでもらいたいという計らいも隠れていそうだしね」
なんか凄い考察してるけど、それ絶対考え過ぎだから! ていうかメガネ先輩、あんたさっきから肯定しかしないな!
「まっ、まあね」
あんたはドヤ顔で嘘吐くな!
「まあともかく、そういう訳で、バトル部側は咲さんの出場を求む!」
「いや、あなたの意見とか聞いてないですし!」
ていうか、そういう訳でってどういう訳で!?
審判が一方の出場選手だけ決めるとか、公平さの欠片も無いじゃねえか。
「いや、宮田君、大丈夫。ジャッジメント北川君の望み通り、私が出てあげるよ」
「えっ、ああ、まあ、本人がやる気なら良いんですけど」
とりあえず、俺は本格的なバトルっていうのがどういうのか見ておきたいから、出場は誰でも良い。まあしかし、まず競技がしりとりって時点であれなんだけど。
「All right、私も良いですよ」
「Zzz……」
「いびきで返事だと!」
ていうか、まだ寝てるし!
「いや、咲、待て! その勝負俺が出る!」
吉田先輩が大声を出して、木城先輩の出場で決まりかけてた空気に水を差す。
まあ、流石勝負好きなだけあるな。
「待って、吉田君。あなたじゃ、頭脳プレイは無理よ。ここは私に任せて」
「しかし……」
「じゃあ、アメリカの首都は?」
「合衆国!」
「ということで、私が出る」
うん、それで良いと思う。
何っ、違ったのか! とか本気で言っているけど、気にしなくて良いと思う。
「よし、決定だね。じゃあ、両者机を挟んで向かい合うように座って、他の者は離れて見物ということで。ちなみにバトル部の皆さんは助言と思わしき発言をした場合、敗北扱いとするから気を付けてくれ」
その言葉に従って、木城先輩は扉すぐ前の椅子に、メガネ先輩はその机を挟んでその正面にある椅子に座る。そしてギャラリーである俺らは、左側手前の部屋の隅に固まった。
「そういえば、コンピューター部の応援は来てないんですね」
ふと、気が付いたので言ってみた。応援が俺達だけってのは別に問題はないだろうが、なんとなく不公平な気がする。
「皆来るとは言ってたけど、課題があるからね。ある程度目処がついたらで良いと言っておいたから、後程来ると思うよ」
「へえ、課題ですか。何かプログラムの作成とかですか?」
「いや、違うよ」
あっ、違うんだ。じゃあ、ゲームの製作とか、資格試験に向けた勉強とかか?
「――一日十二時間のネットゲームプレイさ」
ただの廃人ゲーマーの集まりだった!
「そんなのわざわざ部活作ってやらなくても、それぞれ家でやれば良いんじゃないですか?」
「はあ……君それ本気で言ってるの? 皆で一緒にやるから良いんでしょ。そんなのも分からないの」
うわっ、先輩だけど、この人すげえ腹立つんだけど。
ていうか一日の半分をゲームに費やす人達のこととか知らないし、そもそも知りたくもないし!
「ていうか、そうだよ、こんなゆっくりしてる場合じゃないんだよ! 部長の僕は他の部員達に示しを付ける為に一日、十二時間三十分ネトゲをやらなくてはいけないんだ。一分一秒も無駄に出来ないんだよ。さあ、さっさと始めよう!」
いや、そっちの事情とかしらないし、そもそも事情がしょうもないんだけど!
大体それ、示し付かないどころか、ただ廃人度が増しただけじゃねえか!
って、増したの三十分だけ! 半日やった時点で、もう三十分伸びたって大差ねえよ!
「ああ、そうだな。じゃあ、早速始めようか。と言いたいところだが、まずはルール説明をさせてもらおう」
そういうと部屋の右奥にあったホワイトボードの近くに向かって、文字を書き始めたジャッジメント北川先輩。
まあ、そうだな。しりとりと言っても、細かいところでルールに差違がある。そこら辺ははっきりさせなければいけないだろう。
例えば、
「固有名詞は国名など基本的に一般常識と認知されているもの以外の使用は禁止。作品名など、いくら一般認知度が高い作品だとしてもそれらの名前は禁止とする」
こういうのだ。
ということで、ジャッジメント北川先輩が纏めた残りのルールを今一度確認してみる。
一、一分の制限時間あり。
二、最後が長音で終わった場合は、それは無視する
三、最後がュやァなどの拗音、促音だった場合もとの文字に戻してもよい。
四、濁音や半濁音を取り除くことが出来るルールは不採用
五、前述した以外の基本ルールはそのまま。
なるほど、大体分かった。
「そして最後に、それぞれ勝利した時に相手に求める要求を宣言してもらう」
「僕が勝った場合は、君達には僕達コンピューター部内で今流行っているオンラインゲームをプレイしてパーティーに入ってもらう。といっても、流石に僕らと同じ十二時間は大変だろうから、十時間で抑えておこう」
どこが抑えてるんだよ! もうこの人、感覚マヒってるんだけど!
ていうか、なにこの人、何で他人も廃人ルートに進ませようとしてるんだよ!
「ちなみに俺がやっているゲームはな、画質が最高で――」
なんか誰も聞いてないのに説明し出したんだけど!
「では、バトル部側は?」
しかも審判に華麗に無視されてるし!
「…………」
ああ、メガネ先輩、急に黙っちゃったよ。
やばいよ、やっぱり流石に怒ってるんじゃねえか。
「まあともかく、鮮明かつ淡麗なグラフィックにより臨場感が凄くて――」
普通に続けた! 今の間なんだったの!?
そしてさっきからの聞いてても画質が良いことしか伝わってこないんだけど!
「うーん、正直ただ申し込まれてバトルしたいから受けただけで、要求とかないけど……じゃあ、一週間昼休みバトル部全員分のジュース買ってきてもらうで良いや」
それ、ただのパシり! しかも一週間、全員分って金少しかかるな!
「なるほど。では、お互いに相手の条件に異論は無いか?」
「私は良いですよ」
ゲーム十時間良いの!?
「3Dであの映像の半端なさが激やばくて――」
まだ止まらないのかよ! そして言葉なんかもうやばい!
「おい、何無視をしてるんだ!」
さっき無視してた人が怒ってるんだけど!
「あー、疲れた」
そして誰も聞かぬ間に説明終わったし! なんか疲れてるし!
いやいや、ていうかそれよりも、
「待ってくださいよ、木城先輩。どうなんですか、ゲーム十時間って。普通に日中の学校、睡眠時間を入れたらこちらの自由時間が皆無になっちゃうんですけど」
ていうか、絶対十時間も空いて無いだろ。俺らに寝るなとでも言う気か。
「まあ、大丈夫だよ、えっと……。うん、大丈夫だ。咲が本気を出したらこういう系統のバトルではまず負けないさ」
「何ですか、今の間!? 今俺の名前言おうとして諦めましたよね! 絶対忘れてましたよね、俺の名前!」
「……そうだぞ、えっと……うん、大丈夫だ。俺も睡眠時間削るとか嫌だけど、部長は多分負けないと思うぜ」
「いつの間にか起きてたし! そして君も今人の名前忘れてたよね!」
もう一つ言えば、君睡眠時間それ以上いらないよね!
「No ploblem、咲さんは負けないよ、えっと……ごめん、名前なんだっけ?」
「遂にはっきり聞いてきたし! 誰も覚えてくれてないし!」
「なに、十時間なんて簡単に確保出来るさ、宮崎君」
「あなたはさっき聞いたばっかなのに名前間違えてるし! 皆、頼むから新入部員の名前ぐらい覚えてください! 俺は宮田です、宮田!」
『ああ~』
皆、もれなく納得した顔するなよ!
「まあ、ともかくそういう訳だから大丈夫だよ、宮田君。勝てば良いんだから」
「いや、そうですけど……」
なんだ、この自信。それに皆、木城先輩の勝利を確信しているのは何か根拠があるのか。吉田先輩が言ったこういう系統のバトルでは負けないっていうのも気になるし。
「で、条件は一週間バトル部全員分のジュースで良いのかな、達田君?」
「なにっ、その条件! 金かかるじゃないか!」
あー、もうこの人も本当に面倒くさいな。
「まあ、良いや。確かに勝てば良いんだ。いいよ、それで手を打とう」
ああ、文句言いつつ結局は納得するんだ。
でも、まあこれで決定だ。
「じゃあ、メガネを掛けさせてもらうね」
「へえっ、木城先輩メガネ掛けるんですか。でも、何で今だけ?」
そういえば、昨日のホットホット松崎とのバトルの時もメガネがどうのこうの言ってたっけ。
「宮田、実はあれ、度は入ってないんだ。伊達メガネだ」
腕を組みながら、説明するように吉田先輩が言う。
「えっ、それ掛ける意味ないじゃないですか」
「まあ、願掛けっていうのか。あれを掛けていた方があいつは本気を出せるらしい。実際、さっきも言った通り、あれをかけた時のあいつはこういう系統でのバトルはまず負けないからな」
ニヤリと誇らしげに言う吉田先輩。
そしてまた出た、先程も引っ掛かった言葉。
「こういう系統っていうのは?」
「俺が得意なタイプとは真逆、頭を使うタイプのバトルだよ」
「……まあ、つまりは頭脳戦や心理戦は強いんです」
吉田先輩の説明に、佐中が補足する。
なるほど。その自信があってこその、私に任せて、か。
じゃあ、木城先輩の本気っていうのを見せてもらおうかな。
「さて、じゃあ二人とも了承したところで、始めようか」
そう言うとホワイトボードの前から、移動を開始したジャッジメント北川先輩。そのままちゃっかり、木城先輩のすぐ隣に移動して椅子に座った。
って、審判凄い一方に偏ってるんだけど!
「はあぁー、これでこんな近くで咲さんの萌え声聞き放題だね!」
「いや、ちょっ、近いんだけど」
嫌がられてるし!
「…………」
無言でまたホワイトボードの前に移動した! なんか、可愛いそう!
「では、しりとりスタート!」
そして、始めたー!
そうして、遂に(本当にやっと)バトル部の俺にとって初めてのバトルが開始された。
まさか、まだ続くことになるとは(汗




