個性派メンバー
ドアを開けたその先、室内にはホワイトボードや様々な蔵書が詰められた棚、縦に長い木製の机が置いてあり、その机の周囲にこの部活のメンバーであろう三人が座っていた。まあその内の一人は寝てたけど体を起こして、その三人全員が扉を開けた木城先輩、というか木城先輩を抱きかかえた俺に視線を向けてから離してくれない。そして何故かそのまま沈黙が降りた。
「あの……」
「……いきなり大胆だな」
「大胆ってなにっ!」
部員の一人、こちらから見てテーブルの右側に座っている、体格が良く服の上からでも分かる筋肉質な男の人がなんかとんでもないことを言い出した。
どんな勘違いをしてるんだ、この人!
「何か勘違いしてたら困るんで一応言っておきますけど、これ疲れた木城先輩を抱えて連れてきただけですから! 別に変なことないですから!」
「なにっ! 弱った咲を俺達の前で襲うために連れてきただと!」
「なんですか、この部の人は皆人の話を聞く気無いんですか!?」
話の歪曲が酷すぎるんだけど!
「……ああ、気にしなくて良いよ。この人妄想激し過ぎるだけだから」
さっきまで寝ていた男が欠伸をしながら、ダルそうに口を開く。ネクタイをを見ると白。この学校は女子のリボンと同じく男子が付けているネクタイの色も学年毎に分けられている。白は一年生のだ。同性の同い年がいたことに少しホッとする。
「なっ、人を軟弱者みたいに言うな!」
誰も言ってねえよ。
「そうね、妄想フェチ男の宮田君と良い勝負してるわ」
「なに、バカな! こいつが俺と良い勝負だと! そんなことあり得ん!」
なんでこの人、そんな闘志漲った目で、俺を睨みつけてんの! そもそも俺別に妄想で良い勝負してないし、もうあなたの圧勝で良いです!
この人のネクタイはグレーで二年生。先輩な上このガタイの人に睨まれたら、怖くてしょうがないんだけど。
いや、ていうかそもそも――
「誰が妄想フェチ男ですか!」
「えっ、あなた」
「いや、何で当然だろって顔で言うんですか! だから違いますって!」
「ぐぬぬぬぅ!」
「何であなたは本気で悔しがってるんですか!」
この二年生、妄想フェチ男なんて底辺も甚だしい称号が欲しいというのか!
「ていうか、あなたもう降ろして良いですよね! 来てからもずっと降りてくれないけど、もうね手が疲れてるんです!」
「そっ、そんな……か弱い乙女を置いてくの?」
「置いてくっていうか、もう目的地到着してるんですけど!」
「もう少し頑張って!」
「そんな上目遣いで覗くように言われても、今はイライラしかしてこないんです!」
普段なら、分からないけど。
「あのー、すいません。お話中申し訳無いんですけど、咲さん、この人誰でしょうか?」
そう言ったのは部長である木城先輩以外にもう一人いた、女性だ。リボンは青の為一年生で間違いない。
するとそれを聞いた木城先輩が、支えている俺の手からういしょっと飛び降りた。結局すぐに降りるのかよ!
とりあえず、木城先輩が椅子を引いてくれた為、俺達は目の前にある椅子に横に並んで座った。
「ああ、まだ説明してなかったね。じゃあ、紹介しよう! この人は――」
「あっ、良いですよ、木城先輩。自分で説明します。――自分の名前は宮田竜司。今年入学した一年で、あなた方の部長さんに誘われた為このバトル部に入ることになりました。これからよろしくお願いします」
「I see、なるほど」
えっ、今なんて?
「なにっ、新入部員だと! おいおい、咲、勧誘なら俺も着いていくと言ったじゃないか」
ガタイの良い二年生が言う。
「いや、なあなた行ってホットホット松崎先輩と喧嘩になったら、二階が崩壊しちゃうかもしれないでしょ」
えっ、喧嘩で二階崩壊って何っ!
「ああ、なるほどな」
否定しないのかよ! 納得するんだ!
「さて、じゃあそんなことより、私からも既存の部員達を紹介していこうかな!」
パンっと柏手を打って木城先輩は自分に注目を集める。
そう言ってからまず、さっきから変な発言を繰り返しているガタイの良い二年生の男の先輩に手を差し向けた。
「この人は吉田力。二年生。自称元伝説のヤンキーで多分最強! そして何より変人だ!」
「最強の後変人って、ギャップ酷すぎませんか!」
いや、確かに妄想フェチ男の称号欲しがるぐらい変人だけど。
「おっす!」
「あっ、おっす。……えっ、おっす?」
「俺の好きな言葉は勝利! 嫌いな言葉は敗北! 俺はどんな些細なことでも敗北は許されない、勝利しかいらん!」
まさか、それでさっき俺に妄想力を並んで見られたの嫌だったの! バカなの!
「趣味は勝負事であり、いついかなる時でも勝負を望み、強者を求む! 特にあの時の奴との勝負は凄くてな――」
なんか、自己紹介で急に去語り出した!
「じゃあ続いて、佐中瞬君!」
んで、その話無視して次の紹介に行った!
「しかし、奴は信じられないことに俺のパンチをかわし――」
なにっ、空気を読まずまだ話を続けるだと!
「一年生! 私が誘ったら『眠い時に寝せてくれるならどうでも良いです』っという発言を残すほど、この爽やかフェイスからは想像出来ないダル系男子! そして、変人!」
何でこの部活変人しかいないの!
っと思いつつ、木城先輩が手を向けた方向を見やる。そこには先程寝ていた、同い年の男がいた。木城先輩の言う通り爽やかな顔を有し、細めな体をしている。
「……どうも。佐中瞬ね。生徒会庶務もやってるから。よろしく」
「あっ、よろしく。……っていやいや、待って。それ大丈夫なのか。生徒会と部活共存して」
生徒会といえば、毎日学校のことで忙しいイメージがあるんだけど。
「いや、どうせあんまり集まらないし」
「あまり活動しないの生徒会! 大丈夫なのか、それ」
「ああ。つか、集まってもどうせ会議進まないし、会長寝てる」
「会長寝てるの! よく回ってるなこの学校!」
自由尊重の校風考えた人も、ここまでの自由は絶対想定していなかっただろ。
「ていうか、ダル系男子って割には生徒会はやってるんだ」
「いや、これは、委員会を決めるホームルームで寝てたら、勝手に入れられてただけで……くそっ、今考えても腹立つ! ざけんなよ、あのクソ担任野郎!」
凄い、急に殺気が漲った! この人なんか今日見た中で一番生き生きしてるんだけど!
「まあまあ、佐中君、落ち着いて」
「ああ、もうっ、寝ます!」
「今の流れで寝るのか!」
分からない。どういう流れでそうなったのか、全く分からない。
「ええ、どうぞ」
「良いんですか、部活中ですよ!」
「大丈夫、いつものことだから」
いつものことなら、尚更大丈夫ではなくないか!
「さて、それじゃあ次の部員の紹介行こうか」
凄い、今までの人達全員普通じゃないよ、この部活。
しかし、ここまで来たらいよいよまともな方が――
「finally、やっと私の番か」
うん、分かってた。もうさっきから、この部活には普通な人がいないことくらい分かってた。でもその言葉を聞いた瞬間、確実に可能性は潰えた。
「この子は真中唯ちゃん、一年生。自称、唯語と呼ばれるイングリッシュとジャパニーズを混ぜた未知の言語を使用する、美少女。ちなみに、変人!」
知ってるよ! 未知の言語使ってる時点で変だし、もうさっき聞いた時点で分かってたよ!
ていうか、唯語あんたも移ってんじゃねえか!
「Nice to meet you、よろしくね!」
「あっ、ああ、よろしく」
ニコッと笑顔を向けられて言われた。
木城先輩曰く美少女というのも頷ける、チャームポイントのポニーテールが生かされている元々がキラキラと丸くて輝いた目をしたなかなか賢そう、かつ可愛い顔をその笑顔にして言われると少しドキッとしてしまった。
それを紛らすように思い付いたことを、パッと口に出す。
「にしても、この部活変人ばっかりなんですね」
「何でそうなるのよ!」
「いや、あなたが言いましたよね!」
なんで否定されてんの!
「It's different、それは違うわ」
「いや、そんな特殊な言語で喋られても!」
「……俺も変人っていうのは違いますよ」
「そうか、じゃあ、とりあえず部活中寝るのやめようか!」
「Zzz……」
「また寝るのかよ! てかっ、寝るの早っ!」
「だが奴はそこで俺のパンチをかわしたんだ。だから――」
「この人に至っては、まだ語ってるし!」
てか、あんた何回パンチかわされてんだよ!
「じゃあ、もうそれはこの際俺の失言ってことで良いです。それより一つ聞きたいことがあるんですけど――」
「ちょっと待って!」
俺が質問しようとしたところで、木城先輩が急に声を挙げた為そちらに顔を向ける。見ると、なんか不満そうな顔をしていた。
「急に何ですか?」
「まだ、私紹介してないよ」
俺の話を遮って何を言うかと思えば……。
「いや、さっき名前聞いたし大丈夫ですよ」
「いや、ダメ。私も紹介しないと」
何そのいらない使命感。まあ、そんな紹介したいなら別に止める理由もないんだけど。
「なら、どうぞ」
俺の合図の後、深呼吸を一回入れてからバンッと机を叩く木城先輩。
うるさいな、もう。
「よしっ、じゃあ最後は私ね。私の名前はもう紹介したから省略。――人より体力がちょっと劣るけど、私にかかればどんな戦いもすぐに収めることが出来る程の幼気で可憐な美少女です」
「はいっ、嘘ー!」
「なっ、嘘って酷い! しかも、今日会ったばっかの人に言われた!」
「no doubt、確かに。可憐ではないですね」
「えっ!」
「……部長、大袈裟にも程がありますよ」
「さっきまで寝てた人に起きてまで言われた!」
「確かに今のは言い過ぎだ」
「さっきからずっと過去語ってた人にも言われた! ていうか、皆に否定された!」
へなへなと床に倒れ込む木城先輩。全員に否定されたのそんなにショックだったのか?
少し心配になり声を掛けようとしたが、その瞬間に突然ぴょんっと起き上がった。
「まあ、それは良いや! それより、紹介の続きね。趣味は料理。好きな音楽はロック。得意教科は体育以外で苦手科目は体育のみ。よろしく」
なんか、この人だけ普通の紹介してきたんだけど!
「ちなみに、今日は作ったお菓子持ってきてるから、入部記念として宮田君に今日作ってきたお菓子あげる」
「あっ、本当ですか。それは、ありがとうございます」
女子の手作りお菓子なんてもらったことないからありがたい。おいしいなら尚嬉しい。
それにより俺は少し気分が上がっていたのだが、ふと他のメンバーを見ると皆一様にうわーと引いたような顔をしていた。
「あのー……何か?」
「……まあ、死ぬなよ」
「えっ、何でお菓子もらう話からその言葉が出てくんの!」
「宮田、生きろ!」
「吉田先輩に至っては、何で命令口調で生存を促してるんですか!」
本当にどういうこと! この人の作ったお菓子どうなってんの!
「何ですか、木城先輩の手作りお菓子食べると死ぬんですか!」
「wait、まあeatしてみれば分かるよ」
あんっ、何だって!
ていうか、誰も否定しないんだ!
「ちょっと酷くない!? さっきから聞いてれば、皆して人が作った料理を毒物みたいに。普通に上手に出来てるでしょ!」
「well、well……」
「……どうでしょう」
皆、反応困ってるんだけど!
「いや、あれは劇物だろ」
この先輩、どストレートだ!
どれだけ酷いんだ、この人の料理!
「誰の料理が劇物だ! ほらっ、宮田君、これ食べてみて」
そうして、木城先輩が鞄から取り出した手のひらサイズの袋にはクッキーが四、五個入っている。
見た目は……別段悪くは無いどころか綺麗に見えるが、本当に危険物なのか? もしかして、俺はおちょくられてるだけなのだろうか。
「これ、見た目は良いですけど、本当に劇物なんですか? 俺をおちょくってません」
「まあ、百聞は一見に如かず。食べてみれば分かるさ。……ただし、命の保証は出来んがな」
吉田先輩の発言に他の二人も首肯する。
いや、別にお菓子を命の危険冒してまで食べたくないんだけど!
「だから、別に劇物でも何でもないって。味は保証するから食べてみて」
「分かりました、食べましょう」
「本当! じゃあ、はい」
「あっ、ありがとうございます」
最早そこまで言われる料理ってのが気になってきた。それに、いくら料理が下手だって言ったって、命に危険冒す程の劇物を作るなんてことはありえないだろ。最早それは料理では無いし、別の才能だ。
それにせっかくくれると言っているんだし、もらった方が良いだろう。
俺は貰った袋に付いていたリボンを外して、中からクッキーを取り出し口に入れる。
「ふむふむ」
「ねっ、おいしいでしょ」
食感良し、甘さも丁度良し。なんだ、やっぱり普通においしいじゃないか。
「はい、おいしい――」
そのまま俺は倒れた。




