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バト部活動期!  作者: カオス
生徒会日記
10/10

生徒会活動期

 私立最部高校から歩くこと十分。そこにあるファミレスの窓側の一角の席に座る僕を含めた五人。他の四人を見渡してから僕は堂々と口を開く。


「それではこれより生徒会会議を始めたいと思います」


『うあーす』


 皆からは気の無い返事が返ってきた。だが、これはいつものことだ。ここで停滞したら下手したら今日の会議はそこで止まる。僕は迷うこと無く進行を続ける。


「えー、今日の議題は今年度の予算案についての話し合いですが、まず会長資料を」


「あっ、ごめん。学校に忘れてきた。取りに戻るの面倒だし、今日はこれで解散ってことで。お疲れ」


『お疲れ様でーす!』


「あれっ、終わっちゃった! 開始宣言した直後に終わっちゃった! ちょっと何言ってるんですか会長! そして君達も迷い無く帰ろうとしたね! 全員見事にやる気無いね!」


 立ち上がり帰ろうとした四人を制して座らせる。

 危ない、危ない。何帰ろうとしてるんだ、この人達は。

 そして、何で皆もれなく、「えっ、ダメなの」みたいな困惑した顔してんだよ。普通にダメだよ。


「だってー、資料無いしー。どうしようも無いでしょ。……それともなに、駄弁っていくの? もしくはドリンクバーで新たな合成ジュースでも開発して時間でも潰す?」


「そんな全く人類の役に立たない研究をする気はありませんし、ただ雑談する訳でもありません!」


「えー!」


 現生徒会唯一の三年生にして生徒会長を務める水切みずきり会長が、机に頬を付けつつ、くせっけある髪を指に巻いて弄りながら、だるそうに喋っている。

 入った当初は美少女生徒会長誕生なんて謳われた程のその端正な顔からは一見仕事出来そうな印象を受けるのに、その実只の名だけで極度の面倒くさがりな性格からほとんど会長らしいことをやっていないんだよな、この人。

 そもそも何でそんなんで会長になろうと思ったか疑問に思ったので、僕が生徒会に入った時に聞いてみたら、「それは永遠の謎だよ……」っと答えられた。本人が永遠の謎なら僕が分かる訳ない。故に未だに永遠の謎だ。っていうか、永遠の謎ってなんだ。その発言の方が永遠の謎だよ。


「えーじゃないですよ」


「むー……」


「いや、別に言い方の問題とかじゃないですから。えー、でもむーでもどっちでも良いですけど、不満そうな声を出さないでください」


 俺の言葉が的外れな訳でも無いし。


「っていうか今更なんですけど、そもそもの話をさせてもらいますよ。そもそもね――何でファミレスで会議やるんですか! 普通に生徒会室で良くなかったですか!」


 立ち上がり、テーブルに手を付きながら思わず大声を出してしまった。店内を見渡すが、まだ放課後になったばかりのこの時間帯はそんなに混んでいる訳ではない。しかし、少数ながらも注目されてしまった為座って、一回深呼吸を入れる。

 そもそも何でこんなことになってしまったのかといえば、今日は会議があると聞いていたから授業が終わってから生徒会室に行ったら、会長専用の机の上に「ファミレスにて待つ」っという、果たし状かよっと思わずツッコまざるを得ない手紙が置いてあった為来てみたら今に至る訳だ。

 この生徒会は度々こういう風に規格外なところがある。


「まあ、何となく」


「何となく!? 理由、超適当じゃないですか!」


「まあ強いて言えば、筐体から出る液体を混ぜ合いたいと思ったっていうのがあるかな」


「言い方変えても、それ結局ただドリンクバードリンクを飲みたいだけじゃないですか! そして、あなたどれだけドリンクバージュース合成したいんですか!」


「いやー、ロマンだよね」


「知らないですし!」


 ロマン感じないし!


「あー、分かる、分かる! 会長、それ分かります! ロマン感じますよね!」


「なんか共感してる人いるし!」


「それ、わたしも小学生の時やりましたー!」


「牧瀬さん、それ暗に、高校生なのに何小学生と同じ同程度のことやりたがってんだよ、みたいな意味含んで無いよね!」


 僕達、最部高校生徒会の男子陣二人の向かいに座る女子陣三人の内、一番真ん中に座る同じ二年生の相坂あいさかがその短髪と快活な笑顔の見た目通りに活発的な声で共感の意志を表し、更にその左隣の一年の牧瀬まきせさんまで間延びした声で相槌を打ち出した。

 

「ていうか、おかしいと思ってるの僕だけ! 会議をファミレスでやろうと思うこと自体がおかしいよね!? なのに、それに意義を申し立てる者が僕以外いない所か、何でジュースの合成の話で盛り上がってるの! 一向に会議始まる気配無いんだけど!」


「まあまあ、山田やまだ副会長。これがうちの生徒会じゃないですか。いつものことですよ」


「凄いねー、佐中君! 君、今年入ったばっかりなのにもう達観しちゃってるね! そしてそう言う君もさっきまで寝てたよね!」


「いやー、まあ、はい。……ってことで、とりあえずまた寝ます」


「えっ! ってことでって、どういうことで!? そして、寝ちゃダメだから!」


 隣で寝ようとした佐中君を制止し、何とか睡眠を阻止する。……でも何か凄い睨まれているんだけど。凄い、不服そうなんだけど! どう考えても正しいの僕だと思うんだけど。

 でも、確かに佐中君の言う通りだ。この生徒会はいつもこの調子で、まともに会議が終了することすら絶滅危惧種並に希少なレベルだ。果てには、生徒会補佐委員なんてのも出来たし。何その生徒会のお荷物感……。最早、そっちが生徒会やった方がこの学校、回るんじゃないの。

 いやいや、今はそんなことは良い。それよりも暗くなってしまう前に少なくとも切りが良い所までは話しあっておかないと。


「で、良い加減会議始めたいと思うんですけど――」


「あっ、ちょっと待って、その前に……」


 言うと、会長がようやく体を起こして、テーブル端に置いてあるメニュー表に徐に手を伸ばす。二つある内の一つを女子陣の中央に開いておき、もう片方を僕に渡してきた。


「はい」


「えっ、何ですか?」


「ほら、メニュー頼んじゃわないと。ちなみにこのファミレスでの経費は生徒会の活動費として使って良い許可を得たから、全員で五千円までね」


「ええっ、これ学校の金使うんですか! ああ、これから予算案会議するのに僕らが予算を無駄遣いしちゃってるし……」


 っていうか、何で学校許可出したんだよ。必要性ゼロだって気付こうよ。


「まあまあ、吉川先生が言ってたから問題ないよ」


「吉川先生!? それ、尚更怪しいんですけど!」


 吉川先生とは、この最部高校生徒会の顧問を担当している教師で二年生の数学も担当している。だが、この生徒会を象徴するように、彼もまた適当な人間なのだ。授業に遅刻は当たり前、滅多に生徒会には顔出さず寧ろ顔を出すのは、年に二、三回等数々の前科がある。

 そんな人が言った言葉じゃ信用が出来ないだろ……。


「大丈夫、大丈夫。使っても良いですかって聞いたら、『オッケー、オッケー、俺カッケー』って言ってたから」


 ダメだ、尚更ダメだ。そのダサ過ぎる言葉回しから、適当さが滲み出ている。

 絶対、特に考えずに返答しただろ。


「いや、吉川先生じゃ信用出来ませんよ。それにもし仮に本当に使っても良いとしても、何か悪いじゃないですか、こんなのに使ったら。夕食までもう少しのこの時間なら何か頼む必要性も無いですし」


「えー、せっかくファミレス来たのに頼まないのはダメじゃないですか! せめて何か口に入れながら会議したいですよー」


「いや、別に会議で口に入れる必要は無くないか……」


 一年ながら書記を務める牧瀬が、ツインテールがチャームポイントのその幼げな顔を不満そうに変えて相変わらずの間延びした声で異議を申し立ててきた。がそれを否定する。

 すると、今度は相坂が俺に反意を見せてきた。


「そうだよ、山田君。やっぱりここはファミレスである以上、食事は取らないと。ただ、ドリンク合成するだけじゃ、悪いじゃん」


「そうだよな、ここはファミレスだもんな。楽しく会話しながら食事する場所だもんな。――じゃあ、何でここで生徒会会議やろうとしてんの! あと、別にドリンク合成するのが目的でここに来たって訳じゃ無いから!」


 この人達、どんだけジュース合成したいんだよ!


「大体僕が言っているのは活動費は使わない方が良いんじゃないかってことで、別に自分達の金を使うってことなら文句は無いぞ。そうだよ、自分達のお金使おうよ」


「いや、でもワタシお金持ってきてないし……」


「私も、持ってきてないな……」


「わたしも持ってきてないんですよー」


「……俺も持ってきて無いっす」


「凄いね、パーフェクトだ。誰も持ってきてないんだね! 少しは持ち歩こうよ!」


 この人達が異常なんだよね、普通の高校生は持ち歩くものだよね!


「まあ、ともかくそういう訳で生徒会費を使って頼んじゃおー」


「ちょっ、ちょっと待って下さいよ、会長。――分かりました。僕が払いますから! 一人五百円まで僕が奢るので、それで我慢してください。残った経費は他の生徒会の活動に当てれば良い訳ですし。それでいきましょう」


 四人となると多少大きい出費になるが、普段お世話になってるお礼ってことで別に問題ないだろう。これ以上は流石にきついけど。


「えー、五百円じゃほとんど頼めないじゃん」


「山田君、それはちょっと……」


「あれっ、凄い不評!」


 会長と相坂に不満そうな顔と言葉を向けられた。何か、奢る側なのに凄い否定されてるんだけど!


「そうですよー! 副会長、五百円はちょっと無理あるじゃないですかー」


「あれ、後輩にまで言われたし! ――っていうか、君はあれだね! 後輩なのに遠慮とか無いね! はっきり言って図々しいね!」


 今年の一年生は、色々と規格外過ぎないか!


「いや、皆。確かにそうかもしれないけど、文句言わないでくださいよ! 高校生の財布事情舐めないでください!」


「んー、分かったよ。じゃあ、五百円で良いよ。――あっ、すいません、店員さん! ドリンクバー三人分お願いします!」


「何で奢る俺が凄い我が儘言った感じになっているんだ。……っていうか、早っ! もう頼んでる!?」


「うわっ、カルピス×オレンジ、一・二五:二・三四の比率で混ぜたら美味っ!」


「本当ですか! あっ、私のメロンソーダとコーラを二・五:三・四で混ぜたのも美味しいですよー」


「――って、もうジュース入れてるし! 早っ! そして、ブレンドかなり細かいね、君達!」


 もう既に相坂と牧瀬さんがドリンクを入れて持ってきていた。

 ていうか何、その比率どうやって量ったの! この人達、その道のプロなの! ……その道って何だ!


「Zzz……」


「んで、佐中はいつの間にかまた寝てるし!」


 気付けば、佐中がテーブルに突っ伏していた。いつ寝たんだよ! 隣なのに全く気付かなかったぞ。


「山田君。私は、オレンジとコーラを一・二八:二・八七で」


「えっ、何ですか、僕に注いでこいってことですか! そして当然の如く、注文細かいですね! でも、僕はプロでも何でも無いんでそれは無理です!」


「けっ」


「あれっ、会長、今けってやりました!? 唾吐き捨てる素振り見せましたよね! 完全にバカにしましたよね!」


「まあ、誤差○・一ぐらいなら許すからお願い」


「譲歩したつもりかもしれないですけど、誤差小さいんですけど!」


 絶対、無理なんですけど!


「大丈夫。君なら出来るよ、山田君」


「何ですか、その根拠の無い自信……」


 とはいっても、先輩の頼みを無下に断るのも失礼か。それに何故だかこんな場面でとても信頼された目を向けられるとどうにもな……。仕方無く、席を立ちドリンクバーに向かった俺は、言われた通りに、オレンジとコーラを混ぜた。

 勿論勘、っというかはっきり言って適当にだけど。あんな細かい比率は無理だし、そもそも覚えていない。


「はい、どうぞ」


 何故だか、ゴクリと生唾を飲み込んでしまう。


「ありがとう。……うっわ、不味っ。山田君、ダメじゃん、これ」


「いや、頼んだの会長!」


 比率適当だけど!

 オレンジとコーラの合成ジュースを飲んだ会長が文字通りの苦々しい顔をする。

 何だ、それ! 何か凄い悔しいんだけど! 


「まあともかく五百円以内なら、二百五十円のドリンクバーと後は四百円のスパゲティーと五百六十円のチーズハンバーグで……合計四百八十円だから、大丈夫だね」


「あれっ、おかしいな。会長、ちょっともう一回計算してみましょう。やばいです。それ五百円どころか倍の千円越えてます。っていうか、チーズハンバーグ単体で越えてます」


「じゃあ、わたしもチーズハンバーグですね」


「あれっ、牧瀬さん、何がじゃあなの。ちゃんと話聞いてた? それ五百円越えてるの」


「ワタシは四百五十円のナポリタンで良いや。ありがとう、山田君」


「あっ、えっ、うん」


 快郞な笑顔で相坂が言ってくれた。

 あれっ、これが普通なのに、何だろう。凄い嬉しい。

 それから僕の説得により、会長、牧瀬さん、それから目覚めた佐中も五百円以内に抑えたメニューを頼んでから、十分程で食事が運ばれてきた。

 それを会長が一口運んでから、会長が会議開始を宣言した。

 

「さて、じゃあ本当に会議始めようか」


「はい!」


「了解です!」


「はーい!」


「ふあ~い! あっ、やるんすか」


 短くはっきりとを意識した自分、明るく敬礼をする相坂、相変わらず言葉を伸ばす牧瀬さん、寝起きで欠伸混じりに口を開く佐中。返事一つでも皆一様ではっきり言って個性的なメンバーの集まりだ。なかなか纏まらず、僕もなかなか気苦労をするけど――


「あっ、その前に――山田君」


「はい」


 会長に対して短くポツンと返事をする。これでも一年以上の付き合いだ。何を言うか何となく予想は着いていた。


「迷惑かけてごめんね。今日はありがとう。このお礼はいつか、返すね」


『山田君(さん)、ありがとうございました』


 それでも、良いメンバーに恵まれたから。

 僕の生徒会としての日常は、結構楽しい日々を過ごせている。




 

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