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■KEEP OUT

 既にKEEP OUTと黄色いテープが貼られたライブハウスの入り口には、人だかりができていた。

 めった刺しにされた女性が転げ落ちてきたところを目撃してしまった4人の主婦は、誰もいなくなったライブハウスの中のテーブル席のひとつに座らされ、駆けつけた歌舞伎町を管轄している刑事二人に、一人一人話を聞かれているところだ。

 4人は誰一人刑事以外とは話そうとしなかったが、アンテナは張りっぱなしで、左右にいる他の女性のことを注意深く観察していた。

「ねぇ、もう帰っていいの?」

 口を開いたのは一番の年長者の野本だ。

「あたしさ、明日の講義の準備まだなんだよね」

 チッと舌打ちした田ノ木は野本の発言を無視して他のしたっぱ(鑑識)たちと話をし始めた。

「いえ、まだお返しするわけには行きませんので、もうしばらくここでお待ちください」

 横から割って入ったのはうら若い女刑事根上。

 髪は一つにひっつめ、化粧も無く無愛想だ。

「わたくし別の用事がありますので、用事が済んだのならもう・・・」

 桜坂が勝手に席を立ち、

「あら何言ってんのよあんた、あたしだってそうよ。家庭あるんだから」

 野本が桜坂に文句を言い、

「そんなこと言ったら私だっておうちでワンちゃん待ってるし!」

 幸元が便乗し、

「らいちゃんも子供と猫が家で・・・」

 一応、白戸も応戦してみる。

「だから、おばさんたちは下手に口出ししないで・・・」

「ああ、すみませんね奥さんたち、もう少し待ってもらえませんか」

 田ノ木が根上の二度目の失言となる言葉を遮った。

 仕方なしに鼻で笑ってその場を離れる根上は、陰険そのものだ。


「なにあの女、感じ悪ーい」

 舌を出す幸元は、ブスのくせに!と聞こえるように付け足したが、根上はそんなこと気にも止めず、捜査に戻って行った。

「あなたも、人の外見を悪く言うのは良くないと思いますけど」

 桜坂が幸元を一喝した。

「あんたどっちの見方?あんたもたいがい感じ悪いわよ」

 野本が椅子に座り直して足を組んだ。

「だってそうでしょ」

「いえ、桜坂さん、私のことはいいですからご自分の心配でもして下さい。これから忙しくなるんですから、早く帰って寝た方がお肌の為ですよ。あぁ、まだ帰れませんでしたね」

 遠くから桜坂に向けて言い放った根上の暴言に、真っ赤になる桜坂をクスリと笑う幸元。

「だから言ったこっちゃない。この刑事はこんな性格なんだからさぁね、そんなのも読めないなんて、どんだけ頭にお花咲いちゃってるわけ?」

 鼻で笑う野本は椅子から立ち上がると、腕を上に伸ばし、背中を伸ばした。

「なんてことを!ただ・・・」

「ほらね、その言い方もなぁんか嫌みぃ。そもそも似合ってないし。ハイソぶるのやめましょうよー。普通でいいじゃないですかぁ」

 ポニーテールを手で撫でつけながら言う幸元は楽しそうな顔をしていた。

 怒りを露わにした桜坂は、帰りますと言い捨て、バッグを掴んで蹴るように椅子から立ち上がった。



 結局、タイヤ痕から走り去った車が割れたということで、捜査はそっちに傾き、4人はあっけなく帰されることに。

 誰もいなくなった広い1階フロアーにポツンと残された4人は、お互いにお互いを気にしながらも平静を装い、どう出るかを見極めていた。

 バンドのメンバーはもう既に帰され、店の管理者だけがそこに残されていたが、もう店を閉めますので出来ればそろそろ・・・と、腰の低い初老の男は4人に小さな声で帰って下さいとお願いした。

「あ、ええ、そうでしたね。もう帰りましょうか」

 桜坂がそう言ったのを合図に他の3人も管理者の後を追って、ぞろぞろと店を後にした。

 

 4人がしっかりと顔を合わせ、お互いをしっかり認識した運びとなったのは、この嫌みな女刑事のおかげなのかもしれない。




 10時のライブが一番盛り上がるのに、ライブハウスの外に出てから残念なことになったなと気付く4人の淑女たち。

 黄色いテープを持ち上げられ、その下をくぐるともうそこは何事もなかったかのように人々が行き交っていた。

 そう、こんなことはここ歌舞伎町じゃ日常茶飯事な出来事だ。

 あちこちで同じようなことが夜ごと起きているし、いちいち気にしていたら仕事にならない。

 4人は軽く会釈をすると、白戸はまだ終電に間に合うということもありJR新宿駅へ向かい、幸元は飲み直しに行くと歌舞伎町の奥へ歩を進め、桜坂はタクシーを拾い、野本はどうしようかとその場でしばらく考え事をしていた。

 しばらくして、4人が同時に同じことを思い、はっと息を飲んで振り返った時、そこにはもう誰の姿もなかった。

 仕方ないかと自分に言い聞かせ、それぞれの道へと散り散りになって行った。



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