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【第一章】 出会いは地下1階から


 4人は並んで座らされた。

 目の前にはホットコーヒーがそれぞれと、向かいには刑事が二人。

 年配の男の刑事は目つきが悪く、笑顔も無い。意地悪そうな顔には皺だけが深く刻まれていた。

 女刑事も似たり寄ったりで、笑顔も無く無愛想を絵に描いたようだ。

『田ノたのきです』と素っ気なく自己紹介した年配の刑事の次に、間髪いれず『根上ねがみです』と続けた。

 4人の淑女は、一様に腕を組み、つんと顎を上げ、向かい合った刑事に敵意を剥き出しにした。

 そりゃそうだ。

 他の客は帰されたのに自分たちだけが残され、容疑者扱いの一つもされたんじゃ、腑に落ちないに決まっている。

 しかも、このうら若い女刑事には失礼極まりない暴言を吐かれたんだから、その怒りは鎮まらない。

「そんな怖い顔しないでくださいよ」

 くしゃりと顔を緩めた田ノ木は、部下の根上が放った失言について、失礼しましたと謝った。

 4人の淑女が一斉に根上に目を向けると、根上は『何か?』と言うように首を少しだけ前に出した。

「ちょっと、あなたね・・・」

「まぁまぁ」

 口を挟もうとした野本を田ノ木が制し、手の平を4人に見せた。



「ですから!わたくしが上を見た時にはもう、女性の方が階段を落ちてきていて・・・」

「へー、そうですか奥さん、なんで女性って分かったんですか?血まみれだったのに」

「それは・・・分かりますそのくらい!」

 背中に定規を入れたようにまっすぐな背筋で椅子に浅く腰掛ける女性が一人。

 黒髪は後ろで一つにまとめられ、シャネルの黒縁めがねが知的さをアピール、マックスマーラのスーツで完璧に仕上げられていた。

 桜坂 うぐいす 42歳 現在もっぱら専業主婦は階段から落ちてきた女性のことを見たままに話した。そう、正直に。ありのままを全て。

 ある一つのことは隠しながら。



「だからさぁね、あたしが上を見た時はさ、すでに人が落っこちてきてたんだって。分かる?なんでそれが人って分かるのかってさ、ソレが落ちてきた速さと、その視覚認識と、階段からここまでの移動した距離とを、だいたいの時間で割ったら、それが象じゃないってことくらいさ、分かるでしょ?小学生だって分かるわよ。言ってる意味分かる?」

「なんだお前は!物理学者気取りか?」

 長ったらしいことをサラリと言って刑事をバカにした野本に、カチンときた田ノ木は声を荒げた。

「あら、ごめんなさいね。そっちの分野ももちろん得意なんだけど、でもあたしね、数学者なの。数学が専門。あ、算数はお分かりになる?てか数字はご存知?」

 年の割には綺麗すぎる足を組み、机に肘をつけて頬杖をついている色白な女性がまた一人。

 胸元まである黒髪の巻き髪を左手で右耳上あたりから髪を全部かき上げ、左肩に流す仕草は優雅で上品だが、言葉遣いと態度は上品とは言えなかった。

 野本 ツグミ 55歳 現在某大学で数学を教えるかたわらに主婦をしている彼女は気だるそうに話した。




「だーかーら、私が気付いたときにはもう足下に転がってたんだってば!私のこの靴、今日おろしたばっかりなのよ!あ、そうだ、ねぇ、これって弁償してもらえるのかしら?新しいのに変えられる?・・・服にも血がついてんじゃないよ!まじ絶対弁償してもらう!」

「・・・人が一人瀕死な状態になってんのに、お前は服の心配か?」

「だってこれドルガバの新作だもん。むしろ私にとっちゃ命」

 細すぎる体に巻き付けられたお高い白い布には、血で作られた赤い水玉模様が所々に染み込んでいた。

 ミルクティー色の髪は手入れが行き届いていて無駄に美しい。

 幸元こうもとひばり 28歳 現在完全な専業主婦で毎日遊び歩いている彼女は、自分自身と自分の服にしか興味が無い。



「らいちゃんがここで電話をしていた時に、何か物音がして、車が急停車した音とドアが閉まる音?それを聞いて上を見たら・・・女の人が血まみれで苦しそうに落ちてきたんですぅ!」

「なんで女性でしかも苦しそうだって分かったんでしょうかねぇ?奥さん」

「え?だって顔見れば分かりますよ、女性の顔でしたもん。髪の毛は短かったしパンツだったから、格好では分からなくても、それ以外で分かります」

「・・・そうですか、血まみれだったのに、おかしいですね。もう一ついいですか?」

「はい、もちろん」

「らいちゃんて、一体なんです?」

「あ、それは私のことです。私の名前です。この年になっても自分のこと名前で呼ぶ癖があって」

「やめたほうがいいですよ。もうおばさんの域なんですから」

 刑事の言った心無い一言にムカッとしたおとなしそうな女性が更に一人。

 白戸 雷鳥らいちょう 33歳 現在、幼稚園教諭をしている彼女は園児に話しかけるようにやんわりと言う癖がある。



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