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■ 白羽の矢は・・・


 脱出しないことにはどうにもならない。

「どうやって出るんですか」

 蚊の鳴くような声で割り込んできたのは、桜坂だ。

 何も知らないのは自分と白戸と王と一緒にいる子供だけだと分かると、不安で胸が押しつぶされそうだった。

「気楽な主婦は黙ってて。用事がありゃ呼ぶわよ」

 ライトでコンテナの中をくまなく見回す根上は、やはり警察犬そのものだ。その横に王もいて、二人で行ったり来たりを繰り返していた。

「ちょっと根上さん。今のはどういうことでしょうか。気楽な主婦ですって?主婦には主婦なりにやることがたくさんあるんですよ、それに・・・」

「おばさんは黙ってりゃいいのよ」

 コンテナの上部に当てていたライトを桜坂の顔に真っ正面から当てた。その光を遮るように桜坂は手で顔を覆い、言葉を飲み込んだ。

 そんなやりとりの中で王が根上を呼んだ。二人はコンテナの端っこの方に座り込み、何かを確認する。

「イケるかもしれない」

 立ち上がって3人の方を振り返った根上は口角を上げたが、真っ暗なコンテナの中ではそんな表情は真っ黒い影と一体化していた。

「体の小さい奴がいればの話しだけどな」

 王は自分の子供に目を向けたが、当の子供はそれが自分に向けられた言葉だと感じ取ると、すぐさま白戸の背中に隠れ、庇って貰おうとした。白戸はそんな子供を優しく抱きしめてやった。

「こんな狭いコンテナの中で隠れても無駄なんだよ、クソガキが」

 根上は白戸が庇っている子供に向かって暴言を吐くと、捕まえる為に一歩前に歩み出した。

「僕が説得しますから」

 王は根上の腕を掴んで引き止めたが、そんなのんびりしている暇はないの。有無を言わさずに決行するしか助かる方法は無いと、掴まれた腕を振りほどいて王を睨みつけた。

 振りほどいて自由になったはずの自分の腕を素早く掴まれ、お願いしますと懇願された根上は、王の迫力に渋々3分だけ時間を与えることにした。

 ライトで王の子供の顔を照らすと、怯えきったように白戸にしがみつきながら震えていた。

 ちっと小さく打った舌打ちは狭いコンテナの中では大きく聞こえる。

 そんな根上の舌打ちに更に怯える子供は白戸にきつく抱きついた。

 根上は子供を睨みつけると、しばらく目を反らさなかった。

 子供は怖いながらも根上の目を睨みつけ続けたが、そこはまだ子供だ。

 怖くなり、目を反らした。

 王が子供の方に視線を向けて笑いかけると子供の顔の緊張が少しほぐれたように見える。

 どう言おうか考えている王に、子供を庇う白戸。何かを考えるようにこのやりとりを静かに分析する桜坂。


「はい、1分経過。あと2分しか待ちません」

 嫌気が差すとばかりに言い放つと、顔にかかってきた髪を後ろに撫でつけながら、自分のライトを王に手渡した。

 嫌だ嫌だと泣き叫ぶ子供をなだめる王と白戸を冷たい目で見る根上は、腕をまくり上げて髪を結い直した。

「お前しかいないんだよ」

 一歩一歩子供に詰め寄る根上は既に子供をどこに送るのかを決めているようだ。

 そんな根上を子供は悪魔でも見るように見て、父親の背中にしがみつき、背中越しに根上を睨みつけた。

「ほらさっさと寄越しな」

「どうしても悟じゃなきゃならないんでしょうか」

「あんたが入れるなら、入ってよ。それが出来るなら最初から私がやってるけどね。そのくらい考えられない?」

 指さした場所は換気用ファンだ。そこは大人には入ることは出来ないが、子供の悟なら、なんとか無理矢理にでも入り込めるくらいの余裕はあった。

 そしてそこをまっすぐ進んで外に出るのも、悟の身体の大きさを考えたら無理な話ではなかった。

「どういうことでしょうか」

 今まで少しばかり黙っていた桜坂が申し訳なく口を挟んだ。

「ここから入って外に出て、掛かっているカギを開ける。ただそれだけのことよ」

「そんな簡単にカギが外れるものなんでしょうか。南京錠で施錠されてたりするんじゃないんでしょうか」

「このタイプは外のカギはただかけてあるだけだから、子供にでも外せる」

 桜坂はくるりと子供の方に向き、悟君、あなたしかいない。

 ここから出られるのも出られないのもあなたにかかっている。と、プレッシャーを与えた。


「桜坂さんやめて下さいよ、悟君怖がってるじゃないですか。そんなこと言わないで下さい。他の道が無いか考えましょうよ」

 王の後ろに隠れる子供を庇うように白戸も擁護に回った。

 悟は父親と白戸の二人に庇われるんだと分かると少しばかり落ち着きを取り戻した。

「じゃ、いいわよ。好きにすればいいわ。決めるのはその子だから、どうぞ決めちゃって下さい」

 根上のあっさりとした引き下がりっぷりに皆キョトンとし、次の言葉を待った。


「アフリカなんかに着く前に、このコンテナは海に沈められる。このファンが付いているのがその証拠。ファンがついているってことは、そこから海水も入り込めるってわけ。そして少しばかり細工がしてあるのも発見した。だから、私たちはこのまま海に捨てられて、そのファンの間から空気じゃなくて冷たい海水が入り込んできて、海底に沈みながら水圧に苦しみ、呼吸が出来ない苦しみを伴って、喉を掻きむしって死ぬの」

 

 根上の言った言葉に皆身体を強ばらせ、背中には一筋の嫌な汗が垂れた。

 真っ暗いコンテナの中は静まりかえり、唾液を飲む音しか聞こえなくなり、

全員が悟の方に目を向けた。

 悟も固まったまま、今言った根上の言葉を頭の中で反芻した。

「どうぞ、ゆっくり決めて下さい。時間は待ってはくれませんから。ごゆっくりどうぞ」

 

 嫌みったらしく言う根上は目線は悟に置いたままだ。




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