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プロローグ4 「逃走」

「………なんでこんなに散らかってんだよ…?」


宝物倉の戸は既に開いており、サッサと道具を見つけて帰ろうと思いながら、倉に入った訳なのだが…中は埃っぽく、足の踏み場もない…とまでは言わないが、かなりの量の物が疎らに置かれていた。


しかし、本類等は綺麗に積み上がっており、古臭い木箱に収納されている陶器類等も、端の方へ固めて置かれている。


荒らされた後と言うよりは、整理途中と言ったほうが良いのかもしれない。


「ああ、爺さん何処行ってたのかと思ったら、倉の掃除してたのか」


整理整頓の途中は誰しも、大概部屋が散らかるものだ。


まぁ、俺個人としては、部屋が散らかるということは、まずないのだが(整理の上手い下手に関係なく、ただ部屋に布団と衣類以外、ほぼ何も物が置いてないだけである…)


「まぁ、いいや…華恋のお陰で、かなり無駄に時間を浪費したし…早く見つけて遅刻しないようにしないとな。 爺さんが、掃除してたってことは、触っちゃいけない物は置いて無いってことだろうし」


取り敢えず、辺りを見渡してみたが、それらしいものは見つけられなかったので、俺は奥の方へ進んでみることにした。


「しっかし、こんなに散らかってたんじゃ、見つけられるもんも見つから…ん?」


そんな風に言ってはみたが、奥に進むと、まだ手を付けられていない本棚の前に、如何にもそれらしい感じのリュックサックが、口を開かれた状態で置かれているのが目に入った。


「もしかしてあれか…? 登山靴の様な物もあるし…一応確認しとくか」


かなり時間が掛かるかもしれないと思ったが、意外と早く見つけられたかもしれない、物が一気に見渡せるようになっていたから、逆にそれが功を奏したようだ。


そうして、安堵のため息をつこうとしたその時、ポケットの中でヴーヴーという音をたてて携帯が疼きだした。


「ん? メールか?」


開いてみると、宛名には華恋の文字。


そしてそれと共に、若干長めの本文と煌びやかな絵文字で構成立てられた一通のメールが展開された。


「……流石女子だな…」


普段からメールを殆どしない自分からしたら、こんな文面は考えられない…


「要件的には、旅行は楽しみだから心配すんなってことなのか?」


ハッキリ言って、チラチラと絵文字に動かれると読みにくくて仕方がない。


「まぁ、返信はしとくか…」


文面に『そうか。』の、三文字プラス句点を着け、即座に返信を済ませた。


「よし。 あんまり長く書いてたら金も時間もかかっちまうし」


一仕事終えたような感覚だったが、俺にはまだ、これからバイトへ向かうという使命が残されている。


こんなところで、おちおち立ち止まっている時間はない。


『時は金なり』まさにその通りである。


「そういや今何時頃だっけ?」


メール送信完了の画面が消え、ホーム画面に戻るのを確認する。


でかでかと表示されたその数字の羅列を目にした時、俺は一気に血の気が引くのを感じた。


「ゲッ!もう、一時間もないじゃないか⁉︎ 急いで電車乗らないと、本気(まじ)でまずい…!」


タイムリミットは、もう直ぐそこまで迫っていた。


携帯を仕舞い、一早く荷物を確保しようと走り出す。


だが、バイトのことで頭がうめつくされ、焦っていた俺は目標物以外見えておらず、今いるこの場所が、整理途中の倉の中であるということを忘れていた。


「うぉっ⁉︎」


二歩目を踏み出した瞬間、床に置かれていた丸型の壺に足をとられ、体制を崩したまま、 減速することなく、本棚に。


「へぶはっ!」


激突した…


ミシッ、バキッ、ドーン!という音が、静寂に満ちた倉の中に響き渡る。


「痛ってぇ~……」


かなりの激痛が、頭や腕や腹に走ったが、それでも怪我は無い、まぁ鍛えられてますから。


「というか今、バキッて聞こえた気が…」


恐る恐る顔を上げてみると、そこには、見るも無残に砕かれた、さっきまで本棚だったらしき物が聳え立っていた…


どうやら酷く老朽化していた代物だったらしい。


そして、そこに収納されていたであろう、とても古くて希少価値がありそうな本の数々も、見事なまでに辺りに散乱していた…


「これは…ヤバイな…」


こんなところを爺さんに見られでもしたら、確実にどやされる、というか半殺しにされかねない…


しかし、今現在でも、バイトに間に合うかギリギリのところまで時間が押している…さて、どうするか…


そして悩んだ末。


「よしっ、逃げるか」


逃走することとなった。


急いで鞄の口を閉じ、鞄と靴を抱え、いざ逃走!


倉の出口へ急ぐ、今度は躓いたりしないように床にもしっかりと気を配って走り出した。


しかし、戸を出た瞬間に俺の逃走経路をに立ち塞がる人物が現れる。


「ゲッ! 爺さん」


「何じゃ、奏。 そんなに慌てて跳び出して来るではないわ! 危ないではないか、ん? そうか、荷物は見つけられたようじゃな? ああ、それよりも、ここに来る途中で、華恋とすれ違ったのじゃが、声をかけたら無視されてしまってのぉ…。 お前、何か知らんか? 気に障るようなことをした覚えはないのじゃが…」


今、爺さんと話していては、色んな意味でOUTになるであろうことは明白。


なので、俺は何も返答することなく、爺さんの横を全速力で走り抜けた。


「おい⁉︎ 奏、何をそんなに急いでおる⁉︎」


そう訊いてきた爺さんに向かって走り去り際に一言。


「すまんっ爺さん! 帰って来たら絶対直すからっーーー!」


そう言って、俺は境内を突っ切り、石段を駆け下りた。


 ☯


「全く、騒々しい奴じゃのぉ…。 おっと、いかんいかん、忘れるところであった。 早く樹希殿に御貸しする本を用意せねば、しかし直すとは一体なに…を?」


玄司が振り返り、倉の中に目をやると、そこには本棚が崩れ、辺りには本が散乱しているという見るも無残な光景が広がっていた。


「な…なんじゃ、これは…まさか…奏の仕業か…? あやつめ…じっくりと灸を据えてやらねばないかんな! …しかし、樹希殿を待たせる訳にもいくまい…今は本を片付けておくことの方が先決じゃな…」


老人片付中。


「な!…無い!……どこにも無い…散乱していた本はこれで全ての筈なのじゃが…」


樹希殿が先程申されていたので、一応確認はしておいたのだが、幾ら探してもあの本だけが見つからない。


「おかしい、確かにこの棚にしまってあった筈なのじゃが…そういえば、楓真の荷物も、この棚の下にあったかのぉ…」


玄司は、ぼうっと考えた後、あることに気がつき、急いで宝物倉を飛び出すと、石段へと駆けていき、腹のそこから思いっきり叫んだ。


「奏ーーー!!!!! 早く戻ってこんかーーー!!!!」


その叫びは、石段を駆け下り切った奏にも、ハッキリと聞こえたという。



そして……


「おい御社。バイト代、今週から月末まで、五割カットな」


「……マジすか……?」


 現実は…時に、あまりにもシビヤである……

もう、幻想入りまでは謝らないようにしようと思います…。

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