第八話「狂奏ナイトフィーバー! 色欲のヒステリックモード?」前編
一月間を空けたのと、ラノベを何冊か読んでみたりして書き方が迷走しだしましたが……なんとか書き上げました
もっと読みやすく、面白くなるよう頑張りたいですね……
では、本文をどうぞ
「財布、よし! 携帯、よし! 謎の本、よし!」
盗まれた物を取り返した翌日の午後、自室でもう一度荷物のチェックをしていた。
鞄から荷物を取り出しては戻しを念入りに繰り返す。これを昨日からもう7回も行った。
「よし、見落としはないな」
大事な物が抜けていないかの確認と、もう二度と盗まれないよう対策も兼ねて行っているのだが、何度やっても気が休まることはない。
ベッドの上に出して並べた物を見渡していると、まだ本の中を確認をしていないことに気がついた。まあ、別に必要はないと思うが一応見ておくとしよう。
実家から持ってきてしまった謎の本を手に取るとそのページをペラペラとめくった。
相変わらずの把握不可能な文字の配列に、殴り書きされたような文体で全く読むことはできなかったが、何も問題はなさそうだ。
「こんなんでも、失くしたら大目玉だからな」
外の世界に戻るまでこの本は大切に保管しておくとしよう。
ページをめくって最後のページに辿り着く。
「ん?」
最後のページには紙が一枚挟んであった。今回のそれは見ているだけで人を気まずくさせる写真ではなく、古く痛んだ御札の様な物だ。
札自体が色褪せ、書かれている文字も薄くなっており、何の御利益もなさそうなただの古ぼけた紙切れにしか見えなかった。
「なんだこれ……?」
呟きながらその札を素手で摘んでみる。
ヒラヒラしてみたり、裏返してみて見たり色々してみたがそれが何のための御札なのか俺にはサッパリ理解できなかった。
そのまましばらく御札を見つめていると、
「っ⁈」
御札が一瞬だけ熱した鉄鍋の様に熱くなり、耐え切れず俺は手から札を落としてしまった。
「っ熱! なんだこれ……? って、うぇえ⁉︎」
落とした札を見ると札の字が消えてただの小汚い紙切れになっていた。
慌ててその札を拾い上げると近くにあった机の上で覚えている限りの字を書き足した。
「確かこんな感じだったよな……?」
俺が必死で書かれていた文字を思い出そうとしていると、部屋の戸をコンコンコンっとノックされる。
「奏、お嬢様がお呼びよ。 騒いでないで早く来なさい」
「はっ、はーい!」
ドア越しの咲夜に返事をすると札を本の最終ページに戻して、手袋を装着し、急いで部屋を出た。
「プライベート空間だからと言って、勤務時間に私用を挟むのは感心しないわね」
「すみません……」
一言謝ると咲夜は何も言わず、冷たい態度で俺を誘導した。以前から冷たくされてはいたが、最近になって更に冷たさは悪化している。恐らく絶対零度に至る日も近いだろう。
まあ、今回に関してはほぼ全面的に俺が悪いので、これ以上咲夜の機嫌を損ねぬよう注意せねばならない。
触らぬメイドに祟りなしだ。
そう決心して咲夜の後に着いて行った。
部屋を出てから数分後、俺はなぜか謁見の間で机に向かって座らされていた。
「よそ見していないでしっかりと話を聞きなさい」
どこから用意してきたのか。黒板の前で咲夜は不機嫌そうに俺を指導する。
「あの……メイド長。 これ何の講義ですか?」
「『⑨でも解る弾幕ごっこガイダンス』」
「はぁ……そうですか」
それが何なのかを聞いたつもりだったんだがな。
「この授業……受ける必要あります?」
必修でなければ今すぐサボっていつもの仕事がしたい。働きたいわけではなく、長期休みに入ってまで机に向かっていたくないという学生の放棄心だ。
「お嬢様の御命令なんだから黙って聞きなさい」
どうやら必修確定らしい。主の命令なら従わざるを得ない。それが従者の性というものだ。
「はぁ〜……でも、何で謁見の間なんですか? 普通勉強するなら図書館とか」
「あそこは暗くて息が詰まるだろうからという、お嬢様の計らいよ。 ほら、無駄口叩いてないで、さっさと始めるわよ」
咲夜は俺の質問を強引に押し切って授業を続けた。
「つまり、結論から言うと。 妖怪や人間、果ては神に至ってまで力の差が出過ぎないようセーブされた決闘方法と言ったところね。 これによって幻想郷での異変は解決され易くなり、また起こり易くもなったけど、幻想郷自体のバランスが保たれるようになったのもまた事実で……」
咲夜は長々とスペルカードルールというものについての説明を続けた。
正直、大学の単位稼ぎの講義を聞いているのと同じ感覚で興味関心が全く湧かず、何を言っているのかもサッパリだ。
だが、これ以上咲夜の機嫌を損ねないよう黙って頷きながら授業を真面目に受け続けた。
「そして、この決闘で最も重要なのがこのスペルカード」
咲夜は何度か見覚えのあるカードを取り出した。
成る程、あのカードはそういうものだったのか。
「弾幕ごっこをする者は皆予め、このカードにどのような技を使うのかを記してから決闘を行うのよ。 まあ、決闘を円滑に行う上での契約書みたいなものかしら」
「へぇ〜、じゃあそのカードがあれば誰でも強力な力が使えるということですか?」
「いえ、あくまでもこれはただの紙よ。 最終的な力の大きさはその個人が秘める魔力や霊力によって変わってくるわ」
「結局は潜在能力の差ってことなんですね……」
「そうね。 それと、例えルールのある弾幕ごっこでも、辺りどころが悪ければ怪我をしたり、最悪死ぬこともあるから注意しなさい。 中には弾幕ごっこに応じない妖怪もいるから『ルールで守られてるから大丈夫』とかは決して思わないように」
そう言うことはここに来た当初から言っておいて欲しいものだ。
「えっと……最終的な結論として、自分はどうすれば?」
今後戦いに巻き込まれそうになった時の対策としてどうするべきなのかを聞いてみた。
「そうね……今のあなたには弾幕を放つ力なんてないし、戦いに巻き込まれでもしたら命の保証はできないわね。 とすると、私が貴方に忠告できることはただ一つ。 何かあれば全力で逃げなさい」
「……」
先生……それ、今までと何も変わってません。
「授業は終わったかしら?」
質疑応答も半ばに、今まで席を外していたレミリアが部屋に戻ってきて声をかけた。
「はい、基本の説明は済ませましたが口答えばかりで全く集中の色が見えません。 この生徒はかなりの問題児ですよ」
結構真面目に受けていたつもりだったんだがな……
「まあ、こんな授業真面目に受ける方がどうかしてると思うし、いいんじゃない?」
真面目に受けちゃダメだったのか……
「でもこの話は、これから行く場所ではかなり重要な意味を持つことになると思うから、しっかりと聞いておきなさい」
レミリアは集中して授業を受けておくように忠告した。
今夜は博麗神社で宴会が催されるらしい。
俺もそこに同席するよう昨日命が下り、そこそこ楽しみにしていたのだが、それとこの授業と一体なんの関係があるというのか。
「酔った勢いでぶっ放す奴とかもいるから、気を抜かないよう心がけるようにね」
ああ、成る程。今から覚悟しておけということか……
「じゃあ、私は宴会の時間まで仮眠するつもりだから、時間になったら起こしてね」
「畏まりました」
レミリアは咲夜にそう頼むと、俺の肩をポンッと軽く叩いて自分の部屋へと戻って行った。
「さてと、じゃあ授業を続けるわよ」
「あの……これ、いつまで続くんですか?」
「何言っているの? まだ始まったばかりよ」
始まったばかりって……開始から既に2時間程経っている事実は気のせいにでもしておけば良いのか。
「これからあなたには幻想郷の住民がどんなスペルを使って、どんな戦いをするのかをみっちり教え込む予定よ。 口答えすると更に勉強時間が延びるから、そのつもりで」
「は……はい、よろしくお願いします」
この後も咲夜先生のスパルタ授業は日が暮れるまで続きました。
集中力の続く限り、何とか授業について行こうとしたが、後半は殆ど理解不能だった。元々ゲームなどあまりしたことがないし何十人といる人物の行動パターンを把握するとか不可能に近い。
それに授業を聞いていく上で俺は一つとても不可解に感じていた。
咲夜は『弾幕は当たると痛い、すごく危険だ』を何度も連呼していたが、俺は一度レミリアのスペルを正面から真面に食らっている。
ルーミアとチルノは吹き飛ばされたが、後日なんともないような顔で発見された。
まあ、あんなのを例にするべきではないが、普通の人間である筈の俺はどうして平気だったのだろう。
それを咲夜に問おうとしたが……やめておこう。
何せ疲れていたためこれ以上の授業延長は勘弁願いたい。
「はい、これで今日の授業は終了。 何か質問は?」
「疑問は沢山ありますが質問はありません。 お疲れ様でした! ありがとうございました‼︎」
俺は質問タイムを即座に終わらせて今まで黙っていた分を吐き出すように大きな声で挨拶をした。
「そっ。 じゃあ、私はお嬢様の所に行くから、それとそれは貴方が倉庫に持って行きなさい」
「……了解です」
「運び終わったらそのまま門へ集合よ、遅れたら置いて行くからそのつもりで」
咲夜は手についたチョークの粉を払いながら部屋を出て行った。
「まあ、留守番も悪くはないんだけどな……」
危険な酒場へ出かけるか、安息の自室で眠るかで言えば、俺なら迷うことなく後者を選ぶ。しかし、今回は命令と言う面目もあり紅魔館に置いてもらっている以上、無視するわけにもいかないだろう。
俺は部屋からせっせと教室セットを運び出して倉庫に戻すと紅魔館の正門へと足を運んだ。
☯
迷いの竹林、永遠亭
「えいりーん! え〜りーん‼︎ どこにいるの〜? 」
輝夜は縁側にダラっと寝転びながら従者を呼びつける。
「どうかしたんですか? 姫?」
「私が呼んだのはイナバじゃなくて永琳よ。 さっさと永琳を連れて来なさい」
「師匠なら、つい先程神社の方へお出掛けになられましたが?」
「えぇ⁉︎ 何で神社なんかに?」
輝夜は寝ていた身体を勢い良く起こすと胡座をかいて鈴仙の方へ振り返った。
「さあ? 何でも、頼まれごとを引き受けたとか何とか? 姫には後で伝えておくようにと言われました」
「うそっ⁈ この私を置いて? 一人で外出? 私、何にも聞いてないわよ⁈」
「はい、だから今伝えました」
鈴仙は騒ぎ立てる輝夜に動じることなく言った。
「この私の頼みごとより優先すべき依頼があるっていうの? ねぇ⁈」
「ん〜……まあ、ないとは言えませんよね。 姫の頼みごとは難題と言うか、ただ頼まれた側が迷惑を被るだけですし……」
「イナバ……その偽ミミ捥がれたくなかったらとっとと永琳を連れ戻して来なさい‼︎」
「いえ……でも私、他にも師匠から頼まれごとを」
「ごちゃごちゃ言ってるとウサ耳を強力粉製にして焼くわよ!」
「パンの耳は嫌ですね……。 はぁ……分かりました。 行って来ます……」
やはり、姫の頼みごとは迷惑なだけだと密かに思いながら、鈴仙は永琳を追って神社へと急いだ。
☯
石段を上がるとそこは喧騒で溢れていた。
見渡す限りに人のような人じゃないような者たちが互いに酒と言葉を交わして騒いでいる。
「結局パチェは来なかったのね」
「はい、残念ながら外せない用事があるとのことで、今回は館に残ると」
咲夜と美鈴は境内の隅に椅子とテーブルをセッティングしていた。
「そう言えば先輩も来られなかったんだな……」
小さく呟きながら俺も持ってきたワインや差し入れをテーブルの上に置いて宴会の用意を始める。
「まあ、パチェ達にはお土産を持って帰るとして。 今夜は二人の分まで楽しむとしましょ」
レミリアは椅子に腰掛けながら空のグラスを手にとって咲夜に酒をつぐよう差し出した。
「そう言えば咲夜、さっきからフランの姿が見当たらないのだけど?」
「先ほどまでそちらにいらしたのですが……どうやらこの雰囲気に感化されてしまったのか、お一人で何処かへ行ってしまわれたようです」
「全くあの子ったら……目を離すとすぐこれなんだから。 問題を起こさないって言う約束で連れて来てあげたけど、早速問題発生の予感ね」
下手したら即行で弾幕合戦が始まってしまうのではないかと俺は自分の身を案じる。
「奏、ちょっとフランを探して来てくれない?」
「えっ? 妹様をですか?」
「何か不満?」
「いえ、そんなことは……」
別に見つけてくるくらいなら大したことはないが、連れて来るとなれば容易ではないだろう。それに、この会場を一人で歩くと言うのはなかなか勇気いる。
今回の宴会の参加者の中には人間だけでなく、妖怪や妖精、その他もゴロゴロいると言う話だ。
不満と言うか、不安の方が大きい。
「フランを連れて来てくれたら後は自由にしていて構わないから。 宜しくね、奏」
レミリアは強引に命令するとグラスに注がれたワインを口に含み、悦楽の表情を浮かべた。
本人曰く、500歳以上なので何も問題はないそうだが、その容姿で飲酒とは……なかなか許し難い光景だな。
「……畏まりました」
そして、俺は渋々レミリアの命令通りにフランを探して境内を彷徨い始めた。
境内ではどこを見ても皆楽しそうに酒を飲んで、飯を食って、歌って踊って、笑っている。
会場には人の声だけでなく、色んな音が混在していた。洋楽器を使用した軽快な音楽、荒々しくも静寂な和を感じさせる音色、声を張り上げてギターを掻き鳴らすロックなど、様々な音がぶつかり合う音楽合戦も、参加者の気勢を高め一層の盛り上がりを見せている。
さてさて、こんな場所に好奇心旺盛で無邪気な破壊っ娘を野放しにしておいていいものか。
いや、いいはずがない。
絶対問題を起こすに決まっている。
もしそんなことになれば、辺り一体が焼け野原でもおかしくないと、俺は今日の授業で学んだのだ。
しかし、こう人が多いと見つけ出すのも一苦労だな。
俺は近場に座って酒を飲んでいた人に聞いてみることにした。
「あの、すみません」
「あぁ? あっ、あんたこの前の」
よく確かめもせずに、そこにいた人物に声を掛けたことを後悔した。
「また賽銭を盗みに来たか⁈ このこそ泥が!」
「ええっ⁈ いや、違っ!」
破壊っ娘より先に破壊神見つけちゃったよ……
「おいおい落ち着け霊夢。 そいつは泥棒じゃくて、私の客だ」
魔理沙が、いきり立つ霊夢の肩を後ろから掴んで止めた。
「何よ、あんたの知り合いなの? なら、やっぱり泥棒じゃないの」
「人聞きの悪いこと言うなよ。 私はただ借りてるだけだ。 というか、人の知り合いを全員泥棒みたいに言うなよな」
魔理沙は俺と霊夢の間に割って入り、霊夢が下手に手を出さないようにした。
「紹介するぜ、この無愛想ですっげえ暴力的なやつが博麗霊夢だ。 それと、こっちの冴えない黒服の青年が紅魔館の新人執事の奏だ。 二人とも仲良くするようにな」
誰が冴えない青年だ。もう少しマシな紹介はないのか。
そんなことより、なぜ俺は昨日私物を盗まれたばかりの犯人に助けられているのだろうか……甚だ疑問であるが助かるのは確かだった。
「ああ、あんたアイツのとこの回し者か……どうりで怪しい格好してるわけだ」
「よ……よろしく頼む」
俺は魔理沙と同じようにタメ口で霊夢に挨拶をした。
「こいつは外の世界から来たって話だし、まあ仲良くしてやってくれ」
「ふーん……まっ、今日は折角の宴会だし、あんたの知り合いって言うなら危害は加えないでいてあげるけど。 私はまだ信用したわけじゃないから」
「おいおい、何がそんなに気に入らないんだよ?」
魔理沙が質問すると霊夢は手に持った杯の中の酒を一気飲みして俺に指を突き立てた。
「こいつはこの私のお賽銭箱から賽銭を盗もうとしたのよ。 アイツに命令されたのか自ら犯した罪なのかは知らないけど、人様の金を盗み取ろうだなんて、神様が許してもこの私が許さないわ! 金は命より重い‼︎」
「おい、こんなこと言ってるけど、実際のところどうなんだ?」
魔理沙の質問は霊夢から俺へと返され、俺は以前ここで起こった一連の悲しい事件についてありのままを伝えた。
「何だよ、あれお前がやったのか⁈」
「あぁ……まあな」
「じゃあ、賽銭箱に入ってた金ってのはお前が咲夜から預かった金で、霊夢はそれを知らずにお前を泥棒扱いして、これは自分の金だとか言ってたわけか⁈」
魔理沙はゲラゲラと笑いながら全てを察したようだった。
「だそうだぜ、霊夢」
「ふん、そんなの知ったこっちゃないわよ。 全部あんたの自業自得。 私は悪くないわ」
俺が真実を伝えても霊夢は相変わらずの態度で酒を口へと運んでいた。さっき人様の金を盗むのがどうとか言ってたよな?
「悪いな……こう言うやつなんだよ、こいつ」
「いや、別に構ねえよ。 メイド長には巫女に盗られたって言ったら即納得してもらえたし」
できればこの事件についてはもう掘り起こされたくはない。思い出すだけでも悪寒がするし悪く言えばトラウマだ。
もう下手なことをして針を飛ばされたくはないしな。
これ以上霊夢を刺激しないよう話題をそらすことにした。
「それより、昨日はあれからどうしてたんだ? 美鈴さんはボロボロになって帰ってきたみたいだけど」
「ああ、口ほどにもなく蹴散らしてやったぜ! 肉弾戦ならともかく、弾幕ごっこでこの私に勝とうとするのが間違いなんだよ」
魔理沙はものすごいドヤ顔で言った。
「まっ、結局色々持って行かれちまったのは確かだし、ドアはご丁寧にくり抜かれてるしで災難な一日だったけどな……」
「勝手に人のものを盗るのが悪いんだよ。 少しは反省しろ」
「なんだ? 私に説教とはいい度胸だな。 今が酒の席ってことを忘れてるんじゃないか?」
魔理沙は取り出した八卦路を指の上でくるくると回しながらお猪口の酒を口に含んで飲み干した。
「おい、霊夢。 酒、もう一杯追加な」
「あんたね……何杯タダ酒飲めば気が済むのよ。 少しは自分で持って来なさいよね」
「まあまあ、細かいことは言いっこなしだぜ」
霊夢は露骨に嫌そうな顔をしながら地べたに横たわる酒瓶を持ち上げ、それを魔理沙へと投げ渡した。
「うおっと! 危ねえな! 投げるんじゃなくて手渡せよ。 危うく落とすとこだぜ」
「なあ、魔理沙。 さっきから飲んでるそれは、本物の酒か……?」
「ん? そりゃ宴会に酒はつきもんだろ? お前も飲むか?」
魔理沙は酒瓶を突き出しながら笑顔で俺に飲酒を勧めた。
「いや、そうじゃなくて……どう見てもお前ら未成年だろ? いくら酒の席とは言ってもそんな風に飲みすぎるのは良くないんじゃないか?」
霊夢と魔理沙は見た目だけ見ればまだとても若い。いくら常識も法律もない幻想郷だからと言ってこんな少女達が飲酒をし続ける姿に俺は注意せずにはいられなかった。
もしこの二人が人間ではなく、レミリアのように何百もの時を生き続けているならば何の問題もないが、なんと驚くことに、この二人は正真正銘の人間らしい。
ならば止めないわけにはいかないと、悲しくも俺の良心が彼女達に救いの言葉を投げかけたのだ。
「うるさいわね……そんなの私達の勝手でしょ? こんな世界で楽しみなんて言ったら酒《これ》くらいなものなのよ。 外の世界がどうなのかは知らないけど、あんたにそんなことを言われる筋合いはないわ」
霊夢は頬を赤らめながら反発した。微妙に呂律も回らなくなっているあたり、既に酔いが回り始めていることがわかる。
「未成年だかなんだか知らないが、酒は飲まれてみればその良さがわかるってもんだ。 ほれ、グイッといけよ。 それとも何か? 私の酒が飲めないってのか?」
魔理沙は酔っ払いの常套句を口にして再び俺に酒を勧めて来た。
「いや、だから俺も未成年だからさ。 それに酒は色々と体に悪影響が……」
「それなら、これを飲みなさい」
背後から声がした。その声はとても大人びた声で俺に青色の瓶に詰められた液体を飲むよう勧めてきた。
「この薬は体内のアセトアルデヒド脱水素酵素の働きを何倍にも促進させ、酒によって体内に溜まった有毒素を一瞬にして無害な物に変える効果があるの。 それだけではなく、お酒が体に与えるあらゆる害から身体を守ってくれる上、副作用も極力抑えてあるからとっても安心よ」
背後からいきなり現れて薬の説明を始めたその女性は、銀髪超ロングに赤と青のツートンカラーな服装に身を包んでいた。頭に被った青いナースキャップには赤十字が記され、彼女が医者であるということを主張している。
「ほぉ〜そりゃいいや、ちょっとそれ貸してくれ」
「はい、あげるわ」
「気前がいいな。 なら、ありがたくもらってやるぜ。 おい、霊夢ちょっと手貸してくれ」
霊夢は魔理沙の頼みを黙って引き受け、俺の背後に回ると、華奢な体には似合わないほどの怪力で俺の体をガッチリと固定した。
「おい……博麗⁈」
「これはお前のためでもあるんだ。 さあ観念して大人しくこの薬を飲んでみろ」
「誰がそんな得体の知れない物を、って……イダダダダダダダ!」
抵抗すると、霊夢は更に力を加えて俺を押さえ込んだ。その隙に魔理沙は瓶の蓋を開けて俺の口元に薬をちらつかせる。
「ちょっ……やめろ博麗! 魔理沙も、ストップ! ストップ • ザ • お前‼︎」
「は? 何言ってるかわかんねえな。 日本語を話せ、ここは幻想郷だ」
「お前のスペカ、ほぼ英語だろうが‼︎ 」
「もらった!」
「ふがっ⁉︎」
魔理沙は俺が叫ぶのを見越していたように大きく開かれた口へと瓶を挿れ込んだ。
「まあ、グビっといけよグビっと。 これでお前も心置き無く酒が飲めるんだからさ」
魔理沙は俺の鼻を摘まむと、ニコニコしながら瓶を喉の奥へと更に押さえ込む。
「ふががっがぼごぼげぼがっ‼︎」
瓶の中の薬で溺れながら何とか息をしようともがき苦しんだ。これまで味わったことのない不快な新食味が口いっぱいに広がる。
喉の奥に薬が流れ込む度、体に異常を感じた。
全身から湧き上がる体の火照り、手足の痺れ、思考の混乱。
明らかに身体が薬を拒絶している。
心の奥底から何かが止め処なく溢れ、俺の意識は既に呑み込まれる寸前だった。
「……⁈」
朦朧とする意識で俺は見た。さっき魔理沙に薬を渡した女性が木陰から冷酷な笑みを浮かべてこちらの様子を伺っているのを。
怪しいとは思っていたが裏があったと知った時には既に何もかもが遅い。
俺の理性は深い闇の中へと沈み、抑えられていた感情が暴れ出す。
『さあ、ショータイムだ‼︎』
今、本当の祭が始まる。
霊夢•魔理沙:「次回予告コーナー!」
魔理沙:「と言うことで、数十話経ってやっと私の出番ってわけだ!」
霊夢:「別にやりたくはなかったけど、このコーナー仕切ってる奴が不在じゃあ仕方ないわね……」
魔理沙:「あれっ? 言われてみれば奏はどうした? このコーナーってあいつがいないと成り立たないだろ?」
霊夢:「さっきあんたが無理やり何か飲ませてたでしょ……? 精神に異常をきたして次回予告どころじゃないらしいわ」
魔理沙:「ああ……やっぱり永琳からもらった薬は不味かったか……。 色んな意味で」
霊夢:「何が、“まずかった”よ。 どうせ始めから面白くなりそうだとか思って無理やり飲ませたんでしょ?」
魔理沙:「ははは! まあな、でも手伝ったんだからお前も共犯だぜ?」
霊夢:「生意気な口を黙らせてあげただけよ。 後始末はあんたに任せるわ」
魔理沙:「まっ、ぶっ倒れたら放置。 暴れたら軽く捻ってやるぜ」
霊夢:「何が起こるかは次回のお楽しみってね」
魔理沙:「おっ! 珍しいな、お前がマジメに働くなんて」
霊夢:「失礼ね……私はいつもマジメよ。 ただ、今回はさっさと終わらせて戻りたいのよ」
魔理沙:「ああ、そうだな。 じゃあ、今回は物足りないかも知れないがこれで終わりだ。 次回は薬でおかしくなる予定の奏が色々やらかす回になると思うぜ!」
霊夢:「それじゃ」
霊夢•魔理沙:「次回もお楽しみに‼︎」