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東方労働記 〜 Beautiful Labor Days  作者: すのう
労働記 【永】
23/28

第七話 「クールな灰色捜索員? 追跡、モノクロバーグラー」 前編

前回は代筆でしたので今回は久しぶりの投稿です

しばらく開け過ぎて感覚を忘れかけていましたが、何とか書きあがりました


では、どうぞ

図書館の司書代理、二日目の朝。


既に朝食を済ませ、自室で再度身なりのチェックをしていた。


「……これでよし」


ネクタイをきちんと()め直し、手ぶくろを装着して朝一番の気合を入れる。


(だしな)みにもしっかりと気を配るように咲夜から注意を受けてからと言うもの、毎朝のように全身のチェックは()かさない。


「つまらないことで怒られたくないからな…」


鏡台に映る自分に向かってため息交じりに話しかける。


一昨日(おととい)咲夜を押し倒した時から、咲夜とはかなり気まずい関係になってしまい、すごく避けられているように感じる。


勿論、仕事関係で話しかければ応えてはくれるが…


対応がとても冷たい……


「はぁ〜…」


ほぼ100%自分が悪いので、このやるせない想いが心に重くのしかかる。


俺は外の空気でも吸って気分転換をしようと部屋の窓を開けた。


「…ふぅ〜、いい風だ」


朝の()んだ空気が部屋に入り込んでとても心地良く感じられた。


天気は晴れ、洗濯物を干したり、外出したりするには絶好の日和(ひより)なのだが…俺は今日も一日、あの薄暗く埃っぽい大図書館で過ごさなければいけない。


「あんなとこにずっといたら…気が滅入るな……」


小悪魔はよく平気でいられるものだと感心しながら、俺は窓を開けっ放しにして部屋を後にした。


長い廊下を歩くこと数分、館の二階にある図書館の入り口に辿り着く。


今まで地下からしか出入りしていなかったが、館の二階(ここ)からでも入ることはできたらしい。


そんなことは、初めから教えておいて欲しいものだと思いながら俺は扉を開き図書館に入る。


だだっ広い図書館で目に映る本の山、何度見てもこの光景には慣れそうにない。


本棚の間をゆっくりと進み、パチュリーがいつも座って本を読んでいる机の前まで歩みを進めた。


「……あれ?」


しかし、そこにはパチュリーの姿はなく、机の上には幾つかの本が静かに積まれていた。


「早すぎたか?」


独り言のように呟いて、辺りを見渡したが館内には誰の気配も感じられない。


仕事の内容も、まだちゃんと教えてもらっていないため、先に司書の仕事を始めるわけにもいかず、俺はここで静かにパチュリーが来るのを待つことにした。


「まっ、仕方ないよな」


(つら)い労働開始までの(つか)の間の休憩時間が()びたことに少しだけ喜びを感じながら、含み笑いで机へと歩み寄る。


机に積まれた本は、魔法関係のものや薬品関係、伝記や小説など、多種多様な物が揃っていた。


異国の言葉で書かれた物も多く、パチュリーはこんなものをいつも読んでいるのかと感心しつつ、俺は本を一つ一つ物色して暇を潰した。


「ん?」


その中でも、机の中央に一冊だけ置かれていた本に俺は一際(ひときわ)目を引かれ、何気無く興味本位でその本を手に取り、ペラペラとページをめくってみた。


「ははは…全然読めねぇ……」


表紙も中も、全く読むことはできなかったが、所々にある小さな絵から魔法関係の本なのだろうということだけは分かる。


「熱心に魔法の研究をしてるってのは本当なんだな」


小悪魔の言っていたことを思い出しながら、勢い良くパラパラパラっと本のページを飛ばしてめくっていると、ページの間からハガキくらいの小さな紙が落ちてきた。


「ん?」


本を閉じて床に落ちているそれを拾い上げる。


「何だ? 写真か何か…か……」


俺はその写真をゆっくりとめくり、そこに写っている被写体を目の当たりにして思わず…


「ぶふっ…‼︎」


吹き出した…


そこに写し出されていたのは金髪ロング美少女の入浴シーンだった。


盗撮されたものなのだろうか…湯けむりで隠されているとは言え、かなり無防備な撮られ方をしている。


(まぎ)れもなく見てはいけないものを見てしまった俺は、()ぐさま写真から目を()らし、さっきまで写真(これ)が挟まれていた本をペラペラとめくり始めた。


「どこだ…⁉︎ どこにあった…? 多分、真ん中の辺りだとは思うが…もっと後ろか…⁉︎ いや、それとも前か…⁉︎」


ざっと300ページはあるこのぶ厚い本の中で、写真の挟んであったページを見つけ出すのは不可能だと(さと)りながらも俺は、早くこの写真(危険物)を手放したいという一心でページをめくり続けた。


母親が思春期の子の部屋を掃除していた時、ベットの下からアレな感じの本を見つけた時の感覚がよく分かった気がする…


「兎に角、誰も来ない内に戻して、何もなかったことに…」


「おい、お前」


何もなかったことにしようとしていた矢先、突然背後から声を掛けられた。


俺はビクッとした勢いで、持っていた写真を本に挟んでパタンッと閉じると、それをバンッと机に叩きつけて振り返り、声を掛けてきた相手へと向かい合った。


「見てません! 見てません! 自分は何も見てませんからぁぁっ‼︎」


「はぁ…何がだ?」


慌てて手と首を横に振って弁解(べんかい)する俺に対し、声を掛けてきた本人は、あっけらかんとした顔で俺を見つめていた。


「って……何方様(どちらさま)ですか?」


「……それはこっちのセリフだ。 何なんだお前?」


そこに立っていたのは全身白黒カラーの服を着て、つばの広いウィッチハットを被った金髪の少女だった。


「って…貴女(あなた)、さっきの写真の⁉︎」


「は? 写真?」


「あっ…いや…何でもないです///」


目の前にいる少女がさっきの写真に写っていた人物であることに気づき、かなり目を合わせ(づら)くなってしまった。


「おい、大丈夫かよ…病気か? 顔が赤いぜ?」


「いや、本当に大丈夫ですから…気にしないでください。 そんなことよりも、貴女は?」


あまり深く追求されないよう、こちらから話しかけた。


「おいおい、人に名を()くときはまず自分から名乗るのが筋ってもんだろ?」


「おっと…これは失礼」


ニヤっと微笑みながら強めの男口調で話す少女に対し、俺は礼を正して執事らしく挨拶をする。


「自分は御社(みやしろ) (かなで)と言います。 先日からレミリア様の(めい)により一応、紅魔館(ここ)で執事として働いています」


「ほぅ〜新入りか。 それで、何で執事のお前がこんなとこにいるんだ?」


「ああ、それはですね…」


俺は少女に図書館で司書代理として働いている理由について簡潔に説明した。


「ふ〜ん、何か色々苦労してるみたいだな」


「はい…ここのところ毎日苦労の連続です」


呑気に話す少女に俺は心の内に溜め込んだ愚痴をほんの少しだけ(こぼ)した。


「それで、貴女は?」


「ん、私か? 私は『霧雨 魔理沙』。 普通の魔法使いだ!」


俺が名を(たず)ねると少女(魔理沙)は声高らかに自らの名を口にした。


「へぇ〜そうですか。 普通の魔法使いですか」


俺は普通の魔法使いに対して普通の反応で応えた。


「何だよ…リアクション薄いな〜。 お前、外来人だろ? もっと驚くとこだぜ、ここは」


「ああ…いや、もうそういうのは慣れたんで…」


『わがまま勝手な御子様吸血鬼、ドS超人メイド、酒乱小悪魔、ひねくれインドア魔女、妖怪居眠り門番、イカれ狂った妹吸血鬼』


こんなぶっ飛んだ面々の中で数日間も働き続けていれば徐々に物事の常識に対しての主観が変わっても無理はない。


もう今の俺からすれば、普通の魔法使いなんて…文字通り、ものすっごい普通なんだよ。


「ちぇっ…何かつまんねぇな…」


魔理沙は両腕を頭の後ろに回しながら小さく舌打ちをした。


「ははは…それで、霧雨(・・)さんは図書館(ここ)にどう言った御用で?」


「あぁ…? 何だ霧雨さんって…普通に魔理沙って呼べよ」


「え…? しかし、初対面の相手にそれは…」


普段からバイト先でも仕事仲間は苗字で呼び合っている上、初対面の女性に向かって、いきなり下の名前で呼ぶというのはなかなか抵抗があった。


「別に私は呼び捨てでも気にしないぜ? そっちの名前で呼ばれるのは慣れてないし、私自身も何か気に入らないんだよなぁ…」


「いや、貴女が気にしなくてもこちらが話し(づら)いと言いますか…」


「それに、その不自然な敬語もよせよ。 お前、絶対無理してるだろ? わざと敬語で話そうとしてる感がすごく伝わってきて、何か気持ち悪いんだよ…」


魔理沙は俺の心情を見抜いたのか、そんな指摘をしてきた。


確かに、明らかに年下の少女に向かって敬語で話すのはバイトをしていたころからかなり不自然に感じていたし、無理をして敬語にしようとしているというのも、あながち間違いではなかった。


「私は確かにお客様だ。 でも、私はそんな余計な気遣いは好きじゃない。 だから、お前には気なんて遣わずに普段通り接して欲しいんだよ。 まぁ、普段からそんな感じってんなら別だがな」


魔理沙は俺に普段通りの対応を要求してきた。


これは執事としての俺ではなく、俺個人に対して言っているのだろう。


『そんな風にお客様に接するのは失礼です』と断るべきなのかもしれないが、来客の要望を聞き入れるのもまた執事として当然のことなのかもしれない。


しばらく悩んでから、俺は自分の意思で魔理沙へと応えた。


「……分かったよ。 俺もどちらかと言うとこっちの方が話しやすいしな。 これでいいだろ?」


「何だ、やっぱりそうやって話せるじゃないか。 ああ、そっちの方が私も話しやすい。 そうしてくれ」


魔理沙は俺がタメ口で話し始めると、先より明るい笑顔で話した。


「で、魔理沙は図書館(ここ)に何の用だ?」


パチュリーに用事なのか、それ以外の誰かに用があるのかを俺は魔理沙に(たず)ねた。


「いや、別に誰かに用があるわけじゃあない。 私はただ本を借りに来ただけだからな」


「本を借りにって…図書館の一般開放は昨日だけじゃなかったか?」


パチュリーの話によれば本の貸し出しは昨日で終了し、今日は事務仕事がメインだと聞いていた。


「ああ、それな。 昨日は私もビックリだぜ。 まさか、あのパチュリーがここの本を里の連中に貸し出すなんて思ってもなかったからな」


「ん…? 定期的に貸し出してるわけじゃないのか?」


「あぁ? あの引きこもりのコミュ障がそんなことするかっての。 毎日本読んで茶飲んで菓子食って寝てるだけだからな、あいつ」


はっはっはっと笑いながら魔理沙はパチュリーに対しての悪態(あくたい)をつく。


「そうなのか…? じゃあ、何で突然貸し出しなんて?」


「さぁな? 最近は里でも貸本屋がブームになり始めてるし、それに感化(かんか)されたか、もしくはお前に大変な仕事を押し付けたかったからじゃないのか?」


「あぁ……」


十中八九、後者な気がする…


「じゃあ、私は勝手にその辺で本選んでるから、お前は自由にしてるがいいさ」


魔理沙はそう言って箒を本棚に立てかけると、既に何かが包んである風呂敷を肩から降ろし、辺りの本を物色し始めた。


「勝手にって…本の貸し出しはパチュリー様に訊いてからじゃないと…」


「ああ、いいっていいって私はあいつの友達だからさ。 私が何も言わずに本を拝借しても別に何の問題もない! 私は特別なんだ」


魔理沙は得意げな笑顔で本を手に取りながらそう言った。


「そう…なのか?」


「ああ!」


俺がもう一度(たず)ねると魔理沙は(にご)りのない笑顔で返事をした。


「そうか、なら好きにしてくれ」


あのパチュリーにこんな陽気な友達がいたことには少し驚きだったが、見たところ、それほど悪い奴でもなさそうなので俺は自由に見回ることを(こころよ)く了承した。


「うん、言われなくてもそうさせてもらうぜ。 お前も、ただパチュリーを待ってるだけなら何か本でも読んでたらどうだ?」


「ん? ……ああ、そうだな」


本を読むように(すす)められて、さっきの写真の光景がもう一度頭の中に浮かび上がる。


俺は咳払(せきばら)いをして魔理沙から目を遠ざけると、その辺りにある本でも読んでいようと辺りの本を探り始めた。


「お?」


何か自分でも読めるような手頃で面白そうな物はないものかと、机の周りをウロウロしていると、机から少し出された椅子の上に新聞が置いてあるのに気がついた。


「新聞か…まぁ、いいか」


普段からあまり新聞を読むような生活を送っておらず、どちらかと言うと政治経済、スポーツ、社会情勢には見向きもしない(たち)だが、こちらの世界の新聞にはどんなことが書かれているのか興味はあった。


俺は少しだけ読んでみようと思い、四つ折りにされた新聞を手に取ってその場で広げてみた。


文々(ぶんぶん)…ん? …何だ、この読点(とうてん) ……何新聞?」


『文々。新聞』と表記されたそれを、何と読んでいいのか分からなかった。


「まぁ、いいか…」


幻想郷(こちらの世界)独特の表記の仕方なのかどうか、そこにいる魔理沙に訊いてみてもよかったのだが、目が合うとまた一方的に気まずくなるので、あえてそこはスルーした。


「えっと…」


俺は取り敢えず目についた記事の見出しを走り読みで朗読してみた。


『サバゲー中の山童(やまわろ)が次々に襲われ軽傷者多数、現場に響く銃声の謎?』


『幻想郷アイドル時代到来⁉︎ 新ユニット続々結成の予感!』


『人間の里に瓜泥棒出没!犯人は片靴を残して逃走中の模様』


「………」


ハイカラなことからどうでもいいことまで、色々な種類の記事が載っていた。


「あっ」


その中で一つ見覚えのある人物の顔写真が使われている記事が目に入る。


『紅魔館に新人執事就職! 働くこととは生きることだ‼︎』


「俺、載ってる」


先日、文に取材を受けた時に撮られた『マジで殴られる30秒前』のガッツポーズをした俺が笑顔で記事に載せられていた。


「何だその記事? へぇ〜、いい顔で写ってるじゃないか」


新聞に目を落としていると、幾つかの本を手に抱えた魔理沙が横から新聞を(のぞ)くようにして話しかけてきた。


「…まぁな。 取材なんて初めてだったからちょっと緊張したけど、良い風に写っててよかったよ」


(あいつ)は写真の腕だけはいいからなぁ。 まっ、記事に欠陥(けっかん)があるから全部台無(だいな)しだけど」


魔理沙は小さく(つぶや)きながら机の上の本を何冊か手にとって行った。


「欠陥…?」


俺は再び記事へと目を落とす。


『紅魔館の執事として現在奮闘中の奏でさん。 (つら)い仕事とは言いつつも、大勢の女性達に囲まれて毎日ウハウハの紅魔館ライフ! 当人も「これが自分の生き甲斐です」とコメント。 上司に、同僚に、先輩に、お嬢様、夢のハーレムエンドは間近か⁈』


「………」


俺は記事の内容を朗読して言葉を失った。


「どうだ? 何か面白いことでも書いてあったか?」


黙って記事を見つめる俺に魔理沙が訊いてくる。


「いや…面白いってか…。 すっごいピンクに着色されてるんだけど⁈」


「ああ、なんだ…いつも通りか」


「あの人の新聞って…いつもこうなのか?」


「うん、あいつの書く新聞は8割以上嘘だと思った方がいいぞ。 大体個人主観で面白くなるよう割り増しされてるからな」


8割どころか、ほぼ全て変えられている辺りを遺憾に思いながら、俺の中で文に対する印象が少し変わった。


「まぁ、文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)はいつも根も葉もない感じで、面白半分に見てるやつばっかだから、何書かれててもあんまり気にすんなよ」


はははっと笑いながら魔理沙は励ましの言葉をかけてくる。


「………」


俺はこんな、くだらないやりとりに、何故(どこ)か少しだけ懐かしさを感じていた。


「ところでさ?」


魔理沙は床に敷いた風呂敷(ふろしき)に本を置きながら話しかける。


「お前は明日の宴会には来ないのか?」


「宴会?」


「ああ、明日は博麗神社で宴会があってな。 てっきり紅魔館のやつらも皆来ると思ってたんだけど…伝わってなかったのか?」


「いや、別に何も聞いてないけど。 ん…博麗神社…?」


どこかて聞き覚えのある神社の名前を耳にして、忘れようとしていた記憶が(かす)かに蘇る。


「そうなのか? じゃあ、今(さそ)ったからお前も来いよ」


「いや、待て待て。 上の人の許可なしでは何とも返事できないから…第一、それは何の宴会なんだ? 俺なんかが参加して良いものなのか?」


神社で行われる宴会と言ったら、きっと神聖なものなのだろう。


そんな場所に部外者の自分が、のこのこと入って行って良いとは思えなかった。


「全然構わないって。 今回の宴会は霊夢の気まぐれで開かれるものだし、誰が来ても文句なんて言いやしないさ」


「…宴会って、気まぐれで行われるものなのか?」


再度新聞に目をやると、『博麗の巫女、歓喜の棚ぼた宴会! 明日開催予定』という小さな記事が載っているのに気がついた。


「まぁ、今回の宴会は特別なんだよ。 何か神社の賽銭箱に思わぬ臨時収入が入ってたとか何とか?」


「………」


神社、巫女、賽銭箱、と言うキーワードが俺の記憶のトラウマを呼び起こした。


「霊夢が言うには、何だったかな~…。 確か…」


魔理沙は頭に思い浮かべながら回想を語りだす。


『昨日、賽銭箱にかなりの大金が入ってたのよ~! これで、久し振りに飯や酒に在り着けるわ! これも、日頃の行いのおかげかしら? いや〜私って本当にツイてる女よね!』


「とか何とか言ってたっけ? はははっ、全く律儀(りちぎ)な大馬鹿野郎もいたもんだぜ、博麗神社の賽銭に大金入れるなんてさ。 爆笑もんだぜ、ははははっ!なぁ?」


「ははははっ…そうだな……」


その大馬鹿野郎に俺は物凄(ものすご)く心当たりがあった。


「つまり今回の宴会は、その正気の沙汰じゃない大馬鹿野郎の粋な計らいで調子に乗った霊夢が、感極(かんきわ)まって開くものらしいから、もし都合がついたら来いよ。 歓迎するぜ」


粋な計らいをしたつもりは全くないんだがな…


「そうだな…。 一応レミリア様には話してみるよ。 まぁ、行けるかどうかはそれ次第だな」


「そうか。 まぁ、紅魔館(ここ)で働いてるんだもんな…無理もないぜ」


魔理沙はそう言うと風呂敷包みをキュッと縛って箒にくくりつけた。


「じゃあ、私はこれで失礼するぞ。 一回家に戻ってから明日の宴会の準備があるからな。 パチュリーによろしく伝えといてくれ」


魔理沙は近くの窓を開けると手に持った箒に(またが)って浮かび上がった。


「ああ、分かった。 じゃあ、パチュリー様にはよろしく言っ…と……く?」


俺は新聞から目を()らして窓から飛んで行こうとしている魔理沙に別れの言葉を掛けようとしたのだが、魔理沙が背中に背負(しょ)っている物を見て言葉に詰まった。


「なあ、魔理沙…その、背中のは何かな?」


俺は平常心を装い、優しく魔理沙に問いた。


「あっ、これか? 良いだろ〜。 さっきここに来た時、偶然見つけたんだよ。 おっと、中については教えられないぜ。 色々興味深い物が入ってるとだけ言っておこう」


「ほぉ〜。 そうかそうか〜…ところで魔理沙はこの館に来た時、どこから入って来たんだ?」


「ん? ああ、入ってくれと言わんばかりに開けっ放しにしてあった窓があったから。 そこからお邪魔したが、それが何だ?」


魔理沙は知らず知らずの内に、俺の問いに対して自白し、証拠は全て(そろ)えられた。


「何だ、さっきから? はっ、まさかこれが気に入ったからよこせとでも言う気か? ダメだぞ、これは私が目をつけたんだからな、お前には絶対やらん!」


「絶対やらん…ってか……。 それ、俺のだしー‼︎」


ふつふつと湧き上がる感情に任せて俺は右手人差し指を魔理沙に突き出して叫んだ。


「………」


静かな図書館全体に響くほどの俺の怒鳴り声に、魔理沙は真顔で硬直していた。


そして、しばらく無言で見つめ合っていると魔理沙の顔が少しずつ緩み始め、満面の笑みを浮かべると


「気にするな」


と言って、猛スピードで窓の外へと飛び出して行った。


「なっ⁉︎ ちょっ待て‼︎」


慌てて窓に駆け寄るが、そこには既に魔理沙の影はなく、晴天の空が清々しく広がるのみだった。


「………マジでか?」


俺はショックからしばらく頭が混乱状態に(おちい)った。


魔理沙が図書館(ここ)に来た時から、あの風呂敷の中にはきっと俺のリュックが入っていたに違いない。


魔理沙と目を合わせないようにしていたためか、俺は全くそのことに気づいてはいなかった。


「ヤバイな…あれには高価なものばかり入れてたのに…」


財布やキャッシュカードはもちろん、携帯電話や詳細の分からない古臭い本まで、貴重品は全てあの中に固めて入れていた。


「どうするどうするどうするどうするどうする…?」


俺は今だ困惑し、かなりパニクッていた。


どのくらいかと言えば突然自分のドッペルゲンガーが目の前に現れてテンパるくらいにパニックに陥っている。


いやまて、そもそもドッペルゲンガーが出てきたらどのくらいパニクるかってわかるのか?


いやわかんない、まずわからん。


じゃあどのくらいパニクってるんだ?


いやそもそも俺は何故そんな例えを出したんだ? 意味不だ。


「……何をしているの?」


そんな時、困惑中の俺の背後からパチュリーが声を掛けてきた。


「はっ、パチュリー様⁉︎ 今までどちらに?」


「ちょっと、レミィのところに用があって…。 貴方こそ、そんなところで狼狽(うろ)えてどうかした?」


パチュリーは椅子に腰掛けながら(たず)ねた。


「っ、そうでした!」


俺はパチュリーに、魔理沙がここに来ていたこと、数冊の本とリュックを持って行かれたことを伝えた。


「パチュリー様は魔理沙と友達なんですよね? 何とか言って取り返してもらえませんか?」


「誰が友達よ…。 そんなこと言われても…いつも勝手に現れて、勝手に去って行くから話し合いになんてならないわよ…。 まぁ、(あきら)めなさい」


「それじゃあ、困りますって! じゃあ、こちらから取りに行くというのは? 魔理沙の家は何処(どこ)にあるんですか?」


「魔法の森よ。 でも、貴方一人では危険すぎるわ。それに、今日も仕事が()まっているんだから貴方にはここにいてもらわないと困るの。 というより、そんなとこで突っ立ってないで、早く仕事に取り掛かりなさい」


パチュリーはそう言って読みかけの本を読もうと椅子を引き、机へと向かい合った。


「………ん?」


パチュリーは机を見渡して疑問の声を漏らす。


「あぁ…クソっ、仕事なんてしてる場所じゃないのに…」


「奏…ここに一冊だけ置いてあった本を知らない?」


パチュリーは机の中心を指して俺に訊いた。


「はい…? …はっ…読んでませんよ! 俺は少したりとも読んだり、開いたりなんてしてませんよ⁉︎」


パチュリーは例の危険物(写真)が挟まれた本のことを言っているのだと俺は瞬時に(さっ)し、(しら)を切ろうとした。


「いや…読んだかのかどうかは別にして、ここ本があったことは知ってるのね?」


「ああ、はい。 その本ならさっきまでそこにありましたよ」


「さっきって、どれくらい前まで?」


パチュリーが少しずつ落ち着きを失いながら俺に(たず)ねる。


「え〜と…魔理沙が来る前までは確実にそこにありましたが…?」


「じゃあ、何で今は|《机の上》ここにないのよ?」


「え? 自分は知りませんよ。 というか…失くなってるんですか?」


「……ええ」


パチュリーと俺はしばらく見つめ合い、互いに今の現状を心の内で整理し直した。


「もしかして……盗まれた?」


「……ですかね?」


静かな図書館が更に深い沈黙に落ちる。


「…ふ……ふふふふ」


「……は…はははははは…」


二人は、何故(なぜ)か乾いた笑顔で笑い合う。


「ふっ、ふふふふふっ…はぁ〜〜…奏ぇぇぇ‼︎」


「はっ、はいぃぃぃっ⁈」


パチュリーは不気味に笑ってから一度深呼吸をすると、俺の名を怒鳴りつけて呼んだ。


「さっさと魔理沙の家まで行って取り返してきなさい! ほら、今すぐ‼︎」


パチュリーはこれまで見たことのないくらいに錯乱して俺に命令した。


「はっ、はい…! あっ…でも先程、一人では危険だと…それに仕事の方は?」


「門で眠りこんでる役立たずでも連れて行けばいいでしょ⁉︎ 仕事なんて後回しよ! レミィには私から言っておくから、早く行ってきなさい‼︎」


パチュリーは凄い剣幕(けんまく)で俺に門へ急ぐように言った。


「はい! (かしこ)まりました! すぐ行ってきます」


「ああ、奏ちょっと待ちなさい」


俺が図書館から出ようとすると、後ろからパチュリーが声を掛けて呼び止めた。


「はい、何か?」


「貴方たち二人だけでは不安だから、もう一人強力な(すけ)()を呼んでおくわ。 美鈴と合流したら、しばらく門の前で待っていなさい」


「はい、分かりました。 では、行ってきます!」


パチュリーの言葉を(しっか)りと聞き入れ、俺は図書館を後にして門へと急いだ。



「さてと…」


奏が門へと向かってからパチュリーは急いで自室へと戻り、棚から大きい水晶玉を取り出してそれを宙に浮かべていた。


「しばらく使っていなかったから、ちゃんとできればいいけど…」


水晶玉を使用した伝達魔法。


大昔から魔女の代表的な連絡手段として使われてきた実に古典的な通信方法であり、魔女と魔女の間でしか使われないため最近は殆ど使われることがなく、水晶玉にはかなり(ほこり)が被っていた。


パチュリーは水晶玉を綺麗に磨くと、玉に魔力を込め始める。


(ひじり)(ひじり) 白蓮(びゃくれん)、聴こえる? 聴こえたら返事をしなさい」


水晶玉は徐々に光を持ち始め、その中には少しずつ人型の映像か映し出された。


『あら〜、伝達魔法ですか? 懐かしいですね。 あら? これ、どう使うんだったかしら…? もしもし〜…? あら…?』


水晶玉に映し出された映像は通信相手の聖によってグルングルンと回転させられていた。


「逆よ、逆! 違う、持っと右に回しなさい! あ〜…もう! 地面置くか、浮かせればいいでしょ⁉︎」


パチュリーは聖の行動にイライラさせられながら早くするように指示を出した。


『ごめんなさいね。 しばらく使ってなかった物だから…使い方が分からなくて……』


「まぁいいわ。 そんなことより、貴女に少し頼みたいことがあるのだけど?」


『あらあら、貴女が私に連絡なんて珍しいと思ったら…何か困りごとですか?』


パチュリーは魔理沙に奏の大切な荷物と自分の愛読書が盗まれたことを告げた。


「という訳で、貴女の(ところ)に探し物の捜索要員が居たわよね? できれば、協力を(あお)ぎたいのだけれど?」


『成る程…青年が困っているのであれば、やぶさかではありませんね…。 はい、こちらもできる限り助力(じょりょく)(いた)しましょう』


聖は困っている人がいると聞くと快く協力の申し出を引き受けた。


パチュリーは、始めからこう言えば聖が申し出を引き受けるだろうということを心の内で察していた。


「ありがとう、この借りはいつか返すわ」


『いえいえ、そんな御礼を言われるようなことではありません。 それに、情けは人の為ならずですよ。 その仮は私ではない誰かに返してしてあげてください。 この世はそうして(まわ)っているのですから』


情けは人の為ならず。


皮肉にも元々は自分の為だけに妖怪を救っていた彼女が使うにはピッタリのことわざだとパチュリーは思った。


「そう…じゃあ、協力者には大至急紅魔館の門まで来てもらうよう伝えておいてもらえるかしら?」


『はい、分かりました。 では、通信を切りますね〜。 …あら? これ…どう切るのかしら…? ここを…こうして? あっ、こっちをこう…?』


「……もう、こっちから切るから早く伝えてきてもらえない?」


『ああ、大丈夫ですよ。 直ぐに消せますから。 えっと…これをこう…あっ、ここを……ああっ! 分かりま……』


『分かりました』という途中で聖からの通信が途切れてしまった。


「……どんだけ魔法音痴なのよ…」


『封印された大魔法使い』が聞いて呆れる…



門に到達30分後。


「遅いですね…。 助っ人の方」


「奏さんは誰が助っ人に来るか聞いていないんですよね?」


「はい、急いでましたから聞く暇はありませんでした…。 まさかパチュリー様があそこまで取り乱すとは…」


「ん〜…よっぽど盗まれた本が大切だったんでしょうね?」


「………」


大切なのは本ではなく、その中に挟まれた写真なのだろうとは(さっ)しつつも、俺は黙って助っ人を待ち続けた。


「あっ、奏さん。 助っ人の方って、もしかして、あの人じゃないですか?」


美鈴は指で上空を指して俺に訊いてきた。


「えっ?」


その指差す方向に目を向けると、奇妙な耳と尻尾の生えた幼げな少女が、空からゆっくりとこちらに向かって舞い降りて来ているのが分かった。


「白蓮に頼まれて来たんだが…。 君たちかい? 私をここに呼んだのは?」

奏•フランドール:「次回予告コーナー!」


フラン:「ねぇ、奏。 何か最近私の出番が少ない気がするんだけど…どう思う?」


奏:「いきなりメタいですね…妹様」


フラン:「だって…。 私、浴室の鏡を破壊してからと言うもの、夕食で顔合わせたくらいしか皆と絡みがないのよ? だから、もっと皆と楽しく遊びたいなって、ね?」


奏:「ね、って言われましても…。 妹様は普段から館内を徘徊されてるって聞きましたし、美鈴さんとも楽しく遊ばれているではありませんか?」


フラン:「あーあ、そんなこと言って。 奏まで私を除け者にするのね…」


奏:「え? いや、そんなつもりはありませんが…」


フラン:「ふん! どうだか?」


奏:「……妹様…それ、わざとやってません?」


フラン:「あっ…バレた?(てへぺろ)」


奏:「ええ、何か…言い方が露骨だったので……」


フラン:「うん、ああでも…皆と遊べなくて寂しいって言うのは本当だよ?」


奏:「大丈夫ですよ、皆妹様のことを除け者になんてしてませんから。 それに、いつか皆で遊べる回も、そう遠くはないかもしれませんよ」


フラン:「うん、だと…良いけどね」


奏:「……さぁ! 気を取り直して次回予告ですよ妹様。 次回は遂に集結した捜索隊が魔理沙の家を探して盗まれたリュックとパチュリー様のアレを取り返しに行く回です」


フラン:「成る程、魔理沙はまた大変な物を盗んで行ったんだね?」


奏:「まぁ、確かにある意味大変な物ではありますが…って、そのネタはあまり使わないでください…」


フラン:「それに、新たにやって来た助っ人にも注目ね」


奏:「おお、真面目に進行をして下さって、ありがとうございます」


フラン:「確かミ○キー○ウスの親戚の子か何かだよね?」


奏:「あーあー‼︎ 妹様、それ以上はヤメテ下さい! ネタバレ以上にまずいことになりますから!」


フラン:「ちぇっ…」


奏:「ちぇっ…、じゃないですよ! 何、舌打ちしてるんですか⁉︎」


フラン:「だって…つまらないんだもの」


奏:「つまらないからって、色々危ない発言しないでくださいよ…。 二次創作とは言っても限度と言うものがあるんですよ?」


フラン:「奏だって、色々そういう発言してるじゃない…?」


奏:「ぐ……とっ、兎に角。 今回はこれで終了させていただきます! では、後編もお楽しみに」


フラン:「あーあ、残念…終わっちゃうのね。 折角出られたのに…」


奏:「そういじけないで下さい…」



ーーー



※今回本編に「東方茨歌仙」や「東方鈴奈庵」に関するワードが出てきましたが、この小説内本編の紅魔館ではゴブリンは働いておりいせん

また、お嬢様はツパイなどという名の奇怪な生物も飼っておりませんので、あしからず

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