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プロローグ2 「実家へ」

句読点の位置がおかしい箇所も多く見受けられます…。


予めご了承下さい。

夏休み十日目。


実家である寺の鳥居の前で俺は立ち尽くす。


「久しぶりだな……本当に」


二日前に氷梶也から旅行についての連絡が入った。


「もしもし、奏? 喜べ! 旅行の日程が決まったぜ! 日程は色々用意出来てないだろうから、余裕を持って二週間後。 集合時間と場所は朝の6時に大学の最寄駅のホームで待ち合わせな。 いいか、遅れるなよ。 じゃあな~」


随分一方的で淡々と口にした氷梶也は、それだけ告げて即座に通話を切った。


どれだけ妖怪探索旅行を楽しみにしているのやら……


少なくとも俺の何倍も、それを楽しみにしているのは、まず間違いないだろう。


それはそれとして。


今度の旅行時に必要となるであろう道具を調達するため、約三年ぶりにこの場所に帰って来ることとなった。


「さて、爺さんに何ていうかな……?」


家を勝手に出て行って、帰って来るのは本当に久しぶりな上に、連絡もこれまでまともに取ってはいなかった……


しかも、帰ってきた理由は、ただ道具を取りに来ただけ。


それで『ただいま』と、いきなり帰ってきて、なにも言わず穏便に出迎えてもらえる筈がない……


見つからずに取りに行くというのも出来なくはないだろうが、道具が何処に置いてあるのかも分からないため、闇雲に探したとしてもかなり時間が掛かりそうだ。


この後は以前見事に大遅刻を果たしたバイト先にシフトが入れてあるので出来るだけ時間を使いたくはない。


「店長……次遅刻したら給料五割カットとか言ってたしな~……。 はぁ~……何にしても顔見せない訳にはいかないか」


そう口にして重い足を動かし、本堂の方へ向かう。


やたらと広い境内に人は見受けられず、誰にも気づかれることなく侵入完了。


まあ、別に盗みに来たわけではないのだからこそこそする必要はないのだけれど……


本堂にたどり着き、取り敢えず笑顔を取り繕って元気よく挨拶をしながら障子戸を開く。


「ただいま~! 」


少々身構えて返答を待っていたが俺に挨拶を返してきた人物は、爺さんではなかった。


「ん? やあ、奏君じゃないか! 久しぶり、元気そうだね」


「あれっ、樹希さん?ああ、お久しぶりです」


 本堂の中に居たのは近所の神社で神主をしている『今宮(いまみや) 樹希(たつき)』さんだった。


昔はよく遊び相手になってもらったり、爺さんの修行を抜け出して度々(かくま)ってもらったりしたのをよく覚えている。


今は神社を継いで神主になっているが、二十代後半とまだ若い。


言うなれば、俺の兄さんの様な存在だ。


「三年ぶりかな? 玄司さんに『奏の奴が出て行きおったわ! 』と聞いた時はとても驚いたよ。 大丈夫だったかい? 」


「ええ、まあ何とか生き延びています……。 それより、樹希さんは何で家に……って、まあ聞かなくてもなんとなく分かりますが……また掃除させられているのですか? 」


「はははは。 ん〜、まあ『させられてる』になるのかな? でも、仕方ないよ。 そうゆう仕来たりの様なものだからね」


そう、この御社家の仕来たり『決して、神に触れることなかれ 』それが家の仕来たりと言うか、掟のようなものだった。


ガキの頃から爺さんに何度も注意を受けたことの一つだ。


これについて、なぜ触れてはいけないのか? というのを当時、爺さんに一度だけ聞いてみたことがある。


しかし爺さんは『由緒正しき我が御社家が古くから守ってきた掟なのだから、破るわけにはいかん! 』の一点バリだった……


どうやら、爺さんもこの掟の深い理由については知らなずに守り続けているらしい。


由緒正しい割に、まるで歴史上から抹消されようとしているかのように文献も伝承もあまり残っておらず、伝言ゲームレベルの掟である。


しかし、逆にそれだけが現代まで消えずに語り継がれてきているからこそ、守ろうとする意識が強くなっているのかもしれない。


だが、そんな掟があるからこそ、俺たちの家系の者は仏像に触れることを許されず、近所の寺の人に掃除など頼んでいるというのが現状だ。


けれど俺自身は、そんな抽象的な理由で守られている掟に従おうなどという考えは毛頭無く、自分の家のことを他人に押し付けるのは気が引けていた。


「俺も手伝いますよ。 樹希さんだけに任せるのはやっぱり悪いですし」


バイトが始まるまでにあまり時間はないのだが、どこへ行ったのか分からない爺さんが戻って来るのをただ待っているよりも掃除を手伝った方が良いに決まっている。


「いや、いいよ。 僕は掃除するのは嫌いじゃないし、あまり気にしてはいないから。 それに、もし玄司さんに知られたりしたら、凄く怒られるだろうし」


やっぱり断られた。


当たり前だ。


家の人間が掃除出来ないから、わざわざ来てもらっているのだから、俺が手伝ったりなんかしたら樹希さんに頼んでいる意味がなくなる。


まあ、この人はそんなことよりも掟の方を気にしているのだろうが。


「平気ですって。 掟って言っても何か起きる訳じゃないでしょうし。 大体、神に仕えてる身でありながら、仏像に触れちゃいけないなんていう方がおかしいんですから」


そう言いって、俺は本堂の中へ足を踏み入れた。


だがその刹那、背後から突然大きな叫び声がする。


「それは、ならーーんっ! 」


その声は衝撃へと変わり俺の背中の中心部目がけて襲ってきた。


「ぐぉっ! 」


苦痛の声を上げながら、前方に跳ばされる様に二回転程して倒れこむ。


「奏君……大丈夫……? 」


「はい……なんとか……」


咄嗟のことに完璧な受け身を取ることは出来なかったものの、頭や首への衝撃は何とか軽減することが出来た。


背中の中心の辺りがズキズキと痛むがバイトや旅行に支障はないだろう。


日頃からバイト三昧で、体はそれなりに鍛わっているようだ。


「奏! 貴様、幼少期から叩き込んだ我が御社家の掟を、まさか忘れたわけではあるまいな⁉︎」


いきなり人の背中に跳び膝蹴りを喰らわし、怒鳴りつけてきたこの人物こそ、御社家現当主であり俺の祖父『御社(みやしろ) 玄司(げんじ)』である。


「よぉ、久しぶりだな爺さん……不意打ち蹴りはかなり効いたぜ。 確かに忘れてはいないが、あんなもんをいつまでも馬鹿正直に守り続けてても意味があるとは思えねぇんだよ」


フラフラな身体を起こしながら、好戦的な視線を爺さんに向ける。


「それに、内輪だけならともかく、樹希さんにまで迷惑掛かってんじゃねえか! ですよね、樹希さん?」


「いや、別に迷惑だとは思ってないんだけどね……」


どこまでお人好しなのか、この人は……


「何度も言い聞かせたであろうが! 我が御社家は陰陽道を志した者の末裔であり、古くから人間に害を及ぼしてきた妖怪や鬼、悪霊等を封じてきたという由緒正しき……」


ああ……始まった……


爺さんは理解不能な話を延々と繰り返す傾向がある。全国の校長も真っ青だ。


こういった神やら陰陽道やらの話を何度も聞かされ続け、理解出来ない掟に縛られ、毎日毎日次期当主となる為の修業を強制される日々……


そんな決められた宿命に従うことに嫌気が差し、俺は数年前この家を出て行こうと決意した。


「あああっ! もう、いいから! そういう話はもう聞き飽きたから! 俺が悪かったよ。 すみませんでした!」


話が本格的に長くなる前に、無理矢理話をブッ手切った。


こんな話を真面目に聞いていては日が暮れてしまう。


タイムリミットが刻々と近づく今、一分たりとも無駄な時間を費やすのは愚者の所業。


給料の五割が掛かっているのだ……流石にもうバイトに遅刻するわけにはいかない。


時は金なり、金は命より重いのだから。


「聞き飽きたとはなにごとだ⁉︎ 貴様はこの御社家次期当主となる身なのだぞ! 少しは自覚せぬか! この戯け者が! 」


爺さんはかなりご立腹な様子だ……


しかし、ここまで一方的では俺も反論せずにはいられない。


「誰が次期当主だ! 勝手に決めてんじゃねえよ! そんな掟や使命に縛られるのは御免だ。 俺は絶対にこんな家業を継いだりなんかしないからな!」


「まぁまぁ、奏君も玄司さんも落ち着いて下さい。 二方の(おっしゃ)ることもわかりますがこのままいがみ合っていても(らち)があきませんよ? 」


話が本格的にややこしくなる前に、さっきから完全に蚊帳の外であった樹希さんが救いの手を差し伸べてくれた。


「これは樹希殿、見苦しいものを御見せしてしまい大変申し訳ない……これっ、お前も謝罪せんか! 」


流石の爺さんも、樹希さんには弱いらしい。


「ああ、わかってるよ。 すみません樹希さん……」


「いえいえ、僕に謝って頂く必要はありませんよ。 それより奏君、玄司さんに話があるんだよね? 立って話すのもなんだし、お茶でも淹れてこようか? 」


「いえ御気遣いなく。直ぐに済みますから」


「ん? なんじゃ奏、儂に何か話があるのか? そんなことよりも、暫く連絡も寄越さず何処で何をしておった? 帰って来たということは遂に我が御社家の家業を継ぐ気になったか? 」


さっき、おもいっきり大否定したばかりだろうが……


人の話はちゃんと聞いた上で覚えてろよ……何だ? もう老化後期なのか?


「いや、違うよ。 実は、氷梶也から旅行に誘われてな。それで登山道具が必要らしいんだ。爺さん昔、親父がそういうの好きだったって言ってただろ? だから、今日はただ道具を取りに来ただけだ。 で、荷物は何処に置いてあるんだ?」


「氷梶也……? おお、昔お前とよく一緒に遊んでおったあの坊主か? ほう、元気にしておったか。 最近全く顔を見ておらんかったからの。 確か、おぬし等、高校は別であったであろう? なんじゃ、まだ昔のように三人で遊んでおるのか? 」


「氷梶也とは大学が同じなだけだ。最近は殆ど遊んでなんていない。それに、あいつとは出て行ってから会ってねぇし……というか……早く道具の場所をーー


「何⁉︎ お前大学へ行っておるのか? 学費等はどうした? 人様に迷惑を掛けるような真似はしておらんだろうな⁉︎」


「バイトだバイト! バイトして学費から生活費まで(まかな)ってんだよ! 他人に迷惑掛けるような真似はしてねぇから安心しろ! ってか、これからバイトのシフト入ってるからあんまり時間掛けさせんな! サッサと道具の場所教えろよ、このクソ爺! 」


怒りと焦りからか、つい本音が出てしまった……


「貴様っ! 実の祖父に向かって‘‘クソ爺”とはなんだ! そこに直れ、ひん曲がった根性、叩き直してくれるわ! 」


あっ……パターンはいったなこれ……


「いい加減になさい、二人とも! いつまで不毛な争いを続ける気ですか! 」


樹希さんが畳をドンッと蹴りつけて声を荒げた。


「…………」


「…………」


普段優しい人ほど怒ると怖いと言う。


俺も爺さんも、なかなか話を切り出せなず、互いにお前が先に話せよ的な視線を送りあった。


「……楓真(ふうま)の道具ならば、宝物倉にある筈だ、勝手に持っていくが良い」


「ああ……わかった。 ありがとな、爺さん」


俺はそう返事をして、障子戸の方へと近づく。


「では、樹希さん色々とご迷惑おかけしました……これで、失礼します」


「いや、良いよ気にしないで。 また何時でも帰っておいで」


「はい……また暇な時にでも帰って来ますよ。 それと……じゃあな、爺さん」


樹希さんに謝罪を済ませ、爺さんに別れを告げた俺は本堂を後にしようとしたが。


「奏……」


「何だよ? 爺さん」


爺さんに呼び止められた。


まだ俺に何か用だろうか?


「お前……本当にこの御社家を継ぐ気はないのか? 」


何度も繰り返される同じ問いに、もう反論する気にもなれなず、俺は内心で落胆しながら、黙って爺さんの話を聞き続けた。


「以前お前にも既に話したとは思うが、お前の霊感……と言うより、霊能力はかなりのものだ。 それこそ儂や、お前の父である楓真さえ(しの)ぐ程の力をお前は内に秘めておる。 しかし、それと同時に、お前は未熟過ぎる。 自らの内に秘める力の強大さ、そして、恐ろしさをお前は全く理解しておらん。 それにその力を抑え込む(すべ)すらもな……」


「…………」


「しかし、お前はそれを学ぶことで自らの力に打ち勝ち、その力を以って多くのモノを守ることも可能となる」


爺さんが何を言いたいのか、俺にはやっぱり爺さんの話は難し過ぎて理解することは出来なかった。


「奏、我が御社家で人ならざる者の力を封じることが出来る者は、もうお前しかおらん。 考え方を改め、今一度修行し直し、御社家当主としてこの家を継ぐ気はないか? 」


これまでになく爺さんが本気で話を持ちかけてきていることは、その場の雰囲気だけでも、嫌と言う程にわかる。


しかし、どんなに説得され続けても、この家に戻る気など俺には微塵もないという事実は変わることがなかった。


「悪いな……爺さん。 今更、幾ら言われても俺に考えを変える気はない。 俺は俺のしたいことをして、好きに生きる。 ただそれだけだ……」


「そうか……わかった……呼び止めたりして、すまなかったな。 ……旅行、楽しんで来きなさい 」


これまでとは違い、随分簡単に爺さんは引き下がった。


「ああ……」


俺はただ一言そう返事をし、本堂を後にした。


「……したいことをして、好きに生きる……か……ははっ……一体俺は何がしたいんだろうな?」


自問しつつ、宝物倉へ向かうが、その答えが返って来ることはなかった。

読んで頂いてありがとうございました。


旅が始まるまでは、東方とは全く別の世界観で書き進みます。


色々な伏線や設定付けを固めていくと、この様な形となってしまいました…。


東方キャラを期待されている読者の方々には実に申し訳ありませんが、ご了承下さい。

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