第三話 後編
大変長らくお待たせ致しました
一月ぶりの投稿となり、かなり緊張してます…
腕はかなり落ちたでしょうね…
途中分かりにくい箇所や、変な箇所があったらすみません
またいつか修正しておきますので、なにかありましたら指摘お願いします
それでは、どうぞ
「お嬢様、奏を連れて参りました」
「御苦労」
咲夜に連れて来られた場所は、ここに来て一番初めに二人と話をしたあの部屋だった。
あの時は暗くてよくわからなかったが、今は天井や壁のステンドグラスから辛うじて漏れ出した光が部屋を照らしており、二日前に訪れた時よりも部屋全体が随分広く感じられた。
「おはよう、奏。 どう? 仕事にはもう慣れたかしら?」
相変わらず体に不釣り合いな大きさの玉座に腰掛けながらレミリアは声をかける。
「おはようございます。 いえ…初めての仕事なので、分からないことも沢山ありますし…まだご迷惑をお掛けしてばかりですね」
「別に良いのよ、そんなに謙遜しなくても。 ちゃんと咲夜から報告を受けているわ。 なんでも、掃除が得意なんですって?」
「得意と言って良いのか分かりませんが…一応清掃員としての経験があるので、人並み以上にはできているつもりです。 しかし、この館の使用人の方々と比べてみると…自分もまだまだだなと」
「……本当に謙遜が好きね…あまり謙遜が過ぎると嫌味に聞こえるわよ」
レミリアは、ため息混じりに言って頬杖をついた。
謙虚さや謙遜は日本人の美徳とは言うが、国際的な面で見れば損だとも言う。
ここは一つ、素直に天狗にでもなっておくべきだったろうか。
「折角、あなたのご主人様が褒めてあげようとしているのだから、素直にその好意を受け取りなさい。 はい、じゃあ練習」
レミリアは少しだけ不機嫌そうにそう言うと、椅子に深く腰掛け直し、初めの体勢に戻る。
練習?
何のだ…?
「そう言えば、昨夜の夕食の時に言いそびれていたのだけど、昨日のお昼食はとても美味しかったわよ。 咲夜の料理にも引けを取らないくらいに」
練習という言葉の意味を何となく理解した。
つまり、礼を言う練習ということか。
それなら、ここは素直に礼を言うべきなのだろう。
「ありがとう御座います。 喜んで頂けたようで幸いです」
この件に何の意味があるのだろうと思いつつも俺は素直に礼を言った。
「そうそう、それで良いのよ。 褒められたら礼を、粗相をしたら直ぐに謝罪を。 『褒めらるに値しない』とか『しかしながら私は』とか、私はそんな返答を求めてはいないから、よく覚えておきなさい」
「は…はぁ……」
レミリアの発言に少しだけ拍子抜けした。
貴族のお嬢様とかはもっとお堅い雰囲気のものだと思っていたが、想像していたよりも随分単純な物事の捉え様だった。
もっと砕いて言ってしまえば、思った以上に雑だ。
なぜだろうか、初めてこの部屋で会ったときのあの威圧感が今のレミリアからは微塵も感じられない。
これは慣れてきたという証だと思って良いのだろうか。
できればこんなことに慣れたくはないのだが、仕事をする上では慣れはとても重要な役割を果たす。
どこかで生かされるかは別として、少なくともこれはある意味での進歩だと言っても言いのかもしれない。
「とまぁ、スキンシップはこれくらいにして、本題に移るわね」
今までのはスキンシップだったのか…?
「聞くところによると、仕事はほぼ問題なくできるそうだけど、執事としての振る舞いがまだよくできていないとか」
「ああ…はい…。 確かにまだその辺りはよく理解できてません…」
情報の出処は言うまでもなく咲夜だろう、執事としての仕事ができていないというのは昨日直々に注意されたことの一つだ。
「良いのよ、そんなに気にする必要はないわ。 仕事を初めて二日目でそこまで完璧に執事が務まるだなんて思っていないもの。 咲夜ですら初めは全然メイドとしての仕事ができなかったものね。 因みに、紅茶の淹れ方や礼儀は私が教えてあげたのよ」
「まぁ、あの頃は私も若かったですからね。 今の私があるのも、お嬢様のおかげ。 あの時受けた御恩は一生忘れることはありません」
懐かしげに、咲夜は昔のことを思い返しながらレミリアへと感謝の念を述べた。
「取り敢えず、まずはこんな風に主人を敬うことが大切よ。 ここは重要なところだからよく覚えておきなさい」
「……あっ…はい、わかりました」
気を抜いて二人の会話を聞いていたが、既に執事の仕事についての説明は始まっていたようだ。
「そうね…あとは、しっかりと口調を使い分けること。 私に対しては勿論敬語を使いなさい。 何も完璧な敬語を使えとまでは言わないわ。 自分で分かる範囲で話せばそれで良いから。 それと、咲夜や美鈴に対しては自由にして構わないわ。 それから、お客が来たときも相手によって使い分けられる様にはしておきなさい。 どうでもいい奴等や、侵入者に対して敬語で話してやる必要なんてないわ。 まぁ、そんなこと言うまでもないか」
レミリアは坦々と注意事項を述べてゆく。
「それと、既に咲夜から指摘があったとは思うけど、常に自分の身嗜みには十分に気を配ること。 一番基本的で大切なことは、これくらいかしら」
レミリアは一通り説明し終えると、こちらへと目を向けた。
「まっ、あとは思いついたらその都度咲夜を通して指導してもらうようにするから、現時点では少なくともそれだけは完璧にできるようにしておきなさい」
「はい、了解です」
「じゃあ、練習も兼ねてこれから貴方には今言った基本を実践してもらうから」
「え……?」
話の流れ的に、今の注意程度で終わるのかと思っていたが、どうやらそう簡単には行きそうにないようだ。
「それは…テストか何かですか?」
「いえ、あくまで練習よ。 なに、簡単なことだから、そんなに気を張らなくても良いわ。 別に失敗しても何も言ったりしないし。 だから安心なさい」
何となくまだ不安が残るが、俺はレミリアの申し出に『分かりました』と返事をした。
すると、レミリアはその内容について次のように語り出した。
「今からあなたにはある場所へ行ってもらうわ。 向こうに着いたら、そこの主に無礼のないように挨拶をしてから、友好の証として握手をしてもらってきなさい」
「……それだけですか?」
「何か不満?」
「いえ、別に何も…」
「なら、良いわね。 そこまでの案内は咲夜にさせるわ。 これで、道中の安全は保証されたも同然。 あなたはただ、行って、話して、握手をして、帰って来るだけ。 ほら、簡単でしょ」
「ええ…まぁ…そうですね」
随分と内容が分かりにくい割りに単純すぎて、それが本当に執事として仕事をするための練習になるのかどうか甚だ疑問だった。
だからというわけではないが、何か裏があるように思えてならない。
気は進まないが、取り敢えず紛いなりにも初めての御命令ということで、ここは素直に従っておこう。
どうせ、拒否権など俺にありはしないのだろうし…
「じゃあ、後のことは咲夜に任せるわ。 さっさと行って済ませてきなさい」
「畏まりました」
咲夜はそう返事をすると、俺の方へと近付き、一言『行くわよ』と言って扉へと向かった。
俺も返事をした後、咲夜の後を追ったが、かなりの不安が心の中で渦巻いていた。
レミリアは道中の安全が保障されたも同然と言っていたが、今一番近くにいたら危険な存在が付き添っている時点で既に危険度MAX状態。
自分は生きて帰れるのだろうかと心配になりながらも、俺は部屋を後にしようとした。
「奏」
しかし、部屋を出る直前でレミリアに呼び止められた。
「はい?」
振り向きざまに返事をすると、レミリアは薄く優しい笑みを浮かべて一言だけこう言った。
「行ってらっしゃい」
それは、人を送り出す時の台詞だった。
「…はい」
その言葉に対してただ受け答えをするように俺は返事をした。
『行ってきます』という言葉は頭に浮かんでいたのに、どうしてもその言葉を声にすることはできなかった。
その後、咲夜に連れられて俺達は紅魔館を後にし、白玉楼と呼ばれる得体のしれない場所を目指して移動を開始した。
☯
「はぁ…やっと行ってくれたわね…」
上手くごまかせたのか、我ながら自信がない。
執事の仕事が身につくかどうかなど、言ってしまえば正直どうでも言い。
それはあくまで建前として、今回奏を白玉楼へ向かわせたのには、また別の目的があるのだから。
白玉楼の主である西行寺幽々子。
彼女は亡霊であり、死を操る力を持っている。
亡霊である彼女に素手で触れれば、普通の人間なら何かしらの違和感を体に覚えるはずだ。
今回はそれを確認するための検証。
奏が何も感じなければ、私の思惑に間違いがないことを証明するための第一歩に繋がる。
逆に幽々子が奏に接触し、どのような反応を見せるかにも興味がある。
奏の持つ力を確かめるために、幽々子にはその実験体第一号になってもらう。
それでもし彼女が昇天してしまうようなことがあったとしても…まぁ、それはそれで結果オーライだ。
私の運命にすら従わず、咲夜の能力にも干渉しなかった事実。
それに今回のデータを合わせれば幾つかの仮説を立てることが可能になる。
先ずは地道に、慎重に事を進めていこう。
そう言えば、奏に触れぬよう注意しておけと咲夜に言いそびれた。
まぁ、咲夜のことだし、そこは大して心配する必要はないだろう。
それよりも……
「いつまで……そうして隠れているつもりなのかしら?」
誰もいない部屋に向かって、レミリアは声をかける。
すると、突然レミリアの背後の空間に亀裂が走り、空中に大きな隙間が出現した。
「あらら〜。 バレちゃった? ちゃんと気配は消してたつもりだったのに」
「あら、これは甘く見られたものね。 私がそれくらい気づけないとでも思った? それに、吸血鬼は鼻が効くの。 自分じゃ気づかないと思うけど、スキマの隙間から異様な匂いがだだ漏れよ」
「あーあー。 だからあれほど規則正しく清潔な生活を心がけて下さいと言ったのに…そんなだからノネナールの発生が促進されるんですよ」
「誰が加齢臭の気になるお年頃なのよ! 藍は黙ってなさい!」
「それで、何の御用ですか? 紫さん?」
「あなたも、急に年長者を敬うような態度取らなくていいから…!」
「はいはい、それで何しに来たのかしら?」
「あら、それが来客に対する態度? 先ずはお茶でおもてなしするのが正しい作法でしょ」
「生憎、今はメイドが外出中なのよ。 それに、客としてもてなされようとしているのなら、ちゃんと門を通ってくるのが常識ではなくて? 侵入者さん」
「人を侵入者呼ばわりだなんて、流石。 永久幼女様の考えることは違うわね。 失礼極まりないわ」
「あら、ごめんなさい。 けれど失礼さ加減では流石に貴女には完敗してしまうわ。 ねぇ、ムラサキ大婆様」
「お二人とも、そろそろお止め下さい。 このままでは話が進みません」
藍が、いがみ合う二人の中に割って入る。
「もぉ…だから来たくなかったのよぉ…。 藍がどうしてもって言うから弱り切った、か弱い体を起こしてまでわざわざ来てあげたのに、この仕打ちはないでしょ〜…? ねぇ、藍」
「知らないですよ…。 二日酔いは自業自得じゃないですか。 それに何が『わざわざ来てあげた』ですか…結局あの後布団に倒れて起きてくれませんでしたよね? そのせいで一日来るのが遅れてしまったんですから、少しは申し訳ないという気持ちを持ってください。毎度毎度起こすこっちの身にもなって下さいよ」
「うるっさいわね〜…! そんな風にぐじぐじ言ってると小皺が増えるわよ」
「誰の所為だと思ってるんですか⁉︎ それに、紫様だけには言われたくありませんよ!」
「なんですってー!」
「なんすか!」
この後、数分に渡り言い争いが続いた。
数分後
「で、本当に何しに来たのよ貴女達…? 家族喧嘩なら他所でやりなさい」
「はぁ…はぁ…ちょっ…待って…何か……言い過ぎて…疲れ…はぁ…はぁ…」
「紫は、もう少し体を動かした方がいいわよ…。 じゃあ、そこの九尾。 貴女の口から説明しなさい」
レミリアは、息の上がっている紫を労わるように声をかけ、代わりに藍へと説明を求めた。
「私達はただ確かめたいことがあってこの辺りを探っていただけだ。 その時、近くを飛んでいた天狗がいたから、何か変わったことがなかったかと訊ねたら親切にここを教えてくれてな」
「ブン屋か……それで?」
「それでね、貴女に少し訊きたいことがあるんだけど…」
息切れを止め、そこに立っていたのは、さっきまでのおちゃらけた紫ではなかった。
そこには、まるで隠していた風貌を現したかのように、妖怪の賢者が笑みを浮かべていた。
「あの人間は誰?」
☯
「あの…メイド長…本当にここであってるんですか?」
「ええ、ここよ」
目立った会話すらなく数時間かけて無言で連れて来られた場所は、何もないただの森だった。
「ここって言われましても…家らしきものなど、どこにも見当たりませんが…?」
「当たり前じゃない。 こんなところに家があるはずないでしょ」
「…………」
俺は馬鹿にされているのだろうか…?
「では、レミリア様が会ってくるようにと仰った御方はどちらに?」
俺がそう訊ねると、咲夜は面倒そうに顔をしかめて、人差し指を天へと突き立てた。
「………は?」
やはり、俺は馬鹿にされているのだろうか…?
「えっと…空?」
咲夜と同じ様に人差し指を上空に向けて訊くと、咲夜は無言で頷いた。
「ははは…まさか……上空にあるとか…そんなこと言いませんよね…?」
「ええ、そのまさかよ」
「………マジすか…?」
最上級のファンタジックがそこに存在した。
ラピ○タかよ…!
「具体的に言えば、上空に入口があって、これから行く場所にはそこを通らないといけないのよ。 別に空中に家がフワフワと浮いているわけじゃないから、過度な期待をしても無駄よ」
別に何も期待してねぇよ…
「しかし、上空にあると言われてもそんなところにどうやって行くって言うんですか? メイド長は別として、普通の人間は空なんか飛べませんよ?」
「誰が人間を超越した生命体なのよ…!」
そこまで言ってない…!
「誰も貴方に飛べだなんて言いはしないわ。 安心しなさい、貴方は何もせず、ただ静かにじっとしていればいいのよ」
「では、何か考えが?」
そう訊くと、咲夜は徐に手に持った(何のために必要なのかわからず、今まで訊こうとすらしなかった)袋の中から、渦巻き状に巻かれた数メートル程の長いロープを取り出して満面の笑みでこちらを見つめていた。
「え………まさか…」
☯
場所は変わって、外の世界にて。
「嫌! 私は絶対に帰らない!」
「そうだ、俺達は奏を見つけるまでは絶対帰れない!」
「だからダメだって、君達には危険過ぎるし、現に連れのお友達が山の中で逸れてしまっているんだから、もし君達まで遭難したら大変じゃないか。 だから後は捜索隊の人達に任せておきなさい」
奏と山で逸れて三日が過ぎ、遂に二人は下山して近くの駅で助けを求めた。
二人の声に地元の方々が集まり、山の麓では奏の捜索が始まろうとしていた。
「だからってこのまま帰れるわけないだろ! 奏は俺達にとって凄く大切な奴なんだ!」
「だったら、初めからもっとしっかり責任感を持った行動を取るべきだろう! 夜の山にたった三人で乗り込むなんて、危険すぎるとは思わなかったのかい?」
「そっ……それは…」
氷梶也は口ごもる。
「そうよ………」
氷梶也の背後でとても弱々しく声がする。
「……あんたのせいで…。 あんたが…勝手にテンション爆発させて山に入って行ったせいで…! 奏が……奏が……」
「華恋……」
華恋の瞳に涙が溢れ、今にも零れ落ちてしまいそうだった。
「もう、いい! 奏は、私だけで探しに行く!」
声を荒げ、華恋は山の中へ向かって走り出した。
「こら! 待ちなさい、君! おい、その娘を止めてくれ」
地元の青年隊が山へ入ろうとする華恋を止めようと立ち塞がる。
「どけぇぇぇぇ!」
しかし、華恋は走る勢いを緩めず、前に立つ青年たちを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、全員を蹴散らして山の中へと全力で駆けて行った。
「何だぁぁぁ⁉︎ あの娘は…! あっ、こら君も、待ちなさい!」
道なき道を華恋は走り続ける。
肌が枝に掻かれても、くぼみに足を取られてもなお、痛みを堪えて、当てもなく走り続ける。
「奏……奏……奏……!」
ただ一心に大切な人を想い続けて、走り続けるが、山路は険しく多くの障害物が次から次へと華恋の行く手を阻んだ。
「きゃあ!」
華恋は足元に隠れていた岩に躓いて足を捻り、そのままバランスを崩して地面に倒れた。
「う…うぅ……。 痛っ!」
体を起こそうとしたが、痛みで足が言うことを聞かない。
「何で…こんな……」
頬に涙が伝う。
「……カー君…」
華恋は一言、小さくそう呟いた。
「華恋!」
突然、背後から名前を呼ぶ声がする。
その声に驚き、振り向くとそこには息を荒げて慌てて駆け寄る氷梶也の姿があった。
「おい、大丈夫か⁉︎ 血が出てるじゃねか! 早く手当てしないと…。 立てるか?」
「何で…」
「…?」
「何で…また、いなくなっちゃうのよ…! 折角戻ってきたのに…折角帰って来てくれたのに…!」
「華恋……」
堪えていた涙が溢れる。
「もう会えないんじゃないかって…。 ずっと…ずっと…我慢してて…やっと会えたのに…なのに…どうして………ねぇ……」
「…………ごめん」
氷梶也は震える華恋の肩を抱いてそっと頭を撫でた。
奏……本当にどこにいるんだよ…
「くそぅ……」
☯
一方その頃奏は。
☯
「ギャーーー‼︎ 浮いてる! 浮いてる! 浮いてるー‼︎ 地面遠い!地面遠いですって! 運ぶにしたって、もっと他に何か方法あったでしょう⁉︎」
「ああ! もう、五月蝿いわね! 落とすぞ!」
ロープで体を縛り吊るしにされて上空へと運ばれていた。
只今上空100メートルを軽く超え、まだまだ上昇して行きます。
落とされないだろうな…俺。
自分をぐるぐる巻に縛りつけるロープの先端が咲夜の手だけで支えられていることに不安を感じずにはいられない。
このロープはまさに俺の命綱。
離されでもしたら一環の終わり…
だったら…もう黙るしかない。
下手なリアクションが上の人の勘に触らぬようにしなければ…
それにしても、上空は風が強い。
羽ばたくこともなく等速斜線移動を続ける咲夜は涼しい顔で空へと昇って行くが、全く風に煽られている様子をみせない。
本当にどういう原理で飛んでいるのだろうか?
俺は風が吹き付けるたびに左右に大きく揺すぶられて冷や汗が止まらないというのに…
高所恐怖症の方々の気持ちがよく理解できた。
気付くと、もう雲が下に見えていた。
さっきからずっと感じていたが、上空は兎に角寒い…
執事服は元々生地が風を通しにくい素材ではあるが、流石にこれは寒すぎる。
早く目的地に着かないものかと、耐えていると、雲の隙間から驚くほど大きな門が見えてきた。
「何だこれ…すげぇ…⁉︎」
「もう、着くわよ。 ここから少し揺れるから、舌を噛まないように気をつけなさい」
咲夜は上空に入口があると言っていた。
なるほど、確かにこの幻想郷という場所には相応しいスケールの門構えだ。
正直度肝を抜かれたが、それよりも今は、この先に待つ白玉楼という場所の主がどういう人なのかということが気になってならない。
レミリアの知り合いということはきっと人間ではないのだろうが、せめて美鈴さんや上白沢さんの様に真面な方であってほしいものだ。
しかし、この門を見る限りはそれも期待できなさそうだ…
まぁ、考えても無駄か…もう後戻りは出来ない。
地面は既に雲で見えない、引き返そうにも、進退は全て上の人次第。
腹を決めるしかない。
「準備はいい?」
「はい!」
「じゃあ、行くわよ!」
そう言うと、咲夜は急に勢いを増して飛び始めた。
徐々に門へと近づいていく。
「えっ⁉︎ ちょっ…メイド長! まだ、門開いてないじゃないですか!」
しかし、勢いが緩むことはなく咲夜はお構いなしに飛んで行く。
「あぁぁぁ!」
このままでは激突すると思ったその時、咲夜が急に飛ぶ方向を変えて門へぶつかる寸前で急上昇した。
「ぐぉ!」
そして、そのまま門を飛び越え、その向こう側の空に空いていた穴の中へと飛び越んでいった。
「…………」
俺は一瞬のことに呆気にとらわれながら
『あの門、なんやねん!』
と、心の中でストレートにツッコミを入れた。
人生初の関西風ツッコミだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「何であなたが疲れてるのよ?」
縛られていたロープを解きながら咲夜はそう訊ねる。
「その…気疲れと言いますか…何と言いますか…」
穴の向こう側にあった場所はとても薄暗く、一瞬にして夜になったかの様に感じられた。
「今から疲れていると、この後までもたないわよ、まだここを登らないといけないんだから」
咲夜が指を指した先には、どこまで続いているのか分からないくらいの長い長〜い石段があった。
両端に赤い灯籠がズラッと並び、薄暗い世界に石段だけが浮かび上がっている様に見える。
「………本当にこれ登るんですか…? 飛んで連れて行ってくれたりとか…あれ?」
隣に立っていた筈の咲夜の姿が見当たらない。
「ほら、早く来なさい。 私は上で待ってるから」
声のする方へ振り向くと、咲夜は空中に浮かんで既に数段先へと登っていた。
「えぇー……」
「大丈夫よ、時間は止めておくから日が暮れることはないわ。 でも、私をあまり待たせないように、できる限り早く上がってきなさい」
「いや、そういうことではなく…」
咲夜はそう言い残すと、直ぐに踵を返して上へと登って行った。
勿論、全ての石段を無視して。
「…………」
これを、今から足で登るのかと思うと……死ねるな…
人間に翼がないことを恨みながら、俺は気の遠くなるような石段登頂への記念すべき第一歩を踏み出した。
数時間後 (時停止中)
「はぁ…はぁ…はぁ…あの、ドSメイド長が……いつか覚えてろ…」
俺の堪忍袋の緒や、体力が限界に近づいたころ、やっとゴールが見えてきた。
「はぁ…はぁ…着いた…」
最後の石段を登り切ると同時に世界は時間を取り戻し、俺の元へと咲夜が近寄ってきた。
「随分遅かったわね、待ちくたびれたわ」
「それはそれは…すみませんでしたねー…」
イライラを顔に出さずあえて笑顔で俺は咲夜に接した。
「ほら、早く行くわよ。 目的の人はすぐそこにいるから…」
「はっ…はい…」
何でこの人は、こんなに俺を急かせるのだろうか。
時が止めらるんだったら、もっとゆっくり行けばいいじゃないか…
そんな文句を言えるはずもなく、黙々と咲夜に着いて行く。
しばらく、石造りの道を歩き続けると大きな門が開けっぴろげになっており、俺たちは黙って中に侵入した。
門を潜ると、そこには見渡す限り見事なまでの古風な日本庭園の情景が広がっていた。
紅魔館の大きさにも驚かされたが、ここのお屋敷では敷地の面の広さに圧倒されてしまった。
庭にしても、木造作りの住居にしても、和独特の美しさや趣があり、侘び寂びを感じさせられる。
「おや?」
歩き続け美しく整備された庭に足を踏み入れると、ある人物が二人に声をかけてきた。
「なんだ。 屋敷内に侵入する輩の気配を感じて来てみれば、貴女でしたか」
声をかけてきたのは、肩から二本の物騒なものを掛けている少女だった。
「こんにちは妖夢、久しぶりね。 いつもなら気配を消して行くのだけど、残念ながら今日はそうも言っていられないのよ」
「と言いますと、何か急ぎの御用が? 」
「ええ、お嬢様からのご命令なのよ」
「そうですか…それはご苦労様ですね。 ところで、そちらの方は何方ですか?」
妖夢は咲夜の後ろに立つ俺を見ながら、紹介を求めた。
「ああ、自分は」
「こっちのは別に気にしなくてもいいわ。 それよりも、主人を呼んできてくれないかしら?」
自己紹介を途中であっさりと遮断されてしまった…
「幽々子様をですか? なぜまた?」
「まぁ、理由は後から話すから取り敢えず呼んできてもらえない?」
「しかし、幽々子様は今し方お休みになられたばかりですし、まだお目覚めになりませんよ。 それに、たとえ起こしに行ったとしても素直に起きてはくださらないと思いますが?」
「お饅頭持った客が来たと言ってきてくれれば良いわ、早く出てこないと全部食べちゃうとも付け加えておいて」
「物で釣るとは…流石、抜け目ありませんね…。 はい、分かりました。 それでは、お呼びしてきますので軒内にて今しばらくお待ちください」
妖夢は咲夜にそう言うと、縁側から家に上がり、奥の方へと入っていった。
「はい、じゃあこれ。 今から来る人に渡してからしっかりと挨拶をしてきなさい。 それから、握手を忘れないこと」
咲夜から紙袋を渡される。
中には本当に饅頭が10個程入っていた。
それはそうと、本当にやらなければいけないのだろうか?
よく考えてみれば相手が男性なのか女性なのかすら聞いていない。
どちらにしても初対面でいきなり握手を求められたら相手も戸惑ってしまうのではないのだろうか?
いっそ『あなたのファンです握手してください』とでも言ってみようかとも思いつつ、中から人が出てくるのを待っていると、先に妖夢が戻ってきた。
「直ぐ起きましたよ…。 暫くしたら出てくるそうなので、お待ち下さい」
「そう、ありがとう。 じゃあ後は、しっかりやりなさい」
「は…はい」
「では、私は庭の手入れがありますので失礼しますね」
「なら、私も邪魔にならないように妖夢に着いて行くわ。 用が済んだら直ぐに戻って来なさいね」
「はい、分かりました」
そう返事を返すと、咲夜と妖夢は一緒に歩き始めた。
「さて…どんな人が出て来るやら……」
そんな風に呟いて、一人縁側の外で中から人が出てくるのを待っていると、静かに障子戸が開かれた。
足音も全くなく、突然戸が開いたことに俺は少しだけ戸惑いを感じていた。
「あら~珍しいお客さんね~。まぁ、お客さんが来ること自体、珍しいことだとも、言えなくはいけれど」
中から現れたその人は、美しい着物に身を包んだ桜色の髪の女性だった。
「人間がこんなところに何の用かしら? まだ、ここに来るには少し早すぎると思うけど?」
美しいのは着物だけにあらず、彼女自身も妖艶な美しさを感じさせている。
「あっ…自分はレミリア様にあなたへ挨拶をして来るようにと命じられまして。 ああ、これどうぞ。 つまらないものですが」
手に持っていた紙袋を差し出す。
「あら〜ありがとう。 そう、あなたあの吸血鬼の娘の使用人さんなのね。 挨拶に来たと言われても、私、彼の娘とはそこまで仲良くしているわけじゃないんだけど。 こんなところまでわざわざ来るってことは何か他に私に用があるんじゃないのかしら?」
おっとりとした口調に似合わず、思ったより察しのいい人だ。
確かに、用は挨拶だけでは終わらない。
挨拶をしてから、握手をしてもらわなければ、今回の課題達成とは言えない。
だが、いざ相手を目の前にすると急に緊張が増してきた。
これからこの人に俺は握手を求めるのかと思うと…どうにもそんなことが言い出せるはずがない。
それに、俺はこの人に触れるのにはなぜか抵抗があった。
何と言えばいいのだろうか?
見た目がどうだからとか、そういう具体的な理由ではなく、もっと抽象的な…直感的な何かだ。
俺はこの人が明らかに人間ではないと感じていた。
これまで数々の妖怪らしくない妖怪に出くわしてきたが、今回だけは異様に相手が何者なのかということがよくわかる。
この人はきっと幽霊的な何かなのだろう。
長年培ってきた自身の感覚がそう告げている。
「どうしたの? そんなに緊張しなくてもいいのよ、別に取って食べたりなんてしないから」
そろそろ話を切り出さなければ言うタイミングを見失ってしまいそうだ。
ここは、腹を決めよう。
「すみません。 貴女の様な方にお会いするのは初めてなもので、少々緊張してしまいました」
「あら〜 それは、褒めてくれていると受け取っていいのかしら?」
「ええ…まぁ」
ダメだ…このままではペースを乱される。
こうなったら、早いところ切り出すしかない。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。 自分は御社 奏と言います。 本日はレミリア様から命をうけて伺いに上がりました。 早速で申し訳ないのですが、貴女に一つお頼みしたいことがありまして…」
「やっぱり他に用があるのね。 ええ、簡単なことなら聞いてあげても良いわよ。 お土産も、もらっちゃったし。 それで、私は何をすればいいのかしら?」
流れは掴んだ。
後はこの流れに任せて一言頼むだけだ。
「ありがとうございます。 実はですね…」
☯
「それで、本日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」
広大な庭を歩きながら、妖夢は咲夜へとそう訊ねた。
「そうね。 貴女にはまだ言っていなかったわね」
咲夜は妖夢に今回の目的について説明しようと考えた。
しかし、今回の白玉楼訪問の目的は奏の力を探るためだけとしか伝えられておらず、上手く説明するのには言葉数が多くなりそうだった。
今日はただでさえ体に負担をかけてここまで来た上に、帰ってからもまだたくさん仕事が残っている。
できれば、無駄な説明はしたくはない。
なのでここは、本来の目的を説明するより建前だけの仮の目的について簡潔にまとめて話してしまう方が楽でいいだろうと思い、咲夜は説明し始める。
「簡単に言うと、奏が成長する為の初めての相手として、お嬢様は幽々子様を選んだのよ」
「………は?」
「ああ、奏というのはさっき私の後ろにいた男のことよ。 お嬢様が先日雇った新人なんだけど、まだまだ色々と上手く出来ていないというか…」
咲夜は妖夢に以上のように伝えた。
「そ…そっ、そっ…それは…つまり…?」
「まぁ、そういうことよ。 今日はお嬢様が練習ということで、幽々子様に直接お願いして手を…」
「いっ…! いけません!」
その時、話を最後まで言い終える前に妖夢がそう叫んだ。
「そっ、そんな…大人へ成長する為の初めての相手に幽々様をだなんて…。そっ、そんな、不埒で破廉恥極まりない行為を認めるわけにはいきませんっ!」
「………ん?」
妖夢は顔を赤面させたままに強く叫ぶと、身につけていた丈の長い刀を抜き取った。
「待ってて下さい、幽々子様ー! 必ず私が御守りいたします!」
そしてそう言い残すと、妖夢は一目散に奏と幽々子のいる庭の方へと駆けて行った。
「……どうしてこうなった?」
一人残されて困惑する咲夜は取り敢えず、妖夢の後を追いかけて二人の元へと向かった。
☯
「実はですね。 自分と握手をしていただけないかと思いまして」
「握手…? なぜ?」
「まぁ『なぜ?』 と訊きたいのは自分も同じなのですが…兎に角、何も訊かずに自分と握手をしていただけませんか?」
これ、変な目で見られていないだろうな…?
「ん〜…急に言われてもね…。 握手くらい、私は別に構わないだけど、あなたが私の体に触れるというのは、あまり良くないと思うわよ?」
「そこを何とかお願いします。 しっかりやって来ないと、色んな人に怒られてしまうので…」
「ん〜…困ったわね〜…」
幽々子がどうしたものかと悩んでいると、遠くの方から大きな呼び声が聞こえてきた。
「幽々子様ー!」
「あら〜 妖夢、お帰りなさい」
よく見ると、刀を持った少女がこちら目掛けて猛スピードで庭を駆け抜けていた。
「幽々子様ー!今すぐ、その男から離れて下さーい!」
「えっ…⁉︎」
妖夢はそう忠告すると、数メートル離れた場所から飛び上がり、刀を振り上げて一気に俺へと振り下ろしてきた。
「なっ!? ちょっ! 待っ! ストップ! ストップ! ストップ‼︎」
止まれ止まれと連呼するが妖夢は問答無用と言って全く止まろうとはしなかった。
しかし、俺の体に刀が触れようとしたその瞬間。
「幻象 「ルナクロック」!」
間一髪のところで、俺に振り下ろされた刀は世界の時間ごと動きを止められた。
「全く…世話が焼けるわね……」
「メイド長……助かりました」
「はいはい。 ほら、お礼は良いから早く済ませてちょうだい。 時間は私が止めておいてあげるから、さっさとその人の手を握りなさい」
「いえ…しかし…」
「今、時を戻したらまた妖夢が暴れ出すわよ。 多少強引でも良いから、今すぐに終わらせなさい」
全く動かないからと言って許可なく女性の手に触れるというのは流石に気が引けた…
しかし、徐々に不機嫌になる咲夜と今も刀を振り下ろした状態の妖夢を見ていると、いつまでも、もたもたしているわけにはいかないという気持ちにさせらる。
迷ったら負けだという思いで、俺は手袋を外し、勢いに任せて目の前の人の手を握った。
「あら? ふふふ。 貴方、いきなり手に触れてくるなんて、口調や見掛けによらず、結構大胆なのね~。それに、私に自ら触れようとするなんて、よっぽど命知らずなのかしら?」
幽々子は俺が手に触れた途端に動き出した。
上品な笑みを浮かべながらそう話した彼女の手は凄く冷たくて、人の肌に触れているという感覚が全くしなかった。
「あっ…いや、これは…その…あの…ええと……」
幽々子の発言に改めて自分が置かれている状況を理解し、また緊張が増してきた。
「目立った異常はなし…か……。 どちらにしても、早く報告を…」
咲夜は二人に聞こえないくらいの声でそう呟いた。
「ほら、何時までデレデレした顔で手を握っているのよ? 用も済んことだし、早く館に戻るわよ!」
咲夜は奏の頭を鷲掴みにして髪の毛を引っ張り、幽々子から強制的に引き離した。
「痛! 痛い、痛い、痛いですってメイド長! そんな強く髪引っ張らないでくださいっ!」
だが、咲夜の手が奏に触れたその時。
「……⁉︎」
咲夜は自分の体にある違和感を感じた。
しかし、その違和感が何なのか理解するよりも先に、二人の間に止まっていたはずの声と刀が割って入る。
「覚悟ーーー‼︎」
「えっ…⁉︎」
「ギャー‼︎」
その後……
「それで…そんなボロボロになって帰って来たと……?」
文字通り間一髪のところで妖夢の刀を免れた二人は、妖夢と咲夜の弾幕戦の末に何とか紅魔館へと戻ってくることができた。
「いや…本当に死ぬかと思いました…」
「逆によく生きていたものね。 怪我はしていないの?」
「ええ…まぁ、髪を数ミリ失った程度です…。 メイド長が時を止めて、その隙に何とか逃げてきました…」
「まぁ、何にせよご苦労様」
「それよりも、先程から気になることがあるのですが…。 この有様は…いったい?」
目の前には、館の人員が総動員で館の内部から荷物を運び出したり、物の整理を行っていた。
「咲夜〜」
レミリアは笑顔で咲夜を呼びつける。
「はい…」
「あれほど素手で奏に触れないようにと言ったわよね〜…? まぁ、今日は言いそびれたのは確かだけど…」
レミリアは咲夜に耳打ちするように若干の怒りを交えてそう言った。
「いえ…それが…確かに私は奏に触れはしましたが、頭を掴んだだけで、手には指一本たりとも触れてはおりませんし…」
「まだあれの力の詳細もはっきりとわかっていないのだから、それくらいちゃんと注意しておきなさい!」
「もっ…申し訳ありません!」
「はぁ〜…まっ、別にいいわ。今回は色々と収穫もあったことだし。 後でパチェにも報告しておかないとね」
レミリアは咲夜を叱りつけて図書館へ向かおうとする。
「ああ、咲夜。 今夜の食事は図書館で済ますわ。 後で持ってきてちょうだい」
「はい、畏まりました」
咲夜は先に館の方へと戻って行く。
「それと、奏」
「えっ? あっ、はい!」
「今、館内がぐちゃぐちゃになっちゃってるから、美鈴達と一緒に館を元の状態に戻しておきなさい。 今日の夕食は各自で済ませること。 全て元通りになるまで、眠らせないからそのつもりで」
「は…⁉︎」
レミリアはそう告げると、館に戻って行った。
「マジかよ……」
帰ってきたばかりなのに、また直ぐに新たな重労働が待っていた。
もう、今日はこれ以上働きたくないものだ…が、やるしかない…
俺は仕方なく、重い足を前方へと運びながら館の玄関口まで行き、数段の段差を登った。
「はぁ〜……」
ため息交じりに、館の中へと入る。
すると。
「あら、御機嫌よう」
すれ違い様に見知らぬ人物に声をかけられた。
「えっ…?」
俺は驚いて振り向くと、そこには誰の姿も見当たらなかった。
「………誰?」
疲労もピークに達した就職二日目。
今後数時間の作業の末、ようやく館全体は落ち着きを取り戻し、俺は久しぶりに、死んだように寝床についた。
奏•美鈴:「次回予告コーナー」
美鈴:「いや〜お疲れ様でした奏さん」
奏:「はい…。 美鈴さんもお疲れ様でした」
美鈴:「あらら…酷くお疲れのご様子で」
奏:「そりゃあ、あれだけ働かされれば流石に体力の限界が…。 でも、美鈴さんは凄いですね」
美鈴:「まぁ、鍛えてますから」
奏:「はぁ…自分も日頃から鍛えられていたはずなんですけどね…バイトで……」
美鈴:「それはほら、奏さんは人間で、私は妖怪ですから。 その辺りの種族的な違いとかもあるんじゃないですかね?」
奏:「ああ…そう言えば美鈴さんも妖怪なんでしたっけ?」
美鈴:「はい。 そんなことより、これ次回予告のコーナーですよね? こんなこと話していて良いんですか?」
奏:「そうでしたね。 美鈴さんと一緒にいると、気が楽ですっかり忘れてました…」
美鈴:「ええっと…それは、私のせいということですか…?」
奏:「いえいえ、とんでもない! 一緒にしてくれているのが美鈴さんで良かったと安心しているんですよ自分は」
美鈴:「そうですか? なら、よかったです。 私も奏さんとできて嬉しいですよ」
奏:「ありがとうごさいます。 では、前回より尺を長く取りすぎてしまいましたし、早く終わらせますか」
美鈴:「はい、そうですね」
奏:「では、次回は遂に主人公のどちらかが出るそうですよ」
美鈴:「へえ〜やっと、ってところですね。 しかし、奏さん。 主人公とか言っちゃって良いんですか?」
奏:「んー……今更メタ発言についてどうこう言っても、こんなコーナーやってる時点で手遅れですし…別に、何と無く察してもらえるんじゃないでしょうか…?」
美鈴:「ああ…まぁ……そうですね」
奏:「それと、まだ自分が会ったことのない館の住人も出てくるとか」
美鈴:「奏さんがまだ会っていないというと…。 ああ……成る程」
奏:「ん? どうかしました?」
美鈴:「いえ、なんでも…ただ……頑張ってください」
奏:「え? ああ、はい! 頑張ります」
美鈴:「はい、お気をつけて…」
奏:「では、長々とお付き合い頂いてありがとうございました」
美鈴:「それでは」
奏:「次回『初めての御使い! ブチ切れ紅白と無邪気な紅鬼』」
奏•美鈴:「次回もお楽しみにー!」