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東方労働記 〜 Beautiful Labor Days  作者: すのう
労働記 【紅】
12/28

第一話 後編

人称が若干めちゃくちゃになりました…ご了承下さい。

「ん~………」


朦朧とする意識の中、徐々に取り戻しつつある体の感覚と共に(まぶた)を開く。


「……? 」


瞼の向こう側に霞んで広がる光景は何処かの山や森の中から見える青空ではなく、住み慣れた自室や実家の寺、通っている大学やバイト先、それら全てに当てはまることのない、全く見覚えのない天井だった。


辺りは薄暗く、視界も定まらぬ為にその天井の色すら真面(まとも)に認識することもできないが、体育館並みの高さがあるということだけは何となく理解できた。


「何で俺…こんなところで寝てたんだっけ…? 」


混濁する意識、働かない思考、曖昧な記憶、なぜこんなところで寝ていたのか?


自分はなぜ意識を失っていたのか?


状況は掴めないままだ。


何だか凄く恐ろしい悪夢を見ていた気がする。


それにしてもこの部屋暗い…


というか、ここは部屋なのだろうか…?


俺は酷く重い体を勢いに任せて無理やり起こした。


「よっと」


その時。


「いっ! 」


身体に衝撃が走った。


「痛ったぁぁぁぁーーーー! 」


胸の辺りから下腹部に架けて走る激痛。


今までの人生で感じた痛みの中でも上位に君臨するその痛みに俺は苦痛の叫びを上げる。


「あぁぁ……何なんだこれ……」


痛みが身体を駆け巡ると、それを引き金に思考は一気に回復し、気を失う以前の記憶も蘇りつつあった。


「そういえば…コスプレした女に思いっきり蹴られたんだっけ…? 一発で俺の身体を蹴り飛ばすって…怪物かよ……」


「ふふふ、咲夜~。 怪物ですって~。 怖いわね~。 いったい誰のことを言っているのかしらね~? 」


「はて? 私には分かりかねますね。 花の妖怪のことではないでしょうか? 」


俺の独り言に対して唐突に発せられた声。


何処かで聞き覚えのあるその二つの声は薄暗い部屋の奥で発せられた。


声のした方へと顔を向けると暗がりの中で蝋燭(ろうそく)に火がともされる。


そこに生まれた乏しい光は低い階段の上で椅子に座る影と、そこに立つもう一人の影を映し出した。


「さっきまで綺麗な月が出ていたのに残念ね…。 咲夜、あの憎たらしい雲を晴らしてきてくれないかしら? 」


「と、申されましても…私にも限界というものがありまして……」


無理難題にも程があるだろうというその命令に対し、メイド服姿の少女が苦笑を浮かべて微笑んでいる。


「…………」


鮮明に映し出されたその少女の姿を目にした俺は何も口にすることが出来ずに絶句してしまった。


それもそのはずだ。


目の前の段の上で、その体には釣り合わない大きさの玉座に腰掛けている少女を、俺は知っていた。


青みがかった銀髪に真紅の瞳、白の強い配色のレース付ナイトキャップとドレスに身を包んだ西洋風の少女。


日傘を差し、呆れ顔で放つ紅い光に助けられたことを今でもよく覚えている。


まぁ、その恩人を、あろうことか俺は押し倒してしまったわけなのだが……


しかし、絶句してしまった理由は押し倒してしまった少女が目の前にいたという単純な理由だけではなく、それとはまた別に理由がある。


それは少女の姿にあった。


外見は十歳前後、まるで天使という言葉が似合う程に可愛らしく、美しく、気品に溢れている。


しかし、その姿とは裏腹に押し倒した時にはしっかりと黙視できなかったある物が、少女の背中でかなりの異彩を放っていた。


それは翼だった。


白鳥のように純白な天使の翼ではない。


漆黒で禍々しく、まるで蝙蝠のような悪魔の翼だった。


「御早い御目覚めね。 私の予想ではもう少し掛かると思っていたのだけれど…やはりあなたの運命はとても変わっているわ。 操るどころか全く見えやしない…」


今まで見向きもされていなかったように感じていたが、突然俺に向かって日傘の少女が話しかける。


「………」


だが、俺はなんと口にしていいのかが分からなかった。


「………」


日傘の少女も、返答がない俺をじーっと見つめたまま沈黙してしまっている。


「はぁ~………」


すると、少女はため息を吐きながらもう一度俺に向かって口を開く。


「Although the common language of 幻想郷 is Japanese, can you speak Japanese?」

(幻想郷の共通語は日本語なのだけれど、あなたは日本語を話すことができるのかしら?)


英語⁉︎


流石西洋ドレスに身を包んでいるだけのことはある…発音も完璧だった。


咄嗟のことに一瞬戸惑ったが、俺も現役大学生。


この程度のレベルの英語を理解するくらい容易い。


「あっ…はい。 すみません…日本語は話せます。 一応日本人なので…」


何故かこんな小さな子に敬語で話してしまっている…


少女の対応が凄く大人びていた為でもあるのだが…隣にいるメイドさんが俺のことを一心に睨みつけているというのも敬語で話す一つの理由だった。


「そう…全く応答が無かったから、言葉が通じていないのかと思ったわ」


少女が安堵の息をつく。


「ええっと……その…すみませんでした! あの時は全く周りが見えていなかったもので…。 まさか人が居るだなんて思っていなくて…それでお怪我の方は…? 」


メイドさんの睨みがあまりにもキツかったので、出来るだけ早く謝っておくことにした。


「その心配は不要よ。 怪我は無かったし、傷なんて直ぐに治ってしまうから、今回のことは許してあげるわ」


確かに傷は治るものだが、そんなに直ぐにとはいかないだろう。


あれだけのことをしておきながら易々と許してもらえるとは…あの羽が無ければ、本当に天使のように思えてしまう。


「しかし、御嬢様に無礼を働いたということには変わりはないわ。 許してもらえたにしても、何もなしに帰れるとは思わないことね」


隣で俺を睨み続けていたメイドさんが冷ややかな目でそう言い放つ。


「咲夜、口を慎みなさい。 一応今は客人ということでもてなしているのだから」


「……申し訳ありません…御嬢様…」


怒られている。


俺としてはメイドさんは当然といえば当然な発言をしていたように思えたが、なかなか従者には厳しいようだ。


「まぁ、代償を求めないつもりは無かったけれど。 それについては後々ゆっくり考えるわ」


「………」


許されたと思っていたが、どうやら見返りは求められるようだ…


こんな御嬢様に慰謝料を請求なんてされたら俺の人生は完全に破綻(はたん)するだろう…


まぁ、さっきまで死にかけていた訳なのだが…出来れば金以外でお願いしたいものだ。


「それで、訊きたいことは山ほどあるのだけれど。 先ずは自己紹介ね」


言い終えると少女は自らの胸に手を当て、声高らかに自己紹介を始めた。


「私は誇り高きヴラド・ツェペシュ公の末裔にして、この幻想郷の中でも最強の種族である夜の王、吸血鬼の一人。 『レミリア・スカーレット』よ。 ここ、紅魔館の主でもあるわ。 そして、こっちが私の専属メイドにして紅魔館のメイド長を務めている『十六夜 咲夜』よ」


「十六夜 咲夜です。 お見知りおきを」


「…………」


また絶句してしまった…理由は単純である、端的に理解不能であった…


少女の名が『レミリア・スカーレット』といい、この家の地主である。


隣にいる凛々しいメイドさんが『十六夜 咲夜』という名であるということだけは理解できたが、それ以外の一つ一つの単語には理解しがたいものがあった。


「……はぁ…咲夜、今の紹介の問題点や不十分な箇所について指摘しなさい」


俺の態度に呆れながらレミリアはため息まじりに、咲夜へとそう訊ねた。


「いえ、先程の御嬢様の御紹介にそのような点は全く見受けられませんでした。 まさに非の打ち所のない完璧な紹介と言っても過言ではありません。 ただ、問題があるとするならば、御嬢様の御言葉を理解することができないあの男の理解力にあるのではないかと」


俺の所為(せい)にされてしまった…


本当に俺の理解力が足りないのだろうか? と疑問に感じたが、どう考えても常人には理解できないことではないだろうか?


いきなり自身を吸血鬼と名乗り、幻想郷などという聞き覚えのない地名の名すら出てきた。


彼女は思春期特有の恥ずかしくも憎めないあの病に犯されているのであろうか?


だが、そんな年頃には全くみえない……


ならば、そういう設定のごっこ遊びなのだろうか。


俺は彼女が吸血鬼だなんて全く信じてはいなかった。


確かにあの羽も、唇から覗かせる牙も、吸血鬼と言うならば説明がつくが…


自ら『私は、妖怪だ!』と胸を張って礼儀正しく自己紹介をする様な妖怪がどこの世界にいるというのだ。


経験上、奴らに限ってそんなことはあり得る筈がない。


「まさかとは思うけれど、私が吸血鬼だということを信じてもらえていないのかしら? 」


察しの良いレミリアは返答を返さない俺に問いかける。


「ああ~…ええ…まぁ突然吸血鬼だと名乗って頂きましても…なかなか信じがたいものがありまして……いえいえいえ! 全く信用していないわけではないのですが…」


「まぁ、無理もないわね…あなたは見たところ外の世界の住人のようだし。 妖怪を見るのも初めてだったのかしら? 」


外の世界とは外国のことを指しているのだろうか?


「いえ、自分は昔からよく妖怪の類には襲われました。 さっきみたいな奇怪な光線を放つ妖怪に出会ったのは初めてですが…妖怪の存在を否定することはできませんし、あいつらのことはそれなりに知っているつもりです…。ですからあなたのような高貴な方がとても妖怪などとは思えないものですよ」


失礼のないようにお世辞も加え、最もらしい返答をしてみた。


「それは当然よ。御嬢様をそこらの下賤な妖怪共と一緒にされては困るわ」


咲夜が更に睨みを効かせて奏に忠告した。


「確かに私は誇り高き貴族であり、そこらの小物妖怪と比べられるのは侵害に値することだけれど…。 そうね、確かにあなたからすればこうして妖怪を前にして襲われないだなんて不自然極まりないのでしょうね…。 信じられないでしょうし、もしかしたら罠なのではないかと警戒されてもおかしくはない…。 いえ、警戒しない方がおかしいというものね…」


レミリアは溜め息混じりにそう話す。


「あなたの判断は賢明よ。 残念ながら私はあなたが期待している人間ではなく、あなたの知っている妖怪。 それも吸血鬼。 天狗のスピードにも勝り、鬼の力すら兼ね備えた最強の種族。 この事実は変わることはないわ。 実際にあなたもその力は既に見ているはずよ」


レミリアは湖での事を言っているのだろうと直ぐに理解できた。


チルノとルーミアを一瞬で薙ぎ払ったあの紅い光。


やはり、あれはレミリアが放ったものだったのだということを今になって改めて確信した。


この事実が彼女が妖怪であるということを俺に認識させ始める。


「でも、安心なさい。 私は無闇やたらに力を行使して人間を襲う醜く愚かな鬼とは違う。 まぁ、そんな風に人間を襲う鬼は既にこの幻想郷には存在しないけれど…。 私はあなたを殺す気なんてないし、殺させるつもりもない。 そうでなければわざわざここまで運ばせたりなんてさせないわ。 それとも、あの場に放置して小物妖怪の餌にでもなりたかったかしら? 」


「いえ…それは勘弁願いたいです…」


確かにレミリアの言う通りだった。


殺そうというのならばいつでも出来た。


押し倒した時にでも、蹴られ続けた時にでも、気絶していた時にでも、チャンスはいくらでもあった筈だ。


しかしそれが、殺そうと思えばいつでも殺せるという意思表示なのか?


本心から殺さずに助けようと思い、今も生かされ続けているのか?


疑問が耐えることはない。


しかし助けられたことには変わりはないようだ。


「無礼を働いた上に助けていただいてありがとうございました。 感謝しきれない程の恩を頂いた訳なのですが…失礼ながら今だに全てを信じ切れるほど、自分は純粋無垢で素直な人間ではないようで…」


「ふふ、別にそれでいいのよ。 警戒を怠り、他人の全てを信じるのは愚者の行いよ。 行き過ぎた隣人愛は時として身を滅ぼすもの…。 だからあなたは全く間違ってはいないし、それを詫びる必要もない。 まぁ、感謝の念だけは受け取ってあげるわ」


警戒することを妖怪に褒められるとは思わなかった。


レミリアは本当に変わっている。


警戒心のないものほど襲いやすい獲物はないというのに…


彼女の思考はまるで人間の様だ。


妖怪であったとしてもそうでなかったとしても、殺されないというのは本当なのかもしれない。


しかし、レミリアが妖怪だったとして俺を殺さないというのであれば、どうしても分からない疑問が一つだけ残っている。


「あの…一つお訊きしたいことがあるのですが…? 」


「ええ、発言を認めてあげるわ。 何かしら? 」


「その…あなたが妖怪だったとして…何故俺を助けたりしたのですか? なんの理由もなしに…という訳ではありませんよね…? 」


核心に迫ってみた。


殺されるわけではないというのならば、俺は何故助けられたのか?


その答えはいくら考えても出てきはしない。


嘘をつかれる可能性も無くはないが、今までの対応を見る限りはその可能性は薄いと見て損はないかもしれない。


怪しいと感じれば、その時に警戒し直せばいい。


「ああ、そのこと…」


どんな答えが返されるのかと唾を飲み、緊張の糸をと切らせることなく、俺はその返答を待った。


そして。


「気まぐれよ」


「へっ…? 」


間抜けな返事をしてしまった…


「あなたが面白そうだったから。 ここであなたの運命を終わらせてしまうのは勿体無いと感じた。 ただそれだけ」


「はっ、はぁ……」


なんだそれは…いい加減にも程があるだろうが…!


と、心の中で言葉に出来ないツッコミを入れた。


意味不明な動機に俺は心中奮起し、呆気に囚われていた。


「それで、あなたはなぜ、あんなところで襲われていたのかしら? 多方スキマにでも連れてこられたのだとは思うけれど…」


こちらの質問に答えた後は、あちらのターンらしい。


「さぁ? それが自分にも何が何だか…? 昨夜連れと山で剥ぐれて…仕方なく就寝して一夜を明かしたら、何故か辺りの景色が変わってまして…。まぁ、おかしな話なんですけど…。 それで、その後に連れを探して歩いてたらルーミアに出くわして……そんな感じです…」


今までの経緯を話していたら、二人の事を思い出した。


出来れば早くここを出て探しに行かなくては。


「そう、紫には会っていないのね…となると、寝ている間にスキマで連れてこられたか…神社や無縁塚に居たのではないとするならば、自分の力で外の世界から幻想郷に入り込んだかだけれど…」


「御嬢様、恐らく前者の確率は低いかと」


今まで空気を読んで会話に全く入ってこなかった咲夜が唐突に口を挟む。


「あら、なぜ? どちらかといえば、(あれ)の仕業だとした方が妥当な意見だと言えなくはないわよ?」


「実は、以前魔理沙に盗まれた酒類が博麗神社にあると、昨日天狗から情報が入ったので取り返しに行ったところ。 昼間から、鬼と隙間と巫女が酒瓶抱えて寝てました…。 あの量は完璧にやけ酒ですね…恐らく、数日は二日酔いでまともに行動することすら不可能かと」


「全く…妖怪の賢者が…呆れたものね…けれど、よく分かったわ」


レミリアは何かを納得したらしい。


だが今の俺は二人のことが気になって仕方がなかった。


「あの〜…実は、連れの二人が行方不明でして…そろそろお(いとま)したいのですが…?」


「それは、やめておいた方が良いと思うわよ。 この幻想郷には、とるにたらない小物から私みたいな大物まで危険な妖怪がうじゃうじゃいるわ。 こんな満月の夜に外を出歩くなんて自殺行為よ」


レミリアはそう忠告した。


しかし、それなら尚更探しにいかないわけにはいかない。


凶暴な野犬や熊が出るから止めておけと言われれば華恋がいるので、まだ納得して止めていたかもしれないが、相手が妖怪であれば話は別だ。


彼奴らは人間の力でどうこうできるような奴らではない。


(うち)が相手にしてきたのは、そんなやつらだ。


しかし、彼女の言葉には一つ、どうしても引っかかる点があった。


「あの、先程から『幻想郷』という言葉をよく耳にするのですが、それはこの辺りの地名なのですか? もし宜しければ具体的な場所を教えて頂きたいのですが…」


探す探さないにしろ、まずここが何処なのかを理解しなければ話にならない。


少なくとも、あの駅の近辺の森の近くであることは間違いないだろうが、電車内で見せてもらった地図を見ても『幻想郷』などという地名はどこにも載っていなかった。


「幻想郷がどこかと言われてもね…咲夜、説明しなさい」


「畏まりました」


数分後


「まぁ、こんなところでしょうか…? 」


「ありがとう咲夜。 で、他に何か分からなかったことや質問は? 」


「………」


分からなかったことだ?


全てが分からなかった…


博麗の大結界? 外の世界? 妖怪? 月人? 神? 天人? 仙人? 巫女? 魔法使い?


いったいどこの世界の御伽噺(おとぎばなし)だ?


「……話が見えないのですが…結局俺は……異世界に迷い込んでしまったと………? 」


「ええ、端的に言えばそうなるわね」


「…………」


「もしかして、そんな馬鹿な話がある訳がないだろうとか、思っているのかしら? 」


察しがいい。


その通りだった。


そんなことを易々と信じられるほど、俺はメルヘンチックな人間ではない。


「どう思おうと貴方の勝手だけれど、さっきあなた、山で寝ていて起きたら森になっていたと言っていたわよね? それはどう説明つけるのかしら?」


レミリアは、俺が話した疑問の種を聞き落としてはいなかった。


「それは…」


「寝ている間に勝手に下山したとでも言うつもり? それこそ馬鹿な話じゃないかしら? それにあなた、ルーミアのような妖怪に会ったのも初めてだと言っていたわよね? 貴方の世界では奇怪な光を放って襲ってくる妖怪なんていたかしら?」


確かに、あんな風に木々を薙ぎ倒したり湖の地面を抉るような光を放つ妖怪には、今まで会ったことがなかった。


「それに、湖にいたチルノ…あれは妖怪ではなくて妖精。 自然の力が具現化された存在よ、外の世界の様な環境下では決して生きてはいけないあれを、あなたは今までに見たことがある? 」


「…………」


何も言えなかった…今日は起きてから理解不能なことばかりが起きていた。


それ故に何も反論できない。


始めて見る妖怪、妖精という存在、寝ている間に起こった場所の転移。


どれをとっても俺の理解値を遥かに越えている上…強烈な痛みすら抱え、悪夢であるという可能性すら強制的に否定された。


「外の世界での常識はこの幻想郷では通用しないわよ。 幻想郷での常識は外の世界での非常識。 いつまでも常識に囚われていたら命を落とすわ」


咎めるようにそう言うレミリアに対し、俺は反論しなかった。


レミリアと咲夜の話は確かに信じられなかった。


しかし、二人が嘘をついて自分を騙そうとしているとは考えられなかった。


なぜなら彼女達は俺に忠告をしているからだ。


俺が死んでもいいと思われているのならば、夜に出歩くなとか、命を落とすから危険だとか、そういったことを言うとはまず思えない。


となると、さっき彼女が言っていた気まぐれで俺を連れてきて、今も俺を殺す気が無いというのは真実と断定しても行き過ぎた話ではないということではないか?


この際、これまでの疑問の全てを解消するためにも、ここは異世界なのだと肯定してみるのも…少し馬鹿らしいとは思いつつも、賢明な判断な気がした。


それに即興の嘘話にしては理屈がそれなりに通ってる。


レミリアは俺が『ルーミア』と『チルノ』の名前をあげる前から二人の名前を知っていたし、彼女たちが何者なのかもちゃんと理解していた。


そして何よりも、あのカードから現れた光…


ここにいる妖怪たちは明らかに俺の知っている妖怪という存在とはかけ離れていた。


それも俺が異世界だと仮定してみようと感じた要因の一つだった。


しかし、異世界であるとした場合、俺はどうやって二人の処に戻れば良いのだろうか…?


「それで、あなたはこれからどうするつもり? 」


まるで心を詠まれたかの様にレミリアはそう訊ねた。


「そうですね…外は危険なんですよね? 」


「ええ。 死にたいというのならば止めないわ。 数秒と経たない内に、冥界に直通よ」


咲夜が『そうすればいいじゃない?』と言わんばかりの表情で俺にそう言う、どうやらお嬢様を押し倒した件はこの人にはまだ許されていない様だ。


「いえ……遠慮しておきます……」


だがそうなると本当にベストな行動が何なのかが分からない…


どちらにしても、夜の内は外に出歩くのは危険だということは分かった。


となると俺はどこで夜を明かせば良いのだろうか…?


ここを異世界と仮定して、元の世界に戻るとしても今日を乗り切らなければ意味がない。


もし乗り切れたとしても、どうやって元の世界に戻ればいいのかすら分からない。


この際、昨夜の様に森で寝てみるのも…と考えたが、妖怪の餌になるのは勘弁願いたい。


では『今夜、泊めてください』と頼んで……いや…こんな豪邸に、あっさり泊めてくれるとも思えないし、命を救われて、ついでに泊めろと言うのは…それはそれで虫がよすぎる気がする。


俯きながら色々と考えてはみたが、そうこう考えがまとまらないままに三人は無言の時間を過ごした。


ロウソクの光だけで照らされた薄暗い部屋の中ではこの時間がまたえらく重苦しく感じられる。


早く何かを発言しなければ…


何か……何か……何か……


いくら思考を積み重ねても、全く最善と言える言葉が浮かびもしない。


そんな時。


「ねぇ」


唐突に発せられたその一言が部屋に充満した静寂を破り、それと共に言葉が続けられる。




「あなた、ここで働きなさい」




「………はいっ? 」




耳を疑うとはまさにこのことだ。


俺の思考は完全にそこで、その一言によって潰えてしまった…


今の今まで多くの理解不能な発言に困惑してきたが、今回のはかなりのヘビー級だった…


なぜかって?


まず、会話になっていない。


では、落ちついて今までの話し合いを順に整理してまとめてみよう。


俺は行き倒れていた処をレミリアという名の少女に助けられた。


彼女は妖怪でこの大豪邸の主様で、俺は彼女の家に連れてこられた。


そして、そこでれまでの経緯を話し、連れと逸れて探しに行きたいと言ったが危険だと止められ、これからどうしたいかを聞かれた。


さて、この経緯のどこに『ここで働きなさい』という勧誘の言葉に結びつく箇所があるというのだろうか?


もしかしたら、本当に単なる聞き間違いだったのかもしれないと思い直してきた。


「あの~…今…なんと……? 」


「聞こえなかったの…? ここで働きなさいと言ったのよ。 この、紅魔館で」


「えっと~…誰が……? 」


「あなたよ、あなた…今目の前にいるあなたの他に誰がいるというのかしら? 」


「……何故? 」


「行くところがないのでしょう? だったらここに居れば良いと言っているのよ。 あなたが外の世界に戻るその日まで、あなたはこの紅魔館で過ごす。 その代わりとしてここで働く。 それ以外に理由が必要なのかしら?」


そんなことが理由になると言うのだろうか?


妖怪が人間である俺を自身の家に住まわせる?


これまでの俺の経験から言わせれば、そんなことはありえる筈がない。


ライオンがシマウマに向かって『守ってやるから自分の群れに入れ』と言っているようなものだ。


例えを思いっきり失敗した気がするが…まぁ、気にしない…


何にしても、確実に裏があるとしか考えられない…


「いっいえ…しかし、それではこの館の人のご迷惑になりますし…」


「家の妖精メイド以上の働きを見せてくれさえすればそれで十分よ。 咲夜もいるし、あなたにその気さえあれば、直ぐにでも働けるようになるはずよ。 見たところ無能というわけでもないでしょうし」


一応褒められたのだろうか…?


しかし、今はそんなことで喜んではいられない。


「確かに全く働けないという訳ではありませんが…こちらにも働けない事情があるといますか…」


「……もしかして、まだ信用されていないのかしら? 私がまだ貴方のことを殺して食べようとしているとでも思っているの? 」


どうやら考えは筒抜けのようだ…


「はぁ~…いい加減信じる気にはなってもらえないのかしら? 私はあなたなんて食べないわ。 食べたらどうなるか分かったものじゃないし…。 もし貴方がこの紅魔館で働くというのならば、あなたは私の従者となるのよ。 それこそ主従関係があなたを守ってくれるとは思わないのかしら? 」


確かに部下を食べようとするとは考えられないことではある。


「現に咲夜はこうして生きているし、毎日私の為に働いてくれているわ。 部下を傷つけるような真似を私は決してしないという一番の証明よ」


「お嬢様にお遣えする事こそが、私の一番の幸せでございます」


咲夜が決して表情を崩すことなく、レミリアの言葉に対してそう応える。


しかし、俺の心はまだ揺らいでいる。


いくら傷つけないと言われても、長年の経験というトラウマが俺の首を縦に振らせようとはさせなかった。


しばらく俯きながら俺は考え、やはり幾らなんでも初対面の妖怪御嬢様の館で働くなんて考えられないという考えに固まった。


そして俺はその答えを告げるようとする。


「やっぱり、俺は…」


頭を上げてもう一度レミリアに向かい合ったその時。


「……!」


ロウソクだけで灯されていた部屋の中に光が差し込んだ。


「やっぱり、なに?」


「………」


言葉が出なかった。


いや、出なかったのではない出せなかったのだ。


レミリアの背後に浮かぶあれが…さっきまで雲に隠され、その存在を消されていたとは思えぬ程のあるものが、レミリアと共に俺を威圧していた。


そこには月が浮かんでいた。


見事なまでの満月だった。


しかし、俺は決してその見事な形状に圧倒されたわけではない。


俺はその月の形ではなく、月そのものに圧倒されていた。


空を見上げればいつも変わらぬ月明かり。


その光が太陽の光に照らされているのだと知ったのはいったい何時のことだっただろうか?


いつも変わらない筈の黄光を降り注ぐ月は昨夜も、そして、これまでもずっとその空で輝き続けるだろう。


しかし。


俺を圧倒したその月は優しい黄色い月光を俺に放ってくれてはいなかった。


いつも見てきた光とは明らかに違う。


そう、紅いのだ。


その月は彼女の背後にある大窓の外で夜空に浮かび、幽雅に紅く輝いていた。


まるで生物の生き血で染め上げたかのような鮮血の月。


そんな月明かりが、吸血鬼であるという彼女の後方で禍々しく輝いている。


まるで、彼女に何らかの力を与えているかのようにすら感じられた。


「それで、やっぱりなんなの?」


「………」


レミリアはその目で俺を見つめ続け、俺の返答を聞き返してくる。


正に蛇に睨まれた蛙状態。


金縛りのような状態に陥った。


「何も応えないのね……」


呆れた態度で、頬杖をつきながらレミリアは俺を見つめ、決してその目を逸らすことはなかった。


「……もう一度言うわ」


レミリアは玉座に深く腰掛け直すと足を組み、口を開いた。


「私は決してあなたを殺したりはしない。 私に忠誠を誓って、この紅魔館で私の執事として働きなさい。 これは命令よ」


「……はい」


逆らえなかった…


頭では断るつもりでいたのにも拘らず、レミリアの言葉を俺は承諾してしまった。


「やっと好ましい返事が返ってきたわね」


足を崩しながらレミリアは微笑む。


その微笑みはどういう意図が含まれているのだろうか?


俺には到底理解できなかった。


「そういえば、こちらの自己紹介は済んでいたけれど、まだ貴方の名前を訊いていなかったわね。 あなた名前は? 」


「御社 奏です……」


「そう、それじゃあ奏。 明日から宜しく頼むわね」


そう告げるとレミリアは近くに置いてあった紅茶入のティーカップに手をのばし、落ち着いた雰囲気で飲み干した。


「咲夜」


「はい、お嬢様」


「奏を部屋まで案内してあげなさい」


「畏まりました」


命令を承諾した咲夜は階段を降りると、静かにこちらへと歩み寄る。


「貴方の自室へ案内するわ。 付いてきなさい」


「はっはい…」


焦りながらもそう返答すると、何も言わずドアの方へと歩き出した。


ティーカップを両手で包み、無言のままただ月を見つめ続けているレミリアの姿を後にして、俺はこれから上司となるメイド長、咲夜の背中を追い、部屋を後にした。


数分後。


「…………」


謁見の間を後にした俺は、これから俺が住まわせてもらえるらしい部屋へと案内してもらっていた。


「…………」


部屋には何時になったらたどり着くのだろうか?


さっき部屋を出た時の感動は素晴らしいものだった。


長くどこまでも続いていそうな廊下。


その廊下に沿うように敷かれている深紅色のレッドカーペット。


窓は少なく、数メートル置きに置かれているロウソクの淡い光が英国のお屋敷らしい優雅な雰囲気を醸しだし、まるで別世界にいるように感じられた……まぁ…その通りらしいのだが…


「…………」


そんなことを感じながら俺の住む部屋に向かって歩き出した二人だったが……


さて、あの感動を抱いていたのは今から何分前のことであっただろうか?


「…………」


コツコツと廊下に響き渡る二人分の靴の音。


「…………」


その音が妙に大きく感じられるようになったのは今から三分…? いや…五分…? もしかしたらもっと前だったのかもしれない。


「…………」


結局、何が言いたいのかというと。


「…………」


会話がない……そして何時着くんだ…俺の部屋…⁉︎


これまで。


「行くわよ」


「はい…!」


以外、何も会話を交わしていない。


確かに話すことは何もないのかもしれないが、無理矢理唐突に決まったにしても一応これから後輩となる身としては、何を聞かれても答えられるように備えていたつもりだった…


これまで色んなバイト先で仕事をしたが、大抵は一緒に働く後輩がどんな人間なのかを知りたいとする先輩方ばかりに会ってきた。


というか今自分で考えて思ったが、既に俺は自分自身がここで働くことを納得してしまっているのだろうか?


氷梶也や華恋のことを考えれば、そんなことはしていられないのかもしれない。


しかし、今俺にできることは何だと考えても、幻想郷という異世界にいることを無理やり肯定した時点で、まず元の世界に戻るという選択肢しか見えてこないのは事実だった。


我ながら随分と馬鹿馬鹿しい考察だ…


それまでの期間、拠点となる住居を提供してもらえるというのはとてもありがたいことだ。


生かし続けてくれるかどうかは…まだ微妙なところではあるが…レミリアの言葉を解釈する限り、有能であることを見せつけて正式に従者と認められれば、殺されることはないということなのだろうが……


こんな長い廊下に豪華な装飾のお屋敷を見ていると、それこそ有能に動けるのかが不安になってくるというものだ。


さて、これまでのバイト経験だけでどこまで出来るか…?


なんにせよ、やってみるしかない。


異世界で野宿しないだけましというものだ。


それに、仕事は一から教えてもらえるとレミリアは言っていた。


ふと前方を歩く咲夜へと目が行く。


透き通った銀髪に青い瞳、細くきめ細やかな色白の肌。


身長は俺よりも少し下のようだ。


手を前で組み、同じスピード、同じ歩幅で姿勢を全く崩すことなく歩き続ける。


彼女を一言で表すならば、エレガントという言葉がお似合いだろう。


これからこの人が自分の上司になるのかと考えると…ハードルが一気に急上昇していくのが嫌でも感じられる。


まぁ、そこまで比べられはしないだろう。


「…………」


今、そこまで重要視されなくても問題ではない疑問が一つ浮上した。


この人は俺よりも年下? 年上? どちらなのだろうか…?


見た目から考えるに若く、年下と言い切れなくもないが、女性の年齢を見た目で判断するのは無理がある。


この立ち振る舞いを見る限りは年上なのかもしれないが、人間慣れるものだ。


昔からのキャリアがあればこの対応も頷ける。


では同年代と考えるべきなのだろうか……?


流石に本人に年齢を訊ねるわけにもいかず…悩み続けていると。


「……!」


いきなり咲夜が振り返り、俺へと向かい合った。


「ここよ」


「はっ、はぁ~…」


何を言われるかと焦ったが、ただ部屋に到着しただけらしい。


変な声を出さなくて良かったと心底思う。


まぁ、色々と悩んだが年下であろうと、同年代であろうと、年上であろうと、先輩と後輩の立場が変わるわけではない。


今はこの人はただの上司だと納得しておくことにした。


「貴方の持っていたバッグは既に部屋に置いてあるから、心配はいらないわ」


咲夜はドアノブに手をかけながら俺の顔を見てそう言った。


俺は何かを気にしていそうな顔をしていたようで、それを察したらしい。


まぁ、当然内容までは悟られなかったようだ。


そういえば…バッグのことをすっかり忘れていた…


ガチャッとドアノブを回して戸を開け、中に入っていった咲夜に続いたが部屋はカーテンも閉まっているようでとても暗く、ほぼ何も見えなかった。


「少しそこで待っていなさい」


そう言われて開いたままのドアを閉めて部屋の中で待っていると。


「……!」


言葉が出なかった。


人間本当に驚愕した時にはこうなるものなのだということを実感した。


「ここが、これからあなたがこの紅魔館で働くにあたって支給されたあなたの自室よ。 勤務時間外ならこの部屋に限り、自由にしていても構わないわ」


そんな咲夜の説明など、全く耳に入ってこなかった。


「あ…あの…」


「何かしら? 」


「本当に…ここが、俺の自室なんですか……?」


「ええ、他の部屋もほぼ同じ構造になっているから、これより広い部屋は用意できないけれど。 まぁ、お嬢様に無礼を働いたあなたにはこの程度で十分でしょう。 ああ、他の部屋と区別できるようにはしておきなさい」


咲夜は嫌味気に微笑みつつそう言う。


しかし、俺は咲夜のそんな態度など全く気にもとめず、部屋を眺めて呆然と立ち尽くしていた。


「っ……その…ただ、黙って泣かれてしまうと……。 私自身も、対応に困るのだけれど……」


「えっ……? 」


咲夜の言葉で我に返り、手で顔を拭ってみた。


見てみると本当に手に涙が付着していた。


「まさか、あれくらいで泣かれるとは予想外だったわ…さっきのことについては謝ってあげるから、早く泣き止みなさい」


「いやっ、これは…そうではなくてですね…感情が抑えきれずに無意識のうちに流してしまったと言いますか……」


言い訳の様に思われているのかもしれないが、この涙は決して何かが悲しくて出たものではない。


感情の(たか)ぶりによって、無意識の内に引き起こる制御不能な生理現象。


自分の為に用意されたというこの部屋を目の当たりにしたことによって、感情が制御不能となってしまった故に流された涙だった。


咲夜は不審そうでそれと同時に呆れたような顔で俺を見つめていた。


まぁ、その反応は当たり前だろう。


普通、勤務先の貸し部屋だと言われた部屋に入った瞬間に無言で泣き出すようなやつを正常だとは思えない…明らかに異常だ。


しかし、仕方なかったのだ。


俺をそんな異常人物にさせた理由が、この部屋には幾つも見受けられるのだから。


では、その理由を一つ一つ説明していこう。


まず、兎に角部屋自体が広かった。


その広さは、俺が住んでいる格安ボロアパートのマイルームの約3倍…いや…4倍かそれ以上に匹敵するかもしれない。


勿論、某アパートの部屋とは異なり、罅などは一切入っておらず壁は薄い紅色で、シミやくすみなど全く見受けられぬ上、新築ではないかというくらいに手入れが行き届いている。


それに、部屋の一区画に置かれているあのベッド。


これまで数センチしかないペラペラのせんべい布団で就寝していた俺にとっては正に極上の一級品。


そして、部屋全体を明るく照らし出したあの照明器具。


壁には備え付きのインテリアから漏れ出す淡く美しい光。


消えかけの旧式豆電球の悲しくなるような安っぽい灯りとは明らかに違う。


全てを優しく包み込むようなその光と、その光に照らし出されたこの部屋。


目に映るこの部屋の全てが『お前がこれまでの自室で過ごしてきた時間は、全て灰色の色褪せたものであったのだ』と突き詰めてくる様に感じられた。


それが俺の心へと響き、それと共に涙腺を緩ませたのだ。


ここまで圧倒的であると正直情けないとすら思えなかった。


しかし、それによって決意が固まった。


「俺…やります。 自信は…まぁ、あんまり無いんですけど…それでも邪魔にならないように…誠心誠意努力します」


自分の為にこんな部屋を用意されてしまっては、もう自信がないとか、出来ないとかは言っていられない。


やるだけやるしかない。


その決意の言葉を伝えると、咲夜はしばらく無言で黙ったまま俺の顔をじっと見つめていた。


すると急に(きびす)を返し、部屋のドアへと歩みを進めた。


やはり嫌われているのだろうか?


これからの職場関係が少し不安に感じられる…


「……口で言うことは人間ならば誰にでも出来るわ。 先ずは行動でそれを示すことね」


ドアの前で背を向けたまま咲夜は俺の決意に対し、そう忠告する。


「まぁ、少しは期待しておいてあげるから、明日から頑張りなさい」


「……はい! 落胆だけは決してさせません、必ずその期待に沿って見せます」


少し意気込み過ぎたかと思えるくらいの発言に僅かに恥ずかしさを感じた。


しかし、彼女は振り向きざまにほんの少しの微笑を浮かべてくれた。


少し気難しくてCOOLな人柄で、自分のことをどう思ってくれているのか全く読み取れなかったけれど、頼りがいのありそうな上司である。


そんな風に感じた。


「ああ、奏」


「えっ? うお!」


初めて名前を呼ばれて少々驚きながら顔を上げると、何か白いものが飛んできた。


「何ですか…これ……? 」


「見て解らないの? 手袋よ」


「いやっ…それは解るんですけど…何でこれを俺に……」


咲夜が投げつけたそれは、何の変哲もないただの純白の手袋だった。


「お嬢様のご命令なのよ。 貴方がこの館で過ごす間は、ずっとその手袋をつけているようにと」


「……何故なんですかね? 」


「さぁ? 私自身もお嬢様の御考えを全て理解しているとは言えないのよ。 まぁ、執事が仕事をするときはそうするものなのだと思ってらっしゃるのかもしれないわね」


確かに執事は手袋をしているイメージはあるが…俺はこれを仕事中だけではなくて、ここに居る間ずっとしていないといけないのだろうか?


どうやら本当に気難しいのはこの上司ではなく、あのレミリアというお嬢様の方だったようだ。


「分かりました…取り敢えずしておけば良いんですよね」


「ええ、そうしなさい。 ああ、自室では別にしていなくても良いとは仰っていたけれどね」


「何か…良くわからない規制ですね…」


「これからも、こういう命令や頼みごとをされるとは思うけれど。 単なる思いつきであったり、深いお考えあってのことであったり、その時々に応じてまちまちだから、あまり深く追求したり詮索したりすることが失礼に値することも考えられるわ。 時と場、主のご機嫌や性格を確りと考慮した上で給仕に励みなさい。 私達はその主の期待や要望に確実にお応えする為に居るのだから。 まぁ、ただ従うことだけが良いとは限らないけれど…」


期待や要望に確実に応える。


あるバイト先でも同じようなことを言われた覚えがある。


ファミレス等の接客業は大勢の人間を相手にするため、たった一人にでも失礼のない様に気を遣わなければいけないが、その全員に対してやっていることは多くが同じ対応であり、大概は台詞まで決められている。


しかし、執事やメイドという仕事は違うということを咲夜の話を聞いて改めて思い返した。


一人の主の為だけに忠誠を誓い、時には己が信念を捨て去ってまでもその期待に沿う働きが求められる。


勿論覚えれば大抵のバイトや仕事など誰にでもできる。


しかし、この仕事の場合はマニュアルなど存在しない。


自分の考えで行動しなければいけない時もあるが、その行動が正しいか否かは主次第。


全てが主の評価によって決まる。


その為、主の思考をある程度は理解できなければ話にならない。


言われたことを確実にやるという本質はこれまでやってきたバイトと何ら変わりないが、その重みや責任は何倍にも膨れ上がる。


この人が俺に伝えたかったことの意味を全て汲み取れているのかは甚だ疑問ではあるが、気を引き締めるのには十分だった。


ただ、そう話す彼女の顔が少しだけ寂しそうに見えたのは単なる俺の気のせいなのだろうか?


他人の心を読み取れるようになってみたいものだ…そうすれば対人関係や接客など楽であろうに…


叶いもしないことを心の内で思い浮かべながら手袋をした。


はめ心地は非常に良く、ここにもここの質の良さが窺える。


「じゃあ私は御嬢様の所に戻るから、それと浴室はここを出て廊下を左に向かって歩いていけば見つけられるでしょうし、今の時間なら誰も入っていないから、好きにしなさい。 明日から慣れない仕事が始まるわよ。 今の内に疲れを取って出来るだけ早く休みなさい。 それと食事だけれど…」


「ああ、それはお構いなく。 今夜限りは一応食べられる持ち合わせがあるので」


ここまで世話になっておいて今から食事の支度までしてもらうわけにはいかない。


部屋の時計を見る限り、既にてっぺんを回ろうとしている。


「そう、なら良いわ。 私の部屋は、ここの隣だから、何かあれば声を掛けなさい」


その発言と同時にドアが開かれ咲夜は部屋を退出した。


「えっ? 」


一人残された部屋で俺は思う。


隣かよ………と。


バッグから昨夜の残りの乾パンと飲み物を取り出し口へと運んだ。


部屋に不釣り合いな質素なディナーは一瞬のうちに終了した。







「期待に沿って見せます……か…」


少し意気込み過ぎではないだろうか?


まぁ、これから部下となるのであれば、それくらいの志は持ってもらいたいとは思うけれど。


あれは御嬢様の期待に対して言った言葉なのか…それとも……


「どちらにしても無駄にやる気には溢れているというのは間違いではないようね…」


それにしても部屋に入った瞬間に泣かれたのは想定外だった。


どういう心情で流した涙なのかは分からないけれど、部屋に入ったくらいでいきなり泣き出すだなんて……


「まぁ、人のことは言えないか…」


昔を思い返してしまった。


初めてここに来たとき、御嬢様を襲って返り討ちにあったあの日…私も……


どれくらい前のことであったか?


時を止めていると時間の流れというものが掴みにくくなっていけない。


それほど年月も経っていないでしょうに…今では随分昔のことのように思う。


それに男の泣き顔を見たのも何年ぶりだろうか?


香霖堂の前で箒に乗って飛んでいくコソ泥を眺めながら項垂れて泣いている男の姿を何度か見かけたことはあったけれど。


男の無言の涙は本当に衝撃的だった。


アレが御嬢様の腕を強引に掴んで押し倒していたことに対しての怒りの感情すらもすっかり忘れる程に……


「………」


思い出してしまった。


御嬢様がお散歩中に『たまには場所を移して湖の周りでお茶を飲みたい』と仰り、私が準備をしに戻っている間に……


もう一度部屋に戻ろうかとも思ったが、流石にボロボロの姿のアレを明日、御嬢様の前に晒すわけにはいかない。


『彼には手を出さないこと、勿論ナイフもね』


と、釘を刺されている為、あれに何かすれば私自身の立場が危うい。


「……お嬢様…何故あのような男を……」


もしも…仮に、全く絶対有り得ないことではあるが…もしかすると御嬢様はあの奏という男のことを……


ため息混じりに独り言を呟きながら歩いていると、いつのまにか御嬢様の待つ謁見の間の前までたどり着いていた。


一度深く深呼吸をして心を落ち着けよう。


「すぅ…はぁ~…」


ダメだ…どうしても溜め息になってしまう。


訊きたいことや解せないことは山ほどあるけれど、それがお嬢様の望みであるのならば、今は出来る限り心の内に仕舞っておこう。


「只今戻りました御嬢様」


「あら、遅かったわね咲夜」


「申し訳ありません。 少々考え事を…」


「奏のことかしら? 」


「………」


「まぁ、無理もないわ。 自分の主が、いきなり襲ってきた賊を雇って働かせると言うのだもの。 しかも同じ屋根の下で共に過ごすとなると貴方も気が気ではないわよね」


要らぬ感情は押し殺したつもりであったが、一言余計だったようだ…


いや、そうでなくとも今夜は満月。


今宵の御嬢様ならば私がどれだけ言葉を積み重ねようとも何も発言せずとも見抜かれていたのかもしれない。


「それで、どこの部屋を用意させたの? 」


「誠に勝手ながらあの男には私の隣の部屋を使わせようと思います」


「見張りというわけね。 まぁ、好きにしなさい。 それと、あれも渡してくれた? 」


「はい、ご指示どおりに」


「そういえば、奏の力がまだ予想すらできていなかったからずっと手袋をしていなさいと命じたけれど…浴室でも衣服を着用させるべきなのかしら? まぁ、咲夜が一緒に入らない限り、どちらでも良いとは思うけれど。 そういえば、あそこは咲夜の能力は使っているの? 」


「入りませんよ…。 以前は広くしておりましたが、館の停電時に浴室を使用していた者たちが出口を見つけられず全員脱水症状で倒れるという事件が起こったので…それ以来、浴室は空間を拡張しておりません」


「ああ、思い出したわ…。 確か神社の酔っぱらいの呑んだくれ鬼がその話を聞きつけて、『浴槽は広すぎると体が効率よく温まらない』だとか『私が直してやるからいつでも入れさせろ!』だとか言って無理やり改装していってたわね…。 まぁ、感謝するべきなのかしら…? 」


「あの後鬼が瓢箪を湯船に沈めたまま酔っぱらって帰ってしまい、浴槽の湯が全て酒になって多数の犠牲者が出ましたけどね…」


「……前言撤回ね…まぁ、浴室の方は問題ないのね? 」


「はい。しかし、本当なのですか、昼間に私の能力を解いたのがアレだというのは? 」


御嬢様を疑っているわけではない…


しかし、私は信じられなかった。


奏が目覚める前に御嬢様は私に昼間の騒動はこの男が原因なのではないかと告げた。


だが、アレは私に対して何の行動すら起こしてはいなかった。


第一、気絶している相手に自分の能力を解かれるなど、まず考えられることではない。


「ああ、その話…確証がある訳ではないけれどね…。 それでも、思い当たる節が無いわけではないわ。 ただ闇雲に部外者だからという理由だけで言っているわけではないから安心なさい。 それでは考察とすら呼ぶことは出来ないものね」


「では、何故そのように? 」


「……私のスペルの『不夜城レッド』は咲夜も何度か見たことがあるし、知っているわよね? 」


それは勿論知っている。


御嬢様のオーラを一気に解き放つ弾幕。


その外見は御嬢様を中心に紅い炎が十字に広がる様であり、展開中は御嬢様に近づくことすらままならない程に強力な物理攻撃性を有するスペル。


「昼間私が湖で佇んでいた時に、騒がしい連中が弾幕を放ちながら私に向かって飛んで来たのよ。 だから無謀にもこの私に挑んだことを後悔させてあげるつもりだったの」


「では、その時にスペルを御使いに? 確かにあのスペルは、向かってくる相手や弾幕に対して使用するのには適しておりますが…元々夜の力を集めて放つものなのでは? 」


「ええ。 でも昼間に使えないという訳ではないわよ。 力は数段落ちてしまうことは否めないけれどね…。 けれど、弾幕を見るに、向かってくるのは人食い妖怪と⑨、たかが小者二匹ならば幾ら力が落ちていようと満月の日の私の敵ではない。 ……筈だったのだけどねぇ~…」


お嬢様は微笑を浮かべ、空になったカップをくるくると回している。


しかし、話の後半になるにつれその微笑は徐々に曇っていった。


これは確実に不機嫌でいらっしゃる…


まさか…あの二人に、御嬢様のスペルが通用しなかったとでもいうのであろうか?


それに、この話が私の能力があの奏という男によって解かれたというお嬢様の考察に、どう結びつくというのか?


訊くに訊けぬ沈黙の不機嫌アピールを見守り続けながら、その真相を私は耳にする。


「まさか、人間の男が私の弾幕の中を走り抜けて来るなんてね……」


「………はっ………? 」


お嬢様のその一言に私は呆気に囚われ何も口にできなかった。


「無言のまま、この御嬢様は何を言っちゃてるんだろう? という目で私を見つめない…」


「はっ…! もっ…申し訳ありません…!しかし…」


「残念ながら事実なのだから仕方ないのよ。 二匹は問題なく吹き飛んだのだけれど…たった一人、妖精でも妖怪でもなく、人間…しかも外来人に私のスペルが破られた…。 確かに昼間で私の力が発揮されなかったとは言っても、あんな風に私のスペルカードが無効化されるなんてね……」


「それが、あの奏だと…? 」


「ええ、この一件から彼が何らかの力を所持していることはまず間違いない。 彼に触れられた瞬間、私は力を失った…。 昼間のあの一件でも咲夜の能力が解かれたのは、咲夜が彼に触れた直後だった。 けれど、その力がどういったものなのか? 彼自身がその力の存在に気づいているのか? 気づいていたとして、彼自身がその力を扱うことができるのか? 疑問は尽きることがないわ…」


ようやくお嬢様の御考えを理解することが出来たと私は確信した。


つまり、御嬢様はアレが持っているかもしれない未知の力に興味を示していらっしゃるということなのだろう。


いつも通りの単なる思いつき。


私が考えていたもしもなど全くあてにならない。


否、あてになってたまるものか!


確かによくよく考えれば、何の力も持たない人間に御嬢様が押し倒される訳も無い。


となると、あの男に異能の力があるということが間接的に照明されていると言っても過言ではないと言える。


その為、御嬢様はその力がどういうものなのかを確かめたいということなのだろう。


そういうことだったのね。


あれはただの事故だったのね。


いや事故だったとしても非常に妬ましく、羨ましいのだけれど…


御嬢様の証言を元にすれば、これは単なる御嬢様の好奇心。


あの男にどのような力が隠されているのだろうという探究心の現れ。


さっきまでもしかしたら御嬢様はあの男に好意を寄せているのではないか?などという自らのくだらない推察がバカバカしい。


そうだ、御嬢様は私の御嬢様。


決して誰にも渡したりなんかさせない!


「まぁ、咲夜に触れられると昼間の様なことがまた起きかねないから手袋をさせてみたけれど効果があるかは…………おーい、咲夜~顔、にやけてるわよ~」


「っ!」


これは不覚…色々考えすぎて顔に出してしまうとは…


「こっ、これはその……あっ、ああ! そういえばケトルに火をかけっぱなしでしたわ! 今すぐに消してきませんと! では、私はこれで、失礼します! 」


「ちょっと待ちなさい咲夜っ! 話はまだ終わって…ってもういない…」


咲夜は時間を止めそそくさと部屋を退出した。


そして、顔をゆがめながら長い廊下という薄暗い闇の中へと駆けていった。



全く…そそっかしいメイドだ。


あれがこの紅魔館のメイド長というのが少し不安になってくる。


……今に始まったことではないけれど。


咲夜が初めてここに訪れた時は、あんな感じではなかったのに…一体何が彼女をあんな風にしてしまったのかしら?


まぁ、仕事は誰よりも迅速に熟すし、問題はあってない様なもの…と言ってもいいのかしら?


「はぁ…新しい執事が真面(まとも)な人間であることを祈るしかないわね…」


いや、真面な人間であられては態々(わざわざ)雇った意味がない。


彼に触れられたときに感じたあの感覚…


私の力を封じ込めたあの力が、もし本物だったとするならば…


「どちらにしても、検証は必要ね…」


そうでなくてはリスクが大き過ぎる。


彼の力には今だ規則性が見いだせない。


単に触れたものの力を封じるのか? 奪うのか?


しかし、昼間咲夜が奏を蹴り飛ばしている時には館に異常は見られなかった。


つまり、物の上からでは力が使えないというのは断定していいのかしら?


それを確かめるための手袋だけれど。


咲夜にもう一度触れさせるべきだったかしら…?


やはり、こういった考察は私よりパチェに任せるべきね。


この願いを成就させる為にも…ここは慎重に動かなければ。


兎にも角にも、実際に何度か試してみなければ話しにならない。


「ふふ、さて…先ずは、何処へ向かわせようかしら」





「さて、どうするか…」


脱衣所へとやってきた俺は悩んでいた。


「手袋をずっとしていろとは言われたが…風呂の中まではめたままってのは流石にな…」


ここは言うことを聞いておくべきなのだろうか?


それとも己の常識を突き通すべきなのか?


『外の世界での常識はこの幻想郷では通用しないわよ。 幻想郷での常識は外の世界での非常識。 いつまでも常識に囚われていたら命を落とすわ』


頭の中で、その忠告が俺の困惑を更に引き立てる。


「たまには常識捨ててみるのも悪くないか…。 明日また訊いてみれば良いしな」


そして、手袋と用意されていたハンドタオルのみを身にまとい、浴室へと移動した。


「やっぱり広いなー」


意外にも風呂に対してはそこまで驚かなっかた。


普段から温泉や銭湯を利用している日本人にとって、広い浴室を見るのには慣れているせいだろうか?


もっと洋風な装飾や石像でも飾ってあるものだと思ったが、どちらかといえば和風な感じで凄く馴染み易く落ち着く。


「改装仕立てみたいに綺麗なもんだな。 これも使用人の方々が頑張って掃除してるからなんだろうな」


俺も明日から頑張ろう。


そう思いながら先ずはかけ湯をし、そして念願の浴槽へと体を浸した。


「んん~あぁ~やっぱり風呂はいいな~」


この旅で初めて願いが叶ったきがする。


昨日、駅の近くの旅館に早く戻って久しぶりの大きい風呂でゆっくりと温まりたいと思っていたが、氷梶也によってその願いは儚くも打ち砕かれてしまった。


「あの時氷梶也を止められていれば…こんな目にあわずに済んだってのに…折角の旅行休みの行き先があの世なんて…シャレにならん…」


『レミリア』


これから主となる人の名前。


あの子に助けてもらわなかったら、本当にどうなっていたのだろう?


「……深く考えても仕方ない…生きているだけで良しとするか。 そんなことより…二人ともどうしてるかな? 」


よく考えれば、ここで働くとは言ったものの…いつまでもここにいるわけにはいかない。


早く帰らなければ、あいつは行方不明者として妖怪よりも先に俺のことを捜索するだろう。


しかし、働くと言ってしまったからには直ぐに辞めるわけにもいかない。


しばらくは元の世界へ帰る方法を考えつつ様子見が必要だ。


「しくじらなければ良いけどな…。まぁ頑張るしかないか」


焦っても仕方がない。


兎に角今は氷梶也の様に楽天的に物事を見ることが大切だ。


そうだ、こんな大豪邸であんな素晴らしい部屋まで用意してもらったのだ。


なかなかできる体験ではない。


「うん。 そうだな」


暫くはこの状況を受け入れてみるのも悪くないと思えてきた。


「よし!それじゃあ。 いつか必ず帰るからそれまでゆっくり待っててくれ!」


天井に腕を突き上げ誰もいない深夜の貸切状態の湯船の中で思いっきり叫び、気合を入れた。


流石に柄にも合わず、らしくないことをしているな…とは思った。


「……さて…出るか…」


一人だけの沈黙は誰かに見られていないくとも妙に恥ずかしかった。


「はぁ~良い湯だったな〜」


今日一日のでたらめな疲れも吹き飛んだように、頭も体もさっぱりだ。


「これで、明日からの仕事も何とかなると良いんだけどな。 まぁ、何にせよ頑張るに限るか」


ビショビショに水を含んだ手袋を絞り、意気揚々と体の水滴をタオルで拭き終える。


早く着替えて部屋へ戻って寝よう。


明日から経験したことのない執事の仕事を任されるのだ。


今はあのメイド長の言うことに大人しく従って眠らさせてもらおう。


あのふかふかなベッドで眠るという期待に胸を膨らませ。


浴場を出た。


「さて、着替え着替えっと」


そう思い、脱衣所へと戻ってみると、ふとあることを思い出した。


「あっ……着替え……ないじゃん……」


昼間に森へと置き去りにしてきたもう一つのバッグのことを悔やみつつ、最悪な一日が終わりを告げた。


そして、苦労の絶えない最悪でそして最高の日々が始まる。


編集するだけでもかなりかかりました…。

さて…二話は出来上がるのだろうか…?

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