舞踏会で王子殿下からきみとの婚約契約を白紙にしたいと言われたわたくしは『王家の愛の呪い』にかかっていました
ふんわり雑な穴だらけ設定で書いております。
広い広ーーーーいお心で読んでいただけたら幸いです。
今夜は王家主催の舞踏会。
王宮の舞踏会専用広間は、着飾った紳士・淑女の方々で華やかに賑わっている。
そんな中、わたくしは婚約者のシーバ・ハスキィーヌ第一王子殿下に手を取られ、ダンス用に広げられた空間へと誘われた。
音楽のきりのいい所で、殿下はすっとわたくしの腰に手を当て、踊り始める姿勢を取る。
そんな殿下に合わせて、わたくしも殿下の肩に手を添える。
そして、二人は踊り出す。
さすが、殿下だわ。相変わらずリードがお上手。
婚約してあと少しで一年になる。
こうやって殿下と踊るのはまだ慣れないけれど、殿下のリードはわたくしには踊りやすく、毎回お上手だなと感じている。
わたくしは、殿下の後ろの方に向けていた視線を殿下のお顔へ、それからその少し下へと向けた。
そんなわたくしの視線に気がついた殿下から
「何を見ている?」
そう問いかけられたので
「今夜も綺麗にツルツルとした殿下の額と、最近運動不足だと嘆いておられた殿下のウエストですわ」
にこりと笑顔でそう答えた。
一瞬で殿下の表情がぶすくれたものになった。
「そんな言い方をするな。それではまるでわたしの額がツルッパゲのようだし、腹がブクブクと出ているようではないか」
「あら、そんなつもりはございませんでしたのよ」
わたくしはにこりと笑みを作った。
「またそう言って…」
殿下は不服そうだ。
ちょうど曲が終わりになった。
「よし、今夜こそはっきりさせよう」
殿下は意志を固めた顔でそう仰った。
踊り終わったのにまだ向かい合ったままのわたくしと殿下。
周りはどうしたのかとチラチラと視線を向ける。
「ラヴィーナ・カイヌンシ公爵令嬢、わたしはきみとの今の婚約契約を白紙にしたい」
殿下の宣言するかのような大きな声。
おかしい。殿下のお気持ちはわたくしにあるはずなのに、どうしてそんなことを仰るのかしら?
突然の婚約白紙希望の殿下の発言に周りの注目はさらに多くなった。
白紙だと?
どういうことだ?
さっきまであんなに仲良さげな感じだったのに?
周りの方々の小声が聞こえてくる。
「シーバ殿下、婚約契約白紙の理由はなんでしょうか?わたくしは殿下の婚約者として能力不足だったのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。きみがいつも王子妃教育を頑張っているのは知っているし、教師陣からも評価は高い。それに、先日も隣国のにゃらん語に詰まったわたしに小声で教えてくれたではないか。きみの能力に不足はない」
能力不足ではないならどうしてだ?
婚約者としてちゃんとされているではないか
殿下はラヴィーナ嬢の何ががご不満なんだ?
周りの小声が少し大きくなってきた。
「では、わたくしの容姿が殿下のお好みではないのでしょうか?」
「それもない。きみはとても美しく好ましい。きらきらと月の輝きのような銀色の髪も、海の色をそのまま移しとったような瞳の青も、白磁のような白い肌、ほっそりとした手足なのに、大きなむ…ゴホン。と、とにかく、きみの容姿が好みでないからという理由ではない」
さっき殿下は何を言いかけた?
能力不足でもない、容姿でもないとすると、やはりあの最近の噂の令嬢が原因?
やはり殿下はあの令嬢のことを?
周りの声に遠慮がなくなってきた。
「それでは、最近、シーバ殿下が傍に侍らせていらっしゃったご令嬢にお心を傾けられたからでしょうか?」
「それこそ絶対にない!あれは仕事だ!」
殿下の声が荒く大きくなった。
「仕事ですか?」
「ああ、仕事だ。スーギル・ヨークバリ令嬢、いやもう令嬢ではないな。スーギル・ヨークバリの生家はターダ男爵家。スーギルが5才の時にフミダイン子爵家の養女となり、14才で今のヨークバリ伯爵家の養女となった。スーギルのあの目立つ容姿から貴族家の政略として養女にと望まれたのだろうと考えられていたが、最近スーギルの周囲の者たちの様子がおかしいとの訴えがあった。そこでわたしが調査することになった。結果、スーギルは禁術である魅了魔法を使用していた。昨日、魔法封じを付けさせ、収監した」
「魅了魔法なんて…。殿下は大丈夫でしたの?」
「ああ、大丈夫だ。魔術師団から魔法防御のアクセサリを借りていたからな」
殿下のお言葉にわたくしはホッと息をついた。
周りの声も安堵の声が大きい。
「では、どうして婚約契約白紙をご希望なのでしょうか?」
わたくしの問いかけに、殿下はぎゅっと両手を握りしめた。
「今の婚約契約には『ラヴィーナ・カイヌンシは婚約者として、シーバ・ハスキィーヌの隣に立ち、支えることを義務とする』とある。わたしは、きみに義務で隣に立ち支えられたくない。わたしはきみを愛している。だからきみの意思で、心で、わたしの隣に立ち、支えて欲しいと望んでいる!」
殿下がそう仰った直後、周りのあちらこちらから
ケッ!
という声が聞こえてきた。
さらに
なんだよ、単なる殿下の告白タイムじゃないか!
あらあらまぁまぁ!
あら~、ラヴィーナ様はなんとお答えされるのかしら?
なんて声が遠慮なくする。
「ひと月前くらいから、きみの視線がわたしの頭や腰あたりを彷徨うことが多くなっている。わたしが何を見ていると聞いても、きみは誤魔化すばかり。きみは…『王家の愛の呪い』にかかっているのではないか?」
殿下のわたくしを見る強い目に、わたくしは顔だけではなく全身が真っ赤になったことを自覚した。
『王家の愛の呪い』
それは、王家の人間が恋い慕う相手と相思相愛になったとき、王家の人間の頭には動物の耳が、お尻には動物の尻尾が、相手にだけ見えるという呪い。
そして、どちらかの愛がなくなると耳も尻尾も見えなくなるという呪い。
ただ、王家の長い歴史の中で見えなくなった相手はいないのだそう。
わたくしは火照る全身を何とか宥めようと大きく息を吸い、そして吐く。
『王家の愛の呪い』にかかったと殿下に言うことは、それ即ち殿下のことを愛してると、本人に言うこと。
恥ずかしくて、殿下に言うことが出来なかった。
婚約してから一年近く、お互いに気持ちを確かめあったことはなかった。
でも、殿下は今夜はっきりさせようと決められたのだ。
ならば、わたくしも恥ずかしがっていないで、はっきりお答えしなくては。
「はい、殿下の仰る通り、わたくしは『王家の愛の呪い』にかかっております。今も殿下の頭には三角のピンとしたかっこいいお耳が、そして、フサフサの太いかっこいい尻尾が見えております」
お尻という単語が恥ずかしくて言えなかったので省略した。
「わたくしも婚約者の義務ではなく、わたくしの意思で、心で殿下の隣に立ち支えたいと存じます!」
わたくしが言い切った瞬間、殿下にギュッと抱きつかれてしまった。
そして、周りからは殿下とわたくしの相思相愛を祝う拍手の渦が巻き起こった。
「ラヴィーナ嬢…いや、ラヴィ、ありがとう。これからもよろしく願う」
「シーバ様、わたくしこそよろしくお願いいたします」
殿下からラヴィと愛称呼びされたので、意を決してシーバ様と呼んでみたら、骨が折れるのでは?と思えるほどの力で抱きしめられた。
あの舞踏会からしばらく経ち。
「ほら、殿下。もう時間ですから執務室へお戻りください!」
王宮での殿下とのお茶会。
その時間も終わりに近づくと、殿下の側近が迎えに来るのだけど、殿下は度々すぐに戻られるのを嫌がられるようになった。
側近が服を引っ張っても、腕を引いても、テコでも動かないと足を踏ん張られる。
「もう!殿下、お席をお立ちください!」
「まだあと5分あるではないか!」
「時間には余裕がある方がいいでしょう!」
「次の仕事の時間開始には余裕を持たせているのだから、ギリギリまでここにいても支障はないだろう!」
殿下の仰る通り、支障はないのだけど何が起こるか分からないのが仕事。
「殿下。本日、王妃様から晩餐を共にと言われております。ですから、お時間までにお仕事を終わらせてくださいませ」
わたくしがそう言うと、殿下はそれまで立つつもりもなさげだったのに、すくっとお立ちになった。
「分かった。では、晩餐の時にまた会おう」
とてもいい笑顔で執務室に向かわれた。
殿下のこの度々嫌がるお姿は、王宮の使用人の間では『拒否シバ殿下』と噂されているらしい。
この噂は殿下のお耳に入れないようにした方がいいかしら。
でも、わたくし、普段の殿下も好きだけど、『拒否シバ殿下』も大好きですわ!




