第四章:高宗への謀略、「天皇」と「天后」の称号誕生
倭国との戦での大勝利の報が、大唐の都、長安に届いた日、皇帝高宗は玉座で朗報を祝していた。ここで武照は、開戦前から猛虎と子猫の戦だった実態はおくびにも出さずに、満を持して進言する。「陛下、このたびの東方遠征は、陛下の徳と我が大唐の恵みにより、輝かしい勝利を収めました。古来より中華に帰順しなかった倭国を討伐しました。どの皇帝もなしえなかった歴史的な偉業です。倭国に追い打ちをかけて陛下の完全な支配下に置くのはたやすいことですが、西域の動きの方が気になるゆえ、今はこのままにしておきましょう。いずれ帰順の使節団を送ってくるでしょうから。もし、帰順の意思を示さないようなら、今度は禁軍を含む二百万人の全軍隊から五十万人と属国から三十万人の合計八十万人を討伐に向かわせ、倭国はわが大唐の東海部とし、大王と高官の一族全員を捕虜として連行させます。そうなった場合は、いずれかの皇子を東海王とすればよいでしょう。このようなこともすべて、天が陛下に治天下の正統性を授け、万邦を従わせた証といえましょう」
高宗は微笑む。「確かに、我らは天命を得ているかのようだ。だが、皇后よ、そなたは何を思う?」
武照は静かに俯き、一瞬考える素振りを見せた後、声を上げる。「陛下、恐れながら、私には一つの奏上がございます。これほどまでに天意が陛下に味方するのであれば、陛下は単なる皇帝の称号に留まらず、さらに高次の尊号を名乗られてはいかがでしょう。天より託された治世を強く示す、新たな呼称――『天皇』をお名乗りくださいませ」
「天皇……」高宗はその響きを転がす。「天を戴く天意による皇帝か。確かに、我らはすでに古来よりの東方の強敵を制し、唐の名声は四方に轟いている。『天皇』の名をもって、我が朝廷の聖神性を一層鮮明にできよう。後世、朕を『天皇』と仰ぐ時、人々は天の意思を体現する君主として、朕を崇めるであろう」
武照は微笑を深める。「そして、もし陛下が天皇となられるのでしたら、私もその后として『天后』の尊号を賜りたく存じます。天皇と天后、これは天意に応える者として、万邦に対する無上の権威を示すことでございましょう」
高宗は頷く。「よろしい、皇后よ。そなたは我と並び天意を受けし『天后』となれ」




