第二章:武照皇后が天意による双頭の統治者「天皇」「天后」への改変を企図
夜半の郊外の瀟洒な離宮の一室。静かな明かりの下で、武照は信頼する宦官と三名の武家の甥達で固めた側近を集め、密やかに語らっていた。その視線には決意があり、その声には揺るぎない力が宿る。
「皇后さま、叔母上、わが大唐は既に多くの国を隷属させ天下を統べるかつてない大国なれど、皇后さまご自身はさらなる高みに登られるおつもりでしょうか」最年長で禁軍将軍の甥の武寧が低い声で問う。
武照は微笑する。「当然だ。私が大唐を事実上差配しておる。それは、病弱な皇帝陛下を支え、この大唐と五千万人の民の安寧を守るためには避けては通れぬこと。先帝太宗様は兄弟殺しと陰口をたたかれたが、私はその真意と苦悩を間近で見聞きし肌と心で知っている。大唐と民の安寧は陛下がいまわの際に私に託されたこと。私は剣の道、茨の道でもこの道を行く。この道こそが天意だ。だが、中華には女帝という先例はない。ましてや、皇后は帝に従う身分。その権威には天地の隔たりがある。だが、この制約を乗り越える術はある。名分を変えるのだ。皇帝の称号に代わる、あるいは上回るものを与え、私自身もそれに倣うことで、天命を帯びた権威を二分する――いや、いずれ独占する礎を築くのだ」
この場にいる側近の一人は、遠く東方の島国、倭国(後の日本)の噂を聞いたことがあった。そこでは過去に女性が最高権力者として君臨した例があるという。武照はそれを耳にしている。「倭国からの遣唐使の話では、倭国には推古大王や皇極・斉明大王といった女性統治者が存在した。現在は、私が完膚なきまでに打ち負かした天智大王の娘が持統大王として国を統治していると聞く。女人が天下を治めることは絶対に不可能ではない」武照の目が仄かに煌めく。「我々は、既存の『皇帝』の称号を超え、天より権威を直接印す名――『天皇』を創り上げ、その后を同等に天意を受けた『天后』とする。その暁には私も天命を帯びることになる。つまり、『天后』は皇帝の恩寵ではなく、天意による双頭龍の統治者とする。時が来れば、私が自ら帝位に上がることすら可能になろう」




