『A組・美形論争からの、再燃。』
前回、A組では「誰が一番美形か」を巡って激論が交わされた。
だが――学園の混沌はそれで終わらなかった。
その数日後、放課後の男子だけの集まりで、再び論争の火種がくすぶり始めていた。
「ぶっちゃけどうなん、お前ら」
風悪が机にもたれながら口を開いた。
この一言が、全ての始まりだった。
「どうって……?」
二階堂秋枷が首を傾げる。
「二階堂はさ、七乃と仲良いじゃん?」
早速、話題が向けられる。
「な、七乃さんとはなんでもないよ!? いつもお世話にはなってるけど!」
焦りながら手を振る二階堂。顔が少し赤い。
「そういう風悪君だって、黒八さんと仲良いじゃん?」
二階堂の反撃。
「仲良いだけでそんなんじゃない!」
風悪も全力で否定した。
「それ言うなら、王位は妃と仲良いつーか」
風悪の矛先は王位富に向かう。
「あれとは小学生の頃からの付き合いだからね。仲が良いというより、漫才コンビだよね。もはや」
王位がさらりと返すと、全員が同時に思った。
(あ、うん、漫才コンビ)
全員の心が一瞬で一致した。
「一番気になってるのは、夜騎士が誰をどう思ってるか……なんだけど」
辻颭がぽつりと呟く。
その瞬間、男子全員の視線が夜騎士凶に集中した。
「誰がどうとか思ってないけど……強いて言うなら四月? 良いよなⅩⅢ! オレもなりてぇ!」
夜騎士は真顔で答える。
純粋な憧れ。だが求められていた回答は、まったく別方向のものだった。
「凶、聞きたいのはそういうことじゃない。」
「やっぱ付き合ったら……あんなことやこんなことを!?」
「えっ……ちょ、おま……!」
教室がカオスに包まれる。
そこで、六澄わかしがぽつりと呟いた。
「身体の反応は正直でも、心がついていかない」
意味深な一言。空気が変わる。
全員の視線が、今度は六澄に集まった。
「どういうことだよ六澄!?」
「やったのか!? やったのか!?」
「相手は……五戸!?」
即座に飛び交う不穏な憶測。
「このしろじゃない。……てか、この話、聞いても面白くないぞ」
六澄は無表情のままため息をついた。
だが、全員の目は「聞きたい」で揃っていた。
観念したように、六澄が語り出す。
「とある女──言葉を操り、人や物を思いのままに操る能力者が居た。そいつの言葉を防ぐ前に、能力で縛られた」
男子たちの喉が鳴る。
「意識はある。だが身体は言うことを聞かない。その状態で……乗られた。それだけだ」
六澄は淡々と語り終えた。
「待って、何それこわ」
「いつの話だよ」
「で、誰なんだよその女!」
質問が殺到する中、六澄はぽつりと付け加えた。
「もっとも、奴の顔の好みは夜騎士凶だろうな」
「オレ!?」
夜騎士が目を丸くする。
その瞬間、男子全員が思った。
(結局、夜騎士凶かよ……)
一方その頃別場所、女子側でも――同じような地獄が始まろうとしていた。
「七乃と三井野は分かりきってるからいいとして」
五戸このしろが机を叩いて宣言する。
その隣で三井野燦は顔を赤くしてうつむいた。
「ぶっちゃけどう思ってる!? 男子のこと、そして女子の誰が一番かを!」
五戸が勢いよく指を差す。
四月レンは「また始まった」とでも言いたげに、静かにため息をついた。
「ため息つくくらいなら言いなさいよ! 四月レン!」
五戸の矛先が四月に向かう。
「興味ない」
四月は即答した。
本当に、興味がなかった。
「風悪君推しますよ」
黒八空がにこやかに言えば、
「秋枷君です!」
七乃朝夏が胸を張って主張する。
「そういう、このしろちゃんはどうなの? わかし君とよく居るじゃん」
鳩絵かじかが純粋な疑問を投げかけた。
一ノ瀬さわらは、静かに様子を見守っていた。
「えー、ないない。見た目は整ってる方だけど、中身が無理」
五戸は容赦なく言い切る。
「女子はみんな、あたしの嫁。それでいいじゃん?」
妃愛主が胸に手を当てて宣言した。
女子一同、心の中で同じツッコミを入れる。
(嫁じゃない)
「妃は王位と夫婦漫才してな」
「なにをー!?」
五戸と妃が取っ組み合いを始め、教室は再び大混乱。
四月はため息をつき、
黒八は笑いながら止めに入り、
三井野は隅で小さく「平和だなぁ」と呟いた。
こうして――
A組の美形論争、第二ラウンドは、またもや収拾のつかないまま幕を下ろした。




