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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能戦線の日常  作者: 神野あさぎ


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8/11

『A組・美形論争、勃発』

 切ノ札(きりのふだ)学園一年A組の教室。

 昼休みのゆるんだ空気の中、いつものごとく五戸(いつと)このしろの一言から、何かが始まった。


「ねぇ、すっごくどうでもいいんだけど、ふと思ったこと言っていい?」


 スマホを操作しながら、五戸がぽつりと呟く。

 クラスの面々は、またか……という顔をした。


 次の瞬間――


「うちのクラス、男子の顔立ち良いのは夜騎士(よぎし)って決まってるじゃん? じゃあ女子はって思ったわけよ」


 ピタリと、スマホを操作する手が止まる。

 鳩絵(はとえ)かじかが、ガタッと椅子を引いて叫んだ。


「このしろちゃん! それセンシティブな問題だよ! ダメだよ!」


 その隣で、夜騎士凶が顔を上げる。


「なんでオレの名が出るんだよ。」


 無自覚な声。

 教室の数人が一瞬で沸騰した。


「あたしは、あんたの無自覚ほんと嫌いだわ!」


 妃愛主が勢いよく立ち上がる。


「マジどうでもいい」


 四月(しづき)レンは単語帳を見つめたまま、淡々と呟く。


「良いじゃん、勉強ばっかじゃ頭おかしくなるわ!」


 五戸も負けじと立ち上がった。


 教室の温度が上がる。

 いつものA組、平常運転である。


「三井野さんか、黒八(くろや)さんでしょうか。」


 七乃朝夏が恐る恐る挙手する。


「私!? そんなことないよ!」


 三井野燦が慌てて否定。

 黒八空は「えへへ」と頬を掻き、少し照れて笑った。


「分かる、(さん)はあたしもお気に入りだし」


 妃がさらっと援護射撃。

 三井野は真っ赤になって俯いた。


「何さ、海王中! 身内贔屓!? さわらちゃんだって……!」


 五戸が言いかけた瞬間、

 一ノ瀬さわらの菌糸がにゅるりと伸び、彼女の口を塞いだ。


「……!」


 沈黙の中、二階堂秋枷(あきかせ)が苦笑しながら言う。


「みんな、いいと思うけど……?」

「そんなお行儀のいいこと、今は求めてない!!」


 妃の叫びに、二階堂は「ええ……」と情けない声を漏らす。


「ねぇ、思ったんだけど……」


 鳩絵が慎重に口を開く。

 教室に“嫌な予感”という名の沈黙が走った。


「男子一番手が夜騎士君なら、二番手は誰?」


「だからなんでオレ……」


 夜騎士が頭をかく。

 本人にまるで自覚がないのが余計に腹立たしい。


「富だけはありえない」


 妃が即答。


「うるさい」


 王位富が淡々と返す。


「私は風悪(ふうお)君推しますよ〜」


 黒八が朗らかな笑顔で、風悪の肩をぽんと叩いた。


「違うと思う!」


 風悪は全力で否定。


 その隣で辻(せん)が机に突っ伏していた。

 寝ているのか呆れているのかは、誰にも分からない。


「秋枷君が一番ですわ!」


 七乃が宣言するように言い放つ。

 その横で二階堂は苦笑いを深めた。


 その頃、菌糸から解放された五戸が、ついに反撃に出た。


「分かってないわね、あんた達」


 ツカツカと歩き出し、六澄(むすみ)わかしのもとへ。

 六澄は教科書のページを淡々とめくりながら、バカ騒ぎを静観していた。


 次の瞬間――

 五戸が六澄のメガネをひったくる。


「行ったれ! わかし!」

「このしろ、メガネ返してくれ」


 六澄の無機質な声をよそに、五戸は高々とメガネを掲げた。

 クラスの視線が一斉に集まる。


「おお、六澄! お前いいな!」


 夜騎士が手を叩いて納得顔。

 ――そしてクラス全員が同時に思った。


(お前が言うな)


「正統派イケメンの夜騎士凶と、闇を抱えたミステリアスなイケメン六澄わかし……ね、うん! 滅べ」


 妃が満面の笑みで言った。

 その笑顔が一番怖いと、誰もが思った。


「このクラス、うるさすぎる」


 四月は単語帳から一度も視線を上げず、ため息混じりに呟いた。


 ――今日もA組は平常運転。

 騒がしくて、くだらなくて、どこか温かい午後だった。


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