表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能戦線の日常  作者: 神野あさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

『放課後お花見計画』

風悪(ふうお)君、放課後お花見しましょう!」


 黒八(くろや)空が黒く長い髪をふわりと揺らしながら、風悪に声をかけた。

 その笑顔は、春の光のように明るい。


「お花見?」


 風悪は首を傾げた。

 外の世界から来た“人工妖精”である彼にとって、その言葉はどこか聞き慣れないものだった。

 記憶の欠片に「花」という概念はあっても、「お花見」という響きにはピンと来ていない。


「桜の木の下で宴会です!」


 黒八は朗らかに胸を張る。


「いいな。みんなで行こうぜ」


 声を上げたのは夜騎士(よぎし)凶。

 前髪で左目を隠した、どこか掴みどころのない少年だ。

 その隣で、王位富が静かに頷いた。


「いろいろ持ち寄れば、楽しそうだね」


 目を閉じたままの王位の言葉は、春の空気のように穏やかだった。


「私パスー、やることあるし」


 気だるげにスマホをいじりながら言ったのは五戸(いつと)このしろ。

 隣では六澄(むすみ)わかしが、無表情のまま一言だけ添える。


「このしろが行かないなら、行かない」


 二人の不参加が、早々に確定した。


「さわらちゃんは?」


 鳩絵(はとえ)かじかが筆を回しながら問いかける。

 一ノ瀬さわらは、静かに首を横に振った。

 その一言のなさが、すべてを物語っていた。


「そっかー! じゃあ、かじかもパスー!」


 鳩絵も元気よく不参加表明。

 結果、五戸・六澄・一ノ瀬・鳩絵の四人が離脱。


「辻や四月は?」


 風悪が声をかける。


「私は忙しい」


 教室の一番前、四月レンは単語帳から目を離さず、そっけなく答えた。


「……オレもパス」


 辻(せん)は机に突っ伏したまま、低い声で返す。


 さらに、左にサイドテールを揺らす少女――三井野(さん)が申し訳なさそうに言った。


「私、予定が入ってて……」


「えーっ! 燦が行かないなら、あたしも行かない!」


 妃愛主が勢いよく叫ぶ。

 亜麻色の髪を後ろでまとめ、芝居がかった仕草で手を振った。


「なんだよ、みんなノリ悪いな」


 夜騎士が口を尖らせ、机に突っ伏す。


「二階堂と七乃は?」


 風悪が振り返る。


「それが、今日は! ましゅまろちゃんの! 月に一度の六六六円セールの日なんだ!」


 二階堂秋枷(あきかせ)が拳を握りしめ、宣言した。


「ましゅ……なに?」


 風悪は思わず首を傾げる。


「秋枷君の好きなゆるキャラですわ。」


 七乃朝夏が、優雅に微笑みながら説明した。


「つまり?」

「不参加で!」


 二人の息はぴったりだった。


 こうして――

 お花見に参加するメンバーは、風悪、黒八、夜騎士、王位の四人だけ。


 人数は少ないが、それでも春の午後の陽気に包まれ、

 彼らは小さな花見を決行することにした。


 桜の花びらが風に乗り、舞い落ちる。

 風悪は空を見上げ、小さく微笑んだ。


(……これが、お花見か)


 その横で夜騎士が缶ジュースを開け、

 黒八が笑い、王位が静かに頷く。


 騒がしい連中がいない分、少しだけ穏やかな午後だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ