『放課後お花見計画』
「風悪君、放課後お花見しましょう!」
黒八空が黒く長い髪をふわりと揺らしながら、風悪に声をかけた。
その笑顔は、春の光のように明るい。
「お花見?」
風悪は首を傾げた。
外の世界から来た“人工妖精”である彼にとって、その言葉はどこか聞き慣れないものだった。
記憶の欠片に「花」という概念はあっても、「お花見」という響きにはピンと来ていない。
「桜の木の下で宴会です!」
黒八は朗らかに胸を張る。
「いいな。みんなで行こうぜ」
声を上げたのは夜騎士凶。
前髪で左目を隠した、どこか掴みどころのない少年だ。
その隣で、王位富が静かに頷いた。
「いろいろ持ち寄れば、楽しそうだね」
目を閉じたままの王位の言葉は、春の空気のように穏やかだった。
「私パスー、やることあるし」
気だるげにスマホをいじりながら言ったのは五戸このしろ。
隣では六澄わかしが、無表情のまま一言だけ添える。
「このしろが行かないなら、行かない」
二人の不参加が、早々に確定した。
「さわらちゃんは?」
鳩絵かじかが筆を回しながら問いかける。
一ノ瀬さわらは、静かに首を横に振った。
その一言のなさが、すべてを物語っていた。
「そっかー! じゃあ、かじかもパスー!」
鳩絵も元気よく不参加表明。
結果、五戸・六澄・一ノ瀬・鳩絵の四人が離脱。
「辻や四月は?」
風悪が声をかける。
「私は忙しい」
教室の一番前、四月レンは単語帳から目を離さず、そっけなく答えた。
「……オレもパス」
辻颭は机に突っ伏したまま、低い声で返す。
さらに、左にサイドテールを揺らす少女――三井野燦が申し訳なさそうに言った。
「私、予定が入ってて……」
「えーっ! 燦が行かないなら、あたしも行かない!」
妃愛主が勢いよく叫ぶ。
亜麻色の髪を後ろでまとめ、芝居がかった仕草で手を振った。
「なんだよ、みんなノリ悪いな」
夜騎士が口を尖らせ、机に突っ伏す。
「二階堂と七乃は?」
風悪が振り返る。
「それが、今日は! ましゅまろちゃんの! 月に一度の六六六円セールの日なんだ!」
二階堂秋枷が拳を握りしめ、宣言した。
「ましゅ……なに?」
風悪は思わず首を傾げる。
「秋枷君の好きなゆるキャラですわ。」
七乃朝夏が、優雅に微笑みながら説明した。
「つまり?」
「不参加で!」
二人の息はぴったりだった。
こうして――
お花見に参加するメンバーは、風悪、黒八、夜騎士、王位の四人だけ。
人数は少ないが、それでも春の午後の陽気に包まれ、
彼らは小さな花見を決行することにした。
桜の花びらが風に乗り、舞い落ちる。
風悪は空を見上げ、小さく微笑んだ。
(……これが、お花見か)
その横で夜騎士が缶ジュースを開け、
黒八が笑い、王位が静かに頷く。
騒がしい連中がいない分、少しだけ穏やかな午後だった。




