『異能カンニング防止令』
中間テストを控えた皐月のある日。
切ノ札学園一年A組に、再び宮中潤の声が響いた。
「お前たち、テストで異能を使うのは禁止だ。
……そこで新たな取り組みを導入する。」
教室の空気が一瞬で緊張に変わる。
宮中は懐から、札のようなものを取り出した。
「これは“異能カンニング防止札”だ。
異能を使ってカンニングをした者を自動で感知し、罰を与える」
教師の真剣な声に、生徒たちはどよめいた。
「……罰って、どんな?」
五戸このしろが恐る恐る聞く。
「それは、実際にやってみれば分かる」
「いやいやいや! 試すなって!!」
王位富が即座にツッコむが、
宮中はすでに教室に札を配布し始めていた。
◆試験運用開始
札は掌ほどの大きさで、中央に赤い文様が描かれている。
受け取った生徒はそれぞれ机に貼りつけ、授業が始まった。
「よし、ではテスト本番を想定して授業を行う。
札の効果は自動だ。私は見ているだけだ」
宮中の言葉に、生徒たちは不安そうに視線を交わす。
「異能を使わなきゃ大丈夫……だよな?」
風悪が呟く。
だが、五戸が早速やらかした。
「黒板の文字、見えにくいな……ちょっと紐で──」
パチン!
札が青白く光り、煙を上げた。
五戸の机が小さく爆発する。
「ぎゃあっ!? なにこれ!? 物理的!?」
「ほら見ろ、言わんこっちゃない」
王位が冷静に突っ込むが、同時に別の方向でも異変が。
「ちょっと男子! 答え見せなさい!」
妃愛主が男子に詰め寄る。
札がピクリと反応し──
バチィン!
閃光。
妃の髪が一瞬でボリュームアップした。
まるで静電気の女王。
「な、なにこれ!? 女子にまで罰当てるとか不公平よ!!」
「いや、完全に自業自得だろ……」
夜騎士凶が呆れる。
◆暴走開始
突然、教室中の札が一斉に光り始めた。
「え、ちょ、待って、これ反応しすぎじゃ──」
黒八空の机の上で札が震え出す。
「わ、わたし何もしてないよ!?」
「もしかして、隣の風悪のせいじゃない?」
「いや、オレも何もして──!」
ドゴォン!!
教室の天井が吹き飛んだ。
札が焼き切れ、煙が充満する。
「うわああああ!!」
「授業中に戦場作るなあ!!」
「先生止めてぇぇぇ!!」
叫び声と爆音の中、宮中は冷静にメモを取っていた。
「なるほど……札は共鳴し合うと暴走するのか……ふむ」
「実験メモ取ってる場合じゃないでしょ!?!?」
五戸が悲鳴を上げる。
◆授業終了後
数分後、
教室は黒煙と焦げた匂いに包まれていた。
机は半分焦げ、札はすべて灰に変わっている。
「……異能カンニング防止札、改良が必要だな」
宮中がメモを閉じる。
「先生、それ以前に……命の保証が必要です」
王位が冷静に指摘する。
「これ、もう“罰”じゃなくて“攻撃”じゃね……?」
風悪が煙の中でぼやいた。
その隣で、
四月レンが焦げた札を指でつまみ、冷たく言った。
「テスト本番に使ったら、死人が出るな」
「……次は安全版を作る」
宮中は真顔で頷いた。
だが、生徒たちはもう誰も信じていなかった。
こうして、「異能カンニング防止令」はわずか一日で廃止となった。
学園の記録には、後日こう記されることになる。
――“異能より教師の方が危険”。




