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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能戦線の日常  作者: 神野あさぎ


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『異能封印チャレンジウィーク』

 皐月。

 新緑が眩しく、春の名残がまだ校庭に残っていた。

 だが、切ノ札学園の一年A組は今日も平常運転──つまり混沌(カオス)だった。


「今日から“異能封印チャレンジウィーク”を始める」


 朝のホームルーム。

 黒いマスク姿の教師・宮中(みやうち)潤が宣言する。

 その声に、教室内が一瞬ざわめいた。


「異能を使わずに、一週間生活してみろ。

 異能に頼らず生きることも、異能者には必要な訓練だ」


 教卓に置かれたのは、銀色のリング。

 手首にはめると、一時的に異能の発動を抑制する装置だ。


「……まじかよ」

 風悪(ふうお)が呆然と呟く。

 彼にとって風は呼吸のようなもの。

 封じられるのは、両手を縛られるも同然だ。

 

 封印チャレンジ初日。


「髪、乾かない……」


 風悪は朝から洗面台で格闘していた。

 ドライヤーの風が弱すぎるので普段異能で補助していた。

 封印チャレンジ中につき、まともに髪を乾かせない。

 結果──寝癖がそのまま残った。


 学校へ登校すると妃愛主(あいす)に爆笑された。


「その髪型、戦闘態勢みたい」


「笑うなよ……」


 風悪は恨めしげに言い返すが、妃にも余裕はない。


「やば、課題してなかった。ちょっと、そこの男子〜!」


 彼女の異能は“異性限定の洗脳”。

 男子生徒を操って課題を写させようとした──が。


「封印チャレンジ中なの忘れてた!」


 異能は発動せず。

 代わりに、担当教師の怒声が教室に響いた。


「課題ぐらい、自力でやりなよ」


 王位富が呆れ顔で言うと、妃は机を叩いて反論した。


「別に良いじゃん! 持ってるもの使っても!」


 ──その“持ってるもの”が封じられているのだが、本人は納得していなかった。


 二日目の昼休み。

 日直の五戸(いつと)このしろは、黒板を消し、窓際で黒板消しを叩いていた。

 その時、手が滑って黒板消しが窓の外へと落下する。


「やっば……!」


 反射的に異能を使おうとするが、もちろん封印中。

 何も起きない。


「あーもう! 不便! なんでわざわざ取りに行かなきゃならんのよ!」


 五戸の怒声が校庭に響いた。

 近くで見ていた六澄(むすみ)わかしは、無表情のままそれを眺めている。


「わかし! 見てるなら取ってこいって!」


 渋々動き出す六澄。

 その顔には、面倒くさいという感情が、はっきりと浮かんでいた。


 三日目の放課後。


「秋枷君は、何かお困りごとは?」


 七乃朝夏が、穏やかに二階堂秋枷(あきかせ)へ声をかける。


「オレは、異能ないからなあ……全く。」

 二階堂は苦笑いしながら答えた。


「実は私も……」

 黒八(くろや)空が小さく頷く。

 異能のない彼女たちは、むしろ普段通りの様子だった。


 三井野も特に困っていないらしく、隣で鼻歌を歌っている。


「いいな……お前ら……」


 机に突っ伏した風悪が、恨めしそうに呟いた。

 夜騎士(よぎし)凶も困ったように眉を寄せる。


「あるのが当たり前だからな。急になくなると……落ち着かない。」


「つか、暴徒出たらどうすんだよ、これ。」


 風悪が当然の疑問を口にする。

 すると、教室の一番前の席から四月(しづき)レンが立ち上がった。


「その時は、私が戦う。それだけだ。」


 帰り支度をしながら放たれたその一言は、雷のように静かで強かった。

 頼もしい――が。


「いや、俺らも戦わせろ!」

 夜騎士が思わず抗議する。

 結局、いつものように笑いが起きた。


 一週間後のチャレンジ最終日。

 A組の大半は机に突っ伏し、完全にぐったりしていた。


「異能って……便利だったんだな……」


 風悪は虚空を見つめながら呟く。


「オレ、風使えないだけで三キロ痩せた。」

「男子操れなくて、滅茶苦茶先生に怒られた!」

「ストレスで課金が止まらなくなったんだけど!?」


 各々が思い思いの不満をぶつける中、

 教壇に立つ宮中は満足そうに頷いた。


「よく頑張ったな。異能を使わずに生活できるお前たちは、もう一人前だ。」


 教室に拍手と歓声が広がる。

 しかし――その直後。


「次は、“封印状態で模擬戦”な。」


 空気が凍りついた。

 椅子がきしみ、誰かが息を呑む音が響く。


「先生、それ……ただの地獄。」


 王位富が冷静に呟いた。


 一ノ瀬と辻は何も言わず、静かにリングを見つめていた。

 こうして、封印チャレンジウィークは幕を閉じた。



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