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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能戦線の日常  作者: 神野あさぎ


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3/11

『ハロウィン後日談 ―一年A組は眠らない―』

 霜月一日。

 切ノ札学園(きりのふだがくえん)の廊下には、まだわずかにハロウィンの名残が残っていた。

 カボチャの提灯は半分つぶれ、壁にかけられた蜘蛛の巣は――もはや本物か偽物かわからない。


 そんな中、唯一変わらぬ喧騒を保っている場所があった。

 一年A組の教室である。


「……ハロウィン、やっと終わったね。」


 王位富が机に突っ伏しながらぼやいた。

 周囲には焦げたカボチャの破片、歌う残骸、そして山積みの封印札。

 どこからどう見ても戦後処理現場だ。


「終わったどころか、後片づけが始まったんだが?」

 四月(しづき)レンが呆れたように言い、手にした書類をぱらぱらとめくる。

 “雷神”の異名を持つ彼女も、この時ばかりはただの事務員だった。


「でも楽しかったですよ?」

 黒八(くろや)空が微笑む。

 彼女の手には焦げたカボチャランタンの残骸。

 見るたびにほのかに光り、かすかに歌う。

 (まだ生きているらしい)


「オレ、もう二度と風で削らない……」

 風悪(ふうお)が天井を見上げてぼそりと呟く。

 その隣で辻(せん)が無言で頷いた。


「……オレも。」


 粉々仲間の間には、言葉以上の絆があった。


「そういえば、二階堂、優勝おめでとう!」

 五戸(いつと)このしろが笑顔で拍手を送る。

 当の本人、二階堂秋枷(あきかせ)は小さく首を傾げた。


「……ありがとう。何もしてないけど。」


 その淡々とした笑みが、逆にみんなの神経を逆なでしていた。


「まあ、何事もなく終わっただけマシじゃないです?」

 七乃朝夏(あさか)が穏やかに笑う。

 彼女の隣には、いまだ神々しく光を放つ“グラタン”。

 どうやら精霊が気に入って離してくれないらしい。


「そうかしら?」

 妃愛主(あいす)がくすりと笑う。

 手にはワイングラス――中身はぶどうジュースだ。

 ちなみに彼女が「男子(王位以外)」を再び洗脳しようとして、

 四月に雷を落とされたのはつい昨日の話である。


 一ノ瀬の机にはきのこグラタン。

 キノコが少しずつ成長しているのは……気のせいではない。

 三井野は歌うカボチャを片づけようとして悪戦苦闘中。

 鳩絵(はとえ)は教室の片隅で、楽しげにスケッチを続けていた。


「それにしても……」


 夜騎士(よぎし)凶が窓の外を見上げた。

 夕日が差し込み、粉塵が金色に舞っている。


「“異能禁止の行事”でここまで被害出す連中、世界でも珍しいぞ。」


「それ、誇っていいの?」

 王位の冷静なツッコミに、教室が笑いに包まれた。


 ふと――

 六澄(むすみ)わかしが無言で窓際に立つ。

 外では、子どもたちが残りのキャンディを分け合っていた。

 その光景を見つめながら、彼は静かに目を細める。


(……これだから、人間は面白い)


 誰にも聞こえない独り言。

 その表情を見た風悪が、ほんの少し笑った。


「なあ、来年も……やるのかな、ハロウィン。」


 風悪の問いに、即座に声が返る。


「やるわよ!」

 勢いよく手を挙げたのは五戸だった。


「次こそ優勝はこの私!」

「いや、異能禁止って言っただろ……」

「黙ってな富! 心は自由よ!」


 笑い声が夕焼けの教室に響く。

 雷鳴も、暴風も、影も、今日はお休み。


 ――こうして、一年A組のハロウィンは静かに幕を下ろした。


 ……少なくとも、次の騒動が起きるまでは。


一ノ瀬がいない!今回は辻がいない!この回は三井野がいない!この回は妃が!と奮闘しております。

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