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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能戦線の日常  作者: 神野あさぎ


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2/11

『入学式、嵐の幕開け。』

 切ノ札学園(きりのふだがくえん)――

 異能保有者特別育成校。

 春の風が吹き抜け、校門の前に新入生たちが列をなす。

 晴れやかな入学式のはずだった。


 ──はず、だったのだ。


 B組から新入生代表挨拶。


「し、し、新入生代表、東風(こち)ですわ……!」


 壇上に立つ少女・東風心地(こち ここち)の声が震える。

 極度の緊張のせいか、手に持った原稿がカタカタと揺れていた。


 次の瞬間――


 ブワァァァッ!!


 風が吹き荒れた。

 校旗が舞い上がり、壇上の花飾りが空中でバラバラに散る。

 新入生代表挨拶は一瞬で自然災害に変わった。


「ひゃっ……!?」

 風に煽られて前の席の生徒が悲鳴を上げる。

 彼の名は霜路雷馬(しもじ らいま)

 驚きのあまり、体から微弱な電流が放たれ、マイクがバチッ!と火花を散らした。


 さらに――


 「……っ」


 後方に座る少女、北乃ムラサキが両手をぎゅっと握りしめる。

 彼女の冷気が反応し、空気が一瞬で凍りついた。

 会場全体が、真冬のような温度に沈む。


 暴風・雷・冷気。


 入学式は、まるで自然の異能ショーケースだった。


 壇上の教師たちは青ざめ、校長は式辞を途中で止めた。


「……これ、毎年恒例にならないといいな……」


 教員・宮中(みやうち)潤は、遠い目をしてつぶやいた。


 一方でA組はというと──


「……」


 一ノ瀬さわらは無言で座っていた。

 あの騒ぎを前にしても、微動だにしない。


「うわ、すご……!」

 二階堂秋枷(あきかせ)が目を丸くする。


「秋枷君、わたくしがいますから、大丈夫ですわ!」

 七乃朝夏(あさか)が胸を張って言う。

 周囲が凍っても、彼女の笑顔だけは春のままだ。


「ひゃっ……感電した!」

 三井野(さん)が指先を抑えて跳ね上がる。

 どうやら霜路の電撃が飛んできたらしい。


「はぁ……」

 短く息を吐いたのは四月(しづき)レン。

 面倒事が始まったとでも言いたげな、静かなため息。


「今日新ガチャの発表なのよね!」

 五戸(いつと)このしろがスマホを見ながらテンションを上げる。


「課金、やめたら?」

 六澄(むすみ)わかしが無感情に突き刺すように言った。


「うるさいなぁ! この時期はイベント多いんだよ!」


 黒八(くろや)空はそんなみんなを心配そうに見ていた。

 「みんな大丈夫かな……」と小声で呟き、

 その隣では鳩絵(はとえ)かじかがスケッチブックにバタバタと飛ぶ花びらを落書きしていた。


 辻(せん)は無言。

 けれど、ちらりと横目で黒八を見ていた。

 彼の視線に気づいた者はいない。


「静かにしろよ」


 低い声が響く。

 夜騎士(よぎし)凶が一喝すると、A組の空気が一瞬で締まった。


「ふふっ、でも……女のことの出会いっていいわよね!」

 妃愛主(あいす)がワクワクしたように言う。


「愛主、少しは自重しなよ」

 王位富が呆れたように嗜めた。



 風悪(ふうお)は、そんな体育館全体の空気を静かに見つめていた。

 騒がしいようで、どこか温かいこの雰囲気。

 これが〈異能学園〉の“日常”なのかと、

 彼は小さく笑った。


(……にぎやかだな)


 窓の外では、春の風がゆるやかに吹いていた。

 まるで、これから始まる彼らの物語を祝福するように。


名前の癖

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