『教室でスイカ割り(季節関係ない)』
「突然だけどスイカ割りしよ!」
昼休みの教室に、妃愛主の声が響き渡った。
両手には大きなスイカ。
その登場だけで、A組は一瞬でざわつく。
「なんでスイカ?」
五戸このしろが気だるげに問いかける。
手にはスマホ。目は一ミリもスイカを見ていない。
「季節関係なく! やりたい時にやるんじゃーッ!」
妃の声が教室中に轟いた。
彼女のテンションは、もはや季節どころか理性も越えていた。
「異能でスイカ割り、楽しそう!」
鳩絵かじかが、満面の笑みでスケッチブックを掲げる。
すでに“スイカ割りの構図”を描き始めていた。
「でしょ、でしょ!」
妃がにっこり笑う。
こうして――季節も時期も無視した、異能スイカ割り大会が開催された。
トップバッター、風悪。
手をかざした瞬間、強風が巻き起こる。
「風圧、行きます!」
ドンッ!!
スイカが、粉砕された。
「うわ! 飛び散った!」
「……オレも」
続く辻颭も鎌鼬の爪で一閃。
結果は同じ。風悪と並んで、床を掃除する羽目になった。
次は夜騎士凶。
影を伸ばし、黒い刃がスイカを正確に切り裂く。
「影斬・スイカ二つ割り」
見事な切れ味。
その隣で王位富も、淡々と光の剣を振るう。
「……形だけなら芸術だな」
ぱっくり真っ二つ。
二人とも余裕の表情。
「余裕じゃね?」
「流石にね」
クールに決める二人を見て、妃は面白くなさそうに眉を寄せた。
唇をわずかに歪め、笑みを消す。
「……おもしろくない」
嫌な予感しかしなかった。
一ノ瀬さわらの番。
彼女は静かにスイカに手をかざす。
菌糸が伸び、スイカをやさしく包み込んだ。
――数秒後。
スイカの表面から白い胞子が吹き出し、うっすらキノコが生えていた。
「さわらちゃん!? もうそれ、キノコ栽培セットなのよ!!」
五戸が突っ込み、教室中が笑いに包まれる。
一ノ瀬は無言でスマホを掲げ、画面を見せた。
『自然は大事』
「いや、大事だけどね!?」
再び五戸の突っ込みが響く。
このテンポだけは異能級だった。
その後もスイカ割りは続いた。
黒八空は普通にでスイカを割ろうとして外し、
三井野燦は歌でスイカを共鳴させ爆散させた。
……そして、事件は起こる。
「お前ら、何してる?」
教室のドアが音を立てて開き、黒いマスクの教師・宮中潤が立っていた。
床にはスイカの破片、壁には汁飛び、空気には胞子。
完全に事件現場である。
「え、先生、これはその……理科の実験で!」
妃が必死に言い訳をする。
「どこがだ」
宮中の低い声が教室を凍らせた。
こうして一年A組のスイカ割り大会は、
“異能実験暴走事件”として正式に記録された。
放課後、全員に与えられた罰は――教室掃除。
飛び散ったスイカの跡を拭きながら、風悪が呟いた。
「……楽しかったけど、もうやめよう」
「えー、またやろうよ!」
妃の明るい声が響く。
季節外れのスイカの香りが、いつまでも教室に残っていた。




