『A組男子、恋愛談義で炎上す』
とある日の昼休み。
切ノ札学園一年A組の教室には、いつも通りのざわめきが漂っていた。
だが――その中心にいるのは、珍しく女子ではなく男子だった。
風悪、夜騎士、王位、二階堂、辻、そして六澄。
全員が妙に真剣な顔をして、机を囲んでいる。
「つまり、“好きって気持ち”の定義が問題なんだよ」
風悪が腕を組んで語り出す。
外の世界から来た人工妖精にとって、恋愛という概念は未知の領域。
それを真面目に議論する彼の姿に、すでに嫌な予感しかしなかった。
「えーっと……ときめいたら好きなんじゃないの?」
二階堂が素直に言う。
「いや違う。好きっていうのは――」
「“共に戦えるほど気合いが入る”ことだろ」
夜騎士の妙に体育会系な意見が飛ぶ。
顔は真剣そのものだった。
「凶、それ友情だろ」
王位が即座に突っ込む。
そんな中、六澄がぽつりと呟いた。
「感情の構造を考えるなら、好意と執着を切り離すべきだ」
「なんか、哲学講座始まったぞ……」
辻が机に突っ伏しながら呟く。
「お前ら、何を真剣に話してる?」
教室の後方から、黒いマスクの教師・宮中潤の声が響いた。
全員がビクッと肩をすくめる。
「宮中先生、恋愛って謎ですよね」
風悪が真面目な顔で切り出す。
「……真面目な顔は授業で見せろ」
宮中は即答。だが、誰も引かない。
「先生は、結婚とかしてるんですか?」
「職務質問かお前は」
夜騎士の不用意な一言に、宮中の眉がぴくりと動いた。
「ぶっちゃけ先生はどう思います? このクラスの……その……」
二階堂が恐る恐る尋ねる。
「無粋だな」
一同「終わった」と身構えた――が。
「師、一択!」
宮中の声が教室に響いた。
「我々の頂点にして、我々を導く御方! あの方こそ……!」
拳を握り、熱弁を振るう宮中。
「師って誰?」
「四月?」
「先生どうした?」
一同、混乱の渦へ。
その瞬間、教室のドアが開いた。
入ってきたのは――四月レン。
書類を手に、冷めた表情のまま立ち止まる。
「……何、お前ら」
「四月! お前はどう思う!?」
風悪が勢いよく立ち上がる。
「“好き”って何だと思う?」
「……興味ない」
四月は一言だけ放ち、机にプリントを置く。
「昼休み中にまとめて提出しとけ。あと、宮中」
「ん?」
「学校では、呼ぶなと言っただろうが」
静かにそう言い残して、四月は出ていった。
宮中は頭をかきながら、わずかに笑った。
「もう、いっそアンケート取るか?」
二階堂が思いつきで言う。
「テーマ:“誰に告白されたら断れないか”!」
「やめとけ、火種だ」
王位が即警告するも、時すでに遅し。
紙が配られ、鉛筆が走る。
「書いたぞ!」
「オレも!」
……数分後。
「で、結果発表~~~!」
夜騎士が紙束を掲げた瞬間、教室のドアがバンッと開いた。
「お前らぁぁぁぁぁ!!!」
雷鳴が轟く。
四月レン再登場。
手には燃えかけのアンケート用紙。
「くだらないこと、やってんじゃない!」
「違うんだ四月! これは純粋な研究で――」
「黙れ風悪!」
ドゴォォンッ!!!
閃光が走り、男子全員の髪が一瞬で爆発した。
教室は焦げた匂いで満たされる。
「宮中、事後処理」
四月が淡々と書類を渡し、去っていく。
「……はぁ。まぁ、青春ってのは、いいもんだな」
宮中は灰色の煙の中で、遠い目をした。
その日の放課後。
A組男子全員、反省文を提出。
タイトルは統一されていた。
――『恋とは、命がけ』




