ゆびきり
小春日和の午後、僕はあの子と駅前の公園で待ち合わせをしていた。名を千紘という。ぱっちりと大きな目をしていて、まるで花びらのような笑顔を見せてくれる女の子だ。僕より二つ年下で、大学は違うけれど、たまたま入ったカフェで相席になって、それから何度か顔を合わせるうちに、こうして休日に会うようになった。
「ねぇ、ゆびきりって、ほんとに効くと思う?」
千紘は、ベンチの背もたれに寄りかかりながら言った。細く白い足をぶらぶらと揺らし、白いスニーカーのつま先で土を蹴っている。その仕草がやけに無防備で、僕は時々目を逸らさなければならなかった。
「効くもなにも、子供の約束ごとでしょ。約束を破ったからって、罰が当たるわけでもないし。」
「ふーん、つまんないこと言うね」
千紘はつま先を止めて、僕の方に体を向けた。彼女の目には、いつもどこか未来を見据えるような光がある。僕がなにかを否定するたび、その光が強くなる気がして、いつも返す言葉に困る。
「じゃあさ」
彼女はすっと手を伸ばしてきた。
「いま、ここで指切りしよ。大人同士の、ちゃんとしたやつ」
「ちゃんとしたやつ?」
「うん。絶対に嘘ついちゃいけないってやつ。破ったら、一生会えないってやつ」
彼女は真剣な顔をしていた。けれど、少しだけ口元が笑っていた。その顔を見ると、どうしても逆らえなくなる。僕は素直に指を差し出して、彼女の指と結んだ。
「なにを約束するの?」
「さぁね。それは秘密」
千紘は、そう言って僕の指を軽く引っ張った。そのまま手を離さずに、ゆっくりと立ち上がる。
「今日はね、おいしいクレープ屋さんに連れてってあげる。ほんとは誰にも教えたくなかったけど、君には特別」
歩くとき、彼女の手がまだ僕の指を握ったままだった。ほんの少しの接触だったけれど、それが妙に心地よくて、僕はそれをほどく理由を忘れてしまった。
その日、僕たちはクレープを食べ、くだらない話をして、スマホで記念写真を撮った。千紘は何気なく僕の横に寄り添い、「もっといい顔してよ」と笑った。その瞬間、僕は、まるで世界の中心にでもいるような気分になった。
帰り道、千紘がポケットから取り出したのは、さっきの写真だった。画面を見ながら、彼女はぽつりと言った。
「ねぇ、この写真、十年後も覚えてると思う?」
「わかんないけど、忘れたくないとは思ってる」
「ふふ、それならいいや。じゃあ、このゆびきり、今日のぶんは守られたってことにするね」
そう言って、千紘はもう一度、僕と指を絡めた。
日が暮れる頃、駅までの道を歩く途中、彼女が僕の耳元でささやいた。
「また来週も、会える?」
「うん、もちろん」
そう答えると、彼女は満足そうに頷いた。そして、ふいに言った。
「ね、私たちって、なんかちょっと、恋人みたいじゃない?」
僕はそれにどう返したか覚えていない。
ただ、たしかに、そのとき僕は幸せだった。