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78.昇爵と新たな特産品と増えた領民達

「故に、隣国ケナシーと我が国の交易を再開させ、国交正常化に尽力したバルハ領領主、マルク=コニーよ。

そちを男爵から子爵へと昇爵させる。

今後の活躍も楽しみにしておるぞ」

「謹んで、承ります」


 ガルーダ夫人をエスコートし、ファビア様達のいる場へ戻る間もなく、国王が会場入りしてしまった。


 呼ばれるままに国王の前にかしずいた私は、国王の任命に戦々恐々としながらも、外面だけは何とか取り繕い、粛々と国王が手渡す任命書を受け取る。


 ワッと湧く拍手と喝采。


『あの噂は本当だったのか』

『コニー男爵、いえ、コニー子爵の働きで、戦争が回避できましたのね』

『何でも水虫に効果がある薬を開発したとか』

『私は美しい肌を手に入れられると聞きましたわ。

新しいファッションの先駆けでもあると』

『全く新しいジャンルの酒も、バルハ領で開発したらしいぞ』


 聞こえてくるのは、称賛と驚きの声だ。

ファビア様と二年後に結婚をしようと約束した、あの頃には想像もできなかった。


 長いような短いような、この二年。

特にファビア様と約束し、バルハ領へ帰宅してから一年した頃。

つまり今から約一年程前からは、更に怒涛の展開となった。


 隣国ケナシーの使節団が、ユカルナ国(この国)に派遣された。

そこでユカルナ国が粗相をしたとかで、使節団は怒って自国に帰ってしまったとか。


 そこから半年間は、いつ戦争が起こるやもしれぬ緊張状態に突入。


 両国の国交もストップし、ユカルナ国はケナシー国を挟んだ向こう側にいる国との貿易も、徐々に難しくなっていった。


 確かあの頃はバルハ領に、王城からだけでなく、ファビア様やヘリー、他にもマナーを教えた教え子からも、気をつけるようにと警告の手紙が届いた。

何せバルハ領こそが、ユカルナ国と隣接する領の()()だったから。


 とは言えバルハ領とケナシー国との間には、険しい山を挟んでいた。

もしケナシー国がこの国へと攻め込もうと思っても、バルハ領を経由するのは、ケナシー側からすれば悪手。

ケナシー側の山道は全く舗装しておらず、特にあちら側から見える山は、険しく切り立った崖ばかり。


 そしてケナシーの軍隊が、もしユカルナ国へ進軍するとしても、食糧を現地調達する必要がある。


 真っ先にバルハ領に攻め込んだところで、バルハ領の食糧生産量では補填できない。

そう思われるくらいケナシー国の中のバルハ領は、貧しい領のイメージがあった。


 つまりケナシー国軍は、バルハ領をまっ先に攻め込むだけで、疲弊してしまうと考えていたらしい。


 もちろん私はバルハ領主として、既にその頃にはバルハ領の生産力を、ある程度上げる事に成功していたのだけれど。


 ケナシー国にとってメリットがなさげな領で、良かったですわ。


 なのでバルハ領にケナシー国の軍隊は一切、攻め込んでいない。

そう、軍隊は。


 ここで話が少し逸れるけれど、バルハ領はその頃、大きく領収を上げていた。


 神様が私に与えた【植物なんかがほんのり早く成長する】ギフト効果なのか、はたまた休ませた畑の実りが良くなったからなのか、その両方の効果なのかわからない。

わからないけれど小麦の収穫量も上がり、更に柿渋や麦藁事業、私のマナー講師事業も成功していった。


 そして山で遭難しながらも、何とか手に入れたピートモス。

しっかりと有効活用し、バルハ領の大きな収入源を確保できた。


 そう。

さっき聞こえてきた【新しいジャンルのお酒】がピートモスを使ったバルハ領の特産品(ウイスキー)であり、収入源。


 大麦麦芽(モルト)を原料としたウイスキーなのは、従来と同じ。

しかし麦芽を乾燥させる際、ピート(泥炭)を使用することで独特のスモーキーフレーバーを付け、熟成させたのだ。


 その名も【スコッチウイスキー】。


 ギフトのお陰なのか、偶然なのか熟成期間が短縮して、予定より二年早く売り出せた。


 このウイスキーが持つ独特のスモーキーな風味が、貴族の中でも高位貴族の殿方達にかなり好評だった。


 このあたりは商会のコネクションをフル活用して売り出してくれた、ファビア様の手腕も大きい。


 ガルーダ夫人もまた、夫のガルーダ侯爵が後押ししてくれたとあり、後援している歌劇の劇場で販売してくれた。


 そのお陰で元居た領民達が帰ってきたばかりか、他領からバルハ領へと引っ越しをしてくれる人達も出てくるようになっていた。


 その中に、いつしか明らかに貧しい身なりの人達が紛れ込むようになっていったのだ。

何日もお風呂に入れていないような出で立ちの、恐らく国外から領内へ逃げてきたような、切羽詰まった人達が。


 そもそも彼らは、ユカルナ国の言葉を話せなかった。


 だからすぐに気づいた。

彼らはケナシー国から逃げて来た、ケナシー国民だと。

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