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76.二年あげる

「明日、本当に帰ってしまうんだね」


 ヘリーとの話が終わっても、ファビア様は眠っていた。

華奢な腕で、しっかりと私の首をロックして。


 そろそろ腰痛が、と思っていると、執事のガルム様にお願いされて、ファビア様の寝室へ通された。

ベッドに寝かせようとしたものの、華奢腕ロックが外れず、そのまま転がるようにベッド・イン。


 もちろん言葉そのままの意味ですわ。

想いが通じ合ったとは言え、女性の寝込みを襲う間男のような事は致しませんの。


 そもそもフローネは清い体のまま、死にましたのよ。

閨も殿方にお任せしろとしか教わってませんの。

マルク()の体を、どう使えば襲えるのか……いえ、何でもありませんわ。


 ガルム様も、きっと私を信じて……多少は信じてくれたと思いますのよ。


 部屋を去り際に鋭い眼光で私を見て、「コニー様、信じておりますぞ」と地獄の悪魔のような形相と声で圧をかけられ気がしますけれど。


 ちょっぴり怖かったですわ。


 本当なら今日、バルハ領に帰る予定だったけれど、一日ずらした。


 ファビア様ときちんと話をしてからでないと、戻れるはずありませんもの。


 そうして私もつい眠ってしまい、起きたら今。

夕方でびっくりですわ。

ファビア様も、私の寝顔を見つめていないで、さっさと起こしてくれれば良かったのに。


 まさか大音量のイビキを掻き鳴らしてませんでしたわよね?

大丈夫でしたわよね?


「ふふ、よく眠れたようで良かったですわ。

ですが無防備に眠るのは、私の側か、自分の寝室でなさって下さいましね」


 しかしイビキを不安がるなど、淑女として、いえ、私は今、紳士でしたわ。

紳士として、致しませんわ。


 余裕のある年上男を印象付けるべく、口調をそれとなく余裕ぶる。


「もちろんだよ。

ねえ、マルク。

三年。

ううん、あと二年あげる」

「え?

二年?」

「うん、二年。

バルハ領の領収を、二年で安定させるまでは、待っていてあげる」


 にっこり微笑むファビア様。

乱れた寝起き姿が可愛らしいですわ……ん?

妙に……色っぽいお顔に瞬間チェンジ?

え?

どうして、ちょっぴり胸の谷間が見えるくらいまで、ボタンを外して……え?


「ど、どどどどうして押し倒してますの?」


 そのままファビア様が馬乗りになりましたわ!?

年上紳士の余裕がぶっ飛びましてよ!?


「このまま既成事実でも作ろうか?」

「ききき既成事じ……んむぅ!?」


 私の唇に、ファビア様の唇が触れましたわ!


 ハッ、口臭!

寝起き口臭えんじゃありませんの!?


 ヒィッ!?

更にファビア様が私にデコチューとホッペチューしてますわ!


 焦り脂臭えんじゃありませんの!?


 なんて思っている間に、ファビア様が私のシャツのボタンを外しにかかる。


「いいいいけませんわ!

ストップ!

ストォーップ!」


 思わずファビア様の手を、ぎゅっと握った。


「マルクは、嫌?」

「好きとか嫌とかじゃありませんの!

こういうのは、手順をちゃんと踏むものでしてよ!」

「でも私もいい年でしょ?

長くは待ちたくないんだ」

「で、ですが女性の方から既成事実を作ろうとするものではありませんわ!」

「ふふふ、マルクは古風なんだね。

じゃあ、二年だけ待ってるね。

二年したら、結婚だから」


 ん?

結婚?

しかも二年したら?

準備もあるから、実質一年半くらいで領収を安定する必要が……。


「……えっと、三年……」

「今から結婚する?

もちろんマルクはこの邸の中だけなら、好きに行動していいよ」


 それ、邸の中に軟禁するって意味ではなくて?


 ヒィッ、ファビア様の目が虚ろなのに、獲物を見つけた危険生物のように爛々としてますわ!?


「わわわわかりましたわ!

二年で領収を安定させて、ファビア様を迎えに……」

「ああ、大丈夫だよ。

式の準備も全部私がやるし、マルクが二年後の今日、どこにいても直接迎えに行くから」

「えっと……どこに居を構え……」

「バルハ領か、メルディ領のどちらかだけれど、バルハ領の領収が安定していないなら、暫くはバルハ領かな。

もちろんマルクは、邸の寝室から出なくていいからね」


 それ、もう完全に監禁宣言ですわよ。


「…………二年で安定させますわ」

「そう?

無理はしなくていいからね」


 怖いですわ。

ファビア様の顔は笑っているのに、目が完全に闇落ちしちまってますわ。


「だ、大丈夫ですわ。

元々、国への納税を免除いただいた期限もありますもの。

それに……ええ。

駄目なら、ファビア様を頼りますわ!」


 フローネだった頃。

もしも誰かを頼っていれば、死刑を免れたかもしれない。


 少なくともエンヤ嬢という味方は、フローネの側にずっと在った。


 ファビア様が目を瞠る。

きっとマルクとなった私も、同じ選択を取ると、誰も頼ろうとしないと、そんな風に思っていたに違いない。


「マルク=コニーは、領主ですの!

頼れる物は、人でも物でもたよりますわ!

ファビア様こそ、二年後にやっぱりやめたなんて仰るのは許しませんわよ!」


 馬乗りのままでいるファビア様の両肩を、両手で押さえて押し倒す。


 臭え息が漏れないように息を止め、そっと唇を重ねた。


「バルハ領民達が待ってますもの。

明日、バルハ領に帰りますわ。

ファビア様、二年後の今日。

私がファビア様を、必ず迎えに行きましてよ。

結婚式の準備までは、きっと手が回りませんけれど、必ず二年後の今日。

ファビア様をコニー家の妻として、お迎えしましてよ!」


 宣言すれば、ファビア様が幸せそうに満面の笑みを浮かべてくれる。


「わかった……待ってるね、マルク」


 ぎゅっと強く首に抱きついて……やっぱり首肉と華奢なのに剛腕で意識を刈り取られてしまった。

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