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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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61.処刑とその後〜ファビアside

「ありがとうですわ、ファビア様」


 鏡を持ったマルクは、ソファ越しに後ろへ立つ私へとお礼を述べる。


 鏡越しにマルクのほっこりした笑みを確認して、気を良くする。


 髭剃り後に使った乳液とコットンをガルムに渡して、そのまま流れるようにマルクの隣に腰掛けた。


 開封したばかりの乳液は思っていた通り、マルクの肌と相性が良さそうだ。

後でマルクの部屋に届けさせよう。


「どういたしまして。

それで、落ち着いたかな?」

「…………はい」


 照れるマルクは、可愛い。


 ガルムがマルクを見て言った、ぱっつぱつな顔。

蒸したおしぼりと冷えたおしぼりを使い、ローションと乳液で肌を整える事で、少し浮腫む程度まで戻った。

細く腫れぼったかった目も、ちゃんと開いている。


 ガルムも、もう笑っていない。


「マルクのお願いの事だけれど、昨日の歌劇の台本を書いた者に会いたい。

それで合っている?」

「どうして……」


 私が言い当てた事に驚いたマルクは、目を丸くした。


「ねえ、マルク。

どうして昨日、あんなに泣いたのか、どうして台本を書いた者に会いたいのか……」


 教えて欲しいと口にしようとして、止める。


「ファビア様……あの……」


 きっとマルクも、私がそう言うと思っているのだろう。

躊躇いがちに、マルクが理由を伝えようとしていると察した。


「駄目、だな」

「そんなっ……あの、実は……」


 マルクが慌てた様子で理由を話そうとする。

けど、そうじゃない。


 マルクの要望を叶えない、という意味じゃないんだ。


「あー、違うよ。

マルクが思ったのとは、きっと違う」


 私が駄目だと思ったのは、先にマルクに理由を語らせ、マルクの反応を確かめようとした事だ。


 マルクにとって、自分がどういう位置づけにある何者なのか。

長年見続けた夢と、昨日の歌劇を見て思い出した事、そしてマルクの知らない真実。


 これらをマルクが語るよりも先に、私が告げるべきだ。


 正直、私だって自分が見た夢の内容をマルクに告げるのは……恐い。


 だってマルクの中にいるだろう、赤髪の女性(フローネ)は…………私を庇ったせいで処刑されたのだから。


 それでも……。


 暫く逡巡してから、意を決して口に出す。


「私が当てても良い?」

「当てる……ファビア様が?」

「うん。

まずは私の話を聞いてから、マルクの答えを聞かせて?」

「……わかりましたわ」


 私が真剣な事が伝わったのだろう。

マルクが姿勢を正す。


「私は長年、ある女性の夢を見ていたんだ。

その女性の名前は、フローネ=アンカス。

赤髪に、瞳は濃い青の女性だ。

そして夢の中の私の名前は、シャルル=エンヤ」


 マルクの目は過去一大きく見開かれて、絶句していた。


 ここで話を止めたくなる衝動をグッと堪え、話を続けていった。


    ※※※※

「つまりファビア様は……エンヤ嬢で……私が……フローネ=アンカスが処刑された時、エンヤ嬢を庇っていた事をご存知でしたの……」


 マルクはまだ、自分がフローネ=アンカスだったとは言っていない。


 この言葉も、きっと自問自答した結果、無意識に出ている言葉だ。


 私の夢に登場する赤髪の女性(フローネ)も、時折そういう癖が出ていた。


 マルクの中にフローネを見つけて、こんな時なのに笑みが溢れそうになる。


「うん。

でもね、マルク。

マルクはきっと知らなかったんじゃないかな。

フローネが処刑された、本当の理由を」

「……それでは昨日の歌劇の内容は……」

「うん。

歌劇だから、それなりに脚色はされていたけれど、概ねその通りだよ。

歌劇のヒロインだったシャルルは、フローネの処刑後、王太子妃になった。

夫となった王太子の協力と立場を手に入れた事で、あらゆる証拠を集めたシャルルは、フローネに罪を着せた人間全てを断罪し、フローネが無実だったと周囲に認めさせた。

歌劇はここで、めでたしめでたしと終わっていたね」


 フローネが処刑された日、シャルルだった私は処刑台に立つフローネを助けようとしていた。


 騎馬操作に自信のあった私は、愛馬に乗り、処刑台の周りに群がる群衆を蹴散らせて乱入しようとしていたのだ。


 王家が宣言した処刑。

そして当時、度重なる圧政に爆発寸前だった民衆の不満の捌け口として、ギロチンでの公開処刑が決まった経緯。


 フローネを助ければ、自分も死ぬ可能性は極めて高いと知っていた。

フローネと共に死ぬなら、それはそれで良いと思って計画した。


 けれど……将来夫となる王太子に邪魔された。

私は王太子に捕らえられ、近くの天幕でフローネが処刑されるのを見て、泣き叫ぶしかできなかった。


 夢の中で、私を背後から羽交い締めにしていたのは、王太子だ。


 シャルルは一介の子爵令嬢だったが、母親は元伯爵令嬢であり、王太子の母親である王妃とは旧知の仲。

それもあり、王太子の乳母を務めた女性だった。


 更にシャルルの生家は子爵家だったものの、時に騎士団長や副騎士団長を輩出した程の騎士家系であり、名家でもある。


 エンヤ家には過去、昇爵の話が幾度となく出ていた。


 しかし王家に忠誠を誓う騎士だから、当然の事しかしていない云々という理由で、子爵家で在り続けた家系だ。


 ちなみに建前だ。

本音は違う。


 伯爵以上の家柄になると、国に払う税金が跳ね上がる。

そうなると、領民の生活をひっ迫させかねないから、断固拒否していた。


 王家としてはエンヤ家の忠誠に、確信を持ちたかっただろう。


 何せ年々、国民から徴収する税は増え、圧政も強いる事になり、不満が高まっていた。


 にも拘らず、一部の高位貴族は身勝手な自領自治を行い、圧政緩和をしたい王家の意向を汲みもしない。

特に古参の高位貴族達は、不正や国政の私物化が甚だしかった。


 フローネの生家であるアンカス家のような、高額の税を支払ってくれる、貴重な富める新興貴族が出てくれば、潰しにかかる古参の高位貴族達。


 そんな古参の貴族を牽制し、王家を守る為に、王家は王太子とエンヤ家の一人娘であるシャルルを婚約させ、後々、王太子妃にしたがっていた。


 もちろんシャルルが王太子妃となるには、伯爵令嬢以上の身分が必要だ。


 なのでシャルルの母親の生家と、養子縁組の話が持ち上がった。


 そしてこの養子縁組を阻止したい高位貴族達が、ある公爵令嬢を唆し、後にフローネを冤罪にかけたのだ。

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