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53.あざといですわ

「思っていた通りだね」


 幾つかの質疑応答の末、満足そうな笑みを浮かべるファビア様。


 顔が良いですわ。

でもいつまで私の隣に!?

気品の中に漂う、色っぽさを急に醸し出している気がするのは、気の所為ですわよね!?


「グロール伯爵……」

「ファビアだよ、マルク」

「で、ですがシュべ子爵も……」

「私の事もガルム、もしくは気楽に(じい)やとお呼び下さい」


 私とファビア様の前に座るガルム様。

流石に爺やはあり得ませんわ。


 そもそも伯爵位をお持ちのファビア様に仕える執事長ですわよ?

子爵位をお持ちでしてよ?

私、見ず知らずのオッサン男爵ですわ。

本日、初めてお目にかかった他人でしてよ。


「えっと……ガルム様もいらっしゃいますから……」

「ガルムは名前て呼ぶのに、私は家名なの?」


 しょぼんとして、からの上目遣い!?

ちょっぴり可愛らしいですわ!

ええ!?

どうして人が半人分空いていた、私とファビア様の間を詰めましたの!?

 

「いえ、それは……それはそうと…ち、近くありません?」

「そう?

騎士をしている幼馴染とも、時々これくらいの距離になる事があるよ。

マルクは嫌?」


 だからファビア様、上目遣いぃぃぃ!


「ああああの、私、加齢臭が……」

「もうしていないし、以前嗅いだマルクの体臭なら、好ましいよ」

「こ、好まし、えぇ!?」


 ファビア様の反対側に半身を捻り、ソファの肘掛けを両手で握る私の、よりによって脇の辺りの臭いを嗅ぎましたわ!

ファビア様がスンスンと鼻を鳴らしてますわ!


 おしぼり〜!

せめておしぼりで脇を拭いてからにして……いやいやいやいや!

どうしてオッサンの脇を、ファビア様が嗅いでますの!?


「ああ、やっぱり臭いがしないね。

体型も以前より整っている。

マルク、頑張ってるね」


 微笑みの貴公子が、無邪気な笑みを浮かべましたわ!

ドアップで天使が降臨しましてよ!


「ほら、ファビアだよ、マルク。

呼んでみて?」


 くうっ、断れない破壊と強制力!


「ファファファファビア、様」

「うーん、呼び捨てが……」


 無理無理無理無理無理無理!

無理ですわぁぁぁ!


 ブンブンと首を振る。


「ファビア様、さすがに一足飛びに距離を縮めすぎかと」


 ナイス、ガルム様!

素敵な老紳士……。


「大変おもしろ、んんっ。

健闘されておりますが、マルク様は限界かと。

そろそろ私の隣へお戻り下さい、ファビア様」


 心の中で褒めていれば、今、面白いと言いかけまして?


「ふふふ、そうみたいだね」


 けれど流石、グロール伯爵家に長らく仕えるお方。

ファビア様がガルム様の言葉に従いましてよ!


 やっと対面に移ったファビア様は、上機嫌でガルム様に視線を送る。


「さて、マルク様。

マルク様かお答えになられたマナーは、我が国より南東にある国のものが混じっております」

「南東……」


 言われて初めて考える。

私のマナーは、フローネ=アンカスとして培ったもの。

そこにマルクの知識を足し、修正している。


 とは言え、マルクは末端も末端の貧乏男爵。

この国の貴族社会で、まともに通用するマナーかどうかは判断がつかなかった。


 ファビア様の今回の来訪は、自身の商会で雇う子爵令嬢達のマナーレッスン。

ガルム様を連れて来たのは、恐らくガルム様がマナーに詳しいからだろう。


 実際、私の所作を確認したガルム様は、南東方面の国と特定した腕前。


 ただ……私がフローネ=アンカスとして処刑された、エストバン国って、今はどうなってますの!?

今の今まで、忘れてましたわ!

自分を処刑した国とあって、どちらかと言えば思い出したくなかったのもあるけれども!


「しかし少し正せば、十分に通用するかと」

「ほら、ガルムもこう言っているよ」


 ファビアさまが言外に、引き受けろと圧を放ってますわ!?

隣のガルム様も!?


「で、ですが令嬢のお相手を、オッサンがするのは……どなたか女性のマナー講師を雇われた方が……」

「それがね、これまでも女性のマナー講師を雇った事はあるんだけれど……」


 ファビア様が遠い目をして話してくれる。


 要約すると、マナー講師の適任者がいないのだとか。


 子爵位とは言え、商会で働く令嬢は、実家が比較的貧しい。


 まともにマナーを教えられる者は、プライドが高く、ファビア様が見ていない場面で令嬢の内面を傷つける者も多い。


 挙げ句、ファビア様に言い寄ろうとする、というより、言い寄るのが目的で引き受けようとしたマナー講師が過去にいる。


 そんな時、私の柔らかい喋り方と、マナー講師としての素質が目についたのだとか。


「理由はわかりましたわ。

ですがやはり私には荷が重い……」


 もしもフローネだったなら、引き受けていたかもしれない。


 実際、エンヤ嬢にしつこく頼まれて、ほんの数回だけマナーレッスンをしてあげた事もある。


 しかし今の私は、オッサンなのだ。

もし気持ち悪いと言われたら精神的に殺られる。

その上、変態のレッテルを貼られたら……。


「それにマルクにとっても、バルハ領にとっても収入に繋がると思うんだけど。

だってうちの商会は、国内だけでなく国外にも販路を持っているからね。

それに令嬢達は、社交界で活躍する貴族のお客様対応を担う予定だから、しっかりマナーを学んでいれば、いずれ…………ね?」


 ファビア様のこの言葉に、バルハ領主マルク=コニーは、首を縦に振るのだった。


 ファビア様があざといですわ!

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