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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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47.背負う空気はブリザード

「ゴリー……」

「マルクさん……」


 立ったまま、顔を見合わせる私とゴリー。


 互いの表情から何を言いたいのか。

そして内に秘める情熱と歓喜を、何が何でも是非是非、分かち合いたいのだと瞬時に悟る。


「ゴリー!」

「マルクさん!」


 今度こそ意図して互いを呼び合い、体がぶつかる手前まで歩を進め合う。


「体と口の臭いが……」

「足臭え水虫野郎が……」


 言いながら、ヒシッとお互いの分厚い体を包容し合い、己の中で喜びに打ち震えて顔を見合わせる。


 ちなみにゴリーは分厚くとも、ムキムキマッチョ。

硬い質感ですわ。


「「マシになった(なりましたわ)」」


 嗚呼……言いたい事はやはり同じ。


「「柿渋効果!」」


 そう、私は頭から。

ゴリーは足下に柿渋液の臭え原液を被った。


 何なら私は、口の中にも入った。


 さすがに被ったのは原液。

それも拭うだけして、お風呂にお湯を張り、沸かすまでに時間がかかったせいもあるだろう。


 脱衣所で服を脱いだ頃には、肌が少し赤くなっていた。


 とは言え、その後だ。


 ネチョりがちな頭はサッパリ。

体臭も服から香るだけ。

お茶をすすれば、爽やかな香りと味わい()()がして、臭え成分はなし。


 柿渋特有の激臭に一定時間曝されていた。

そのせいで嗅覚が、一時的に麻痺したかと思っていたのだが……。


『あれ、オッサン臭いのがしねえ』


 と、ヘリーが言い出した。


 ヘリーは初め、警戒心も顕に私の首元、首後ろを嗅いだ。

そして最後に……は、恥ずかしいですけれど、シャツのボタンを胸元まで外して、ダイレクトに胸元を嗅ぐ。


『やっぱりしねえ。

なあ、アンタ自分で足裏の臭い嗅いでみなよ』


 ヘリー、そこは私に嗅がすんですのね。


 実は最近の私のお風呂上がりは、草鞋(わらじ)を履くようにしていた。

足が蒸れなくて、特にこの夏は重宝していたのだ。


 草鞋はバルハマダム三人衆の一人、ミカ婆が東方の国に伝来する技で作ってくれた。

昔、商人伝いに聞いて、練習していた事があったらしい。


 つまり悶絶必須の靴――サリー率いる未来のバルハマダム予備軍と、編み物教室を開いていた時に履いていた――は、履いていなかった。


 ヘリーは顔を背けて、私の足首を持つ。


 ちょっぴり乙女心に傷が入ったのは秘密でしてよ。


 私も足がつらないようソファに体を預けてから、どうにか私の鼻先に足裏を持ってきて、自分で嗅いだ。


『あれ、臭くありませんわ』

『嘘だろう』


 私の言葉に半信半疑のヘリーは、今度こそ恐る恐る私の足裏を嗅いでみる。


『臭くねえ……何でだ?』


 そうして突然の臭い消失に、ヘリーと理由を探る……までもなく、柿渋である事は明白。


 足下に柿渋液を被ったゴリーを思い出したものの、この日は既に帰宅していた。

その為、確認は翌日。

つまり今日、この時となったのだ。


「ふっふっふっ……柿渋……来年は量産ですわ……」

「くっくっくっ……俺も手伝うぜ、マルクさん」


 未だにゴリーと抱きしめ合いながら、共に量産へと思いを馳せ、ほくそ笑んでいれば……。


「いや、まだ今年も終わってねえからな。

つうかやばい顔したオッサン達が、抱き合いながら悪い顔で笑ってんじゃねえよ」


 私について来ていたヘリーが、ドン引きしている。


 酷いですわ、やばい顔って何ですの。

悪い顔だけにして下さいまし。


 なんて思いつつも、偶然とは言え、脱臭え(にお)いとなった喜びが大きすぎる。

だってオッサンに転生して一年弱もの長い期間、臭いに悩まされ、悪戦苦闘してきたのだ。


 ゴリーもまた、水虫に長年悩まされてきたに違いない。


 離れ難いものの、ヘリーの目もあるし、ゴリーは既婚者。

今は同性と言えど、そろそろ離れねば……。


「へえ……何だか楽しそうだね、コニー男爵?

ところでどうして男同士で抱き合ってるのかな?

そういう趣味かな?」

「へ?」


 とっても聞き覚えのある、ハスキーボイス。


 間違えようもないこの声が、どうしてヘリーのいた辺りから降ってきたのかしら?


 思わず間抜けな声を出しながら、振り向く。


「ねえ、ヘリー?

君がここに向かったって小耳に挟んで、私も来てみたんだけどね?

ほら、バルハ領は今、大切な大切な取引先だから。

それでね、アレ。

どういう状況てああなっているか、教えてくれるかな?」


 やはり思った通りの、ファビア=グロール伯爵。

ファビア様ですわ。


 ファビア様はヘリーの背後から、ヘリーの肩をポンと叩いている。


「ファ、ファファファファビ、んんっ、旦那、様……」


 おかしいですわ?

良いお天気なのに、どうしてだかファビア様の綺麗な顔に、影が差してますわ?

そのせいか雰囲気が、おどろおどろしく感じる不思議現象の発生?


 ヘリーの様子も、突然おかしくなった。

顔が引きつって、上手く話せていない。


 ヘリーがギッギッギッ、とカクカクした動きで首を、体をファビア様へとゆっくり向けていく。


「それで、どういう事かな?」


 ファビア様の顔は、どこか仄暗い微笑みを浮かべる貴公子。

背負う空気は、ブリザード。


 ファビア様を除く私達三人は、知らず身を寄せ合うのだった。


 どうして、こうなりましたの?

何だか恐いです、わ……ね?

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