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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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40.五本指靴下

「ダン、遅くなりましたけれど、受け取って下さいな」

「おお、マルク。

いきなりどうした?」


 ダンの娘のキーナに見守られながら、染めを洗い流した日から、更に一ヶ月が過ぎた。


 去年の暮れから夏にかけて収穫したウォッシュナッツ、小麦、緑茶(茶葉)

そして藁の糸で編む帽子とサンダル。

藁の糸そのもの。


 販売したそれぞれの収益が、一段落した晩秋。

一部を除いた領民達は、そろそろ冬支度を視野に入れ始める頃だ。

 

「プレゼントを持ってきましたの。

作るのに手間取りましたけれど、寒くなる前に間に合って良かったですわ」

「何だよ、改まって」


 そう言いつつも、ダンの口元がニヨニヨと弛む。


 その時、キーナがダンの後ろからひょこっと顔を出した。


「マルクさん!

こないだ言ってたやつができたんだ!

入って入って!

私も見たい!

お父さんも、早くそれ開けてみて!」


 キーナに手を引っ張られて、中へと入る。


「いらっしゃい、マルクさん。

キーナから、冬の足臭(あしくさ)対策グッズの件、聞いてたよ!

ダン、私にも見せて!」


 今度はダンの妻のナーシャも顔を覗かせる。

緑茶の香りが、ふわんと香る。

お茶の準備を始めたらしい。


「んだよ、知らねえのは俺だけかよ」


 ダンもそう言いながら、椅子に腰掛けた。

出会い頭に渡した包みを、広げ始める。


 キーナがダンの隣で、ワクワクと手元を覗き込む。


「ダンのお陰で、ピートモスを見つけられたでしょう。

それにこないだキーナから聞きましたのよ。

私が山で遭難しかけた事を、自分のせいだとまだ気にしていると」

「何だよ、キーナ。

話したのか。

結局、メルディ領主が偶然来て、マルクが大怪我もなく帰ってきたんだ。

それに山道も、ピートモスが採れる道は領民達で整備したし、もう気にしてねえよ」


 そう、私が無事に下山し、ファビア様が自領へ帰った後。


 ダンとゴリーが主導して、私の雑な地図を元に道を割り出し、整備してくれたのだ。


 私が落ちた細道には、手すりが設置された。

獣道のような道なき道も、木板や石で舗装され、私の膝の負担が軽減された道に生まれ変わっている。


「それに、もう先々月の話だろ。

礼も詫びも、ちゃんと言ってくれたじゃねえか。

大体、こっちは茶葉が売れたお陰で、今年は懐も温かくして冬を越せそうだって、ナーシャとも話してたんだ。

サンダルのお陰で、この夏はナーシャから足が臭くねえってお墨付きももらえたんだぞ」

「そうそう。

あのサンダルならすぐ乾くし、ダンの足が蒸れなかったからか、今年はどこからともなく臭ってくるヤバい臭いも、ぜーんぜん、しなかったんだよ!」


 お盆に緑茶の入ったカップを載せて、ナーシャが来た。


 私の前に置いたカップに注がれた、緑茶の爽やかな香りを嗅ぐ。

次いで、一口すすった。

 

「まあ、一番茶ですわね。

ありがとうですわ。

それに夏の蒸れ足悪臭対策も、上手くいきましたのね」


 ナーシャのニコニコした笑顔に、私もつられて「うふふ~」と笑う。


「ん?

何だこれ?」


 その時、包みを開けたダンが目を丸くした。


 驚いてますわ!

私も思いついてから形にした後、我ながら通常とは違う奇怪な出来上がりに驚きましたのよ!


「マルクさん、これ……靴下?」

「でも……手袋みたいだね?

五本指……靴下?」


 キーナが首を傾げれば、ナーシャも戸惑いを口にする。


「そうてすわ!

冬の蒸れ足悪臭対策ですのよ!

その名も、五本指靴下!」


 エヘンと胸を張って、命名した名をテレレレッテレーとお披露目だ。


「「「そのまんま……」」」


 くっ、的確と言って欲しいですわ!

一家で口を揃えるだなんて、仲良しですわね!


「「「だっさ……」」」


 くくぅっ、酷いですわ!

一家で口を揃えて、素直な感想を吐くのは止めて下さいまし!


「と、とにかくダン!

履いてみて下さいな!

履き心地が大事なんですのよ!

領主命令ですわ!

さっさとお履きなさいまし!」


 自分でもちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ、ださいと思っていましたの。

つい強い口調で命令してしまいましたわ。

仕方ないではありませんの。

顔から火が出るとは、この事でしてよ。


「お、おう。

領主権限の無駄発動……」


 ダンは気にする事なく、靴を脱いで履き始める。

ブツブツと呟いた言葉は聞かなかった事にする。


「手袋と違って、靴下が五本指だと履きにくいな……」


 初の五本指靴下に、些か手間取るダン。


 気持ちはわかる。

私も試作品を履く際には、同じ事を思った。


 腹肉が減っていて、良かったと思いましたもの。


 ファビア様が一週間滞在して帰った後。

私は山道を転げ落ちた恐怖から、膝痛の原因たる腹肉を、いかに引っ込めるかに尽力した。


 その甲斐あって、試行錯誤の末に五本指靴下が完成した頃には、靴下を履くのに身をよじって履く事は無くなった。

曲げた膝を押し、靴下を履くのを邪魔する腹肉が減ったのだ。


 今では多少、腹肉がつっかえても、体の正面で靴下を履く事ができる。


 椅子に腰掛けて靴下を履くダンを見て、自分の中で共鳴する仲間意識を叱咤する。


 私はやる!

いつか靴下は、立って履けるようになってやりましてよ!


「ほら、履けたぞ!」


 そう言ってダンは私達に見せるように、椅子に座って靴下を履いた方の足を高く上げた。


 ダン……靴下の親指部分に、人差し指も入ってましてよ……。

私も時々やっちゃうやつ、ですわね。

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