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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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37.自覚〜ファビアside

『それじゃあ、引き上げるから』

『おおお重いですわ!

やっぱり、誰か他に人を呼びに……え?

嘘……持ち上がってますわ……え?』


 マルクを励ましがてら一夜明かしてすぐ、マルクの引き上げ作業を行った。


 マルクは自分の体型を考え、私だけでは引き上げられないと判断していたんだろう。


 昔から私は無計画に、ふらりと旅に出る放浪癖があった。

お陰で仕事の伝手を増やせたが、それは副産物に過ぎない。


 夢に出てくる彼女は、どこかで存在しているんじゃないか。

そんな馬鹿げた希望から来る、単なる衝動だ。


 強迫観念にも似た、彼女を求める衝動に突き動かされた末の、愚行とも言える。


 当初は事あるごとに、私の放浪癖を諌めようとしたガルム。

けれどあまりの頻繁さに降参した。


 もう、いっそ旅道具を完璧に揃えろ。

いつしかそんな風に言うようになった。


 ちなみに幼馴染のヘリオスは、私の衝動的な放浪癖を知らない。


 どうしてかな?

この衝動は、幼馴染のヘリオスがいる時には発動した事がない。


 それはともかく。

一人で旅に出れば、野宿はもちろん、山を越える事もある。

旅の道中、遭難者を見つける事もあった。


 もちろん私の力には限界がある。

純粋に筋力や腕力といった類の力だ。


 だから持ち運びしやすく力をカバーできる小道具も、旅の供に増やした。


 お陰で今回、マルクを一人で救えた。

私の放浪癖も、たまには役に立ったと言えるだろう。


 引き上げたマルクは、私と同じ馬に乗るのを断固拒否。

正直、マルクの歩調に合わせて下山していると、領民達が心配して来てしまう。


 どうしてかマルクには、私が一人で助けたと印象付けたかった。


 きっと格好を付けたかったからに違いない。


 けれどこの時はまだ、どうしてこんな子供じみた事をするのか、自分でもわからなかった。


 本来なら初めて訪れた山に、日が暮れかけた時間帯から登るのだってしない。

たとえマルクの描いた地図と、ダンという領民から聞いた話で、マルクのいそうな場所の当たりをつけたとしても。

下手をすれば自分が遭難する。


 なのに衝動的に馬で山を駆けた。

夢に出てくる彼女を探す時のように、衝動的に……。


 マルクが絡むと、私は冷静でいられない。

その事に気づいて、少し苛立つ自分もいた。


 だって相手は自分より、ずっと年上の中年男性だ。

爵位や稼ぎで言えば、私が上だけれど、マルクの中の私は所詮、同性の青二才程度にすぎないはず。


 少し意地悪がしたくなって、マルクのズボンの両尻辺りが破けていると指摘した。


 真っ赤になって慌てるマルクを見て、溜飲が下がったような、申し訳ないような気持ちが生まれる。


 いや、そんな気持ちは小さなものか。

そんな風に思い直す。


 もっと大きくて柔らかな感情が、この時は胸いっぱいに広がっていた。


 なんだ、コレ。

可愛いすぎじゃないか?


 なんていう、名前を付けるなら庇護欲と呼ぶべき感情だった。


 ただその直後、マルクの両手が傷だらけになっている事に気づいた瞬間、心が冷えたのも確かで。


 とにかく馬に乗れと笑顔で圧を与えて、やっとマルクを馬の前に乗せた。


 下山してマルクの邸に着くまで、マルクから香る疲れた体臭を嗅いでいた。


 ツンとした臭いは、マルクの年齢的には仕方ない。

元々、山で何日間か過ごしていたらしいし。


 とは言え、メルディ領で初めて会った時のような、鼻を曲げる程の激臭はない。


 きっとマルクは、体臭の改善に尽力してきたんだろう。

でっぷりしていたお腹も、少し引っ込んでいる。


 そう思うと、マルクへの好感度は上がった。


 それに今回、初めて気づいた。

ツンとした臭いとは別に、落ち葉から漂うような枯れ葉臭がした。


 実は放浪中、山でこの臭いを嗅ぐ事も多く、私自身は嫌いじゃない。

好ましいとまではいかない。

けれどつい何度も嗅いでしまうような、懐かしくも身近な、癖になる臭いだ。


 無意識にマルクの背に密着して、枯れ葉の臭いを嗅いでしまっていた。


 薄い頭髪から覗く地肌が赤くなっているのに気づいたけれど、それはそれでマルクへの可愛らしさを煽られて、余計止められなくなっていた。


 マルクの邸に着いて、領民達と触れ合うマルクを見て、マルクへの好感度は更に上がる。


 同時に、若い女の子が三人もマルクと親しげに会話する事に、ムッとする自分もいた。


 邸に着くまで私一人を意識するマルクが、他の人間を意識して、頼りにしているのがわかったのも気に入らない。


 そこでようやく自覚した。


 いつの間にか私は、夢の中の女性に向ける感情(恋情)を、マルクに向けているのだと。

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