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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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36.月光に反射するのは……〜ファビアside

『ずっと……小さい頃から夢を見ていたんだ。

夢には赤い髪の女性が出てきて、私はきっと彼女に恋をした』


 散々泣き叫んだ私は、ガルムに初めて夢の内容を伝えた。

夢の女性とマルク=コニー男爵が、どうしてか重なるとも。


『ああ、それでファビア様は……()()()()あろうとなさったのですね』


 ガルムが言外に何を言いたいのか、本当は何を言おうとして、凛々しくとしたのかは、わかっている。


 ガルムに話した事で、その日は落ち着いた。


 しかしこの日を境に連日、夢を見ては飛び起きるようになった。


 赤髪の彼女が処刑される場面だけでなく、彼女の処刑後に空虚に過ごした日々も、夢に出てきた。


 そして夢から覚める度、マルクが呟いた【エンヤ嬢】という言葉が気になって……日を追うごとに、とにかく気になって仕方なくなった。


『バルハ領へ視察に行き、業務提携を提案なさってはいかがです。

既に調べていらっしゃるのに、自ら確認しない商団主ではないでしょう、グロール伯爵は』


 隈が濃くなった頃、ガルムにそう提案された。


 マルクと会えば、夢の彼女と会えなくなるかもしらない。

両親を早くに亡くして踏ん張れたのも、あの夢が支えになればこそ。


 そんな想いに囚われて躊躇していたのを、ガルムはお見通しだった。


 ガルムの言葉で、いても立ってもいられなくなった私は、休憩も殆ど入れずに、三日三晩駆けてバルハ領に着く。


 グロール家の所有する馬の中でも、持久力と筋力のある雄馬を選んで正解だった。

馬力もかなりある。


 それに連絡係として、夜目が利く梟を連れていたのも、後から考えると良かった。


 それにマルクの邸の場所を、ガルムが調べてくれていたから助かった。


 とは言え手紙のやり取りを数回していなければ、バルハ領に入っても迷っていたかもしれない。


 マルクの邸は良く言えば、大自然の中のぽつんと一軒家。

悪く言えば、人里離れた場所にある寂しい邸。


 バルハ領は他領と比べ、閉鎖されている。

下手に領主の邸を聞こうものなら、不審者扱いだ。

貴族だと知られると、何かしらの犯罪に巻き込まれたりもする。

警邏もいない村々で構成される領地を訪れる際の、自衛でもあった。


 邸に到着すると、マルクの姿はない。


 使用人にも見えない領民が、領主であるはずのマルクの邸にたむろしていたのには、驚いた。


 厳つくぶっきらぼうな口調の男達もいて、ほんの一瞬だけ、本当に一瞬だけだよ。

貧困から領民の暴動が起きて、マルクが吊し上げられているんじゃないかと……。


 もちろん杞憂だったし、社交界でも受けの良い顔が、バルハ領では特に爺婆世代に受けた。


 それにマルクと同じく、バルハ領民達も心が綺麗だったんだ。


 マルクは山登りをしていたらしく、その間の鶏小屋の世話を頼んでいた。

領民の事を、よっぽど信用しているんだろう。

邸の出入りを自由に許していた。


 バン爺と呼ばれていた領民に、身分を明かして知ったのは、マルクが山から帰らない事。


 マルクの登った山は夏でも涼しく、突風が吹く。

細道を通る時に吹けば、危ない。

特にマルクは、いわゆる肥満体型。

運動神経も良くない。


 ダンと呼ばれていた領民は、ロッティーと呼んでいるロバを必ず連れて行き、必ず予定通りに帰るよう伝えていたらしい。

ダンはマルクが素直だから、何日も予定を超過するはずがないと言った。


 そんな時、荷を背負ったロッティーが戻る。

荷物には、コニーの登山グッズもあった。


 なのにマルクの姿はない。


 その上、バン爺の見立てではあるが、ロッティーの様子が、どことなくおかしいとの事だった。


 私の目にもわかる落ち着かなさで、しきりに(いなな)き、何かを伝えるように動き続けていた。


 余談だが、私の乗っていた馬がロッティーに体を擦り寄せると、ロッティーはしなだれかかって落ち着いた。


 片方はロバだけれど、馬同士で何か通じる事があるのかもしれない。


 日が少し傾きつつあり、あと一日待ってマルクが帰らなければ、領民達が有志を募って捜索に出ると決定した。


 けれど荷物の中に、コニーが描き込んだらしき地図を見つけてしまう。


 コニーの足で移動し、ロッティーの下山スピードも逆算すれば、大まかな場所を特定できるかもしれない。


 それに馬はグロール家でも有数の、能力と力のある雄馬。

旅の共に選んだ梟なら、暗くなっても使える。

もちろん訓練もしていた。


 夢の中で助けを求めていた赤髪の彼女。

彼女の叫び声が頭に響く気がした。


 気づけば、地図と相棒()を連れ、馬に跨って山へと駆けていた。


 そうして日が落ち、さすがに不慣れな山で短慮に走ったと反省した頃だ。


 まずは梟がピクピクと体を震わせて反応した。

首をくるくると回し、反応を見せる。


 耳を澄ませば……。


 野太い男の声が微かに聞こえた。

泣いていると、声の調子で察してしまう。


 切実かつ切迫したような声が、夢の中の彼女の叫びと重なった。


『助けてえぇぇぇ!

誰かあぁぁぁ!

誰か助けてえぇぇぇ!』


 間違いなく、マルクの声。


 どこからだと四方に目を凝らすも、わからない。


 ふと馬と梟が上を見上げる。

私もつられて、上を向いた。


 ああ、満月で良かった。


 マルクを見つけて最初に思った事は、マルクに一生かけて黙っておくつもりだ。


 月光に小さく、微かに反射していたのだ。

マルクの頭皮が。

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